↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

5-6

 木々が立ち並ぶ道。

 フィリップは息を切らしながら、ひたすら鴉を追いかけていた。

 視線の先にあるのは、鴉が咥える指揮棒型の杖。

 底に埋め込まれたオレンジの宝石が、太陽の光を反射して、輝いていた。

 飛んでる鳥を走って追い掛けるなど至難の技だが、宝石の輝きと、フィリップ自身の根性により、辛うじて見失わずに済んでいる。

「ハァ…待って……ゼェ……ぼ、僕の杖…、返して!」

 息切れしながらも、フィリップは杖の返却を乞う。

 だがそんなもの、鴉に届く筈もない。

 疲労困憊のフィリップを気にすることなく、鴉は軽々と飛行を続けていた。

 フィリップにとってその杖は、相棒であると共に、父からの形見でもある。

 簡単に諦めきれなかった。

 足をふらつかせながも走るフィリップ。

 その後ろから、ネーロを抱えたローズが追いついてきていた。

「フィリップ、疲れてる」

「ホントだな。ヘロヘロじゃねぇか」

 ネーロを抱え、腰に剣を2本下げたまま、フィリップと同じ距離を走ってきたローズ。

 だが全く息切れしておらず、その顔色は変わっていない。

 何ならもうすぐ抜き去ってしまいそうだ。

 自分が代わりに杖を取り返そうかと、ローズが思った時だった。

「……あれは」

 ローズの視線の先に、塔が見えてきた。

 石造りの塔。

 全く管理されていないのか、所々老朽化している。

 一部の隙間からは、植物が生えていた。

 鴉はその塔のてっぺんで減速する。

 穴が空いているようで、そこから中へ入っていった。

 フィリップにもそれが見えたようで、足を止めた。

 両膝に手をつき、必死に呼吸を繰り返している。

 ローズはフィリップの隣に着いた。

「大丈夫?」

「ゼェ……ゼェ……、だ、…だい……ゼェ…だいじょ……ハァ、………ぶ…」

「大丈夫じゃねぇな」

 ローズはフィリップの背中を優しく擦る。

 あまりの体力の無さに、ネーロは呆れ返っていた。

 その間フィリップは、ゆっくりと息を整える。

 ふと顔を上げて、塔のてっぺんを凝視した。

 そこから鴉が飛び上がり、どこかへ羽ばたいていく。

 フィリップの杖は持っていない。

 つまり、杖は現在塔の中にある。

「よし、行こう」

 フィリップが塔に向かって歩き出す。

 ローズは心配しながらも、後に続いた。

「あそこにあるのは確定だろ。急ぐ必要ないんじゃねぇか?」

 ローズの腕の中で、ネーロが声をかける。

 フィリップはここまで休むことなく走ってきた。

 そのため、未だに息が上がった状態なのだ。

「はぁ…。ダメだ…。ゼェ……。何があるか、解らないから。早く、ウッ……取り戻さないと」

「フィリップ……」

 ローズが小さく呟く。

 彼女からすると、今のフィリップは何かに取り憑かれているように見えていた。

 その目の先にあるのは、塔の中にあるであろう杖。

 一点だけに集中すれば、視野が狭まり、周りが見えづらくなる。

 それを知っているからこそ、ローズはフィリップに危うさを感じていた。

 ローズは後ろからフィリップに近寄り、もう一度背中を撫でる。

「ローズちゃん?」

「落ち着いて。深呼吸しよう。ゆっくり空気を吸って、吐き出すの」

「そ、そうだね……」

 ローズに言われた通り、フィリップは深呼吸をする。

 そうしていると、徐々に頭の中が冴えてきた。

(ローズちゃん…。また僕のことを……)

