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悪厄の悪役たる矜持  作者: 陸昼すず
Ep1・不条理たるこの世と盗賊
17/26

16・それぞれの夜

「あと何があったけな。2大規則は聞いたって言ってたよな」

「大義たる【正義】に負ける事と、世界を完全に壊してはいけない事でしたね」

「それな。細かい規定はあるがそれはその時になったらで大丈夫だろ、それに今なら何となく自分でも退場の時が分かるだろ?」


コクリとその問いに素直に頷く


ボクは今日の出来事で【悪役】として分岐点を選んだのだろう。そのせいだろうか言われた通りにこれから訪れる【悪役】としての終わりを感じるのだ


「不思議な感覚ですよね、死がこんなにも近くにあるのに恐怖を感じないなんて。その辺りも含めて生まれ変わったと言う事でしょうか」

「俺とお前じゃ生まれが違うからその気持ちは分からんな。ただ、アンラ様の事だから何かしら手を加えてるだろ」


まだ只の人間だった頃の真名、それと人としてあるべきはずの善の理性

対価にと奪いさったそれらは今に思えば上司(アンラ・アンユ)様の優しさだったのだろうか


「他なぁ、顔合わせ晩餐会はやったか?」

「……何ですかそれは」

「珍しいな、まだやって無かったのか。なら俺から言える事は何もないなぁ」


ニヤリと意味ありげに笑うダーヴェ

もうその顔の時点で嫌な予感しかしない


「顔合わせ晩餐会ですか……。聞くかぎりサウルヴァ以外にもボクの同僚がいるような言い方ですね」

「そりゃ需要がある仕事だからな。仕事量のわりには少人数しかいねぇけど」

「正直、意外です。ボクのような物好きがいるとは」

「目の前にすでにいんだろ、その物好きが。個性豊かな奴らばかりだから飽きは来なくて良いぞ」

「あの上司(アンラ・アンユ)様の部下ですものね、それぐらいでないと務まらないのでしょう。ボク程度では埋まってしまいそうです」

「ハハハッ!!安心しろよ、お前も今まで居なかったタイプで見ていて充分面白いさ。俺が保証してやるよ」


ガシガシと大きく硬い手でボクの頭を撫で回すダーヴェ


見た目も相まって子供扱いをされてますね

1500歳以上のダーヴェから見れば、今までを合計しても3桁いかないボクは幼いと思うのかも知れませんが、子供扱いは止めていただきたいです


不服な気持ちが顔に出ていたのでしょう

見下ろしながら未だにニヤニヤと撫でるものですから、そろそろ流石にしつこいので両手で思いっきり頭に乗る手を払いました


「んじゃ、そろそろ外の心配性に交代してもらうか。呼び名は戻せよ、ひよっこ」


そう言うなり出入口の方へと向かうサウルヴァ、いやダーヴェ


「レッグ!そこでウロチョロするぐらいなら入ってこい!!」

「わわっ!?気付いてたんですか、頭(かしら)!?」

「当たり前だろ。さっきから入り口前で行ったり来たりしやがって、足音がうるせぇよ」


テントから半身を出したと思えば、外にいたレッグを中へと引きずり込んできた


「これはレッグおじさん。今日は随分とご迷惑をかけたみたいで、ごめんなさい」

「よっよぉ、坊主。元気そうで何よりだわ」

「レッグ、今日からお前がこのひよっこの担当な。明日はシジマの爺(じじい)の所に案内しとけ」

「えぇっ!?いやぁ、頭。オレ、子供の世話はちょっと……」

「何だ?文句でもあんのか??ずっと気にかけてたんだから構わないだろうが」

「わぁー。ボク、とっても嬉しいですー」

「ほら、ひよっこもこんなに喜んでるぞ」

「すっげぇ棒読みな台詞でしたけど!?」


レッグの反論もむなしく、ダーヴェは引きづり込んだレッグとボクの腕を一緒に掴むと、2人揃って背中を押しやりテントの外へ追い出した


「じゃ、あとは頼んだぞ。レッグ」


追い出した間際にとても良い笑顔でそう言ったダーヴェは自分のテントへ戻っていった


手を繋いだ状態でダーヴェのテント前に呆然と立ち尽くすレッグと、どうするんだろうと思いながら同じく立ち尽くすボク


少し経(た)ってからハーッと深くため息をつくと、諦めがついたのかボクの手を引いて動きだす


「とりあえず、仕方なく、坊主の担当になったから大人しくオレの言うことは聞けよ」

「失礼ですね、ボクはこんなにも良い子なのに」

「まったく。良い子がまずこんな所にいるはず無いだろうが」


そう言ってまた、ため息1つ

何だかんだと文句を言いながらも歩く速度はボクの歩幅に合わせるようにゆっくりだ


ダーヴェのテントより一回り小さなテントに着くと中へと入るよう促(うなが)される

中は真ん中を布で仕切られ左右に簡素なベッドが1つずつ置かれているだけの場所だった


「明日から色々教えてやるから、今日は坊主はもう寝てろ」


右側のベッド以外は何もない方へ案内され、言われた通りにもぐり込む


「……さっきまで寝てたせいか、眠くならないんですけど」

「知るか。オレはこの後まだ見張りの仕事があるんだから、そのまま眠くなるまで目でも閉じておけよ」

「優しいお節介なレッグおじさん、良い子のボクへ子守唄を要求します」

「相変わらず口だけは元気そうで

 ……はぁ、分かったよ。今回だけだからな」


ガシガシと刈り上げられた頭の後ろをかきむりし、スッと大きく息を吸い込む


「過去に一筋の光 世にいずるは、主(しゅ)の方(かた)


 生(せい)よ、生(う)まれよ、と祈られる


 世界よ均衡(きんこう)たれと 支え願うは、4(よ)の神


 火よてらせ、水ようるおせ


 土よこえろよ、風よなでよ


 命ある全てに祝福を 未来(さき)ある子らに、幸あれ」


朗々と歌い上げられたその歌は聞き惚れるほどで、何より過去の明るかった記憶を呼び起こすほど懐かしい


「アンユ教の聖歌ですか。歌、上手なんですね……」

「昔はこれで飯食ってた吟遊詩人(バード)だったからな」

「意外です……まだ、聞きたいです……」

「……また気が向いたら聞かせてやるよ。もう眠いだろ? 寝ちまいなよ、坊主」

「えぇ……約束、ですよ……」


流石は元吟遊詩人(バード)

歌に眠りの効果でも付けたのだろう、先程まで無かったはずの急な眠気に勝てずそのまま眠りへと落ちた




「あぁ、だから嫌だったんだ。子供の世話なんて……」


眠るボクに静かに落とされた小さな呟き


起こさないように一度だけ頭を優しく撫でたレッグは、見張りの仕事へとむかった

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