俺は奪われてしまった
陽菜は大事をとって家に帰り、俺は2時限目までをパスして登校した。
遅刻にならず、公休扱いになるらしい。
松永は学校に来ていたが指導室に缶詰にされている。
人通りの多い駅には同じ高校の生徒もいて、何人かはしっかりと一部始終を見届けていたらしい。
そしてなぜか上半身を裸にむかれて怯えたねずみのように身を縮めて生徒会室にいる。
「へぇ~これがあのときの傷なんだ、銃創って初めて見たわ」
「後ろから撃たれてるけど名誉の傷なんだ」
「だから、私の男になる資格は充分あるのよね」
最後のがチェシャネコが化けた巴さんです。
何かスルーできないような危険な発言があるのは気のせいでしょうか
陽菜の名誉のためにも勘違いされたままにしておくわけにはいかず、俺は生徒会のお嬢様方の証拠検分に晒されている最中である。
誰か助けて…。
廊下側のドアも大きく開かれていて、そこにも好奇心に目を輝かせたお嬢様たちがいらっしゃる。
そこのお嬢様、顔が近いです。
息がかかるほど近寄ってつつかないでください。
俺は珍獣ではありません。
鍛えていて良かったとこのときは痛切に思った。
放課後は陽菜がいないので、腕にチェシャネコをぶら下げてかえった。
巴さんの本性を知る男どもの生あったかい目が、しな垂れかかるのが麗しの美女ではなく、正体がチェシャネコであることを証明していた。
俺が玄関のドアを開けて中に入ったとき、隣から何か言い争う声と物が壊れる音がしたみたいだが、俺は全く気にも留めなかった。
直前にした初めてのキスに意識がかなり飛ばされていたからだ。
約束の時間にログインし、待ち合わせの最初の町の広場に向かう。
サクラと待っていたのは初期装備ながら強者の風格を漂わす野武士オーカ、青銅の太刀を佩いている。
もう一人にこやかに微笑み袴姿で本を持って佇む明治時代?の女学生キッカ。
桜つながりで桜花でオーカかな、叔父さんの趣味だと思うけど特効でもするんだろうか。
巴さんは少し遅れるらしい。
それにしてもさすが社会人、課金の衣装を粋に着こなしている。
「お待たせしました」
「祥子が早くと急かせるものだから先に来て町の見学していたよ。ところで、ちょっと付き合って欲しいんだが今いいかな」
「いいですよ」
いきなり、決闘申し込みウインドウ。OKorNO
OK
踏み出しは一歩だけだった。
鞘から解き放たれた刀が弧を描いて迫ってくる、速い、だがここはゲームの世界だ。
現実にはありえない回避方向、上へ跳び、宙に浮いたさかさまの状態でオーカの後ろ襟を取らず、体を小さく回転させ2段ジャンプで間合いをとる。
刃が小さくアルファを描いて戻ってきたからだ。
刀が鞘に戻され決闘が終わる。
ふぃ~。
今のはスキルとかじゃなくてリアルで身につけた地の技か。
「いやぁまいった。完全な居合いの間合いからかわされて、ツバメ返しまで不発に終わると思わなかったよ。強いなぁ君。剣道四段が恥かしいよ」
「あなた、いきなり決闘なんて失礼じゃないの」
「いや久しぶりにだな、えっと。」
「ヤマト君生産専門なんだからやめてよ」
「そうなのか、ごめん」
「いいですよ、強い人と戦うのって好きですし。ところで、サクラ…さんこれプレゼント」
トレードウインドウを開いて、OK。
「あっ猫!これどうしたの、これどうしたら出せるのこれ。ねぇ」
「とりあえず落ち着こうよ、ペット管理NPCのところで出してもらえるよ、先にクランを作るから後で行こう」
「そのことなんだが、わたし達は年長者だけのクランを造ろうと思うんだ。結構たくさんメンバーが集まりそうなんでね。君たちとは友好クランということでどうだろうか」
「そういうことでしたら、残念ですが家は俺たちだけでやって行きます。イベントとかありそうなんで、そのときはよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、それでうちに加わりたいメンバーがちょうどこちらに来たからついでに紹介しておくよ。おおぃこっちです」
太った袈裟を着たお坊さんがニコニコしながらこちらにやって来た。
「やぁ、君が祥子くんの、やや、もしかして今朝駅で女の子を介抱していなかったかな。あのときの医者だよ」
「先生、御礼も言わずにすみませんでした。あの時は本当にありがとうございました。」
「今日から祥子の主治医になってくださった先生なんだが、知り合いだったんだね」
「同級生が駅で貧血で倒れてお世話になったんです」
「そうなんだ、世の中は狭いね」
「そうだね、妖術僧のイッシャーと申す。よろしくな」
「よろしくお願いします。妖術僧ってあるんですね」
「ランダムでたまたま当たったレア職なんだが、こういう怪しいのが大好きでね、とても気に入ってるよ。なんでも、魔術士とネクロマンサーと僧侶の中間らしい。君は農夫かね、これも珍しいね」
「いろいろありまして、バトルに制限が掛けられてるんです」
「ほう。」
そんな話をしてたら巴さんからチャットが来た。
『陽菜が恥かしがって動かないからちょっと迎えに来て』
「後入る予定のメンバーが呼んでますのでちょっと行ってきます」
「私も行く」
「われわれも手続きとかあるからもう行くよ、またね」
「ありがとうございました」
呼び出されて向かった宿の部屋では非常にシュールなことが行われていた。




