19・報復前夜
小さな火が影をつくり揺らめく
ほのかなロウソクの灯りが淡く部屋を照らす
この盗賊団にボクが入ってから、もう4年の歳月が過ぎていた
互いに固く握りしめたあの時よりも、一回り大きくなって武骨さの目立ってきた手のひらを眺めて、懐かしい当時の思い出にふける
「友情とは、実に素晴らしい特効薬ですよね」
目の前に置かれたランタンの中で踊る炎を見ながら、そう小さな声で囁いた
「……また、突然どうしたよ?」
「まぁ、少しばかり。ここに来てすぐの出来事を思い出しまして」
「感傷にでも浸ってるつもりか? お前は死亡フラグでも立てたいのか??」
「相変わらずな物言いですね。こんな事でまだ死ぬ予定はありませんよ」
「こんな事って。一応はピンチのはずなんだけどな、俺達の団が」
「ピンチだなんて。また何とも、面白くもない冗談を言いますねぇ」
向かいの椅子に座って葉巻をふかすサウルヴァ、いや、ダーヴェもこの4年の間でシワが増えたのではないだろうか
「本当に初々しさと可愛げを2人揃って無くなっちまって。討伐隊つっても、貴族様お抱えの兵士が来るなら大事だろうよ。……はぁ、シジマ爺に教育を任せるべきじゃなかったわ」
「何を言いますか。たかが地方貴族の兵士に殺されるほど弱くないですし、手加減が出来るほど優しくもない。名誉欲しさに討伐隊に参加するのがボクの憎き相手とか、なおさらですよ」
「俺、今回はあっち側に同情するわ。ヴィルナ子爵の息子だっけ? ご愁傷様ってやつだな」
やれやれと肩をすくめて深く座り直す彼を無視して、これまでの長かった道のりを思い出す
盗賊の下っぱとして働きながら魔法の修行に明け暮れ、シジマのお爺さんにアストーと共に必死に学んだ戦闘技術、これら全てをついに行使する時がやってきたのだから
「明日の逃走の殿は任せてください。無事に成し遂げてみせますから」
「あれだ。羽目を外して、やり過ぎてくれるなよ」
「残念ながら、その願いは確約しかねますね」
「だと思ってたよ。まぁ、仕事をちゃんとしてくれるなら何でも良いさ。明日は頼んだぜ、マック」
「言われずとも。では明日に、お頭さん」
軽く挨拶をしてダーヴェのテントから出て行けば、外でずっと待っていたのだろうレッグの姿が目にはいった
「おや、レッグおじさんじゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」
「……ちょっと寝付きが悪くてな。気晴らしに、外の空気を吸いに出ただけだ」
「そうでしたか。てっきりいつものお人好しで、ボクの事を待ってくれていたのかと」
おどける様に笑いながら皮肉げに尋ねれば、いつもなら苦い顔で、けれども仕方なさそうに皮肉を受け取ってくれるのに、珍しく真面目な表情でこちらを覗きこむ
「……何でわざわざ危険な仕事を選んだ。いつもの坊主なら面倒だと、上手く他人に押し付ける様な任務だろう?」
ーーあぁ、本当に
この人はボクの役を良く分かってくれている
「でも、ボク以上の適任がいないのだから当然の任務ですよ。レッグおじさんだって、そう言いながら本心では分かっているでしょう?」
「頭では理解してるつもりだ。だからってな、坊主みたいな子供が……そうも、生き急ぐ真似しなくたっても……」
「そんなのだから心配性って言われるんですよ。確かに今回の任務がとても危険な事は知っています。でも、ボクにとっては諦めきれない報復の、最後の機会かもしれないんです」
目を細めて、口角も上げて、目の前の人の為に、ボクは綺麗に微笑んでいられてるだろうか
「……そうか。なら、オレから何も言う事は無い」
口を小さく開けては閉じてを繰り返して、何かを言いたげな様子だったけれども、結局それだけ伝えてレッグは暗がりの中へ帰って行った
去り際に見た背中は出会った当初よりも小さく見えるが、4年前の父の背中の様な虚弱さは無く、ただひたすらにボクの事を願っての哀愁だけが感じとれた
そんな背中が全て暗闇に消えたのを見届けてから、レッグとは反対の方へと進む
ボクの寝場所でもあるテントが近づくと、入り口の隙間からオレンジ色の光が漏れていた
「……アストー。貴方、まだ起きてたのですか?」
「お、戻ったのかマック。まだ起きてたって、もうそんなに時間がたってたのか?」
「もうとっくに夜中の0時過ぎてますよ」
「げっ、マジか。いやー、寝付けなくて武器の手入れしてたら夢中になってさ」
そう言って手に持っていた弓矢の鏃をこちらに見せてくる
先は鋭利に研がれており、根元には少しだけ返しが付いている殺意の高さを感じる品物だった
「張りきるのは良いですけど、張りきり過ぎて、ボクの足は引っ張らないでくださいよ」
「はいはい、充分に分かってますよー。マックの方こそ油断して、オレの手を煩わせるんじゃねーぞ?」
「ご心配無く。そんな失態をおかす様な無茶な真似はしませんから」
たわい無い話をしながら、右側の空いているベッドの上に移動する
「ボクはもう寝ますから、アストーも早く寝てくださいよ。明日の任務に寝坊しても知りませんからね」
「これが一段落したらな。てか、寝起き最悪の奴に、そんなこと言われたくねぇよ」
「……ちゃんと起きれているのですから、何の問題ありません」
「そうですねー。寝起きに人に向かって、冷水ぶっかけてくる余裕があるぐらいだものなー」
「いつの話をしているのですか。もうその事は、きちんと謝ったでしょう」
「真冬に冷水とか嫌でも忘れられないわ。あの時は、マジで凍え死ぬかと思ったからな」
「うるさいですね、しつこい男は嫌われますよ。ほら、もう眠りたいので早く灯り消してください」
「たく、しつこいのはお前の方だよ。あと少しで終わるから、今はこれで我慢してくれ」
そう言って上に吊るされていたランタンを取りら自分のベットの端へと移動させる
布1枚挟んだ分、こちらを照らす灯りは先程よりも落ち着いて、布には彼の特徴的な少しだけ長い耳と手元で作業しているのが分かる影が浮かび上がった
「……まぁ、これなら良いでしょう。明日は頼みましたよ、アストー」
「おう、安心して任せとけ。また明日な、マック」
動く影に背を向けて、漏れる光があまり気にならない体勢をとって、そっと目を閉じた




