知らない世界
「目を開けると、そこは知らない世界だった」とか。
「目が覚めると、知らない天井がそこにあった」とか。
どうせ異世界的な場所へ来るなら、そういうのが良かった。
―ようこそ、神の部屋へ。あなたは今日からここで神の仕事に就いてもらいます。―
「神様? でいいんでしょうか? なんで俺なんですか? それにそんな簡単になれるものなんですか? あとここマンションの一室じゃなかったですか? なんでこんな真っ白な空間にっ?」
―質問が多いです。気になることをなんでも聞いているようではモテませんよ? あぁ、だから来たんでしたっけ?―
なんて意地の悪い。こんな人が神?
知らない人にこんな所に連れてこられて、これくらい聞かない方が無理があるのでは?
―一理ありますね。ですから必要なことは説明しますので、あまり喋らないでください。―
「すみません。早とちりだったんですね? でもちょっと酷い言い方じゃなかったですか? もっと優しくしてくれても……」
―では説明をはじめましょう。そこにPCとモニターがあるでしょう? それを使ってコマンドを実行したり、その世界の民と交流をはかったりして、世界に訪れるバッドエンドをハッピーエンドへと向かわせてください。―
しれっと無視して説明をされたのはムカつくが。
よく聞いていると、これってゲームみたいな話か? 神様ってゲーム感覚なのか?
―本当に無礼ですね。あなたの感覚に合わせてあげたんですよ。―
「す、すみません。それはありがたいです」
どうも心の声が聞かれるってのは慣れないな。会話も少ししにくいし。
これも聞かれてるって、相当うるさいのでは?
―はい。大変なんですよ? それを直接ではなくPCを通して伝えて貰えるのだから。あなたは幸せですよ。さて、実践に勝るものはありません。なぜあなたが選ばれたのか、こんなに簡単にできるのかなど気になることはあるでしょうが、まぁそれもそのうちわかるので黙っておやりなさい。―
そういうと神様は消えてしまった。
ここは本当に真っ白なだけで味気ない空間だ。
そこにぽつんとPCとモニターやら周辺機器。快適といえば快適かもだけど、空腹やら何やら不安なことも多い。
あの神様は明らかに説明が足りないと思う。
やってりゃわかるって、あの人も俺みたいに選ばれただけで何も知らないのか?
そういった疑問を抱えつつ、俺は目の前のPCを起動した。
「ようこそマスター。あなたにはカミエル様が面倒を見きれていない世界をお救いいただきます」
「喋った!? のか? まぁ別にゲームでもあるしなこういうの。AIとかある今なら、そんな驚くほどでもないか」
このPCが対話可能なのか分からず、独り言を発して少し恥ずかしくなっているのは秘密だ。
それにしてもあの神様、カミエルって言うんだ。神なんだか天使なんだかよくわかんない名前だな。
「あなたが今回お救いになられるのは、ファンタジー的な世界、ファンタジスタです。ちなみに命名はカミエル様ですよ?」
安直すぎるな。あの神様ネーミングセンスとかないのかな?
まぁ俺に言えたことでは無いけど。
「マスター? 質問はありますか? なければ行きますよ?」
「え? 行くってどこに?」
「お伝えした通りファンタジスタです」
「このモニターに映るんじゃ?」
「そんなので世界全体を見るのはあまりにも小さいでしょう? それはあくまでついでです。ここはあらゆる世界とすこーしだけズレた空間。なのであらゆる世界を観測できるんです。つまり360度モニター的な感じですよ。干渉はできませんが、鑑賞は実際に歩き回ってできるんです」
「つまらない言葉遊びまで入れて説明ありがとう。それで、どうやったらそこへ行けるんだ?」
「あぁ、準備できたんですか? それならそうと言ってください。では行きますよ」
「えっちょ!?」
突如、眩い光が部屋を埋めつくす。目も開けられぬ程の閃光に俺の視界は奪われた。
どのくらいだっただろうか?
強いフラッシュを浴びて目を閉じているのに、何かチカチカするアレが、すこーしずつおさまってきた。
一体何が起こったんだ? すーっと大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。そして。
「目を開けると、そこは知らない世界だった」




