第一話 『始まりは突然、終わりは遠く霞み』
落ち着け、取り敢えず....一言だけ言わせてくれ。
「ここはどこなんだぁぁぁぁぁあ!?」
風が野原を突き抜け無情にもソウタの声を掻っ攫っていく。辺りを見渡しても一面草、草、草!膝のあたりまで伸び切った草に立っていた。先程まで寝ていたはずなのに何故か見知らぬ土地に立っていた。
「ここは何処の辺りだろ?流石に日本だよね、ね?」
当然その問いに答える人もいない。ソウタは座り込み頭を抱えて悩む。ここは日本のどの辺りなのか、そもそも日本なのか。そう言った最悪な不確定を想像しどんどんと思考の迷宮に迷う。ソウタはやがて現実逃避の末に一つの答えを出す。
「・・・・・そうだ、ドッキリなんだ。そうなんだろ?」
そう決めつけ色々理由付けをして自己暗示をしようと踞ろうとした時、後ろからこちらに向かって草の分け目が走ってくる。振り向きざまに見えたのは腰くらいの大きさの猪らしきもの。だがソウタの知っている猪とは決定的に違うものが額についていた。猪らしきものはこちらに一直線に角を煌めかせ突っ込んでくる。
「えぇぇぇ?!猪が猪じゃないっ!?」
引き篭もりの間でもしっかりジムに行き鍛えていた使い所のない跳躍力で横っ飛びに交わす。草が頬を切り血がダラダラ流れてくるのを吹き姿勢を低くし警戒を続ける。
「ハイスペック引き篭もりやってて良かったよ。」
そうぼやいていると次は右後ろから草が擦れる音が聞こえてくる。ギリギリまで引きつけ左に飛ぼうと踏み込む。
「———!?
寸前のところで左後ろからもう一匹猪らしきものの突進気づき反射で身を翻し、空を切らせる。
攻撃を間一髪避け立ちあがろうとしたが右足に鋭い痛みが走り立ち上がれなくなる。
恐る恐る足を見ると裂けた肉から、真紅の糸が足首を伝い落ちる。
引き篭もりとは無縁の痛みに思考が猪から右足に奪い取られる。
食いしばった奥歯から情け無い声が溢れ出る。それには右足に刻まれた亀裂の深さが滲んでいた。
ゼェ、ゼェと絞り出す息で冷静さを保とうとする。
靴下を脱ぎ傷口に圧迫する応急処置を終わらせて膝をつきながら辺りを見渡す。
しかし一度致命傷を与えただけで退散するような優しい奴でもなくこちらの様子を伺いながら呼吸を整えたいる。
手負いの体では逃げ切ることのできない距離に死を覚悟する。
諦め目を瞑ると背後から地響きのような足音が近づいてくる。
"それ"は存在を誇示するようにゆっくりと近づいてくる。
目を開けると前には猪みたいなものの後ろ姿が遠ざかっていた。
尻尾を巻いて逃げた、ソウタを死を覚悟するまで追い詰めた奴が。
その事実がソウタをさらなる絶望と一つの結論に至らせる。
背後に初めて感じる死のプレッシャーに心臓が早鐘を打ち、「動け、動け」と、祈りにも似た罵倒を右足に叩きつける。
しかし空回りする歯車みたく右足は地面に縫い付けられたままだった。
やがて地響きにも似たような足音は後ろで止まる。 震える瞳が、背後に佇む「終わり」をゆっくりと受け入れていく。
光を反射する大太刀に牛の頭にそぐわない人間のような体。その気味悪さがソウタの心臓を止めにかかる。
心臓が今にも口から零れ落ちるんじゃないかと勘違いするかのような吐き気、心臓を誰かに叩かれているような息苦しさがソウタを襲う。
その牛頭の怪物から吐き出る悪臭に鼻が曲ったかのような錯覚に陥る。
押し寄せる絶望に抗い尻餅をつきながら必死に死との距離を稼ぐ。
牛頭の怪物が絶望を喰らうかのようにジリジリと距離を詰めてくる、肺に残されたなけなしの空気を、すべて「拒絶」へと変換し叩きつける。
やがて力が尽き右足の痛みが限界に達し動けなくなる。
——死にたくない、死にたくない、死にたくない、まだ何も言えてない、何も成し遂げれてない...
死の淵に唐突に出てきた、謎の使命感が空っぽの胸を焦がす。最後に一矢報いようと地面を引っ掻き回した血だらけの右手を前に差し出す。
一閃。灼熱の衝撃が走った直後、突き出したはずの感覚が「無」へと変わる。
地面に転がる「それ」を自分の右腕だと理解するのに数秒を要した。噴き出す熱い血が緑の草を黒く濁った朱色に染める。
ソウタは気づくと共に悟った。
この世界は地球じゃない。誰も俺を知らない土地で終わりを迎えるんだ、と。
牛頭の怪物が不敵な笑みを浮かべ大太刀を振りかぶり死の影がソウタを襲う刹那、金色の閃光が視界を横切った。
火花が空間を裂き、たった一振りのレイピアが、五メートルの巨躯を後退させる。
低く構えたその格好は本来ならば臆すべき威圧感だ、しかし今のソウタにはとても美しく逆転を感じさせる空気を醸し出す。
牛頭の怪物が見た目にそぐわない速さで少女との距離を詰める。
少女もまたレイピアを構え直し距離を詰める。
大太刀の間合いに入ったのを見届けた刹那、視界が突如として紅く染まる。頬に返り血の生温い感触と右足の痛みが混ざって頭に入ってくる。何かが目の前に飛んでくる。ぼやけた目を擦りながら見ると牛頭の目がソウタを見ていた。
前には巨体が司令塔をなくしなす術なく崩れ落ちるのを見ている少女がいた。
少女はレイピアの身を滑る血を鋭く振り払い、カチリ、と硬質な音を立てて鞘に納める。
地獄の底で喘ぐ自分を見つけるように、彼女はゆっくりと振り返る。
ソウタの前に彼女の華奢なブーツは静かに止まった。
緊張の糸が切れ意識が沈む最中慌てる少女の顔が覗く。
——あぁ、ちくしょう。可愛いなぁ。
1話目、どうでしょうか?僕はどうにも地の文が下手過ぎるので少し見づらいと思います。ですが頑張って修正していこうと思ってます。
1話『始まりは突如に、終わりは遠く霞んで』最後まで見てくださりありがとうございました!




