14・分岐点
「ようガキ、昨日ぶりだな。よぉーく眠れたか?」
「おはようございます、お頭さん。ってもうお昼前ですけどね」
「ちょっと楽しんでたら遅れただけさ、こんぐらいの細けぇ事は気にすんなよ」
何やら企んでる楽しそうな笑顔な事で
機嫌の悪そうなボクと上機嫌のダーヴェを見比べてはどうしたものかと、おじさんじゃない見張り役の人がオロオロしてるじゃないですか
「ガキの足枷だけ取ってこっちに連れ出せ。あとは俺がやる」
「っはい!!おらガキ、こっちに来い」
見張りの人が牢屋の扉を開けている間に、ボクは指示された通りに出入口近くまで移動する
動くたびにジャラジャラと引きずって煩わしかった足枷とはこれで少しの間だけさようならだ
足枷から解放されたが両手の動きを阻害する太い縄はそのままに、新たに持ってきた縄を両手の縄にくくりつけ、見張りの人に引かれ罪人のようにボクは牢屋の外へと連れ出された
「へい、お頭。用意出来ました」
「おう、ごくろうさん。お前はもう今日休んでて良いぞ。あぁ、例の場所に他の奴らが近付かないように良く言っといてくれ」
「了解です。お頭からだって脅しておきますわ」
「そうしといてくれ。まぁ、それでも来て巻き込まれたアホは自己責任だな」
何やら物騒な話をしている見張り役とダーヴェ。その物騒な事に嫌でもこれからボクは巻き込まれるわけ何ですけど、一体彼らは何を企んでいるのやら
見張り役からダーヴェに縄を引かれ薄暗い牢屋から光が見える方向へと歩けば、雑多に並んだテントと森の風景。背後を見れば切り立つ崖の壁にポッカリとあいた穴が一つ。なるほど洞窟を牢屋として利用していた訳か、通りでジメジメとして蒸し暑いし薄暗いはすだ
そこから崖にそって歩くダーヴェに連れられて行く
歩幅が違うせいでボクは小走りで彼の後に着いて行くような形になっている
牢屋の洞窟から少し歩くと大柄なダーヴェの身体の横からまたポッカリと崖にあいた穴が見えた。雑多なテントからも離れたそこは出入口に立つ1人の男性以外は人気がなく、森の木々も洞窟の出入口に近い事から薄気味悪い印象を与える
「よう、レイニー。中はどうなってる?」
「お疲れ様っす、お頭。相変わらず大人しいけど、ぶつぶつとまだ何か呟いてて怖いっすよ」
「喋れる元気があるなら大丈夫そうだな。おら、行くぞガキんちょ」
「うへぇ、本当にガキじゃないっすか。お頭、マジでやらせるつもりっすか……」
「当たり前だろ?今さら言った事を変えるつもりはねぇよ」
レイニーと呼ばれた男性は気のどくそうな目でこちらを見る。ボクはその視線を背中に感じながらダーヴェに引かれ洞窟の中へと入って行った
始めに反応したのは目だった。ボクがいた洞窟よりも暗く、天井にぶら下がるランプの明かりはとても頼りない光で暗さに慣れるまで少し時間が必要だった
次に反応したのは鼻。ジメジメとした湿気に酸っぱさとえぐさを合わせた様な強烈なすえた臭いに思わず顔をしかめる
続いて反応したのは耳。先ほど見張り役のレイニーが言っていたようにぶつぶつと何と言っているのか詳しくは分からないが呟いているのが聞こえてくる
こんな状態を気にならないのか気にしてないのか分からないダーヴェはさらに奥へとボクを連れて行き、洞窟の突き当たりであろう格子状の壁の前で立ち止まった
誘導されるがままダーヴェの隣に立ち、格子の壁の奥、牢屋の中を覗き込めば広い部屋に簡素だが大きなベッドが1つだけ。ベッドの上には壁の方へ向いて横たわる布1枚を身体に巻き付けただけのあられもない女性の姿
何で、嫌だ、こんな事に、ワタシのせいじゃない、マックのせいよ、アイツが全部、アイツのせいで、こんな、違う、こんなはずじゃ……
