第7話
宿屋・客室(夜)
テーブルの上の蝋燭の炎が、かすかに揺らめいてい。澪はルーク隊長をじっと見つめ、次の指示を待っていた。
ルーク隊長:「まずはあの砲台とハインツの関わりを調べる必要がある。澪、昼間の件で何か手がかりはあったか?」
澪は思い返すように少し考え、真剣な表情で答えた。
澪:「今日私たちを襲撃した女魔法使いのマリーと、アストラという少年……彼らはどうやら、ハインツのところで手伝いをしているようです。」
ルーク隊長はゆっくりとうなずいた。
ルーク隊長:「アストラ……なるほどな。もし彼らから情報を聞き出せるのなら、澪、接触の任務はお前に任せる。」
澪(驚きに少し目を見張り、すぐに姿勢を正す):「は……はい!了解しました!」
ルーク隊長の声が一段と低くなり、その瞳に鋭い色が宿る。
ルーク隊長:「それから、澪——『王国の剣』を使うのは、本当の危機に瀕した時だけだ。」
澪(真剣な眼差しで):「はい、分かっております。」
ルーク隊長の厳格な表情が、柔らかい微笑みへと変わった。
ルーク隊長:「よし、いい返事だ。」
中央区・路地裏(翌朝)
朝の光が街並みを照らし始める。
澪は目立つ軍服を脱ぎ捨て、一般的な冒険者の服に着替えていた。顔を隠していたフード付きのマントは外し、王国の剣も部屋のテーブルの上に置いたままだ。
澪(慣れない手つきで服の裾をいじりながら):「隊長……本当にマントで顔を隠さなくても大丈夫でしょうか? 正体がバレたりしませんか?」
ルーク隊長:「問題ない。あの女魔法使いにお前の装備で見破られるのを防ぐためだ。慎重に行動しろ」
澪はうなずくと、そのまま部屋を後にした。
中央区・暗い路地
澪は中央区の大通りを歩きながら、マリーとアストラの姿を探していた。やがて薄暗い路地裏へと足を踏み入れと、前方から焦りを含んだ声が聞こえてきた。
不安げな少年の声:「ど……どうしよう……アストラ……」
少年の声:「心配いらない……絶対に彼女を見つけ出すさ。」
澪は素早く壁の陰に身を潜め、そっと路地の奥を窺った。
そこにいたのは、昨日の少年アストラと……昨日街で隊長の財布をスったあのスリの少年だった。
澪(心の声):「(アストラ……それにあのスリの子供。接触するには絶好の機会かも……!)」
澪は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出して緊張をほぐすと、覚悟を決めて歩み出た。
澪(ひどく引きつった、ぎこちない笑顔を浮かべ):「あ……あの、何か困っているの?私でよかったら手伝うけれど……」
スリの少年(眉をひそめ、あからさまに警戒しながら):「な、なんだ……この怪しい奴は?」
アストラが手を広げて少年を制した。
アストラ:「やめろよ陽太。俺たちは今、手助けが必要なんだ。」
陽太はアストラの耳元に顔を寄せ、声を潜めて囁いた。
陽太:「アストラ、街には王国軍の奴らがうろついてるのを忘れるなよ!この女だって王国軍の手先かもしれないんだぞ!」
澪(心の声でツッコミ):「(昨日、隊長の財布をスったのはそっちでしょうに……)」
アストラは一歩前に出ると、澪に向かって話しかけた。
アストラ:「実は……俺たちの仲間のマリーを探しているんだ。昨日の夜から家に帰ってこなくて、ずっと探してる。」
