20・まずは偵察役から
「金目の物は全部持て!! 他の必要品も燃やされたく無いなら持てるだけ持ってけよ!!」
まだ太陽が顔をほんの少し覗かせただけの早朝に、ダーヴェの声がアジトで響き渡る
まだ眠気の残る頭に響くその声を目覚ましがわりにしながら、自分の荷物整理と逃走後の準備を行う
しかし未だに眠気が勝って、時おり睡魔に襲われる
「おーい、マック君やーい。手が止まってるぞー」
「……止まってません。寝てなどいません」
「嘘つけ、さっきガッツリ寝てただろ」
隣で同じように作業しているアストーに釘を刺され、覚醒しきって無い頭と身体を無理矢理起こす
荷造りを終えて、逃走の準備も一段落したところで、こちらに近付いて来る人がいた
「アストー、マック。荷物はまとまったかの?」
「もちろん!もう終わってるから後は頼んだぜ、爺さん」
「ボクも終わってます。荷物をよろしくお願いしますね、レッグおじさん」
「ホッホッ、安心して任せときなさい」
近付いて来たのはシジマのお爺さんとレッグだった
にこやかに声をかけてきたシジマのお爺さんとは対象的に、レッグは終始無言で側に立っているだけ
アストーは荷物をシジマのお爺さんに託し、ボクの荷物はレッグに渡そうとした時に、無言であった彼から話しかけられた
「……頭が2人をこっちに来るように呼んでたぞ」
「そうですか。ではこれから直ぐに向かいます」
「……この荷物、見た目のわりにやけに重くないか?」
「ほとんど本ですよ。……レッグおじさんに貰った本も入ってます」
「……そうか。なら、大事に運んでおく。だから坊主も、ちゃんと戻って来いよ」
「当たり前じゃないですか。レッグおじさんは本当に、お人好しの心配性ですね」
「仕方ねぇよ、性分だ。坊主のその言い草と同じようなものだろ」
そう言ってボクの頭を軽く叩くレッグは、仕方なさそうに、苦い顔して皮肉を受け取ってくれるいつもの彼だった
「……アストー、お頭さんがボク達を呼んでるそうです。行きますよ」
「おう!じゃあ、行ってくるわ。爺さん」
「そうかそうか。また後での、2人とも」
大きな荷物を抱えているにも関わらず、手を振って見送ってくれたシジマのお爺さんと隣にいるレッグも小さく手を振ってくれていた
「……お前、あれで良いのか?」
「構いませんよ、今回の作戦で失敗なんてありえませんから。それに、戻って来ると約束しましたし」
「そっか。まぁ、お前が満足してるなら、オレから言うのも野暮ってもんか」
一緒に歩くアストーからの問いかけに、ボクは素っ気なく言葉を返した
その反応に彼は何も聞かず、まだ大声を上げて回りに指示を出しているダーヴェの所に揃って向かった
「何かご用ですか?お頭さん??」
「ん? あぁ、見張り役の奴らが相手さんが動いたって報告と一緒に戻って来たからな。こっちもそろそろ切り上げて動くから、作戦通りに偵察に来る相手を先に潰して来いよ」
「おや、思ってたよりも早かったですね。アイツの事なので、もっと準備に時間がかかると考えてましたが」
「そのアイツさんが急かしたみたいだぞ? これ以上、野蛮な野営に耐えきれないそうだ」
「はぁ?たかが3日目で耐えられないとか、貧弱過ぎやしないかソイツ??」
「でも納得しました。相変わらず、堪え性の無い性格みたいで」
「なに、短気な奴なら大歓迎だ。こっちの罠に嵌めやすいからな」
「同感です。では、ボクらは行って来ますので、この場所での残りの下準備はお願いしますね」
「じゃあ、お頭!行って来るぜ!!」
拠点を離れ、獣道を進んでいると、先頭を行くアストーから静止の合図がおくられる
その場で魔法を使い、地面に複数の足首程の深さの溝を設置して、見た目に分からない様に細工を施したら、獣道を少しそれた木の上に登り、幻影の魔法をボク達にかけて息を潜める
しばらくすると、拠点とは逆の方角の道からガサガサと草木をかき分ける音と複数人の喋り声が聞こえてきた
「やっぱり森の中だとまだ暗いな。もう少し太陽が昇ってから動けば良いものを」
「諦めろよ。待てば待つだけ、あの坊っちゃんがまた癇癪起こすだけだろ」
「全く、これだから貴族様は。慣れて無いのに威張り散らして、大人しくしといて欲しいもんだぜ」
随分とまぁ、言われ放題な事で
話の内容と呆れ顔のボクを見て、何やら言いたげな様子のアストーは見ない振りをする
どうやら偵察役は男性の3人組
他にいない事を確認してもらい、罠として設置した溝の場所に彼らが通るのを再び待つ
「うぉっ!?こんな所に穴が……。これだから暗い森の中は嫌だったんだよ」
先頭を歩く一人が溝にはまり、歩みを止める
それに釣られて後ろの2人もその場に止まる
その瞬間を狙って、弓を構えていたアストーが矢を男性達に向かって放つ
「足下に気をつげぇ!!」1発目
「おい、どうしだぁっ!!」2発目
「てっ、敵襲どこからぁ!!」3発目
3発とも的確に首を貫き、息はあるものの喉を潰され声を出せず、全員がその場に倒れ込んだ
「……何と言うか、いつも思うのですが、アストーの射撃は正確過ぎて気味悪いですよね」
「おいこら、マック君よ。何で誉められるはずが、オレは貶されてるんだよ」
「いえ、こう、つい。その良く聞こえる耳と弓の腕前は羨ましい限りですよ、切ってボクに取り付けて欲しいぐらいに」
「嫌だよ!絶対に嫌だわ!! 何でそうお前は、えげつない褒め方しか出来ないんだよ!?」
木の上から器用に飛び降りたアストーを追って、ボクは慎重に地面に降り立つ
偵察役の男性達の内、2人はすでに生き絶えており、残りの1人も虫の息だった
貫通した矢の鏃を良く見れば、血の赤色に混じって毒々しい青紫色の液体が不着している
「毒付き……。まさか本当に試したんですか? 貴方も人が悪いですねぇ」
「お前が勧めといて、それは無いだろうよ。でも駄目だな、毒付ける為の鏃の加工が面倒だし、こうやって鏃の回収が難しくなるし、量産には向かないわ」
「それは残念です。良い案だと思ったのに……」
2人して軽口を叩いているが、アストーは布に鏃を包んで回収しながら周囲の警戒を怠らず、その作業が終わってから3人分の死体のすぐ下に大きな穴を魔法で作り、土を被せて地中深くに永眠していただいた




