第496話 老いた魔神
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───戦場の視点は変わり、左翼から右翼へ。
左翼では、『ゴエティア』の魔神及びブーロン2世の部下の2人を殺害することに成功し、勝利を掴むことに成功した。
右翼の戦場入りをしていたのは、マユミとタンドンの2人と、多くの16の世界の魔導師部隊・剣士部隊であった。彼らは、王族護衛隊のメンバーでもありかなりの実力を有していた。
一方、敵はどこも変わらず国を防衛する兵士であった。良くも悪くも有象無象と言ったところだろうか。
「タンドンの新技、強力で敵が出る幕はなさそうね」
「そうだね。僕自身の力を過信するつもりはないけど、それでもかなり強いよ」
タンドンが、1ヶ月半ほどの修行期間の果てに手に入れた新技───『複合動止』はかなり強力な技だった。その理由は、全部で3つある。
1つ目、相手との距離に関せず放つことができるから。
2つ目、当たれば即死だから。
3つ目、放っているものは概念且つ透明であるため弾くことなどができない。
透明で実体のない即死の技を、近い遠い関係なくはなつことができるのだ。透明であるから、視認もできないので、避けることだって困難だ。
欠点とすれば、直線移動しかできないところにあるが、逆に言えば、直線軌道上にいれば相手が動かなければ確実に当てることができるという技だった。
相手が急に接近してくれば、従来通り触れて心臓を止めてしまえばよかったので、タンドンはかなりチートキャラと成していた。
その強さの証明としては、もう100人ほどの相手の兵を殺していた。タンドンは今、生きた機関銃のようであった。
───と、敵なしのタンドンと、その付添のようになっているマユミの目の前に現れたのは一人の老人であった。
そこにいた老人は、体が青ざめた───実際に、青くなっている馬に乗っていた。青い馬というのが存在するのだろうか。それとも、その老人の能力で生まれた生物なのだろうか。
馬に乗った老人は、まるでステレオタイプに当てはまるような仙人のような白ひげで白髪の老人だった。まるで、サンタさんのように長い白いおひげを顎に蓄えていた。だが、着ているのはキトンだった。そして、腕には鋭利な槍を持っている。
その見た目から、一人称は「ワシ」だと予想ができるような老人の典型例のようなキャラであった。
タンドンは、目の前に現れた白髪の老人に『複合動止』を放つ。すると───
「避けろ」
白髪の老人は馬の尻を叩くと、馬をトボトボと歩かせて『複合動止』を避けさせた。
「僕の攻撃を...」
きっと、認知はしていないのだろう。これまでの経験で何かを感じた───きっと、そんな感じだろう。
「今、ワシを狙った人は誰じゃ?」
そんな、掠れたような声を出す老人。タンドンは、名乗り出なかった。ここで姿を現して真っ向勝負───だなんて、する必要がないからだ。
タンドンはもう1発『複合動止』を放つ。
「───こっちからじゃな」
その老人は、やはり何かを感じるのかタンドンの『複合動止』を避けた。
「しょうがないのう...ワシも雇われからにはしっかり働くとするかのう...」
その老人は、首を回してからこう発した。何かされる前にタンドンが再度『複合動止』を使用する。が───
「『鬱々勃々』」
その老人は能力を使用する。その直後地面から巨大な植物が生えてきてその植物の蔓が、タンドンの『複合動止』にぶつかりその場に固定された。
「ふむ、避けてたやつは固定させる能力じゃったのか...」
その老人はそんなことを呟いていた。
鬱々勃々・・・地面の半径20mほどに植物を好きなように生やすことが可能。
鬱々馬鹿馬鹿・・・青ざめた馬を生み出すことが可能。走ると速い。
言語論的回転・・・相手の発言した言葉を直訳し、それを現実に適用させることが可能。例:ごめんなさいで解決したら警察はいらない→ごめんなさいで許されたら警察が消える。
占い・・・一日一度、自分のラッキーアイテムを知ることができる。そのラッキーアイテムを手元に保持しておく限り、死亡することはない。
「ワシは、固定させる能力を飛ばしてる奴と戦えばいいんじゃな?きっと、そうじゃ」
巨大な植物の奥からそんな声がした。どうやら、タンドンは老人の相手をしたらいいのだろう。
戦場で、こんな巨大な蠢く植物を相手できるのは並の兵士じゃ無理だろう。
「タンドン、老人本体のトドメは任せられる?」
「え、マユミは───」
「私は、私と魔導師部隊の皆で植物を燃やし尽くすわ。そこで、老人が焦ったところを殺してほしいの」
「あ、あぁ。わかった。そうしよう」
「じゃあ、行くわよ。ファイヤー!」
マユミが、ファイヤーを放つと他の魔導師部隊も何かを察したのか指示をしなくても巨大な植物に向けて火魔法「ファイヤー」を放つ。
チリチリと音を鳴らし、燃えていく植物。どこかで千切れたのか、ドサッと音を鳴らして地面に落下した。
そして、火に包まれる老体の姿が明らかになった。だが、火に包まれて焦っている様子もない。
「心頭滅却すれば火もまた涼し───と、言うじゃろう?」
その老人は『言語論的回転』を使用して、火を熱く感じないようにしていたようだった。
───そして、この老人が魔神だという確証を得た。




