4・再開(後編)
「とりあえず今後は僕の直属の部下って扱いで色々なところに【悪役】として出張してもらうのが主なお仕事だね」
「前回のような条件で、と言うことでしょうか?」
「いやー、前回のは簡単な研修みたいなものさ。あとはちゃんと適性があるかどうか見るため的な?」
「そうゆうことでしたか。流石にアレで【悪役】なんていうのは自分でもおこがましい程の結果だと思っていましたから」
「ストイックだねぇ、名無し君は。でもそうゆうの含めて100点満点の花丸合格だから安心していいよ」
称賛しているつもりなのかパチパチと手を叩き、ヒューと口笛まで吹くアンラ・アンユ
正直からかっている様にしか見えないが、それは黙っておこう
「次回からは名無し君を魂だけの状態で送り込むから、その世界において最良だと思う【悪役】になって欲しいんだ」
「私が自分で決めて行動を選択して良いのですか?」
「もちろん。でも名無し君本人を送り込む訳じゃなくて、名無し君の知識と考えを持った魂をその世界において【悪役】になる者の身体に入れるってことになる」
「……私自身ではあるけれども、私ではない人生を歩む過程でその者にとって最良の【悪役】になれとゆうことでしょうか」
「そうゆうこと、理解が早くて助かるよ」
お茶のおかわりどう?と聞かれ、私も紅茶を飲み干していた事に気づく。お願いしますと言えば、パッとまた突然にポットが現れ空中に浮いたまま私のカップに紅茶を注ぐさまはこれから何度見たとしても不思議な光景である
「そろそろ名無し君って呼ぶのも何だし、名前つけようと思ってるんだけど何か希望あるかい?」
「前に名前は持っていませんし、その前の名前はもう使えないのですよね。特にコレと言って希望は無いのでお任せしますよ」
「最初の名前は僕が対価に貰っちゃったからねー。なら、今枠余ってるし1a-pjo……マカ・ナハウでマー君なんて素敵じゃないかな」
一瞬、なんと言ったのか分からない言葉が聞こえたが特に問題があることでも無いだろう
その名で構いませんと伝えれば、アンラ・アンユは満足げにうなずいた
「それなら名前も無事に決まったことだし次の世界に送り込むね。戻って来たらマー君専用の部屋もちゃんと用意しておくから」
「またいきなりですね。説明などは無いのですか?」
「説明かー、次の職場は盗賊の下っぱってことぐらい?上手く行けば幹部くらいにはなれるんじゃないかな」
「あぁ、なんとも定番で良くある【悪役】で」
「下積みは大事なことだよ、マー君」
パチリとこちらに向けてウインク
顔の造形は無駄に綺麗なものだからさまになっているが、その行動と言葉の軽さがアンラ・アンユ本人の本質とは違うように感じて不快感を煽られてしまう
「あとは、どの世界の【悪役】になっても絶対に守って欲しいことが2つあるぐらい。基本ってかお約束事みたいな?」
「……そちらの方が大事なことでは無いですか?」
「まぁーね。ただどう足掻いても必然的に起こる事だしさ、つまんないけどねー」
【悪役】のお約束事
あぁ、なるほど。幼いころは憧れながらに確かにそうなるものだ、と漠然に思いながら彼ら彼女らの最後をみていた。なんと腹立たしくも分かりやすい必然的で紛れもない基本的なことである
「【悪役】はかならず【正義】に勝てないと」
「マー君大正解!!正しく言いなおすなら、大義たる【正義】には僕ら【悪役】はかならず負けること。あと一つは世界を完全に破壊しては駄目!!ってヤツだけど……コレに関してはその時次第なとこがあるから説明が難しいんだよねー」
「2つ目を聞く限りですと破壊した事があるみたいな言い方ですね、アンラ・アンユ様は」
「完全にって訳じゃないもの、首の皮一枚は残したからセーフかな。まぁ、そんな大役はマー君がもう少し慣れたら頼むよ」
「それってすでにあるという事ですね、そんな【悪役】が」
「そう、とっておきの【悪役】さ。今後のお楽しみって思っておいておくれよ……。きっとマー君が演じてくれるなら、それはそれは素晴らしく誰からも認められ語り継がれるほどの【悪役】になってくれると僕は考えているからね!!」
そう声も高らかに歌うように宣言したアンラ・アンユ
その顔は、笑っていた
あのアンラ・アンユがわらっていた
先ほどまでの目が笑わず、貼り付けた用な笑顔では無かった
心の底から楽しみなのだと言わんばかりに、その瞳の奥で、緩んだ目元で、こみ上げる微笑みで、発した言葉の響きで、両手を広げ称えるような動きで、その全てをもってアンラ・アンユがわらっていたのだ
「さぁ!さぁ!!これから始まる歴史的一ページの幕開けだ!!僕の期待に答えてくれると信じているよ、マカ・ナハウ。これからの君の人生が【悪役】たることを願って、次の世界へいざ導かん」
バッと右腕を高く上にあげる
すると天井に吊るされたシャンデリアの輝きがよりいっそう際立ち、意識と視界が白く染まった
あぁ、私はそんなにも期待されていたのか
ならば見ていたまえ、アンラ・アンユ
このこみ上げて沸き上がるほどの熱意と長年に夢みて積み上げた想いを胸に、私の矜持をもってして、私の、私たる、【悪役】でそれに答えてみせようではないか!!
楽しみにしているよ。と笑い声と共に聞こえたのを最後に、魂のみとなった私は次の【悪役】たる人生へと向かった
ココはどこでもあって、どこでもない狭間
自由なようで自由から程遠いこの狭間の檻の中、この世の全ての悪たるアンラ・アンユは静かにを嗤う
終わらない【正義】と【悪役】の繰り返す悲喜劇に




