第4話
〇 王城・中央広場
四天王の宮殿を出たミオとルークが広場へと戻ってくる。
ミオは足を止め、深く首を垂れて罪悪感を滲ませる。
ミオ「隊長……申し訳ありません。私のせいで、隊長までこのような処分を受けることになってしまい……。」
ルークは小さく首を振る。
ルーク「いや、いいんだ。君が気にすることじゃない。」
言いかけたルークの視線が、ふと路地裏の暗がりへと向く。
影の中に、一瞬だけ誰かの人影が揺らめいた。
ルークの瞳がわずかに鋭さを増す。
ルーク「ミオ、君は先に準備を進めておけ。これから……長い旅になる。」
ミオは深く追求せず、恭しく一礼する。
ミオ「はい!」
ミオが背を向け、雑踏の中へと消えていく。
ルークはその背中を見送り、姿が完全に消えたことを確認すると、一人静かに路地裏の闇へと足を踏み入れた。
王城・城門前(午後)
背嚢を背負ったミオが、一人でルークの到着を待っている。
夕陽が徐々に傾き始めている。
ミオ「隊長は一体どこへ行かれたのだろう……。」
そこへ、聞き覚えのある声が響く。
ルーク「待たせたな!」
振り返ると、ゆっくりと歩み寄ってくるルークの姿。
ミオは急ぎ足で駆け寄る。
ミオ「隊長、勇者の件はどうされるのですか? 一体どこを探せば……。」
ルークは答えず、懐から一枚の地図を取り出して広げる。
ルーク「行き先は決めた。」
指し示したのは、地図の一角。
ルーク「我々の周辺領域は、ほぼクス王国の手中にある。だが、唯一ここだけが……完全な中立を保っている。」
ミオ(不審そうに地図を覗き込み)「なぜ、ここだけが例外なのですか?」
ルーク「現在の互いの戦力では、開戦すれば相討ちにしかならんからだ。だから、どちらも手を出せない。」
ルークは地図を折りたたむ。
ルーク「そこに、私の協力者がいる。まずは奴に会い、勇者の手がかりを探る。」
ミオ「了解しました。」
そこへ、二人に気づいた見張り兵が小走りで駆け寄ってくる。
兵士「隊長! また任務で出撃ですか? 今度はどちらへ?」
ルーク「ここだ。」
見張り兵は示された場所を見るなり、あからさまに顔を曇らせる。
兵士「ここは……中立国ヤクス王国ではありませんか。恐れながら隊長、軍規によりあの領域への接近は禁じられております!」
ルーク「安心しろ、境界線は越えん。」
ルークは地図を仕舞うと、ミオに視線を向ける。
ルーク「今すぐ出発できるか、ミオ?」
ミオ「問題ありません。」
走る馬車の後部座席。
窓の外を流れる王城の景色を、ミオは不安げに見つめている。
ミオ「隊長……本当に、勇者は見つかるでしょうか?」
車壁に背を預けたルークが、破顔して笑う。
ルーク「なに、見つからなければ追放されるだけさ。.....まあ......俺もそろそろ引退する年齢なのかもしれないな。。」
ミオ(慌てて笑いを漏らし)「冗談言わないでください! 私の訓練もまだ終わっていないのに、勝手に退役なんて許しませんからね!」
ルーク「ハハッ、そうだったな。」
ルークはミオを上から下へと品定めするように見やる。
ルーク「君には、まだまだ教えるべきことが山ほどある。感情の抑圧、戦術、そして……決断力だ。」
ミオ(気まずそうに俯き)「そんなに……ありますか?」
ルーク「だが、今の成長速度ならそう遠くない未来……君は一人前になる。いや、隊長にだってなれるさ。」
ミオは答えず、ただ静かに窓の外の闇を見つめ続けた。
馬車が停車する。
下車したルークは、荷台から二着の無地のローブを取り出し、車夫の兵士に向き直る。
ルーク「ここから先のことは、誰にも報告するな。。」
兵士「え....ですが、それは軍規に——」
ルークの瞳から温情が消え、絶対の威圧感が宿る。
ルーク「これは命令だ。」
兵士(息を呑み、頭を下げる)「……はっ、承知いたしました。」
馬車が走り去ると、ルークはローブの一着をミオへ投げ渡す。
