13・牢屋暮らし
昨日の夜、見張りをした頭がどう説得したのか知らないが坊主が飯だけは食うようになったらしい
今日の朝に頭から見張りを代わった奴に昨日の飯が無くなっていたと聞いたので、これで死ぬ事はないだろうと一安心して見張りを交代した
持ってきたこの飯が無駄にならずにすみそうだと、坊主のいる牢屋に行けば昨日と変わらず前から見ていた同じ体勢のままだった
あまりの変わって無さに本当に食ったのか?と疑問に思ったが、いつも通り声をかけて飯を坊主の手の届く範囲まで運んでおく
「おら、坊主ー。飯持ってきたぞー」
「…………どうして」
うおっ!?驚いたぁ
小さくだが坊主から声が聞こえて飯を置いた変な姿勢で固まってしまい、そのままの状態でオレと坊主はまた沈黙
喋った……よな?返事ぐらい返すべきか??
この2日間全く動きがなかったせいで、今の状況に混乱しきっているオレは緊張した声で聞き返す
「どうしてって……急にこっちがどうしたって聞きてぇよ」
「……おじさんぐらいだよ。ボクに喋りかけてくれる人は」
「おじっ!?いやぁ、まぁ、何だ。オマエみたいなガキが目の前で餓死とか、そりゃぁ寝覚めが悪いだろうが……」
クスクスと力なく牢屋に響く坊主の笑い声
笑う元気くらい残ってたことに喜ぶべきか、別におかしな事を言ってないはずなのに笑われて悲しむべきなのか
「盗賊なのに死なれて寝覚めが悪いだなんて。変わってるね、おじさん」
「悪かったな、変わってて。オレは裏方だし戦闘も苦手でそうゆうのに慣れてねぇんだよ。あと、おじさんじゃなくてお兄さんな」
「そう……。おじさんが慣れてないのはその片腕のせい?」
「だからお兄さんだっての。片腕は関係ねぇよ、元から戦闘職じゃなかったしな」
オレの身体の左側、腕の通っておらずヒラヒラと揺れる袖に肩から不自然に飛び出した出っ張りに一瞬だけ目を向けて、そっと牢屋の坊主に戻す
「とりあえず先に飯食えよ。せっかく持ってきたのに冷めちまうだろうが」
相変わらず簡素なスープと水のみの食事が乗った板を木格子の側にさらによせてやる
奥の方で座り込んでた坊主は布を頭から被ったまま立ち上がり、ゆっくりとした歩きで飯の前までやって来た
布の隙間からのぞくボサボサの赤茶色の髪、生気の無い死んだ魚のような浅葱色の目、スープに伸ばす腕は細く頼りなく、病人のような青白い肌の色
すぐに倒れてもおかしくないその状態に思わず顔をしかめそうになったが、グッと我慢して牢屋から少し離れた位置で食事を見守る。本当に頭が坊主の説得に成功してくれたようで心底良かったと思った
「……食べました。味付けが薄いですね」
「文句言ってんじゃねぇよ。2日もろくに食べてない奴に濃い味の食事が出せるかっつーの」
「そうですか、ではせめてもう少し具材を多くしてください。頼みましたよ、おじさん」
「お兄さんと呼べっての。てか分かってるのか、オマエの一応の扱いは捕虜だからな?ちょっと急に図々しくなってねぇか??」
「昨日、お頭さんに3日後までに体調を万全にしとけと言われましたので。ご確認はそちらでお願いします」
「3日後ねぇ……。あぁ、朝のアレか。お頭、マジで実行する気なのかよ」
「内容までは知りませんが、そうゆう事ですので」
自分の事のはずなのに淡々と、まるで他人事のように話す坊主
あの苛烈な魔法を放ったとは思えない程に弱々しく、少しばかり口調にトゲがあるが、本当に普通の、ただの子供だ
ーーあぁ、ダメだなこりゃ
遠い過去のものだと蓋をして割りきったはずの記憶が、隙間から溢れだしてきそうになる
姿は全く似ていないのに子供ってだけで引き金になるほど引きずってるオレ自身に内心で苦笑いしてしまう
「仕方ねぇな。この優しいお兄さんが、飯当番に坊主のワガママ伝えといてやるよ」
「自分で言いますか。まぁ、期待せずに待っておきますよ。お願いしますね、優しいおじさん」
「オマエも譲らねぇなぁ。年上は敬えって教えてもらわなかったのかよ。せめてレッグさんと呼べや」
なら、レッグおじさんですね。と水の入った器を持ったままクスクスと笑う坊主
その力無い小さな声を出す子供相手に何をムキになってるんだかと、馬鹿馬鹿しい事に今頃になって気付いて反省したオレは、もう好きに呼べと坊主にむかって白旗を上げるのだった
満月の夜、2日間ぶりの来客だった
今日も今日とて見張り係と、ほぼ坊主担当となっているオレの所に頭がまたやってきて面会をと奥に向かうので慌てて着いていく
「おう。だいぶマシな顔つきになったじゃねぇーか、元気そうで嬉しいぜガキんちょ」
「これはお頭さん、2日ぶりですね。何かボクにご用ですか?」
坊主怖いもの知らずかよ
あの良く言えばワイルド、悪く言っちゃぁ子供が泣き出すほどの強面な頭に臆する事なく返事をかえすのはちょっと見直したわ
「ついにお楽しみの明日だからな、ちいとばかし様子を見に来ただけさ。そんだけ憎まれ口叩けるぐらいには回復したようで安心だな」
「そうですか、結局何をするのかボクは知らないまま何ですけどね。口の軽いお節介なレッグおじさんも教えてくれませんでしたし」
「なんだぁ、レッグ。やけに慕われてるじゃねえか、羨ましいねぇ」
「これのどこが慕われてるって言うんですか、お頭。明らかに舐められてるし悪口しか言われてねぇーじゃないっすかオレ」
この2日間、見張りついでに話していたが坊主から結局ずっと生意気な事しか言われた続けた記憶しかない
「軽口叩けるほどには信じられてるってぇ事だろ、自信持てよレッグ」
笑いながら頭に言われたが誉められている気がしないのは何故だ
「様子を見に来ただけならもう良いでしょう?ボクはそろそろ寝たいのですけど」
「ずいぶんと早く寝るなぁ、レッグの奴はいいのに俺とは喋りたくないってか?」
「体調を万全にと言ったのはお頭さんでしょ?それにもう良い子は寝る時間ですので」
では、お二人共また明日。なんて言って坊主のヤツ本当に寝始めやがった
いつにもましてあんまりな素っ気なさと自由過ぎる行動にオレは間抜けにも口をあけて呆然。頭もその態度に驚いたようだったが、何が面白いのか笑いだしたのだった