乱れて広がる長い髪は、ボクと同じ赤茶色
近付いてハッキリ聞こえた怨みの声は、聞き覚えのある馴染み深い、姉の声
「言った通りだろ?何も無い時はずっとあの調子でな、ぶつくさと恨みごとを吐いてるばかりだ」
呆然と立ち尽くすボクに向けて隣に立つダーヴェは小声で喋りかける
それから腰に差してあった大振りなナイフを取り出すと、両手を縛っていた縄を切り刻み、ボクへそのナイフを握らせる
何事かと隣にいるダーヴェの顔を見上げれば
「それで姉を殺せ。父親みたいに魔法で殺すなよ」
それはそれは、とても楽しそうな笑顔で囁いた
「姉様を……」
「そうだ。ただお前だけってのはズルいからな、正しく言うなら殺し合え。だな」
ダーヴェはボクにそう伝えるなり牢屋の出入口を開け放ち、そこへボクに渡した物と同じようなナイフを放り投げた
「おい、聞こえてんだろ女!お望み通りに憎くて堪らない弟を連れてきてやったぞ!!」
その音にビクリッと一瞬反応して硬直した姉に向かい言い放つ
声に反応した姉がのそりと身体を起こして、ゆっくりとこちら側に顔を向ける
その顔に明るかった頃の面影は無くやつれており、目も酷く淀んでいてた。それでもなおボクを見た時は恐ろしい鬼のような怒りに燃える形相に変わった
「そら女。そのナイフで弟を殺せたら、ここから解放してやるぜ」
ダーヴェの宣言を耳にするやいなや、姉はベッドから飛び起きて出入口のナイフを握りしめボクへと襲いかかって来た
「アンタが悪いのよ!全部アンタのせいよ!!」
真っ直ぐに突っ込んで来た姉を、間一髪で転げるように避けてすぐに立ち上がる
避けたボクを睨み付け、地面に刺さったナイフを無理矢理引き抜くと姉は再び襲いかかってくる
「姉様!待って!ボクの話をっ!!」
「うるさい!アンタがいなければ良かったのよ!!
いいから!ワタシの為に!!死んでしまえぇ!!」
「っ!?石の弾丸よ!!」
雄叫びと共にこちらへ攻撃してくる姉に恐怖と、それ以上に虚無感を覚えたボクは、振り上げられたナイフを持つ手を狙い魔法を放つ
衝撃に堪えきれず武器を手放して攻撃が怯んだ姉に向かい、体当たりしながら押し倒し、握ったナイフを全力で突き刺した
手に伝わるのは柔らかい肉の感触と、鼻を掠める血の臭い
押し倒されても憎悪の瞳で睨み付ける姉は、痛みに耐えながらも必死にボクの首を狙い手を伸ばす
「っの!アンタさえいなければ、ワタシはっ!!」
「……もう、黙れ。さようならだよ、姉様」
首にかかる弱々しい圧力を感じながら、脇腹へ突き刺したナイフを抜いて、姉の首を目掛けて横一直線にかっ切る
血飛沫が舞い、ボクの全身へと降りかかる
姉はハクハクと言葉にならない口を動かし、首にかけていた手は力無く下に落ちゆき、あっけなく事切れた
パチパチと場違いな音が隅からおきる
そちらを見ればニヤニヤと下衆な笑顔のダーヴェが嬉しそうに立って拍手をしていた
「いやぁ、大したもんだ。咄嗟の魔法を打つ判断力に、実の姉弟を迷いなく切れる決断力。良いものを見せてもらったぜ」
「こんな事、全く嬉しくありませんよ」
「誉めてるんだから素直に受けとれよ。まぁ、これでお前もめでたく俺達の仲間入りって訳だ」
未だに拍手を止めないダーヴェを無視して、下にいる姉だったものをもう一度見る
苦しさと怒りの表情でこちらを見つめたままの死体
先程までの恨めしい言葉が耳から頭に甦り手と顔に付いたおびただしい血の温かさも相まって、気持ち悪くなったボクは腹の中を全てぶちまけた
姉の上から少しでも離れたいと這うように動きながらゲホゲホと吐き続けても気持ち悪さは収まらず、身体から力が抜け、視界も暗くなっていき、最後にはそのまま意識を手放した




