23・偶然か必然か
見知らぬ天井に、嗅ぎ慣れた葉巻の香り
覚醒する意識と一緒に眼を開けば、それなりに上等なベットの上にいた
上半身だけ起こして匂いの元を辿れば、いつか見た彼のだらしなく座る後ろ姿
「……おはようございます、お頭さん」
「おう、起きたか。こんばんはの時間だけどな」
「そうでしたか。それで? ここはいったい?」
「知らん。移動ついでに見つけた集落を、ちょっと寝床代わりに借りてるだけだ」
肩をすくめて、彼は答える
確かに耳をすませば、近くの部屋から煩わしい音に、窓から見える景色からは集落の中で大きな焚き火を中央に、食べて飲んで騒いでる盗賊団員達が見えた
「俺は羽目を外すなよって忠告したはずなんだが。まぁ、随分と楽しんだらしいじゃないか?」
「楽しかったかと言われると微妙ですが、それなりに満足出来る結果だったのは真実ですが」
「偵察役と魔法使いどもは全滅、歩兵の半分も土砂崩れに巻き込まれて死人さえ出なかったが負傷者多数。オマケに総大将を任されてたある貴族の坊っちゃんは、顔面は大火傷に右足は一生動かせないだろうと……。これだけ暴れてそれなりにとか、お前はどこを目指しているのやら」
「嫌ですねぇ。少し、小さくて幼い子供が昔を思い出して、感情を抑えきれずに過剰に攻撃してしまっただけですよ。八つ当たりなんて言うのでしょうか」
「子供の八つ当たりで壊滅的被害を毎回起こされたら、やられた方は散々だよな」
「そんなに頻繁に起こりませんから安心してくださいな、ボクだってそろそろ大人になる年頃ですから。……まぁ、無事に成人出来ればの話ですけどね」
「あー、嫌だ嫌だ。その時はその時で考えろよ。せっかく無事に逃げきれた祝い事の最中だってのに、辛気臭くなっちまうだろ」
短くなった葉巻を机に押し付けて、器に盛られた肉にかぶりついてコップに並々と注がれた酒をあおる
そんな彼の姿をみて、正直な身体は腹から空腹を知らせる音を鳴らした
「……食うか?」
「ぜひ。そういえば朝から何も食べてませんでした」
「好きなの食えよ、育ち盛り。レッグやアストー、シジマ爺にレイニーの奴まで見舞いついでに大量に置いてったからな」
「存外、ここはお人好しが多いですよね。盗賊団としてどうなんでしょう」
「構わないさ。仕事してくれて、こっちの言う事をちゃんと聞くならどんな奴でも」
「おや?では聞かない奴がいたなら、どうするおつもりで?」
「力ずくに決まってるだろ。吠えるだけなら弱くても出来る、馬鹿な奴なら強さも分からず攻撃してくる。そんな相手には、拳で黙らせるのが1番早い」
冷めてしまった具材ばかりのスープを口に運び、珍しく固くないパンも一緒にいただく
飲みきって空になったコップにまた溢れんばかりに酒をついで、それを対面に座るボクの目の前に差し出した
「……飲みませんよ」
「違うわ、乾杯だよ。1番手柄を立てた奴を祝わなくてどうするよ」
「手柄と言われても実感が湧かないんですけど。まぁでも、誉められて嫌になる事でもありませんから」
目の前に掲げられたコップに自分が持つコップを、木同士の小さな音が出る程度にあてる
並んだコップと手の大きさは、まさに大人と子供
その対比に仕方ないとは言え、どうしても自分の不出来さを感じてしまう
「ちなみに、今後の予定は?」
「ここで一泊したらまた移動だ。ヴィルナ領を越えた先のバルトバ領地にあるもう1つの潜伏場所に向かう。人数が人数だから山を迂回して、着くのは2週間後ってとこだな」
「それでまた、近くに集落があったら襲うと」
「寝床を借りるだけだろ。後は少しばかり、俺達を持てなして貰うだけさ」
「言い方次第ですよね。ボクも雨風しのげる屋根と、暖かい寝床、それにご飯が美味しいなら大歓迎ですけど」
「そこに酒と女が付けば、俺も大満足だな」
頬が酒によって少しだけ赤く染まったダーヴェが上機嫌そうに声を上げて笑う
彼のそんな様子に、諦めを込めた視線を送った
「それはどうぞご自由に。明日も早そうですから、ボクはそろそろ休みますよ」
「枯れてるよな、お前。左奥の部屋なら空いてるから、そこ使えよ」
「どうしてもボクだと、女性に対して嫌悪感が先にきてしまうのですよ。それではお頭さん、また明日」
休ませてもらっていた部屋から出て、言われた通りに左奥へ歩けば柵だけついた裏口のすぐ側に扉があった
ここだろうと当たりをつけて向かって行けば、裏口から叫び声が聞こえてくる
何事だろうと好奇心にかられて柵に近付けば、顔見知り程度の団員3人に囲まれた子供が2人
1人はボクと同じくらいか少し小さく、もう1人はたぶん年上だと思わしき少女だった
「もう止めてください! これ以上渡す物は何も持ってないのです!!」
「嘘つけ。そのガキが持ってる袋から硬貨の音が聞こえたのを聞いてるんだよ」
「違う! これは硬貨じゃない! 大切なお守りなんだ!!」
「うるせぇ、イイからさっさとそれを渡しやがれ!!」
元からあまり素性の良くない3人だった記憶だ
お酒も入っているせいで、さらに性格が歪んでいるのだろう
見なかった事にするのは簡単だが、何故だか関わらなければいけない気がして柵を開けて、未だに揉めている集団に届くように声をかける
「うるさいですよ、何事ですか?」
5人が驚いた様子でボクを見る
うち少年を庇っていた少女が、「なんで子供が?」と呟いていたが大きなお世話である
「あぁん? レッグのところのチビじゃねぇか。子供は大人しくさっさと寝てな」
3人の中でリーダー格的な位置にいる1番大柄な男がボクを睨みながら言う
「寝たかったんですけどね。あんまりにも貴方達が騒がしくて、一体何をしているのかなと」
「ちょっと懐が寂しいからな、そこのガキから恵んで貰おうとしただけさ。盗賊が他人の物を盗んで何が悪い」
嘲笑うように高圧的な態度で言い、そんな彼をしり目に少女と少年の方を見れば
「お、お願いっ! 助けてっ!!」
すがるような顔で助けを求められた
「はっ、残念だったな。コイツも俺達の仲間ーー」
「良いですよ」
目を見開いて固まった団員達には目もくれず、彼らと少年少女の間に割って入るように身体を滑り込ませた
「おい! オマエ!!」
「何か?」
「なんでソッチを助ける! オマエは俺達の仲間だろうが!!」
「ええ、そうですね。なので条件をつけます」
ローブの内側から小さな瓶を取り出して、全員に見せつけるように目の前に掲げる
「最近、毒が作れないか試しているところで。この新しく出来たモノを飲んでくれた方を手助けしようと思います」




