11・狂った時間は戻らない
最初は小さな悪評だったらしい
常連客さんから聞いたけど、商売では良くある事だと気にしていなかったそうだ
だけどその小さな悪評は止まらず新規客は来なくなり、長い付き合いで良好な関係だった生産者達から入荷を断られ始め、ついには商業ギルドからも圧力をかけられて今では我が家の商会は風前の灯状態に陥っていると
周りからはすまない。としか告げられずあまりにも可笑しいと調べてみれば領主であるヴェルナ家からの指示だったそうだ
後ろだてのない平民と貴族様なら比べるまでもない。その指示に逆らえず、我が家の商会は周りからそうやって突き放されていった
両親は少しでも何とかしようと立ち回ったが力及ばず母は疲労と心労から倒れてしまい、もう逃げるしかないと父の兄である伯父が営む王都の商会の支店へ明日の早朝から向かうと言うこと、そんな状態だから婚約者がいて結婚間近の姉様だったが相手側からの強い反対を受け別れるしかなかったのだと
「ラザリーは今ちょっと傷付いてるだけさ。なに、すぐに戻るよ」
そう最後に励ましてくれた兄さんは、晩ごはんまだだろ?と部屋を出ていった
ボクのせいだ……
姉様が言った通りボクのせいじゃないか!!
家族にこんなにも負担をかけてまで、今まで負けないようにと頑張ってきたのは全て無駄だったのかな。ごめんなさい母上、ごめんなさい姉様ーー
ボクは濡れて冷たい鞄をギュッと抱え込み、兄さんが戻ってくるまで泣きながら謝り続けた
早朝に出発した伯父さんから派遣された傭兵を連れて王都へと走る荷馬車は3台
前後を傭兵に囲まれて真ん中には父が引き、荷物と一緒にボクら家族が乗っている
馬車に揺られること3日目、あと王都へ半分ほど距離ぐらいまで進んだ雨降る日だった
荷物を挟んで眠る母の世話をする姉様に向かい合って座るボクと兄さんの3人に会話はなく、肌寒いなと防寒用のマントを巻き直してぼんやりと外を眺めていた時にふっと魔力を感じて
「敵襲!!前方から4人!!」
前方を走る傭兵の声が響く
急停止した馬車に少し身体が浮いた
止まった隊列を最初から狙っていたのだろう、両隣の林からさらに敵と思わしき武装した集団、盗賊と思わしき10人ほど現れ囲まれた
前後左右から叫び声や金属がぶつかり合う音がする
しかし襲ってきた盗賊の方が圧倒的に多い。このままだとじり貧になるだけだと判断を下した傭兵長は
「前方の少数を潰して抜けるぞ。前進せよ!突撃!!」
その掛け声におうっ!と周りから返事が聞こえ、馬車は再び勢いをつけて走り出す
だが盗賊達も諦めまいと未だに着いてこようと追いかけてくる
「……仕方ないな。捨てろ!!」
と馬車を走らせていた父の声
その声に合わせて左側から衝撃がきて、ボクと木箱が宙を舞う
えっ……と驚きの顔を上げれば
「っ!?マックッッ!!」
馬車から身をのりだしボクの手を掴めたものの、一緒に落ちていく兄さん。抱き締めらて地面に叩きつけられる衝撃
そこからの全てがゆっくりコマ送りの様に
脚音が遠い、雨が冷たい、振り下ろされる槍、赤い視界、痛みに歪む顔、鼓動が煩い、頬に散った血は温かい
それから? なんで?? どうして!?
落ちたこちらを見て、嗤う姉様
父の偉大だったはずの遠退く背中は、なんて虚弱か
あぁ、なんだーー迷うことなど無いではないか
悲しみだ、怒りと、苦しみで、憎しみに、絶望を、愛情も、全部、ぜんぶ、ゼンブ、燃えろ、燃えて、もえろ、もやして、もえつきて
消えて!! なくなれっ!!!!
「蒼き炎よ」
キラリと背にほとばしる蒼い光
空まで立ち昇るは蒼い炎と焼けるにくの臭い
辺りを照らしつけるその炎に見惚れ全てが動きを止める
「あぁ、なんてキレイなんだ……」
キラキラ落ちるの火の粉は流れ星のよう
落とされて身体は痛いし魔力切れで頭も回らないけど、もうどうでも良いかなとボクは意識を手離した
ヒューッ!と、つい口笛を吹いた
これは将来有望だなぁと今から期待と楽しみがもてるじゃないか
「おらっ!手前ら、叩くなら今だろがっ!!」
俺が声をはれば、見惚れていた部下達が同じく見惚れて動きの止まっていた商隊列に襲いかかった
じめじめとして薄暗い部屋
天井から吊るされたランプだけがあり、他は何も置いてない殺風景な内部
両手を縛る太い麻紐と片足につけられた重い足枷に、木の格子状に作られた出入口
そう牢屋だ。その牢屋の片隅に頭まですっぽりと布を被り、膝を抱えて丸まって座る姿勢のまま微動だにしないのは、オレ達が2日ほど前に襲った商隊にいた小さな坊主
あの圧倒的な熱量をもつ魔法を放ったあと魔力切れで倒れたところを、頭に言われココに放り込んだはイイが目が覚めてから飲まず食わずでずっとあの調子だ
「おーい?坊主ぅー?メシ持って来たぞ。せめて水くらい飲めー」
叫び声をあげても動きやしない
戦力にするから殺すなって言われてんのに餓死したら意味がないじゃねえかよ。どうしたもんかなぁ
手をつけることは無いだろうなと思いながらも
牢屋外の手が届くすぐそばに運んできた簡素なスープと水を置いておく。相変わらず動きそうにない坊主にため息ついてオレは見張りの席まで戻った
牢屋を離れ、見張りの席に行けば人影が
まだ交代の時間では無かったはず?と考えながら近付けば、まさかのお頭がそこに待っていた
「えっ!お頭!?こんな所にどうしたんでさぁ」
「レッグ、あのガキんちょは?」
「ありゃダメですわ。どんなに声かけても動きやしねぇし、食い物も水すら飲みやしねぇですもん」
「たく、仕方ねぇな……俺が話つけてくらぁ。お前コレ持って休憩いってこい」
「へ?あ、酒!!イイんですかいお頭??」
「おう。なぁに、俺にかかればガキなんてすぐ即戦力さ」
「言いますねぇ。まぁ、気をつけてやってくださいよ」
さきの戦利品だったであろう酒を受け取り、オレは頭に任せてその場をあとにした




