第二話 『秒針を合わせて』
私はある村長の娘だった。山奥にある小さな集落で穏やかに暮らし小さい頃の父と母はとても優しかった。村長の子が娘なら一番強い男を、息子なら一番尽くせて家事が出来るものをといったものと結婚するのが普通だという習わしがあった。
しかしそれにも関わらず私は父に憧れ剣を習いたいと言った時父は笑って肯定してくれた。あの時の笑みを私は忘れることはない。
18歳の誕生日の前日の事だった。村が突如として龍に襲われた。
私たちは為す術なく蹂躙され村は龍の支配下に置かれた。
母は献身的な補助により足を悪くし負けた責任を押し付けられた父はその日から変わった。厳しくも優しかった稽古は厳しさを増し何度も死の淵まで追い詰められた。
突然『龍神様に捧げ物をしなければならない』と言い出し村の人たちを次々と龍に捧げることもあった。
見かねた母が私に亡き祖父の形見のレイピアを渡してこう言った。
『少し早いですけどあなたがずっと行きたいと言っていた旅に行きなさい...このままここに居てもいつか死んでしまうわ。』
そう言った母親は私の瞳と同じ碧眼を潤ませこう言った。
『貴方がこのままここに居たらお父さんが壊れてしまうわ。』
あんなにも優しかった母から突きつけられた現実。父が変わってしまったのは私のせい。私さえいなければ父はああならなかった。村の人も犠牲は少なく済んだのかも知れない。そこからはもう無我夢中で走った。
森を抜け、川を越え、山を越えた。
ある程度走っていると遠くから魔物の雄叫びが聞こえてきた。私は咄嗟に進路変更をし声の聞こえる方へ走った。
しばらくすると遠くでミノタウロスが少年を襲っているのが見えた。
村の外に出るのは初めてで魔物と対峙するのも初めて。なのになぜか体が勝手に動き気づけば少年の前に立ち塞がってミノタウロスと対峙していた。
ミノタウロスなんて本でしか知らないし戦ったこともないのにぃ!!
ふと後ろを振り返り襲われていた少年を見る。
焦茶色の髪を血に濡らした少年が今にも倒れそうな顔で私を見ていた。
——弱音吐いちゃダメ。私がこの子を助けなくちゃ。
レイピアを体の横に構え重心を低くする。
昔、父に習ったことがあった。相手が私より二回りほど大きければ駆け引きは無用、相手は必ず駆け引きを怠る。その時が一番な好機だ。
父の教え通り雄叫びを上げ突進を選択してくる。
私も迷わず突進を選び大太刀の閃光が首を襲うギリギリで更にしゃがみ込み懐に滑り込み、瞬きの間に3回首を切り刻む。
——くぅ...!勝てた、勝てたよ!
緩む頬を撫で付け優雅に振り返った瞬間ミスに気づいた。
少年は返り血でどっぷり浸かっており、牛頭が少年の目の前に転がっていた。少年の黒い瞳は大きく見開かれ次の瞬間白目を見いて倒れた。
「え、あ、ちょっ!だ、大丈夫!?」
少年を抱き起こそうとすると傍に落ちているものに気づく。それを拾い上げ空に透かして見ると、それは右手だった。
本来少年についていなければいけない筈の物がこぼれ落ちていることに気づき少女は余りにも遅く事態の深刻さに気づく。
少年の体から溢れんばかりの血が出ていることに気づき少女の透き通るような肌が、焦りに翳る。
少年を背負おうとしたが余りにも重く後ろ腰のベルトに付けていたポーチから身体強化薬のポーションを取り出し飲み、右手を指輪の空間魔法の中に入れ腐食を防ぎ少年を背負い直し一面の野原を駆けて行く。
見知らぬ人なのになんでここまでするのかも分からないままただ走り続ける。
暫く走っていると小さな村が出てくる。
私はそこに駆け込み村長に事情を説明し村の空き部屋のベットに少年を横にさせ、空間から右手を取り出し少年の切断面を合わせてポーチから人魚の血の入った瓶を取り出し切断面に垂らし、村の治癒士を呼んで少年の全身の傷と心を癒してもらった。
一通り終え安心した私はベットにもたれ掛かり眠りについた。
最後まで見てくださりありがとうございます。
今回は1話を少女目線から描いた物語を書きました。
次回もよろしくお願いします!




