8・始まりの一歩
どうしてこうなった?
ザワザワと騒がしい周囲の声
目潰しとばかりに輝き放つ黄色と赤色
測定機の台座下にキラキラと散らばるのは、中央奥にはめ込まれていた元球体だったモノ
後ろの生徒達の驚愕しおののく声に、隣に立つ先生と神父様ご一行の驚嘆に満ちた声
確かにこの事態はボク自身のせいだけれども、もう少し静かにしてくれないだろうか……声と光で耳も目も痛いし、全員がむける視線もいたい
混乱しているのは変わらないが、周りの熱意にやられて一周回って冷静になったボクは、どうしたものかと固まってしまう
まだまだ落ち着きそうにない後ろで騒ぐ生徒達の声に、目の前の本人を差し置いて話し合いに発展してる先生と神父様ご一行
問題の中心なのに置いてけぼりなボク
なるほど、これが混沌か
このどうしようもない現状にボクは何故だか上司様のしたり顔が浮かび、その顔を無性に殴りたくなった
いや、本当に……どうしてこうなった??
絢爛豪華な教会中の応接室
一目でお高いと分かるソファに座れば、その座り心地の良さはお高いお値段通りのようで思わず感動する
ソファの前には机を挟んで同じように座る先生と神父様。そしてボクの隣には理由を聞けぬまま呼び出され、何事かと緊張の面持ちをした可哀想な父の姿に申し訳ない気持ちになる
「急にお呼び出ししてもうしわけありません、アーコマンさん。実は貴方の息子さんの件でご相談したいことがありまして……」
「あぁ、いえ、その、神父様。今回のご用件はいったい?息子がどのような粗相をしてしまったのでしょうか??」
「粗相だなんてとんでもない!むしろ貴方の息子さんは、素晴らしい未来を約束されたような才能の持ち主ですよ!!」
「えぇ!?あの、本当にいったい何のことやら私には??」
どうしたことかと慌てふためく父に、目の前の神父様は満面の笑みで答える
「本日、学校の恒例として魔力測定を行ったのはご存知ですか?」
「ええ、知っております。息子がずっと楽しみだと話しておりましたから」
「それはそれは……。実はお呼びした件は今回の魔力測定の結果についてでして、息子さんが類稀な魔力の持ち主だと判明いたしました」
「なんと……本当に?我が家の息子がですか??」
「このままこの才能を埋もれさせるには余りにも残念。ですから私が推薦致しますので、ぜひ王立学校の方へ入学させていただけませんか?」
「王立学校!?神父様はそこまで息子には行かせる価値があるとおしゃるのですか!?」
「もちろんですとも。10年、いや100年に1度の才能と言っても過言ではありません!!」
王立学校?また初めて聞くものが出てきたな。それにしても100年に1度とは……この神父様は少し盛りすぎではないだろうか
ちなみに案の定、ここまでの話し合いの中でもボクの意見を聞く訳でもなく置いてけぼりである
「そんな、まさかマックが……」
「戸惑う気持ちは良く分かります。すぐにお答えをとは言いませんので、本日はこのままお帰りなさって構いませんので、良くご家族で話し合い下さいませ」
「そうですね。神父様のお申し出は大変ありがたいお話ですが、少し考えさせていただきたい」
「ええ、本日はご足労いただきありがとうございます。出来るならば、アーコマンさんの良いお返事を期待しております」
ではまた。とにこやかな笑顔のままで送り出してくれた神父様を後ろに、先生に案内されてボクと父は教会を後にした
教会からの自宅への道
こうして父と2人っきりになるのも久しぶりだなと思いながら夕暮れ前の人がまばらな大通りを帰っていると、これまで黙って手を繋ぎながら歩いていた父が問う
「マック、学校は好きかい?」
「うん、好きだよ。授業は勉強になるし、友達も出来たし」
「そうか。ならもっと勉学を、特に魔法を学びたいとは思うかな?」
「うーん、勉強出来るならもっとやってみたいな。魔法はまだ習ってないから分からないけど……今日していた難しそうなお話と関係あるの?」
そうボクが聞けば、父は何か考えているのか少しの間また黙っていたが答えてくれた
「さっき話していた王立学校はな、国の偉い人に認められた才能があったり、とっても賢い人が行くことが出来る学校なんだ」
「ボクが神父様に認められたから行けるの?」
「行けるってだけでも凄い学校だ。でも今まで以上にマックが勉強を頑張らないといけないし、家族と離れて寮って場所で1人で生活しないといけなくなる」
「え、1人になっちゃうの……」
つい不安げな声が出てしまった
父はそんな声を聞いて立ち止まり、こちらを見おろした。父の顔は心配そうにボクを見てながらしゃがみ込む
涙腺がゆるむのを感じて、泣きそうな顔を見られまいと地面に向けていたらフワッと浮く感覚
驚くボクが顔を上げると困ったような父の顔がすぐ正面にあった。そのまま持ち上げられ小さな身体は肩の上に乗せられた。肩車されたのである
「マックが勉強が好きな頑張り屋さんだって私も家族も全員知ってる。でもまだこんなに小さいんだ、無理する必要はどこにも無いんだよ」
そのまま歩きだす父に、ボクは落ちぬようにとギュッと掴まる
「だから今日はもう休んで、またゆっくり考えよう。マックが行きたいと言うなら、私は反対しないからな」
父が優しくボクに語りかけてくれた
家はもうすぐ目の前に見えた
「……うん。ありがとう、お父さん」
裏口から家に帰れば、呼び出されから心配でずっと待っていた母と姉様の驚いた顔と安心したとの言葉
その声を聞き、売り場から部屋に見にきた兄さんも、そんなボクらの様子に大丈夫そうだなと売り場の仕事に戻って行った
その日の夜
今日の出来事を話してから波乱の家族会議になってしまったのは仕方ないことだろう




