第508話 9ヶ月
───イスマー侯爵が死亡してから、早くも6ヶ月半。
16の世界が17の世界に敗北してから9ヶ月が経とうとしていたころであった。俺達『チーム一鶴』が17の世界に初めて行ってから10ヶ月と半分以上が経っていた日。
「はぁ...今日も進展は無しか...」
俺は、ため息をつくようにして自分の小さな首を振る。
まだ、17の世界にいるブーロン2世に拐われたユウヤ・シンドーク・バトラズの3人を救出することはできていなかった。
『陽光の刹那』の3人にも協力をしてもらっているが、彼らも17の世界に関する行動はできずにいた。
17の世界に敗北し、ユウヤ・シンドーク・バトラズの3人が捕虜として取られたその日から、取り返すことを決めたのに俺は未だにその決意を結論に変えられていなかった。
「クソ...俺が駄目だから...」
「リューガ、そう悲観するもんじゃない。我も、たまに自分を責めたくなる日ってのはあるが、自分を責めたってなにかいい事があったってわけじゃない」
「───それはそうだけどさぁ...」
16の世界で行われていた内乱は、イスマー侯爵が死亡することで収束に向かった。内乱は終わり、パープルは国の統治を国民に再度認められるような形になったのだ。
国民は、イスマー侯爵がパープルを操り人形のように裏から操っていたという風聞し、広めていってイスマー侯爵が大悪党として仕立て上げられてしまったのだが。
そして、イスマー侯爵の率いるイスマー家は完全に没落してしまい、残された家族は平民とほぼ等しい身分になってしまった。
また、イスマー侯爵が没落したことで「侯爵」の立場が1つ空き、繰り上がるようにしてフレパ伯爵がフレパ侯爵に身分を上にあげた。フレパ侯爵は、10ヶ月半前までは伯爵であったので、パープルの結婚式には出席できていなかった。パープルの結婚式に出席できたのは、国の侯爵以上の貴族だけであったらしい。
───と、フレパ侯爵の話はどうでもいい。
今伝えたいのは、イスマー侯爵の死亡により内乱が収まったことだ。
内乱は収まり、17の世界への対策に本腰を入れることができるようになったのが今から6ヶ月ほど前であった。
───それから6ヶ月。話は嫌というほど進展していない。
数日で───いや、数時間で国をひっくり返すような行動をしていた俺達には途方に暮れるような長い時間であった。
それこそ、3日で3つの世界を渡るような旅をしていた俺達には酷く長く感じた。これまで長く滞在したのは、16の世界が初めてだろう。
もう、16の世界のことはほとんど知り尽くしたと言っても過言ではない。
とりあえず、この6ヶ月間俺達は17の世界のことについて書かれている資料を大量に読んだ。直近に発行された文書は16の世界と17の世界の戦争のことへの記述が多かったので流し読み程度だったが、昔の文献はかなり隅々まで読んだ。
「───うーん、そろそろ行動したいんだけれど...」
俺は、そんな願望を口に出す。正直、16の世界で17の世界の文献を探して調べるのにも飽きてきていたのだ。書いてあるのは気候や特産品のことばかりであった。
しかも、気候はほとんど今回の戦争では関係なさそうなどうでもいいことばかりであった。
「───さぁて、困ったなぁ...」
───と、ここらへんで疑問に思った人もいるだろう。
どうして、連れて行かれたユウヤ・シンドーク・バトラズの3人の安否などの心配はしないのか、ということであった。捕虜の3人の安否はまだ目で見て確認できていないし、映像で確認できるわけでもない。
───だが、17の世界に侵入させたスパイはいたのだ。
17の世界に侵入し、捕まった3人の安否を確認してくれているカルガンという人物が、スパイとして潜入してくれているのだ。
パープルが紹介してくれた凄腕スパイで、捕虜の安否を確認するというミッションを簡単にこなしてくれていた。
───と、この9ヶ月の間で起こった一番大きな出来事と言えばこれだろう。
パープルが、パパになった。
そう、パープルとアイシャとの間で子供ができたのだ。俺達が戦場で戦っている間に、パープルとアイシャも熱いバトルをしていたという訳だ。
いや、再会して結婚式をあげた後すぐだろうか。産まれたことはおめでたいし、頭もおめでたいようだった。
って、そうそう。2人の子供のことについても話しておかなければ。
パープルとアイシャの子供はユーリと名付けられた。名付けたのはアイシャであった。
パープルも名前を考えていたらしいのだが、ダサいという理由で却下されたらしい。大変そうだな、パープル。
俺も、産まれて数日のユーリを見せてもらった。ユーリは、触れたら壊れてしまいそうなほど弱々しい印象を受けた。赤ん坊を見るのは本当に久しぶりだったのだが、どの赤ん坊もこんな脆く儚い印象を受けるのだろうか。
───他にも1個、大ニュースはある。
ユーリが産まれた日と同日。17の世界では第27代国王であったローラン・ハイランド(62歳)が死亡した。
そして、新たな国王にローラン・ハイランドの異母兄弟であったポーラン・ハイランド(47歳)が17の世界の28代目国王となった。
命は廻る。生と死というものは繋がっているようだった。




