第498話 槍
タンドンの腹を穿つ、フルカスの槍。フルカスの槍は『言語論的回転』により伸びたのだ。
フルカスの能力は生物・非生物問わず物質・非物質問わず使用できる能力だったのだ。
「どうじゃ?これで、絶命してくれんかのぅ?」
タンドンの絶体絶命な状況。だが、その四字熟語を口にする訳にはいかなかった。
口にしてしまえば『言語論的回転』を使用されて「絶体絶命」が確定してしまうからだ。それが絶対であれ絶体であれ絶命するのならば、口に出していけない。絶体絶命は絶対に口に出してはいけないのだ。
もちろん、そもそもタンドンは痛みにより苦悶の表情を浮かべており「絶体絶命」どころか他の言葉すら出てこないのだが。
「う...ぐぁぁぁ!」
獣のような叫び声をあげて、タンドンはその痛みに耐えきった。いや、もちろん断続的に長期間痛みは発せられるだろう。だが、タンドンはそれすらを耐えきる選択をした。
「僕の腹に槍を刺したようだが...どうすんだよ?僕の攻撃の範囲内だぜ?」
「───ッ!」
フルカスは、タンドンの即死の攻撃『複合動止』を思い出し、槍を引き抜いてその場から逃げようとする。が───
「んなっ?!」
槍が抜けない。タンドンはやはり使用していたのだ。『霽れ間を結て』を使用してその場に槍を固定したのだ。槍を持って逃げることは不可能だし、槍を持たずに逃げてくれれば相手の武器を手元から無くすことが可能だ。
タンドンは、マユミの方をチラリと見る。マユミは、何かに気が付いたようだった。
「タンドン、耐えてね!サンダー!」
”ピシャリ”
フルカスの頭上に落ちる、巨大なの雷。それは、槍を伝ってタンドンの体にも伝導してやってくる。
「───あ...が...」
フルカスは、口をパクパクさせている。タンドンも喘ぐようにして呼吸をしているが、フルカス程の惨事ではない。フルカスは、白髪を黒く焦がしていた。これじゃ、煙突の灰にダイブしてしまったサンタさんのようだ。
「ありがとう、マユミ!動きは止められた!」
フルカスは槍を持っているから、前方1mほどにいる。これなら、『複合動止』を使用するよりも『霽れ間を結て』で触れたほうが早い。
タンドンは、手を前方に出すも、それと同時にフルカスは後方に倒れるようにして避けられた。
「───ッ!」
老体が、これ程までの雷に耐えられるわけもないだろう。死亡───とまでは行かないが、失神はしただろう。無力化には、成功した。
「勝った───」
タンドンが安堵しようとした直後。戦場に響く聞き慣れた声。
「虐殺、虐殺、大虐殺ッ!」
そう言って、辺りを血の海にしながらこちらに青ざめた馬───フルカスの能力で生み出された鬱々馬鹿馬鹿に乗ってやってきたのは赤髪の癖っ毛が特徴的な和服の人物であった。その軽装は、戦場では悪目立ちしていた。
「アイツ───」
タンドンには、見覚えがあった。その赤髪の人物はブーロン2世の手下としてタンドン達の目の前に現れた人物だと言うことに。
パカラパカラと馬を走らせ、16の世界の兵士を真っ二つにしているところは見ていられなかった。
これは、赤髪の人物の能力『血の門』によるものだった。
血の門・・・相手を一刀両断することが可能。
「連戦か...しょうがない、僕が相手するしかなさそうだな...」
相手も、タンドンのことは認知しているのか、フルカスが倒れているところを見たからなのかタンドンの目の前に止まった。
「やぁ、久しぶり」
「お前は、何者だ?」
「僕は『死に札の制裁』のアレクさ。よろしく頼むよ。あ、補足しておくと『死に札の制裁』ってのはチーム名だよ。君が、君たちが殺したブーロン1世の最高幹部4人───って感じかな。だから、僕達は全員『切り札の制裁』よりも強いよ。偽りの力で喜んでいるわけじゃないからね」
アレクと名乗った少年は、そう言うとクスクスと笑う。
「───にしても、ローラン・ハイランドが貸してくれたゴエティアの悪魔とやらは、全然役に立たなかったなぁ...もしかして、不必要な人材を渡されたのか?戦犯、戦犯、大戦犯ッ!」
そう言って、失神しているフルカスを無理矢理引っ張り、先程まで自分が乗っていた鬱々馬鹿馬鹿の背中に寝かせる。
フルカスがいたところには、黄色のネックレスのような何かがあった。フルカスは、こんな貴金属のアクセサリーなんか付けなさそうなのだが、何かの遺物だろうか。
「───まぁ、そんなことは関係ない」
タンドンは『複合動止』を早速発動して、アレクを狙う。
「───お、僕とやる感じ?」
アレクに『複合動止』が当たると思った。だが、そんなことは起こらなかった。
「僕の『血の門』は見えないものだって斬れるんだよ」
アレクは、満面の笑みでそう解説する。
「君の能力も確かに強い。それは僕も認めるよ」
アレクはそう言って頷く。その間に、タンドンは『複合動止』を何度か放っているが、その全てを躱されてしまっていた。
「でも、僕の圧倒的な強さの前では、君もまた無力に等しいってわけさ」
直後、アレクが動く。ほんの一瞬の出来事だった。
”ドサッ”
地面に落ちたのは、タンドンの生首であった。




