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救う覚悟

一体俺に何ができるんだろうか。

そもそもあいつの言う通り、誰も救いなど求めていないのでは……。

そう考え始めると頭がごちゃついて寝付けなかった。

この集落は長時間の過酷な労働が強いられること以外はとても自由なスタイルとなっており、いつもなら疲れ果てて寝ているようなこんな真夜中でさえ、寝床から抜け出せる。

それゆえ弱き者は自分の飯を守ることすら難しいのだが、今のような夜風に当たりたい時には便利だ。

物思いにふけりながら歩いていると、誰かのすすり泣く声がした。

あまりにもか細く、誰かが喋っていては気づけないほどの微細な声を辿った。

「お父さん…お母さん…助けて……!」

少女が泣いていた。

Aだ。まるで感情を殺したかのような昼間の子供らしからぬ言動からは想像もつかなかった。

俺の知ってるAは、召使いのように俺らの一挙手一投足に気を配り、なんでもサポートするような頼りになるやつだった。そこまで時を過ごしてはいないからそういう奴なんだと思ってた。

だが違った。いくら世界が違っても子供は子供だ。

動物が群れを守るように、こんな世界でも家族愛はあるのだろう。そんな唯一の心の拠り所から離れて、俺の世界じゃまだ遊ぶのが仕事のような年齢の子供が、この世界で大人の機嫌を伺いながら、大人でも音を上げる作業をこなしているのだ。

辛くないわけがない。

「大丈夫…か?」

「え!? あ! すみません! すみません! お気にさわりましたか!? 今すぐ泣き止むので!」

「大丈夫だよ……そんなに気使うなよ。俺はただ、泣いてるのが心配なだけだよ」

「しんぱい? 何故ですか? あ! 病気ではありません! 怪我もしていませんから! まだ働けます! やれるんです! ですから私を捨てないでください!」

「ち、違う! そういうことじゃない! ただ泣いて欲しくないって言うと違うんだが、その……敬語とか使わなくていいんだ俺には。俺は君をどうこうしたりしないよ。そんな力もないし、だから安心して今は好きなようにしてくれ」

「え…え? その、あの、本当に?」

「あぁ、大丈夫、大丈夫だから」

「あ、あの。私、わたしその、ずっとつらくて! ずっと苦しくて! お父さんもお母さんも魔獣来て逃げろって、それで! 走って! 沢山走って、ここに来て。それでいつか助けてくれるって頑張って、頑張ったんです! 頑張って頑張って頑張って、それでも辛いままでまた頑張って……わたし、わたしどうしたらいいの!! お兄ちゃん! わたしの何が悪いの!! なおすから! お父さんもお母さんも返して!! かえしてよ!」

そういうと、ずっと抑えていたものが溢れてくるようにAは泣き出した。

俺は彼女を抱きしめることしか出来なかった。

「大丈夫だ。俺が必ずお前を救ってやるさ。だから……安心して今は泣け」

「いや……もう大丈夫。お兄ちゃんありがとう。久しぶりに大きな声で泣けて、私嬉しい!」

「泣けて嬉しいなんて、そんなこと言わなくていいよ。お前は泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑うべきなんだよ。俺が必ず救って見せるから、今は安心して寝るといい」

そうだ。あれこれ悩むことはあるかもしれない。

でもここは間違ってる。こんな子がこんなに苦しむべきなわけがない。

するべきことや考えなきゃならないことは多くあるかもしれない。でも、立ち止まる訳にはいかない。

「いい顔をしていますね、マスター」

「え!? PC、お前話せたのか!?」

「まぁ人前で話しかけてしまっては、頭のおかしな人間と思われますからね。マスターの評判の為に黙っておきました」

「それはありがたいが、何度も話しかけたのに無視されて俺は悲しかったぞ。でもまぁ今はいい。なぁ、俺に一体何ができるんだ? 力が欲しいんだ、この子を救えるくらいの力が」

「それはできません。第一に、神の力の行使はPCを用いてが絶対です。まぁ私に命令すれば可能ですが、信者がいなければ何もできませんね。第二に、こちらが大きいですが、あなたはただの人として顕現しました。その身体能力が変わることはありません。たしかに魔法やら何やらそのような超常的な力もありますが、それらの使用も認められません。神とは教え導くもの。あなたは心を説き道を示す存在ですが、巨悪を打ち砕く存在ではないのです。それはあなたが導いた者たちの仕事ですから。なのであなたが力をつけることは許されていません」

「じゃあどうすれば!?」

「言ったでしょう。信者がいれば話は別です。あなたの言葉が届くものに語りかけるんです。マスター、信者ができた暁にはまたお声かけします。ご検討を」

「……あぁ」

やってやるさ。

よく知りもしない人達でも、苦しむ姿を見て見ぬふりをしたくない。

たとえこんな世界の人々でも俺は手を差し伸べていたい。差し伸べたいと思える自分でいたい。

綺麗事かもしれないけど、実際目の前で子供が泣いているのに何も思わないくらいなら、俺は綺麗事でいい。

だからやってやる。

俺がこの世界を救ってみせる。

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