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特級万能鑑定調合官の私、絶対零度の公爵様と漆黒の執事に重すぎる愛で守られています2  作者: 志摩


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第2話 新たなる戦いの幕開け(+プチ人物紹介①)




 翌朝。

 王都の東門には、一台の高級馬車が佇んでいた。

 ヴァルボート公爵家の紋章である氷結晶の剣が刻まれたその馬車は、特別仕様の魔導馬車であり、外甲には防弾、防魔の重装甲が施され、内部は広々とした豪華な居室となっている。



「エルネ、くれぐれも無理はしないこと。何かあれば魔導通信ですぐ連絡するのよ」



「はい、シリル様。留守の間、依頼が来たら転送よろしくお願いしますね」



 旅立ちの直前、シリルがエルネの肩を抱き締め、何度も念を押していた。ギルバートもまた、エルネの頭を撫でる。



「エルネ殿、アルディス様がついているんだ、何も心配はいらないと思いますが、体調に気をつけてください」



「はいっ! 行ってきます、ギルバート様!」


「御者台の準備が整いました。アルディス様、エルネ様、お乗りください」



 アルディスがエルネの頭にあった手を払いのけたのは言うまでもない。


 燕尾服の上に漆黒の旅行用ケープを羽織ったジュリアンが、馬車の扉を優雅に開けた。二頭の漆黒の魔導馬が、鼻息を荒くして蹄を鳴らしている。




 アルディスはエルネの腰を軽々と抱え上げると、吸い込まれるように馬車の中へと乗り込んだ。


 パタン、と重厚な扉が閉まり、ジュリアンが手綱をしごく。




「ハッ——ッ!」


 ゴトン、と車輪が回転を始め、豪華な馬車は滑らかに王都の街道を走り出した。立ち去っていく王都の景色を、エルネは窓越しにじっと見つめていた。




「……少し、不安か?」



 隣に座るアルディスが、エルネの小さな手を包み込むように握りしめた。


「……不安じゃないと言ったら、嘘になります。でも……私にはアルディス様とジュリアンさんがついていてくださいますから。それに、苦しんでいる人たちを放っておくなんて、絶対にできません」




 エルネが振り向き、強く力強い瞳で微笑む。

 その横顔の健気さと美しさに、アルディスの胸は激しく打たれた。




「……まったく、君という人は」


 アルディスは溢れる愛おしさを抑えきれず、エルネの華奢な体を腕の中へと引き寄せた。


 そのまま彼女を軽々と抱え上げ、己の広い膝の上に横向きに座らせる。




「ふえっ!? あ、アルディス様!? 馬車の中ですよ!?」




「馬車の中だからこそだ。外の振動でお前の体に負担がかかってはいかん。ここが一番揺れず、安全な場所だ」



「で、でも……っ!」


「大人しくしていなさい。……これは私の命令だ」





 アルディスは低く甘い声で耳元に囁く。


 エルネの頭がクラクラと痺れ、抵抗する力が抜けていく。アルディスの温かな体温に翻弄され、エルネは彼の胸元にポカポカと小さな拳を当てるのが精一杯だった。



「あ……アルディス様……いじわるです……」

「いじわるではない、愛情表現だ。……ほら、口を開けなさい」


 アルディスはおやつに用意されていたボックスから小さな銀のフォークを取り、一口サイズにカットされた甘いイチゴのタルトをエルネの口元へ運んだ。



「あ、自分で食べられます〜っ!」



「ダメだ。私が食べさせる。君はただ、私の腕の中で甘えていればいいのだ」


「むーっ……あむ」


 照れながらも小さなお口を開け、タルトを頬張るエルネ。甘酸っぱい果汁とカスタードの風味が口いっぱいに広がり、思わず顔をほころばせる。




「美味しいか?」


「……はい、すごく美味しいです」


「そうか。ならばもっと食べなさい。むこうに着くまで、君に一切の疲労も残させん」




 アルディスは満足そうに目を細めると、エルネの背中を優しく撫でながら、次々とタルトやスコーンを彼女の口へと運んでいく。


 膝の上で甘やかされ、至れり尽くせりのお世話を受けるエルネは、気恥ずかしさに身をよじりながらも、アルディスの胸の温もりに深い安心感を覚えていた。




 



 一方、馬車の御者台。

 冷たい秋風が吹き抜ける街道を、ジュリアンは完璧な手綱さばきで馬車を走らせていた。




 馬車の居室から漏れ聞こえてくる、アルディスの囁きとエルネの恥ずかしそうな声。


 ジュリアンは口元に微かな苦笑を浮かべつつも、周囲の景色に鋭い視線を走らせていた。



(……『幻惑の黒死灰』、か)


 ジュリアンの胸の奥で、冷たい警鐘が鳴り響いていた。




 人体を過剰な魔力暴走によって灰化させる生体毒素。単なる病などではなく、明確な意図を持って作られた兵器。……その手法、その惨毒の性質に、ジュリアンは微かな既視感を覚えていたのだ。





(かつて……闇の組織の中で耳にしたことがある。あらゆる魔導毒素を研究し、生命を灰へと変える禁忌の術式……)




 ジュリアンは燕尾服のポケットのうえから、隠した漆黒の鋼糸にそっと触れた。



 あの日、エルネとアルディスによって過去の呪縛から解き放たれ、自分は「光の側の執事」として生きることを誓った。だが、もしも今回の惨劇の裏に、自らの過去と繋がる闇が蠢いているのだとすれば——。




(お嬢様の笑顔を脅かす害悪ならば、たとえかつての同胞であろうと、旧き師であろうと……この手で影の中に葬り去るのみ)


 ジュリアンの赤い瞳に、静かな、けれど冷徹極まりない「殺意」の光が灯る。



「……お覚悟なさるといい。我が主(エルネ様)の歩む路を阻む者よ」



 御者台から見上げる空には、王都の青空とは対照的な、重く暗い雲が隣国ガルディア帝国の方向へと広がり始めていた。


 車輪の音を響かせながら、特別馬車は灰の降る街ベルツを目指し、一直線に街道を駆け抜けていく。



 試される三人の絆と、忍び寄る暗黒の罠。

 エルネたちの新たなる戦いの旅路が、今、静かに幕を開けたのだった。


 

プチ登場人物紹介


| エルネ |

特級調合官

華奢で可憐な少女。鑑定中は琥珀に瞳が輝く。『特級万能鑑定調合』の才能を持ち、心優しく芯が強い。


| アルディス |

ヴァルボート公爵 / 王国騎士団長(氷結魔導騎士 )

「絶対零度の公爵」と恐れられる王国最強の男。エルネの婚約者で、異常なほど過保護で甘々。


| ジュリアン |

公爵家執事 / 元暗殺者

完璧な立ち振る舞いを見せる執事。元は暗殺組織の刺客(最惨の烏)だったが、エルネに救われ忠誠を誓う。


| シリル |

ギルド連合マスター

宮廷魔導士とした潜入?

エルネの才能を愛し、姉のように見守る頼れる協力者。


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