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第5話

〇 ヤクス王国・街道(朝)


朝の光が石畳の街並みを照らしている。

ミオはルークの左隣に寄り添い、警戒しながら周囲を見回している。


ミオ「どこへ向かっているのですか、隊長?」


ルーク「黙ってついてくればいい。」


二人は活気に満ちた中央市場を通り抜ける。露店の威勢のいい声と人々の喧噪が入り乱れている。

ミオは過敏なまでに周囲を観察するが、ふと疑問を抱く。


ミオ(心声)「(こんなにも人が入り乱れているのに……誰一人として魔法を使っていない? なぜだ……?)」


二人は街の中央へとやってくる。大きな噴水広場があり、その真ん中には砲塔のような形をした金属製の装置がそびえ立っている。


ミオ(足を止めて)「これは……一体何ですか?」


ルーク「見たところ、何らかの魔導具まどうぐだな。」


ルークはポーチから方位磁石を取り出してミオに渡し、自身は地図を広げて方角と角度を緻密に計算し始める。


ミオは受け取った方位磁石で方角を確認し、首をかしげる。


ミオ「東北....。」


ミオ「どうかされたのですか? 以前はこんなもの、無かったのですか?」


ルークは答えず、眉間にシワを寄せながら地図を見つめ続けている。


ルーク(低く呟く)「この装置、やはり……王国に向けられているな。だが、何の目的で設置されたものかは分からん。」


ルークは手帳を取り出し、自身は地図を広げ、方角と角度を慎重に確認する。


ルーク「行くぞ。」


〇 噴水広場・路地裏


ミオはルークの後を追い、狭い路地裏へと入っていく。行き当たったのは冷たいレンガの壁。


ミオ「行き止まり……ですね。」


ルークは無言で目の前の壁に片手を当て、もう片方の手をミオに向かって差し出す。

ミオは困惑しながらも、迷わずその手を握り返す。


——次の瞬間、

二人の姿は路地裏から消え、薬草の香りが漂う工房の中へと転移していた。


〇調合工房(室内)