ルーク「行くぞ、日が暮れる。」
ミオ「これは……?」
ルーク「王国軍の軍服のままでは余計な摩擦を生む。それを羽織って姿を隠せ。」
ミオは無言で頷き、深くローブを纏った。
ヤクス王国・街並み(夜)
城門を潜り抜けた瞬間、ミオの足が止まる。
そこに広がっていたのは、異国情緒溢れる美しいヨーロッパ風の街並み。
清潔な石畳、明るく灯る街灯、笑顔で街を行き交う人々の姿。
王国特有の重苦しい緊張感も、兵士たちの威圧的な視線もそこには存在しない。
ミオ「綺麗……なんて街なの……。」
ルーク「見とれるな、行くぞ。」
酒館(酒場)
活気に満ちた酒場。ルークはミオを連れてカウンター席に着く。
ルーク「まずは腹ごしらえだ。明日、協力者と合流する。」
ルーク「オヤジ! オムライスを二つ!」
ミオ「オム……ライス?」
困惑するミオを見て、ルークは呆れたように額を押さえる。
ルーク(心声)「(ずっと軍事施設で育ったんだ……無理もないか。)」
やがて、湯気を立てる二つのオムライスが運ばれてくる。
黄色い卵の上に赤いソースがかかった料理を、ミオは目を輝かせて見つめる。
ミオ「これが……オムライス……! 美味しそう……。」
スプーンを取り、一口口に運ぶミオ。
ミオ「ん……っ! 美味しい……すごく美味しいです!」
無邪気に喜ぶミオの表情に、ルークも笑みを漏らす。
ルーク「焦るな、誰も取らんよ。」
その時、背後のテーブル席から男女の話し声が耳に届く。
女「あら……スープが冷めちゃったわ。温めてもらえる?」
男「お安い御用さ。」
ミオが何気なく視線を向けると、男は料理の上に手をかざし、優しく微笑む。
男「発火!!。」
次の瞬間、男の手のひらに小さな炎が揺らめき、料理をゆっくりと温め始めた。
ミオの瞳孔が跳ね上がる。
ミオ「……魔法!?」
ミオは反射的に立ち上がり、右手で柄を握ろうとする——!
ガシッ!
ルークの手が、ミオの手首を強く抑え込む。
ルーク「冷静になれ。」
ミオ「くっ……!」
ルーク「ここは王国ではない。」
店員「お、お客様? どうかされましたか……?」
ルーク「なんでもないよ。連れが旅の疲れで少し取り乱しただけだ。なあ?」
ミオは固く唇を噛み締め、ゆっくりと手を離すと、店員に深く頭を下げる。
ミオ「……失礼いたしました。」
ミオは再び席に着くが、もう料理の味など分からなくなっていた。
宿屋・客室(深夜)
二段のベッドが並ぶシンプルな客室。
ベッドの端に腰掛けたミオは、右手を握りしめたまま呟く。
ミオ「あの街には……あんなにも平然と魔法を使う者が潜んでいるなんて……。」
ローブを脱ぎ捨てながら、ルークが静かに言った。
ルーク「『潜んでいる』のではない。」
ミオが顔を上げる。
ルーク「あの国では……『誰もが当たり前に魔法を使う』のだ。」
ミオ「……誰もが?」
ルーク「そうだ。」
ミオの表情が凍りつき、冷酷な殺気がその瞳に宿る。右拳が白くなるほど強く握り締められる。
ミオ「……絶対に許せない。王国軍が……一刻も早く全員捕縛しなければ……!」
ルーク「それは、今の我々が憂慮すべき問題ではない。」
ミオは言葉を失い、やがて諦めたように握りしめた右拳を緩めた。
ミオ「……分かりました。」
ミオはそう言うと、そのままベッドではなく冷たい床の上に横たわる。
ルーク「……ベッドがあるというのに、なぜ床で寝る?」
ミオ「柔らかすぎる寝床は……落ち着きません。」
ルークは溜め息をつき、首を振る。
ルーク「好きにしろ。」
宿屋・客室(翌朝)
朝の光が差し込む部屋。
身支度を整え、鋼剣を腰に差したミオがドアの前へと立つ。
ドアの傍らでは、すでに準備を終えたルークが待っていた。
ルーク「準備はいいか?」
ミオは背嚢を背負い直し、力強く頷く。
ミオ「行きましょう!」
扉が開かれ、二人は新しい光の中へと踏み出した。




