神様!?
多分、それは恋だったと思う。
俺は人を知らない、もちろん恋人なんていたことがないからその確証など得ることはできない。それに世間が甘美なものであると吹聴して回っているものがこんなに苦しいはずがない。もしこれが恋なら、先人たちは何故これをさぞ幸せなことであるように語ったのだろうか。恋というのは食虫植物かのように甘い香りで人を惹き、養分として、罠にかかった人間で新たに餌を寄せ集める、幻想生物の名前だったのだろうか。
思うだけで酷く痛み、見るだけで頬が緩み、聞くだけで脳が麻痺する。こんなの病だとさえ思うし一向に良くなる気配がない。だからこんなもの恋ではないと今でも十分そう考えられる。
だけど、多分これは恋だった。
俺の名前は、Mとしとこうかな。前述した通り俺はある日恋に落ちた。初めてのことでね、右も左もわからず、思いのまま動いて、呆気なく失恋してしまった。
「神様のバカヤロー!死んじまえ!くたばれ!バーカバーカ!祈るだけ無駄だったぜ!けっ!」
今は大きな声でも出して自分の砕けそうな心を紛らわすしかない。だから意味は無いとわかっていたが、せっかく祈ってみたんだから神とかいうやつにクレームを入れてみている。
「こんなこともかなえらんねーのかよ、まず神ってなんだよ、そりゃ昔の人間にしか崇められないよな、俺だって今タイムスリップしたら神扱い間違いなしだぜ」
―そんなに言うなら、あなたもやってみませんか?―
天啓、というのだろうか。現在神の存在を信じているものはそういないと思う。俺だって信じて祈ったわけでもないし、今の言葉だってこの気持ちをどこかにぶつけたいだけで、本当に届くと思って言った訳ではない。そんな無神論者に近い俺でも何故かそれを神であると認識してしまった。
―神というのもそう簡単では無いのです。それに願いを叶えたくば、まずは己を鍛え上げるべきでしょう?―
耳が痛い、神頼みしてる暇があれば自分磨きをしろだなんて、こんな普通のことを神様が言うのだろうか?
―神を疑うものなど、昔であれば万死に値したのですがね、最近は信ずる者の方が稀になってしまいました。疑念を抱きしもの、その全てを裁く訳にもいきませんから、その疑いも許しましょう―
声に出した訳でもないのに、返答がなされている事になんの驚きももてない。神というのは顕現するだけで納得まで付いてこさせてしまうのだろうか。
―して、あなた、私が言ったことを覚えていますか?―
はて、自分でやってみろというあれであろうか?今の俺が神になってしまえばこの世界を破壊し尽くしてしまうことは想像に容易いが、それをやってみろと?
―フフ、神は万能ではありませんからそのようなことができませんよ。コホン、あまり多くは語りませんが、やってみませんか?きっとあなたの為になると思います。―
そう言われても、一体何をするのかもよく分からないし、でも今はこの世界から消えてしまいたいと、そう思っていた。
―では、後のことは頼みましたよ。―
そして俺は神ってやつになった。