棚にはびっしりと薬瓶が並び、部屋の中央には大きな調合鍋が置かれている。

奥の部屋から女性の声が響く。


女性の声「ちょっと待ってて!」


エプロン姿の女性——キャロが服を整えながら奥から姿を現す。


「いらっしゃい。どんな薬を——」


顔を上げた女性の視線がルーク、そして隣に立つミオで止まる。

ルークとキャロは無言のまま見つめ合い、室内を重苦しい沈黙が包み込む。


ミオは交互に二人を見比べ、意を決して一歩前へ出る。


ミオ「……初めまして、ミオと申します。」


女性はハッと正気に戻り、溜め息をつく。


キャロ「あ……私はキャロ。見ての通り薬師よ。」


キャロはルークを睨みつけ、憤りを隠さずに吐き捨てる。


キャロ「何の風の吹き回しかしら……?」


ルーク「情報が必要なんだ。」


キャロ「これだけ長いこと音信不通だったくせに、急に現れて『情報が欲しい』ですって?」


ミオは言葉を挟まず、黙ってルークの横顔を見つめる。


ルーク(深く首を垂れて)「……すまない。」


ルークは顔を上げ、真剣な眼差しをキャロに向ける。


ルーク「だが、今時間がないんだ。どうしても必要なんだ。」


ルークの真摯な態度に、キャロの表情がわずかに和らぐ。


キャロ「……『新しい勇者』のことでしょ? いつの日か勇者が現れ、迫害された魔法使い達を救い出し、魔法の束縛を解いてくれる……。」


ミオ「あなたも……その『噂』を知っているのですか?」


キャロ「噂? 何のこと?」


ミオ「勇者の話です! あれは……ただの都市伝説ではないのですか?」


キャロは静かに首を振る。


キャロ「いいえ……もう現れたわ。」


ミオとルークは思わず顔を見合わせる。


ミオの瞳に焦燥の色が走る。


ミオ「そ、その勇者はどこにいるのですか!? すぐに拘束しなければ——」


キャロ(冷たく遮る)「王国軍ね? どうしてあなた達は、そうやって魔法使いを捕たがるの?」


ミオ(毅然として)「魔法のせいによって滅ぼされた村や戦争が、今この瞬間も起きているからです! だからこそ魔法は制限されなければならない!」


キャロは大きく息を吸い、溜め息とともに吐き出す。


キャロ「まったく……疲れる生き方ね。勝ち目のない戦いで、どうやって勝つつもり?」


ミオ「……私は負けません。」


キャロは憐れみと諦めの混ざった視線をミオに向け、静かに告げる。


キャロ「あなたはまだ……何も分かっていないのね。」


キャロは視線をルークへと移す。


キャロ「勇者が現れたのは確かだけど、どこにいるかまでは分からないわ。私が知っているのはそれだけよ。」


ルークが一礼し、ミオとともに去ろうとしたその時——


キャロ(低く呼びかける)「ルーク……また会えて嬉しかったわ。」


ルークは振り返らず、背中を向けたまま答える。


ルーク「また来る。」


ルークは再びミオの手を握り、壁に手を当てる。一瞬の光とともに、二人は再び路地裏へと戻ってきた。


〇街の通り


ミオは重苦しい表情でルークを見つめる。


ミオ「勇者が……本当に現れたなんて……。」


ルークは無言のまま手帳を取り出し、素早くメモを書き足す。

二人が再び通りへと歩き出したその時——


スリの青年「かかったな!」


すれ違いざまに若い青年がルークの腰から金貨袋を奪い去り、脱兎のごとく逃走する。


ミオ「あっ……! 待ちなさい!」


ミオとルークはすぐさま後を追う。青年は錯綜する路地裏を巧みにすり抜けていく。


謎の声「『フロスト』……!」


突如、地面が瞬時に凍りつく、ミオは体勢を崩して激しく転倒する。


ミオ「くっ……魔法!?」


ルークがすかさずミオを追い抜く。


ルーク「ミオ、君は左の路地の階段から回り込め!」


ミオ「はい!」


ミオは階段を駆け上がり、ルークは青年を追って屋上へと向かう。


〇屋上


行き場を失い、追い詰められた青年がルークに向かって飛びかかり、體術で襲いかかる。

だが、ルークはその動きを冷静に見切り、右拳を難なく回避。鋭い左フックを叩き込み、前蹴りで蹴り倒す。


屋上の扉が荒々しく開く。


ミオ(息を切らせて)「隊長! 終わりましたか……!?」


ミオは倒れ込む青年を見下ろし、剣を突きつける。


ミオ「盗んだお金を返しなさい!」


女性術士(術を唱える)「『フロストスパイク(冰霜の尖刺)』!」


地面から鋭い氷の棘が二本、ミオに向かって突き出す!

ミオは瞬時に体を捻って一本目を回避し、一閃——腰の鋼剣で二本目の氷柱を真っ二つに斬り割った。


ミオ(身構えながら)「(この術式……今の術式、マレンの随従が使っていたものとそっくりです!)」


ミオの洗練された剣技を見た女性術士と青年は、恐怖に顔を引きつらせる。


女性術士・青年「お、王国軍……!?!?」


ミオは動揺を隠せないまま、ルークへと視線を向ける。


ミオ「た、隊長……どうしましょう……!?」


ルークは神色自若のまま、青年から金貨袋を取り戻す。


ルーク「行くぞ。」


ミオは急いでルークに近づき、声量を落として食い下がる。


ミオ「隊長! 今の技能、マルレン様の随従が使うものとそっくりです! 連行して取り調べるべきです!」


ルーク「目立つ行動は避ける。」


ルークは振り返らずに階段へと向かう。

ミオは去り際に女性術士を強く睨みつけると、ルークの後を追って階下へと向かった。


〇 路地裏


二人は階段を下り、路地裏を歩く。


ミオ「あのように見逃してしまって、本当によかったのですか?」


ルーク「選択の余地はない。それより、次の任務はあの噴水広場の魔導具を調べることだ。」


ミオ「勇者は探さないのですか?」


ルークは静かに首を振り、自信に満ちた笑みを浮かべる。


ルーク「奴なら……向こうから勝手に姿を現す。」


ミオ「了解いたしました。」


ルークは周囲を警戒しながら、表情を引き締める。


ルーク「通報される前に時間を稼ぎ、情報を集めるぞ。手分けして行動する。君は中央区を、俺は下町(下層区)を調べろ。」


ミオ(深く頭を下げて)「了解いたしました!」


ミオは即座に身を翻し、中央区へ向かって走り去る。

ルークが影に潜むと、近くの通りから雅克斯国の衛兵たちの切迫した声が聞こえてくる。


衛兵「急げ! 王国軍の潜入者がいると通報があった! 直ちに拘束せよ!」


ルークはフードを深くかぶり直し、目元を隠す

ルーク(低く呟く)「……まずいな。」

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