表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神眼の鍛冶師は素材の魂(こえ)が聞こえる ~俺は素材をプロデュースする~  作者: サンキュー@よろしく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/67

第26話:武闘大会とデビューライブ

第零工房の訓練場には、今日もアルドの威勢のいい声と金属音が響き渡っていた。


「おい相棒! 今の俺の太刀筋、どうだった!?」


アルドが腰の剣に話しかけると、彼の頭の中にだけ、忌々しげな声が響く。


(悪くねえが、踏み込みが甘え。もっと腰を入れろってんだ、このヘッポコ!)


「へっ、うるせえな!」


虚空に向かって悪態をつきながらも、アルドの顔はどこか楽しげだ。札付きのワルだった騎士と、俺が魂をプロデュースした自我を持つ剣――その名も『レイジ・ブリンガー』――のコンビは、俺の想像を遥かに超える化学反応を見せていた。傍から見ればただの独り言だが、二人の間では確かに魂の会話が交わされ、その連携は日増しに洗練されていく。その光景を、俺は腕を組んで満足げに眺めていた。


「素晴らしい…! 最高の相棒バディの誕生だ。この子たちなら、どんなステージでも観客を沸かせられるに違いない」


俺の隣で、騎士団長のベアトリスが、手にした羊皮紙に何やらカリカリと書きつけている。


「…魔剣との精神感応…。アルドはすでに、あの剣の魂に精神を蝕まれ始めている。独り言に見えるあの会話は、思考を乗っ取られる前兆か…。恐ろしい男…」


彼女のブツブツという呟きは、もはや俺の耳には届かない。彼女の脳内では、俺はすでに悪の組織のカリスマ総帥なのだ。


そんなある日、執事長のセバスチャンが、一枚の公式文書を手に工房へとやってきた。


「工房長。ルミナス公爵閣下より、お達しにございます。来月、王都で催される『建国記念武闘大会』にて、我が第零工房の成果を披露せよ、とのことにございます」


「武闘大会…! なるほど、最高のデビューライブの舞台じゃないか!」


俺のプロデューサー魂に、再び火がついた。


「よし、みんな聞いてくれ! 我らが第零工房の初仕事だ! この武闘大会を、俺たちのアイドルユニット『アルド&レイジ・ブリンガー』の、記念すべきデビューライブとする! 目標は、優勝じゃない! いかに観客の心を掴み、熱狂させるかだ!」


俺が高らかに宣言すると、メンバーの反応は三者三様に分かれた。


「ライブ…でございますか。つまり、実戦形式の公開演習デモンストレーションにて、帝国の密偵に我々の実力を誇示し、牽制なさるおつもりですな。承知いたしました」


セバスチャンは、俺の意図を完璧に(勘違いして)汲み取ってくれた。その解釈、70点くらいは合ってるからタチが悪い。


「ふむ! 敵を倒すだけでは芸がない、か! 敵を圧倒し、王国の民の士気を高めるための『見世物』としての戦い…! フィン師の考えは、常にワシらの上を行くわい!」


バルバロッサも、目を輝かせている。彼の中では、俺はもはやドワーフの伝説に登場する鍛冶神の生まれ変わりか何かだ。


「で、でびゅーらいぶ…! 私も、何かお手伝いできることはありますか!?」


ハンナは、目をキラキラさせて俺に詰め寄ってきた。その豊満な胸が、俺の腕に柔らかく当たっている。いかんいかん、今は仕事中だ。


「もちろんさ! アイドルのステージには、ファンの熱い『応援』が不可欠だ! 君には、アルドのパフォーマンスを盛り上げる、最高のサポーターになってもらう!」


俺はハンナに、工房にあった鳥の羽を束ねて作った即席のポンポンを手渡し、簡単な振り付けと応援コールを教え始めた。


「いいか、ハンナ!『コールアンドレスポンス』が重要なんだ! アルドが決めポーズをしたら、『きゃー! アルド様ー!』って叫ぶんだ! これで会場のボルテージは最高潮に達する!」


「こーるあんど…れすぽんす…? はいっ! やってみます!」


素直なハンナが、見よう見ねでポンポンを振る。その動きに合わせて、彼女の健康的な体が躍動し、俺の視線は重力に従って自然と下に…いや、違う、応援の振り付けにだ。あくまで振り付けだ。


この一連のやり取りを、ベアトリスが顔面蒼白で見つめていた。


(始まった…! 魔人の、新たな儀式が…! あの娘に、奇妙な呪具ポンポンを持たせ、謎の詠唱コールを教えている…! あれは間違いなく、戦闘中の味方の能力を増幅させ、精神を昂揚させるための、古代の巫女が使ったとされる戦闘舞踊バトルダンスの一種! なんてこと…あんな純粋な娘を、自らの狂信者に仕立て上げるなんて…!)


俺は次に、主役であるアルドに向き直った。


「アルド! 敵を倒すだけじゃ三流だ。いかに観客を魅了するかが、一流のアイドルってもんだ!」


俺は、古代ローマの剣闘士グラディエーターが、ただ戦うだけでなく、観客を沸かせるためのショーマンシップを重視したという前世の知識を元に、彼に「魅せる剣術」を叩き込み始めた。


「いいか、攻撃の後に、無駄にクルッと一回転してみろ。そして、この決めポーズだ!」


俺がビシッとポーズを決めると、アルドは「だっせえ…」と呟いた。


「やかましい! これが『ファンサービス』だ! 敵の意表を突き、観客のハートを鷲掴みにする、高等テクニックなんだよ!」


(ふぁん…さーびす…)


ベアトリスは、ゴクリと喉を鳴らした。


(一見、無駄に見える回転動作…。しかし、あれは遠心力を利用して次の攻撃の威力を高めると同時に、敵の視線を惑わすためのフェイント! そして、あの奇妙な静止ポーズは、敵に攻撃の終わりを誤認させ、油断を誘う罠! さらに『ハートを鷲掴みにする』…!? まさか、文字通り、敵兵の心臓を一撃で抉り出す暗殺術の隠語か! なんという狡猾で、洗練された戦闘術なの…!)


彼女の勘違いは、もはや芸術の域に達していた。


「それにしても、工房長のプロデュース理論にはいつも驚かされますな」


セバスチャンが、感心したように俺に語りかける。


「応援が、対象の能力を本当に引き上げるというお話…実に興味深い」


「ああ、それね。俺の故郷じゃ常識だったんだけど、『ピグマリオン効果』って言って、人の期待や応援は、対象のパフォーマンスを実際に向上させることが、まあ、経験則として知られてるんですよ。心理学的なもんだけど」


プラシーボ効果とも言うな。病は気から、応援は力から、ってことだ。


「ぴぐまりおん…? しんりがく…?」


セバスチャンと、話を聞いていたバルバロッサは、顔を見合わせた。


「工房長がまた、我々には理解できぬ、深遠なる世界の法則について語っておられる…」


「うむ。フィン師の故郷とは、一体どれほど進んだ知識を持つ地なのだ…」


俺の浅い心理学の知識は、彼らにとっては神の啓示か何かに聞こえているらしい。

こうして、俺たちの「デビューライブ」に向けた、勘違いだらけの猛特訓が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