澪は内心の気まずさを押し殺し、友好的な笑みを向けた。
澪:「よければ手伝わせて。昨日の経緯をもう少し詳しく教えてもらえる?」
陽太が歯ぎしりをしながら言い放った。
陽太:「王国軍の仕業に決まってる!昨日だって俺たちは王国軍に襲われたんだ!」
アストラは陽太の愚痴を制し、焦りを色濃くして語った。
アストラ:「時間がないんだ。マリーは昨日、冒険者ギルドに報告しに行くと言っていた。でも今日ギルドで聞いたら、彼女がある冒険者と一緒に去っていくのを見た奴がいるらしい。」
澪(心の声):「(冒険者……まさか、昨日酒場で私の背中に触れて魔力を探ってきたあの男!?)」
澪は思わず俯き、考え込んだ。
陽太:「どうした?何か心当たりでもあるのか?」
澪は慌てて顔を上げた。
澪:「ううん、別に……それより、二手に分かれて探しましょう!私は冒険者ギルドを調べてみる。あなたたちはこの路地裏の周りを探してみて。」
アストラと陽太は顔を見合わせると、頷き合って走り去っていった。
冒険者ギルド・ホール
澪は重厚な造りの冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
建物全体が立派な木材で造られており、壁にはドラゴンや危険な魔物を討伐した輝かしい戦績の記録、さらには魔物の剥製までもが飾られていた。
澪は掲示板にあるギルドの案内図に目を走らせた。
* **1階**:依頼受付ホール 兼 酒場
* **2階**:資料図書館
* **3階**:宿屋
* **4階**:ギルド幹部執務室
澪は目立たない席に腰を下ろし、監視を始めた。
それから二時間が経過した頃——
見覚えのある男がギルドの扉を押して入ってきた。昨日、酒場で澪の魔力を探ってきたあの冒険者だ。
澪(瞳をわずかに見開き、心の声):「(来た……!)」
澪は息を殺し、陰から男の動向をじっと観察した。
男は混み合う人混みを縫うように歩き、すれ違いざまにさりげなく相手の背中に手を触れていた。
やがて、体格のいい中年男性の背中に触れた瞬間、冒険者の表情がわずかに変化した。男は男性に話しかけ、再びその背中に触れる。すると、男性の瞳から光が消え、どこか虚ろでぼんやりとした表情へと変わった。二人はそのままギルドを出て行った。
澪はすぐに立ち上がり、足音を殺して二人の後を追った。
路地裏・下水道入口
冒険者は緊張した様子で路地裏の周りを確認すると、奥の暗がりへ向けて声をかけた。
冒険者:「ボス……この男の魔力量は十分です。あと何人必要ですか?」
暗闇の奥から、低く掠れた男の声が響いた。
ボス:「あと一人だ。あと一人確保できれば計画は完成し、次の段階へと進める。」
冒険者は驚きを隠せない様子で尋ねた。
冒険者:「そんなに……早くですか?」
黒いローブのボスは不気味に口元を歪めた。
ボス:「昨日お前が連れてきたあの娘の魔力量が、桁外れに大きかったからな。よくやったぞ。」
隠れ家から覗き込んでいた澪の視線の先で、黒ローブの男は虚ろな男性を連れ、下水道のマンホールを開けて地下へと降りて行った。
ボスが見えなくなったのを確認し、冒険者が胸を撫で下ろして振り返った——その瞬間。
——ドスッ!
澪は迷わず飛び出し、男の腰元へ飛びつくと、鮮やかな足払いで体勢を崩させた!
