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悪厄の悪役たる矜持  作者: 陸昼すず
Ep1・不条理たるこの世と盗賊
25/26

24・過去の場所

「……オマエ、何を言って」

「実験の募集です。だって、毒を自分に試す訳にはいかないでしょう?」


瓶を持って彼らに振り向けば、おぞましい物でも見たかの様に1歩後ろへ下がった団員達

今度はうずくまる少年と彼を庇うように膝をつく少女を見れば、ビクリと恐怖で身体を震わせたものの、視線はボクの持つ瓶から外れていなかった


「……それを飲めば、本当に助けてくれるの?」

「ええ、もちろん。お手製なんで効くかどうかすら分からない物ですけどね。なんでしたらアンユ神にでも誓いましょうか?」

「いいえ。そこまで言うならワタシが飲むわ」

「アンジュ姉さん!?」


少年が顔を上げて驚いたように叫んだ

そんな少年に向かって少女、アンジュは語りかけるように優しくなだめる


「大丈夫よ、ワタシが丈夫だって貴方も知っているでしょう?」

「でも、だからって毒なんて……」

「心配しないで、姉さんが皆を守るから」


なんと、美しい姉弟愛か

思わず、腹立たしくて反吐が出そうだ


「と、言う訳ですので。この2人の身柄はボクが預かります」

「テメェ……頭に気に入られてるからって、調子に乗り過ぎじゃねぇか。ちょっと躾する必要があるみたいだなぁ?」


ニヤリといやらしく嗤ったリーダー格の男

それにつられて、後ろの他2人も嗤う


大方(おおかた)、子供だからと油断しているのだろう

リーダー格の男が腰にぶら下げている短剣に手をかけたそこへ


「ーー撃ち抜け(ショット)」


足元にある小石を魔法で狙って、リーダー格の男の短剣に伸ばした手元に、後ろの男2人には膝に叩き付ける


悲痛の叫びを上げて崩れ落ちた後ろの2人と、小石があたり叫びはしなかったものの右手を左手で隠し、リーダー格の男は痛そうに眉間にシワをよせた


「ボク、今ちょっと気がたってましてね。貴人方(あなたがた)も、お頭さんも、話を聞かない方には力ずくみたいですから構わないでしょ? 分かったなら、さっさとお引き取りを」


最後の方だけ意識して、脅すような低めの声で言う


こちらを睨み付けてくるので、自分は口角だけ上げて微笑んで返しておく


「……チッ、興がさめた。オイ、オマエら戻るぞ」


しばらく見つめあっていたが、諦めたのか聞かせるように大きな舌打ちをして男達は去っていった


顔だけ回してアンジュと少年の方を見れば、何やらとても驚いた様子でボクを見つめている


「2人はそこで少し待っていてください。ボクは荷物を取って来ますので」

「あっ。わっ、分かったわ」


声をかければ、間を置いて返事が返ってきた

変な事をしたつもりは無いので2人の様子を特に気にする事もなく、裏口から休憩する予定だった部屋に戻る


部屋に入るとベッドが2つと雑多に置かれた色々な持ち物


右側のベッドには人が寝ており、見ればアストーが穏やかな寝息だが、上にかかけていただろう布を足元に蹴飛ばしている

仕方なく首元までかけ直しておいて、部屋の中から厚手のケープと数冊の本、それと愛用の杖を持ち出して外で待っていた2人の元へと戻った


裏口から見れば言った通りに待っており、大人しく待って逃げない素直さに呆れてしまった


「逃げなかったんですね」


そのまま疑問を口にしてみれば


「アンユ神に誓ったのよ? 逃げる理由なんて無いわ」


なんて、優等生らしい台詞が返ってきた


確かに、神に誓いましたけどね

貴女とボクが讃える神が同じとは言ってないですが


「……まぁ、良いでしょう。灯火よ(ライト)」


持っていた杖の先にある魔石の中に、ランタンのような小さな灯りが現れた

暗くなってきた中で、その光は周囲の足元と前方の4歩から5歩先を照らしてくれている


「家まで送りますから、案内をお願いします」

「ええこっちよ、ついて来て。……貴方は、その、もしかして魔法使いなの?」


歩き出したアンジュの左側に並んでついて行っていると、とても不思議そうに聞いてきた

ちなみに少年は彼女の右手をしっかりと繋ぎ、警戒心が剥き出しのままの視線をボクに送ってきている


「いいえ。残念ですが魔法使いではないですよ」

「それだけの腕があるのに落ちたって事かしら?」

「違います、検定を受けて無いので資格を持ってないだけです。今は別に困ってませんから受ける気もありませんけど」

「受ける気がないって」

「そうですよ。いくら魔法が使えても、盗みを繰り返し、人に大怪我させ、人殺しまでした奴なんて……受ける前に捕まってしまいますから」


にこやかな笑顔で答えてあげれば、隣を歩くアンジュが半歩横へと怯えたように離れる

何も言わない少年からの視線もより鋭くなった


「何かを勘違いしていませんか? ボクはこれから貴女を殺そうとする人殺しなのですよ?」


もう一度、笑顔で言ってあげれば、彼女は唇を噛み締めて何も言わなくなった


集落の中央から離れて大きな焚き火の明かりは遠く、辺りも暗く静かな集落の端まで案内されたのは、ボクにとっては懐かしの、始まり場所


目の前にそびえ立つ建物は白かっただろう壁は薄汚れ、所々が欠けたりヒビも入っている

それでも屋根の上に掲げられた十字を丸い線で囲われた紋章が、荘厳な雰囲気を崩さない


「ここよ、ワタシ達が暮らしているのは」

「教会でしたか。……あぁ、だからあんな返事を」

「まぁね、ここは教会でもあって孤児院も兼ねてるわ。そこでアンユ教の教えに従い、未来の神父様や修道女(シスター)様になれるよう学んでいるの」


ギィと、立て付けの悪い扉が音をたてて開かれる

中は月明かりで照らされた程度で暗かったが、簡素な作りではあるものの昔見た神聖さを感じさる礼拝堂と変わらない


案内してくれた2人を扉の前に放っておいて、奥に立つアンユ神とされている石像の前に片膝をついて、教えにある略式の礼拝を行った


礼拝を終えて振り返れば、また驚いた様子の2人


「驚いたわ……。貴方、礼拝方法を知ってるのね」

「少し、教会にはお世話になっていましたもので」


懐かしい輝いていた思い出に引っ張られて行動した


そしてこれから、ボクの手で過去の綺麗なモノを全て捨てる為の、決意からの行動でもある

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