 フィリップは気がついた。

 隣を歩く少女に、再び心配されているということに。

「大丈夫。杖は戻ってくるよ。絶対に」

 塔を見据え、いつも通りのポーカーフェイスで語るローズ。

 フィリップはその声と言葉に、少しだけ勇気づけられていた。




 細い穴だらけになった木の扉を、ローズが押す。

 すると扉は不気味な音を立て、あっさりと開いた。

「行こう」

「うっ、うん」

 ローズ達は、古びた塔の中へ踏み込んだ。

 削れた石で囲まれた、円柱型の空間。

 大きな木箱や樽、馬車の車輪等が置きっぱなしになっていて、すっかり埃を被っている。

 天井にはいくつか穴が空いていて、そこから複数の光が差し込んでいた。

 壁面を沿うようにして、螺旋状に階段が造られている。

 その最上段にあるのは、木の枝をいくつも連ねて作られた鳥の巣。

 そこからオレンジ色に輝く何かが見えた。

「あった」

「うぉおおお!僕の杖!」

 杖を見つけたフィリップは、階段の方へ走っていく。

「おい!落ち着けって!」

 ローズの肩に掴まったネーロが呼び止める。

 しかし、フィリップの耳に届いていない。

 ドタドタと音を立て、階段を駆け上っていく。

「もう…!」

 ローズは急いで後を追った。

 階段には手摺りも何も無い。

 もし足を踏み外したらなら、そのまま真っ逆さまだ。

 ローズは平気だが、隆起の魔法しか使えないフィリップは一溜りもない。

 とはいえ、このまま上っていけば杖は取り戻せる。

 フィリップが落ちないように見ておけばいい。

 ローズがそう考えていた矢先、下の木箱から物音がした。

 途端、大砲のような勢いで、何かが飛び上がってくる。

 それは狼くらいの大きさの、3匹のコウモリ。

 茶褐色の体毛に、尖った耳。

 三日月のような黄色い目をギラつかせ、ハート型の鼻から息を吹き出している。

 体の半分を占める程大きな口。

 歯の隙間から、涎が漏れ出していた。

 3匹の化けコウモリは、フィリップ目掛けて一直線に飛んでいく。

 鋭い牙が、ぐんと迫る。

「うわぁあああ!!!」

 直前で気がついたフィリップは、腰を抜かす。

 目の前を、化けコウモリ達が通り過ぎていく。

 間一髪で餌食にならずに済んだ。

 だがそれは、その瞬間だけ。

 化けコウモリ達は切り返して、再びフィリップに迫る。

「わっ…うわぁ!!」

 腰を抜かしたフィリップは、悲鳴を上げることしかできない。

 今度こそ、ギザギザの歯がフィリップの頭を食い千切る…。

 そうなる前に、ローズはもう動いていた。

 ネーロは肩から降りている。

 剣を1本だけ抜いて壁を蹴り、フィリップが居るところまで跳んでいく。

 そして空中で、思いっ切り剣を横に振った。

“ビシュッ____!!”

 その一刀は、化けコウモリ2匹の胴体を通り抜ける。

 生命活動を維持できなくなった2匹は、真っ逆さまに落ちていく。

「ローズちゃ…あっ!」

 フィリップの目が見開かれる。

 化けコウモリを斬ったのは、空中。

 重力に従って、ローズも落下し始める。

 だが、ローズはそこまで予測できていた。

「んっ…」

 ローズは空いた手で、階段に手を掛ける。

 石造りの階段にぶら下がることで、落下を免れた。

「ローズちゃん!」

 フィリップが起き上がり、ローズの元へ駆け寄る。

「大丈夫…」

 ローズは片腕を軸に、体を揺らす。

 その勢いを利用して、宙返り。

 上手く着地してみせた。

 フィリップは驚き、目を丸くしている。

「身軽なのは良いこったな」

 下からネーロが追いついてきた。

 軽々と段差を飛び越えて、ローズの足元に付く。

「まだ終わってねぇぞ」

「うん」

 ローズは上を見上げる。

 残った1匹の化けコウモリが、天井付近を飛び回っていた。

 ローズ達を警戒しているように見える。

 隙を見せれば、すぐさま襲い掛かってくるだろう。

 ローズもまた、警戒を上げた。

 だがその化けコウモリが、再び襲ってくることはなかった。

“ドゴン!!”

 天井の石が崩れ、そこから刃物のようなものが飛び出す。

 それが化けコウモリの体を貫いた。

 化けコウモリは奇声を上げながら、天井の向こうへ引き上げられる。

 次の瞬間、何かを噛み千切り、砕くような音が降りてくる。

 3人は天井を見上げ、息を呑んだ。

 巨大なコウモリを仕留め、食す何か。

 得体の知れない化け物が、真上に居る。




 天井から化け物コウモリの翼片が、ヒラヒラと舞い落ちてきた。

 それと同時に、天井を構成していた石がさらに崩れる。

 大きく空いた穴から顔を出したのは、4つの赤い目を持った白緑色の竜だった。

 頭の後ろに2本の角が生えていて、顔の周りも、棘状の突起で覆われている。

 竜は壁に足を突き刺し、塔の内部に侵入してくる。

 その体を見たローズは、驚愕した。

 首から上は竜そのものなのだが、それより下はもはや昆虫。

 まず、6本の細長い足。

 特に前の2本は鎌状になっていて、金属を思わせるような光沢があった。

 背中には筋入りの薄い羽根が折り畳まれている。

 尻尾は無い。

 まるで、竜とカマキリが合体したような見た目をしていた。

「あっ…あぁあああああぁあ!!」

 その怪物を目の当たりにして、フィリップが悲鳴を上げながら後ずさった。

 そのまま壁に背中を押し付けて、震えている。

「ドラゴン・マンティスか。厄介なのが来やがったな」

「……ドラゴン」

 ネーロから怪物の名を聞いたローズの体が、僅かに震えた。

 ドラゴンというモンスターには、トラウマがある。

 何もできず、歯が立たず、仲間が次々とやられていく光景が、ローズの脳内にフラッシュバックする。

「おい!来るぞ!」

 ネーロが声を上げる。

 ドラゴン・マンティスが、口の中に黄緑色の炎を蓄えていた。

 それを球状にして、ローズ達に向けて吐く。

 ローズはもう動き出していた。

 剣を鞘に戻すと、壁に寄りかかるフィリップに駆け寄り、抱き上げる。

「跳べ!」

 肩に掴まったネーロが叫ぶ。

 ローズは1人と1匹を抱えたまま、思いっ切り階段を蹴る。

 空中へと飛び出した。

 その直後、火球が階段にぶつかり、爆発を起こす。

 爆風がローズの背中を押した。

 そのまま反対側の壁へと飛ばされる。

 ローズは両足を上げ、壁に着地した。

 間髪入れず、足を動かす。

 ローズは壁を走り、塔の下まで駆ける。

 地面に着地すると、フィリップを地面に降ろした。

「立てる?」

「あっ…ありがとう……」

 ローズに手を引かれ、フィリップは立ち上がる。

 すると、一拍遅れて地面が揺れた。

 ドラゴン・マンティスが、地面に降りていたのだ。

 長い首を上げ、こちらを見下ろしている。

 口の形のせいか、笑っているようにも見えた。

「………」

 ローズは無言で双剣を抜く。

 真っ赤な双眸は、ドラゴン・マンティスを捉えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。