15・魔法とは(応用編)
何かが焦げた煙の匂いがする
パチリと目をあければ見知らぬ生成色の天井
匂いの元へ視線だけを向ければ、だらしなく椅子に座り葉巻をふかすダーヴェの姿
声をかけようとすれば喉に痛みがはしり、ケホッと咳き込む音だけで言葉は出てこなかった
その音に反応してダーヴェがこちらを見てからボクの状態を確認すると、咥えていた葉巻を地面で強引に消して器の容器を持って近付いてきた
「起きたか。調子はどうだ?」
「見ての通りですよ、最低最悪ですね」
「悪態つける元気があるなら大丈夫だな。ほら水、飲むだろう」
そう言ってボクに水の入っているだろう器を差し出すダーヴェ。余り力の入らない中、上半身だけを無理矢理起こして器を受け取り、中の水を一気に飲み干した
「……っは。おかわりをお願いします」
「実に良い飲みっぷりで、ほらよ」
「どうも、ありがとうございます」
新たに水を注がれた器を再度受け取り、今度は半分ほどを飲み干して一息つく
「……今さらですが、どこですかここは?」
「俺専用のテントの中だ。盛大に感謝しろよ、泥まみれで血まみれのうえにゲロまみれだった汚いお前を綺麗に着替えさせてここまで運んだんだからな。俺が呼びつけたレッグが」
「それ、結局お頭さんは何もしてないじゃないですか」
「そうとも言うな。まぁ、俺がやるより慣れた奴にさせるのが一番だろ」
ついでに飯もあるぞ?と笑いながら指差す机の上にはいつものスープの器と何やら大きい肉の塊が置いてある
流石にあれだけ吐いた後にスープならまだしも肉の塊を食べる食欲なんてあるはずも無く、丁重にお断りさせてもらった
「んじゃ、とりあえずーー空間・静寂せよ」
呟かれた言葉は3日前の夜と同じもの
「さてと、何から話せば良いのやら……」
「これ、空間隔離の魔法ですよね?この世界には無い魔法のはずでは?」
「あー、いや、普通にあったはずだがなぁ。禁術指定か伝え忘れられたのか?」
「……サウルヴァ、これを覚えたのはいつ頃で?」
「……1500年前ぐらいだったはず?覚えた時はアンラ様にあれこれと叩き込まれてた時期だったな」
「……この世界、1000年程前に一度滅びかけてるんですけど」
そんな時もあったなぁ、じゃないですよ
この魔法どう見てもただでさえ難しくて高度なのに覚えられてる訳無いですし、きっと文明と共に忘れ去られてしまったんでしょうね
「アンラ様から教えられて無いはずなのに詳しいな、お前」
「王立学校に通ってましたからね、歴史は必須科目でしたよ」
「あのお坊っちゃま学校!!ならアンユ教の教えと魔法の基礎は省略して、魔法の応用からにするか」
「何度聞いてもアンユ教って、悪ふざけにしか聞こえない宗教名ですよねぇ」
「止めろ、言うなよ。あの人の悪戯をいちいち気にしてたら手に負えないわ」
片手で目の上を押さえつけ、何かを思い出したのか絞り出すような声で語るサウルヴァ
相変わらず迷惑極まりない上司様の様で
「失礼しました。サウルヴァ、続きをお願いします」
「あー、魔法な。利便性上は魔法って言ってるだけだから魔術でも超能力でも変わらない。正確に説明するならアンラ様の加護と自身の魂からのエネルギーらしいが……詳しく言うと俺もそこまでしか知らん」
「神からの祝福って教えは意外と当てはまっていたんですね」
「そう、そこに繋がる。アンユ教が広まってる分この世界はアンラ様の支配と加護の範囲が根強いからな、身体に少し左右されるが覚えた能力や魔法は全て使えると考えて良い」
「その加護のわりには水と風は魔法適性ほぼ無しって言われましたよ」
「流石に悪神を大々的に称える宗教だと広まらないからな、その教えと適性はちょっと変えて伝えてある。アンラ様の加護付きの俺らが苦手とするのは本来なら火の能力や魔法だが……火よ」
そう呟いたサウルヴァの人差し指に、マッチの様な小さな火が現れる
その小さな火をボクが目覚めた時に咥えていたのと同じであろう葉巻の先に近付けて、ゆっくりと先端をあぶり火を葉巻にうつした
「使えてますね、火の魔法」
「だろ。この世界だと火の魔法って扱いになっているが、正しくは熱、温度を操る力だ。さっきの魔法も火を生み出したって結果に見えるが、温度を操って空気中の小さな埃を発火させたが正解で、火属性と水属性に分けられているが同じ温度を操る力だから適性が無くても俺らなら使える」
「なるほど、温度ですか……。氷の球よ」
空気中に漂う水分、水蒸気の熱を奪う様に意識して手のひらに力を巡らせる
すると考えた通りの直径3㎝ぐらいの小さな氷の塊が出来上がり、手を反らして地面に落とせば空洞のそれは割れて砕け散った
「飲み込みが早くて助かるぜ、魔法の才能あるんじゃないか?」
「この世界よりは科学が発展した世界出身ですから。その影響もあると思いますよ」
「あぁ、それなら話が早いな。火属性と水属性の関係と同じで土属性と風属性も元は一緒の力が作用してる。土は渇き、気圧?だか大気圧?で……まぁ、重さとか圧力を操ってるとでも思え」
「さっきの火の魔法より随分とざっくりした説明で」
「仕方ねぇだろ。長年使ってると感覚で覚えてて、他人に説明すんのが難しいんだよ」
葉巻の煙を吹き出し、一息つくサウルヴァ
「最後の無属性。ここに光と闇もまとめられてるが、これは教えの通り創造神の祝福ってか自分の創造力と魂の相性によってバラつきが出る。回復系の魔法が良い例だな。攻撃を受けて毒の状態になったとする、お前ならどう思いながら治す?」
「傷があるなら、そこから毒素を追い出す。体内に入っているなら、その毒に対する免疫機能を強化して無効化すると言ったところでしょうか」
「その意見を聞くと、かなり科学が発展してた世界出身みたいだな。俺の場合だと免疫だとかそんな知識と持ち合わせて無いのと、相性的に難しい作業になるから、毒本体を直接破壊して無かった事にする」
「その方法のが楽そうですね、機会があったら今度試してみますよ」
「試すのが良いが、自分以外で1回練習しとけ。さっきも言ったが魂の相性もあるから俺は出来るけど、お前は出来ないって事もありうるからな」
魂の相性に、創造力か……
ボクは良く堅物と言われていたから、この力についてはかなりの練習ともっと沢山の知識が必要になるだろうな
魔法と言う力の概念が分かったのは助かる
けれども、今のボクはマイケル・アーコマンと言う【悪役】だ。今後も使うのは彼が得意な火属性と土属性の魔法だけに止めておこう
まだ小さな両手を見つめ、そう結論付けた




