21・次の狙いは本隊
「はい、終わり。そちらはどうですか?」
「あー……、近くにはもういないな。ただ、森の抜けた先で金属音が聞こえる」
「金属音なら、貴族お抱えの本隊でしょうね」
「平地ならまだしも、この森の中を鎧着て移動する気かよ。ちょっと正気を疑うわ」
「仕方ないですよ、貴族様って言うのは見栄を張って生きる人達ですから。さぁ、敵が動く前に戻って、次の準備をしなければ」
あの重そうな全身鎧を着て動く事を想像したのか、とたんに活気のなくなるアストーに活を入れて、来た道を戻る
戻る時に、荒れ放題の獣道は兵隊を誘い込む為に少しばかり手を入れて、人が通りやすいように変えておく
拠点に帰れば早朝の騒がしさは嘘のように、今や誰もおらず無人のテントがいくつか残されているだけだった
「もう全員逃走済みのようですね。では予定通り、確認しながら罠の設置といきましょうか。アストーはテントの方をお願いします」
「了解っと。終わったら声かけるな」
「ええ、任せましたよ」
二手に別れて、アストーは残されたテントに仕掛けを施しに行き、ボクは出入口に積まれた荷物をいくつか抱えて、拠点を囲う胸ぐらいの高さがある木の柵へ
柵が立つすぐ下の地面に魔法を使い人の頭程の穴をあけたら、抱えていた液体の入った樽を1つ放り込み上から落ち葉で蓋をする
その場から一定の間隔をあけて、同じような作業を繰り返しては、拠点の周りを柵に沿ってぐるりと一周する
最後に出入口にもう一工夫と作業をしていたら、先に作業を終えて偵察に向かっていたアストーが急いだ様子で戻って来た
「流石は貴族様のお抱えな兵士だけあるわ。森なんて知ったことか!みたいな勢いで、魔法で木をなぎ倒しながらこっちに来てるぞ」
「さっきから森が煩いと思ったら、そのせいでしたか。魔法を使っていた人数は?」
「声で把握した限りだと3人か4人ってところだ」
「なるほど。そんな様子でしたら少し早いですが、もう次の段階へ移りましょう」
「賛成だな。ここでの準備が終わってるなら急いだ方が良さそうだぞ」
「仕方ないですが、見つかっては全てが無駄になりますからね」
拠点を後にして目指したのは、奥に見える4年前に牢屋としてボクを入れて使っていた洞窟の入り口、の更に上
目の前に断崖絶壁として切り立つ壁を良く見れば段差があり、入り口のすぐ上辺りまで登れるようになっていて、軽々と登っていくアストーに些か怒りを覚えながら負けじと上に向かう
登ってたどり着いたのは、上半分だけ穴のあいた正方形の籠の形をした見張り場所
2人してそこに潜りこみ、下に広がる森に目を向ければ、拠点を目掛けてってくる5、60人程度の兵士
「報告通り、2個小隊って規模ですね」
「いやー。流石に上から見ると目立つな、あれ」
「あぁ、また木が倒れて……。いくら何でも大雑把過ぎる進軍じゃないですか」
「魔法の無駄打ちだよなー。てか、ここまで騒いでおいてバレないとでも思ってるのか?」
「あっちの目標はボクらの盗賊団が、この場所にはもう居ないって確証だけですからね。騒いで目立って、戦闘を仕掛けられても返り討ちにすれば良し、驚いて拠点から逃げてくれたら尚更良し、みたいな考えですよ」
「へー、一応は考えてはいるって訳か」
「まぁ、戦闘は予想していても、こうして罠をはって待ってるなんて事は、夢にも思っていないでしょうがね」
「同感だわ。あれ? でもオレ達に逃げられても良いなら、この罠いらなくね??」
「そこは、ほら、他の皆さんが逃げる時間稼ぎは必要でしょう?……後は、私情ですが」
「なるほど。お頭達、さっき逃げたばっかりだもんなぁ……ん?最後なんか言ったか??」
「いいえ、別に何も。さて、相手さんはもうすぐ拠点に着きそうですよ」
話を切り上げさせ、目の前の拠点に近付いてくる兵士達を確認する
手前半分に軽装の歩兵
その奥半分に鎧を纏った重歩兵
残りの奥には鎧姿とローブ姿の騎兵隊
そして一番奥には、力強い馬と屈強な鎧に周りを囲まれた周りの兵士よりも一回り小さな、煌めく杖とローブを羽織ったボクの因縁の相手
早く!早く!!と焦る気持ちを落ち着けて、聞き耳をたてているアストーに静かに問いかける
「どうです? 会話は聞こえますか??」
「問題ない。えーっと、「先に歩兵で検索を行って安全を確保しましたらーー」「どうでも良い。なんならさっさと魔法で、さら地でもしてしまえば早いじゃないか」「しかしウィルパー様、まだ利用できるものがあるも知れませんので。ここは少しばかりお待ちを」「分かった、分かった。オレはもう早く帰りたいんだから早くしろ!!」と。貴族様の子守りも大変そうな事で」
「あれは特殊な方ですよ。でも歩兵だけとは困りますねぇ……。あの貴族様に当たらない様に近くを狙って打てますか?」
「オレの弓の腕を舐めるなよ? 1発で叩き込んでやるさ」
「何とも頼もしい返事です。では、身代わり君を用意して……」
拠点前で立ち止まり、なかなか動かない兵士達を誘い込む為に、丸太にフード付きのローブを被せて弓を背負わせた身代わり人形を、幻影の魔法をかけてから見張り台から慎重に洞窟の前に吊り下げる
準備が出来たらアストーに視線で合図を送り、それを受けて放たれた弓矢は放物線をえがいて、不機嫌そうなウィルパーの顔すぐ横を通り過ぎていった
弓矢の風切り音に驚いて、落馬こそしなかったものの慌てふためき、何やら叫び散らすウィルパー
その哀れな様子に思わず嗤い声を上げそうになるのを押し殺して、アストーに声を代役してもらう
「あー、「敵だ!まだ敵がいるじゃないか!!全軍突撃して敵をあぶり出せ!!」「ウィルパー様!どうか少し落ち着いて!!」」
隣からの実況を聞きながら、身代わり人形にかけた幻影の魔法を解いて、なおかつ、その人形から魔法の火の玉が撃たれたように偽造する
「「いたぞ! あの洞窟の前だ!!早く捕まえに行け!!」「お、お待ちください!ウィルパー様!!」「うるさい! オレの命令が聞けないのか!!良いから全軍あのならず者を捕まえに進め!!」うわぁ、見事に引っ掛かったな」
「ええ、本当に。こうも無能だと助かりますね」
狙い通りに拠点の中に流れ混んでくる兵士達
全員が柵の中に入ったのを確認したら、また同じ要領で人形から魔法を撃ち出して、兵士ではなく先に仕掛けておいた樽の埋められた場所とテントに当てていく
途端に立ち上る火柱と爆発音に、周囲を焼き付くさんばかりの圧倒的な熱量
樽とテントに仕込んだのは、良く燃える特性の油だ
一瞬にして柵は火の壁と化して兵士達の退路を断つ
呆気にとられる兵士達を嘲笑うように身代わり人形を洞窟の奥へ、まるで逃げるように放り込んだ