男はそのまま床に倒れ込んだ男の首元を、澪は背後から両腕で締め上げる。
冒険者(顔を真っ赤にし、息を詰まらせる):「なっ……お前、は……ぐっ……」
数秒後、男の手に込められた力が抜け、完全に気を失った。
古びた空き家・室内
目を覚ました冒険者は、見覚えのない部屋の椅子に固く縛り付けられていた。目の前には、澪、アストラ、そして怒りを露わにする陽太の姿があった。
冒険者(意識が朦朧として):「う……ここはどこだ……一体何が……」
陽太が激昂して掴みかかった。
陽太:「マリーはどこだ!どこへやった!」
冒険者:「マリー……?誰のことだ?」
アストラが冷ややかな視線を向ける。
アストラ:「昨日、お前が連れ去った女の子だ。」
冒険者はうっすらと口元を歪めた。
冒険者:「ああ、あの娘か……フフ、あの凄の魔力量は凄まじかったなぁ。」
陽太は男の肩を激しく揺さぶった。
陽太:「彼女はどこにいるんだよ!吐け!」
冒険者:「教えてやるわけがないだろう?それに、もう遅い。計画は今頃、無事に完了しているはずだ……!」
アストラが一歩前へ踏み出した。
アストラ:「計画とは何なんだ?」
冒険者は一瞬呆気にとられたが、すぐに吐き捨てるように言った。
冒険者:「計画だと?王国を破壊し、囚われたすべての魔法使いを解放することだ!王国軍の手によって死んでいった仲間たちの仇を打つためにな!」
アストラは怒ることなく、静かな声で語りかけた。
アストラ:「王国には、いろんな国から来た普通の人たちだって大勢暮らしている。そんな方法で王国を滅ぼしたって、憎しみの連鎖は消えない。いずれまた、次の戦場が生まれるだけだ。」
澪は三人のやり取りを黙って見つめ、一言も発さずに観察していた。
男は俯き、苦々しそうに呟いた。
冒険者:「俺もボスも……家族を王国軍に奪われたんだ。復讐せずにはいられなかった……!」
アストラは優しく、だが力強い眼差しで男を見つめた。
アストラ:「いつか必ず、魔法が再びこの大陸で光り輝く日が来る。だから王国軍と同じように暴力を重ねて、憎しみの根をこの大地に伸ばしちゃいけないんだ。」
男の身体が微かに震えた。やがて深く息を吐き出すと、なんとアジトの具体的な場所をあっさりと白状したのだった。
後ろで見ていた澪は、あまりの展開に全身の毛穴が泡立つような鳥肌を立てていた。その顔は困惑と衝撃で引きつっている。
澪(心の声):「(な……なんで!?なんでそんな簡単に情報を吐いちゃうの!?なんでこの冒険者の態度がこんな一瞬でコロッと変わるの……!?理解できない……」
アストラは振り返り、皆に向かって頷いた。
アストラ:「アジトの場所が分かった!急いで準備を整えよう。」そして澪の腰元に視線を向けると、爽やかに微笑んだ。「君は武器を持っていないみたいだし、一度装備を取りに戻るといい。十分後にさっきの場所で集合しよう。」
宿屋・客室
澪は走って宿屋へと戻った。
澪(息を切らせながら):「隊長!!」
澪はこれまでに起きた出来事をルーク隊長へ一気に報告した。
ルーク隊長:「よし、潜入して調査を進めてくれ。」
澪が頷き、テーブルの上の剣とマントを取ろうとした時——
ルーク隊長:「待て、澪。」
隊長は懐から、一振りの新しい鞘を取り出して手渡した。
澪:「これは……?」
ルーク隊長:「その鞘には魔力波動を抑える特殊な塗料が施してある。『王国の剣』の魔力を隠すことができるはずだ。私は地下アジトの地上付近で偵察と待機を行っておく。」
澪:「了解しました!」
中央区・路地裏(マンホール前)
十分後、澪は新たな鞘に剣を収め、準備を整えて集合場所へと向かった。
アストラが手を振る。
アストラ:「あ、来たね!」
すると陽太が眉をひそめて澪をじろじろと見つめ、突如として澪の腰の剣へ手を伸ばした!
澪は予期せぬ挙動に心臓が跳ね上がり、反射的に剣を抜きかけたが、必死で踏みとどまった。陽太は鞘の感触と気配を確かめると、すぐに手を離した。
陽太(チッと舌を打ち、小声で):「……ふん、王国軍の魔導剣じゃないみたいだな。」
アストラが厳しい表情で陽太を叱りつけた。
アストラ:「陽太!失礼だろ!」
陽太は頭をかきながら、ばつが悪そうに澪へ謝罪した。
陽太:「悪かったよ……疑ったりして。ところで……君の名前、まだ聞いてなかったな。」
澪は二人を交互に見つめ、努めて冷静な声で答えた。
澪:「私は……エミナ。気にしないで、怪しむのも無理はないわ。」
アストラは嬉しそうに微笑んだ。
アストラ:「よし!みんな準備はいいかい?」
アストラは力を込めて重いマンホールを持ち上げた。
三人は穴の底に広がる暗闇を見つめ、意を決して一人ずつその深淵へと飛び込んでいった。




