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美女で野獣 ~もふもふ狼娘になった復讐令嬢と魔法が使えない戦士貴族、最強バディで魔王を討つ  作者: 炭酸水ひろみつ(旧 強炭酸)
二章 勇者

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第18話 小さな嫉妬と冒険の開始 

「……そんなことがあったんだ」


 シルクは、なんとも言えない顔で呟いた。


 食事を終えた共同厨房には、まだバターと炒めた米の香ばしい匂いが残っており、目の前ではユーリが空になった皿を重ねている。先ほどまで見事な手際で料理を作っていた男に、まさかそんな過去があったとは思わなかった。


「まあ、普通にしてればいい人だったんだけどなあ」


 ゼクスは椅子の背もたれへ身体を預け、当時を思い出すように天井を見上げた。


「美人で、スタイルも良くて、気さくなお姉さんって感じでさ」


「…………」


 シルクの眉が、ぴくりと動いた。


「話してて面白かったし――」


 そのとき、不意にシャツの裾をくいっと引かれ、ゼクスが「ん?」と視線を落とすと、シルクの細い指がしっかりとそこを摘まんでいた。


「ゼクス」


「はい」


 呼びかける声が妙に低い。まだ何も言われていないというのに、なぜかゼクスの背筋が自然と伸びた。


 シルクは口元に笑みを浮かべながら、じっとゼクスを見上げている。


 しかし、目が笑っていない。


「あなたは私が好き。――そうでしょ?」


「はい」


 即答だった。


 むしろ、他に何と答えろというのか。


 しばらくゼクスの顔を見つめていたシルクは、その答えにようやく満足したのか、シャツを摘まんでいた指から力を抜いた。


「ならいいの」


 ふいっと横を向いた白い頬はわずかに膨らみ、ほんのりと赤みが差している。


 そんな横顔を見ているうちに、ゼクスの口元は自然と緩んだ。


 怖い。怖いのだが――。


(……嫉妬してるの、かわいいな)


「何?」


「なんでもない」


「なんで笑ってるの?」


「笑ってないよ」


「笑ってる」


 再びジト目が突き刺さり、ゼクスがどう誤魔化したものかと考えていると、食器を片付けていたユーリが呆れたように割って入った。


「はいはい。お熱いようで。人の過去の失敗談を聞いた直後に、よくそこまでいちゃつけますね」


「いちゃついてない!」


 シルクは即座に否定したが、ゼクスは特に否定しなかった。


「それより、明日はシルフの森へ行くんでしょう?」


 ユーリは洗った皿の水気を布で拭き取りながら、窓の外へ視線を向ける。すっかり日は落ち、テンペストの夜空には星が瞬き、宿舎の窓から漏れる明かりが石畳を淡く照らしていた。


「ああ」


 ゼクスは椅子の背もたれから身体を起こすと、それまでの緩んだ表情を引き締めた。


「勇者と合流する。それから、できれば仲間になってもらう」


 神託を受けた勇者。


 自分たちより一足先にシルフの森へ向かったという、まだ顔も知らない人物。


「俺たちだけじゃ、魔王軍と戦うには力が足りない。勇者と共闘して――」


 そう口にした瞬間、ゼクスの脳裏に灰に覆われたルナグレイヴの光景が蘇った。


 焼け落ちた家々や地下に取り残された人々、そして何より、魔王軍によってシルクから奪われたものを思い返しながら、ゼクスは自分の掌を見つめて強く握り締める。


「魔王を倒す」


 声は静かだったが、そこに迷いはなかった。


 シルクも何も言わず、そんなゼクスの横顔を見つめていた。


「……どんな奴なんだろうな、勇者って」


 少しだけ重くなった空気を和らげるようにゼクスが笑うと、ユーリが眼鏡の位置を直した。


「噂では、相当な凄腕らしいですよ。二つ名は“剣神・神風”。冒険者には白からプラチナまで実力に応じたランクがありますが、その勇者は登録してから恐ろしい勢いで依頼をこなし、一気にプラチナまで駆け上がったとか」


「プラチナ……そんなに強いんだ」


 シルクの瞳が期待に輝く。


「ええ。テンペストでもかなり有名な冒険者のようです」


「だったら、一緒に戦ってくれたら心強いね」


「ああ」


 ゼクスも頷いた。


 どんな人物なのかは、まだ分からない。気難しい相手かもしれないし、自分たちとは考え方が合わない可能性だってある。


 それでも、同じ敵を見据える者なら、きっと共に戦える。


「よし!」


 ゼクスは両手で膝を叩くと、勢いよく立ち上がった。


「考えるのは会ってからだ。今日は明日に備えて休もう!」


「そうね」


「賛成です。シルフの森までは、それなりに距離がありますからね」


 そうして三人は明日の出発に備え、それぞれの部屋へと戻っていった。


 明日には勇者と出会える。


 ゼクスは、そう信じていた。

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