第3話
ルーク隊長の執務室
室内に重苦しい空気が漂っている。
デスクの前に立つミオを見つめるルーク隊長。ミオは戦いと母娘を逃がした経緯を報告するが、右手で魔法を吸収した事実は伏せている。
ルーク(驚愕して顔を上げる)「……君は、そのままあの母娘を逃がしたというのか?」
ミオ「……マレンの隠れ家を教えろと言いました。その見返りとして、逃がすと約束したのです。」
ルークは重い溜め息をつき、手袋を外してデスクに置く。
ルーク「ミオ……自分の職務を超える行動をとる時は、まず私に相談しろ。こんなことが上に知れれば、軍を除名されるだけでなく、追放処分になるぞ。」
ルークは立ち上がり、ミオの前へと歩み寄る。
ミオ(俯いたまま、沈んだ声で)「私……ただ、すべての魔導士を捕らえたいだけです。」
ルークは大きな手をミオの肩に置く。
ルーク「焦るな。君には高い素質がある。将来『四天王』の座に就くことも夢ではない……だが、その胸の中にある『怒り』こそが、君の最大の弱点だ。」
ミオは俯いたまま小さく頷き、言葉を返さない。
兵士(荒々しくドアを叩く)「隊長!!」
ルーク「入れ!」
見張り兵(敬礼しながら)「隊長、先ほど捕らえた者についてですが……一度、ご確認いただきたいことが。!」
ルークとミオは視線を交わし、表情を硬くする。
地下牢
重々しい鉄格子が「ガラガラ」と音を立てて開く。
太い鎖で繋がれた「マレン」が、壁際に座り込み、俯いたまま沈黙している。
ルークが牢内に入り、マレンのフードを力任せに引き剥がす——。
フードの下の顔を見た瞬間、ルークは目を見張り、二、三歩後ずさる。
ミオ(不審に思い)「どうしたのですか、隊長……?」
ルーク「こ、この者は……マレンではない!」
捕らわれていた女はゆっくりと顔を上げ、嘲笑を浮かべる。
偽マレン「ふふ……あの二人なら、もう街を抜け出した頃でしょうね。。あなたたちの負けよ、王國軍。やがて現れる『勇者様』が、必ず私たちを救ってくださるわ。」
怒りを抑えきれないミオは、激しい苛立ちとともに出口へと足を進める。
ミオ(右拳を強く握りしめ)「……まだ間に合う! 今から追います!」
ルーク「待て! ミオ!」
ミオは階段の手前で足を止める。
ミオ「隊長! 今すぐ追えば、まだ間に合います!」
ルーク(冷徹に首を振る)「正面からぶつかれば、こちらに勝ち目はない。街の中なら炙り出せただろうが……もう遅い。だがこの偽者は何か知っているはずだ。王城へ連行する。」
立ち尽くすミオ。胸の鼓動が激しく打ち鳴らされ、体内から湧き上がる苛立ちで熱を帯びていく。
ミオは熱を持った右拳を、壊れんばかりに強く握りしめる。
ミオ「……了解しました。」
移動中の馬車(深夜)
暗闇の中、ガタガタと揺れる馬車。
ルークは、隣で終始俯いているミオを見つめる。
ルーク「足元ばかり見つめていては、目の前に待っている大切なものを見落とすぞ。」
ミオ(ゆっくりと顔を上げ)「……私の責任です。初めての重大な任務で、明確な標的だったのに……失敗してしまいました。」
ルーク「失敗など誰にでもある。最初から完璧な人間などいない……これは、私自身にも言っている言葉だ。」
馬車内にしばしの沈黙が流れる。ミオは深く息を吐き、静かに口を開く。
ミオ「隊長……もし、王國軍の中にも『魔法』を使える者がいたら……どうなりますか?」
ルーク(意外そうな顔をして)「現状、魔法を使えるのは『四天王』クラスの者たちだけだろうが……まあ、特に何も起きはしないだろうな。」
ミオ「隊長の目標も、すべての魔導士を捕獲することではないのですか?」
ルークは苦笑いを浮かべ、首を振る。
ルーク「捕縛などただの『仕事』さ。奴らが生きようが死のうが、私には関係ない。。私の本当の任務は……」
ルークは大きな手で、ミオの頭をガシガシと雑に撫で回す。
ルーク「……お前みたいなひよっこを、一人前に育てることだからな。」
頭をくしゃくしゃにされたミオは、わずかに緊張を緩め、小さく微笑む。
ルーク「で、君の目標はなんだ?」
ミオは車外の闇を見つめ、瞳に再び強い意志を宿す。
ミオ「この世から魔法を根絶すること……それが私の志です」
ルークは深く頷く。
ルーク「茨の道だな……だが、自分を見失うなよ。」
ルークはそう言うと、横になって目を閉じる。
ミオはルークの寝顔を見つめ、「自分を見失うな……か」と心の中で反芻しながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
王城・四天王の宮殿(翌朝)
朝日を浴びる王城。。二人が馬を降りると、一人の兵士が慌ただしく駆け寄ってくる。
兵士(敬礼)「 ルーク隊長! 四天王様がお呼びです! お二人とも、すぐにお越しください!」
ルークとミオは視線を取り交わし、重い足取りで四天王の宮殿へと向かう。
宮殿・大謁見の間
広大な円形の間。天井には煌びやかなダイヤモンドのシャンデリアが吊り下がり、壁面には古の壁画が刻まれている。中央には巨大な円卓が鎮座している。
円卓の傍らには、高級そうなスーツを身に纏った三十代半ばの男——『セン』が、冷徹な視線を湛えて待ち構えていた。
ミオ(小声で)「あの方は……?」
ルーク(小声で制し)「失礼のないようにしろ。あのお方こそが、四天王のお一人——『閃』様だ。」
ルークが前へ進み出、恭しく頭を下げる。
ルーク「セン様、ご報告に参りました——」
セン(冷徹に言葉を遮り)「失望したよ、ルーク。あのような重要標的を取り逃がすとはね。」
ミオは耐えかねて弁明しようと足を踏み出すが、ルークが素早くミオの前に立ち、それを遮る。
ルーク「……すべて私の判断ミスです。」
セン(二人を見下ろし)「これほどの重大な任務失敗……どのような処罰が下るか、分かっているな?」
ルークは反論せず、ただ静かにセンの視線を受け止める。
センは冷たく頷き、冷酷な宣告を下す。
セン「……一度だけ、機会をやろう。」
セン「勇者を見つけ出せ。」
セン「期限は——一週間だ。」
ミオ(息を呑み、心の中で叫ぶ)
ミオ(心声)「(一週間以内……!? 勇者が現れているかどうかも分からないというのに……!)」
ルークは一切の表情を変えず、静かに頭を下げる。
ルーク「……承知いたしました。」
ルークは深く一礼すると、悔しさに唇を噛み締めるミオを引き連れ、重苦しい宮殿を後にした。




