第499話 タンドン
「快勝、快勝、大快勝ッ!そんじゃ、後の雑魚は他の兵士でも倒せるだろうし、バイバーイ!」
「───待って...ファイヤー!」
マユミが、相手の───アレクとフルカスが乗っている馬に向かってファイヤーを撃つ。
アレクは、タンドンの首をバッサリと斬ったのだ。赦してはならないだろう。
「なん───」
馬が燃え、藻掻くようにして馬が消えていく。もしかしたら、彼らの乗る馬───鬱々馬鹿馬鹿は火に弱いのかもしれない。などと思っていたら───
「あれぇ?おかしいなぁ...おーい!フルカス!死んじゃったのぉ?なんでよぉ!」
「───タンドン」
直後、マユミは首を一刀両断されて生首と胴の2つに分かれてしまったタンドンのところまで走って行く。
タンドンは、最後の最後に『複合動止』を放っていたのだ。文字通り、死力を尽くした最後の一撃。
それは、見事にフルカスに直撃したようだった。もしかしたら、アレクを狙い相打ちを狙ったのかもしれないが、今回はフルカスに当たった。
見事、能力は発動してフルカスを殺した。
「しょうがない。疾走、疾走、大疾走!僕は走って自陣に逃げることにするよ!いや、逃げるっていうか、フルカスが死んだことを伝えに───かな?」
そう言いながら、アレクは赤色の癖っ毛を揺らしながら遠くへ走っていった。
「タンドン、タンドン、タンドン!」
マユミは、死んでしまったタンドンの元に駆け寄る。タンドンの首と胴を近づけても『霽れ間を結て』でくっつきそうな様子はない。
「なんで、なんで!どうして、くっつかないの!」
マユミは、手を震わせながらタンドンの首と胴をあわせる。そんなの、無駄だと気付いているのに。
───マユミが、仲間の死に直面するのはこれで何度目だろうか。
9の世界の冬都で、自分を庇うためにトモキが死に。その後、王城の中でノノームが死に。今度は、目の前でタンドンが死んだ。
毎度、マユミは守られる側なのだ。マユミの目の前で誰かが死ぬ度に、マユミの心にはそれが重くのしかかってきて、マユミの命の価値が更に重くなる。
今を生きるマユミにとって、死んでしまった皆は遠い存在であったし、その逆もまた同じだった。
「どうして...どうしてよ...」
マユミの目からは、ポタポタと涙がこぼれていく。涙で人が蘇るのは、漫画や小説でだけ。
現実で、そんな奇跡なんてものは起きない。
タンドンは、自分が生き返る代わりにフルカスを確実に殺したのであった。自分を蘇生させる『霽れ間を結て』よりもフルカスを殺す『複合動止』を優先させたのだ。
故に、首と胴を近づけるのに早いも遅いも関係なく『霽れ間を結て』が発動することはなかったのだ。
「どうして...どうしてなのよ...」
マユミの瞳から溢れ続ける涙。戦場は、彼女とタンドンを避けるようにして荒れていく。
誰も、「邪魔だ」だなんて声をかける人はいなかった。タンドンが、かなりの猛者でありフルカスを殺したことが勝利へかなり貢献したことになるのが目に見えてわかっていたからだ。
「───」
マユミの視界の先で光る何か。それは、マユミの涙ではない何かであった。
マユミは、惹きつけられるようにしてその光る何かに近付く。そこに落ちていたのは、黄色のネックレスであった。
これは、フルカスが落としていったものであろう。
───フルカスの第3の能力である『占い』で示されたラッキーアイテムが、この黄色のネックレスであったことは誰も知る由もなかった。
占い・・・一日一度、自分のラッキーアイテムを知ることができる。そのラッキーアイテムを手元に保持しておく限り、死亡することはない。
16の世界側の犠牲者はタンドン。そして、17の世界側の犠牲者はフルカス。
「タンドン、私は...」
マユミは、何かを決心したかのようにしてタンドンの首のない胴を背負う。そして、生首と黄色のネックレスを拾う。背中に背負ったタンドンの背中は、非常に重く感じた。非情にも重く感じた。
───そして、マユミは右翼の最前線を後にする。
彼女は、この戦場を逃げ出して、後方にある本陣に戻っていったのだ。これは、敗走ではない。
これもまた、戦略的撤収であった。
後方の本陣には、パープルもいる。彼なら、マユミを受けて入れてくれるだろう。それと、タンドンの死体もだ。トモキの場合は、冬都で燃やしてしまったが、今回はそんなことはしなかった。
───右翼は、これ以上描く予定はないので、マユミとタンドンがいなくなった後の右翼がどうなったかを伝えておいたほうがいいだろう。
結果から伝えると、右翼は16の世界が敗北を喫した。
理由は、もうほとんどわかるだろう。赤色の癖っ毛の少年───アレクが、大虐殺を行ったのだ。
16の世界の兵をバッサバッサと斬り殺して回ったのだ。それにより、右翼は崩壊していった。
タンドンとマユミは、16の世界の右翼を支える兵であったのだ。それが死亡及び後退していったので、右翼は敗北していく一方であった。
さて、次はこの戦場で一番白熱した正面の戦いを───我らが主人公がいる正面の戦いを見ていこう。




