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4-10

 草木が鬱蒼とし、昼でも薄暗い道を、ドギィは歩いていた。

 斬られた左腕の止血は済んでいる。

 しかしまだ痛むようで、包帯でグルグル巻きの斬り口を押さえている。

 その後ろにローズが続く。

 彼女の右肩にはブドウ、左肩にはネーロが乗っていた。

「暗いところだね」

「誰も寄りつかねェ山だろうが、奴がやってることは違法だ。目立たねェに越したことはないんだろう」

 道幅も、人1人分くらいの広さしかない。

 草の葉先が鼻に当たり、ブドウがくしゃみをした。

 ローズがブドウを肩から下ろし、抱きかかえた。

「キュル……」

 ブドウがローズの顔を、不思議そうに見上げる。

「もうすぐだよ」

 ローズは優しめな声で囁いた。

「おっ、おい。着いたぞ」

 ドギィが振り返って声をかけた。

 着いたのは、草や木が生えていない異質な空間。

 ヘルハウンドに草木を燃やさせて、無理矢理作ったのだろう。

 その空間にあったのは、1台の馬車。

 馬自体はどこにも居ない。

 ドギィは馬車に近づくと、乱暴に荷台を開けた。

 ローズも近寄って、荷台を覗く。

「あっ______!」

 ローズは目を見開いた。

 荷台には複数の檻が乗っていて、小型のモンスターが閉じ込められていた。

 そしてその中の1つに、1匹のカーバンクルが入れられていた。

 そのカーバンクルはブドウよりも大きく、額の宝石は紫色。

 まさにブドウをそのまま大きくしたような見た目をしていた。

「キュルッ!キュルッ!」

 ローズの胸の中で、ブドウが足をバタつかせる。

 今にも飛び出してしまいそうな勢いだ。

 檻の中のカーバンクルも立ち上がり、顔をブドウの方に向けている。

「そいつがブドウの親みてェだな」

「だね…」

 ローズは荷台にブドウを離した。

 ブドウは親が入っている檻に走っていく。

 そしてしきりに甘えるような声で鳴き始めた。

 親は檻の隙間からブドウを舐めている。

 カーバンクルの親子の再会を眺めつつ、ローズは荷台の中を見渡した。

 3本角の兎。

 白い毛玉のような鳥。

 体から蔦が生えている鹿。

 皆がブドウを見つめていた。

 まるで檻の外にいるブドウを、羨ましがるように。

 ローズはドギィに視線を向けた。

「この子達、皆帰して」

「はっ…はァ!?カーバンクルだけで、いっ、いいだろうが!!俺の稼ぎが無くなんだろ!!」

「帰して」

 低く冷たい声で、ローズは繰り返した。

 その凍てつくような視線が、ドギィの恐怖心を刺激する。

「わっ…解った!!帰せばいんだろ!!かっ…帰せば…!……クソッ!」

 ローズに逆らうことができず、ドギィは荷台に乗り込む。

 懐から鍵を取り出し、檻の出口に掛けられた錠を次々と外していく。

 兎、鳥、鹿……。

 檻から出されたモンスター達は、次々と荷台から降り、茂みの奥へと逃げていった。

 カーバンクルも解放された。

 ブドウの首の後ろを咥え、荷台から降りる。

 地面に下ろされると、ブドウはめいっぱい親に甘えた。

 ローズ達が一緒だったものの、ここまで親と引き離されたことで抱いた心細さは半端ではなかっただろう。

 ブドウは頻りに鳴き、親はブドウの体を舐め続けた。

「よかったね……ブドウ」

「あぁ。よかったな」

 ローズとネーロは、その光景を温かく見守った。




 10分程して、ドギィは全てのモンスターを放ち終えた。

 彼らはローズ達を気にすることなく、各々四方八方へ駆けていく。

 残っていたのは、ブドウとその親だけだった。

「ギュッ……」

 子を諭すように、ブドウの親が鳴く。

 そろそろ行かなければならないと思ったのか、茂みの方へと歩み寄る。

 無論ブドウもそれに続いた。

「……キュルッ」

 だが茂みへ入る直前で、ブドウは何かを思い出したかのように鳴いた。

 振り返った先に居るのは、ローズとネーロ。

 ブドウはローズの方へと駆けていった。

「ブドウ…?」

 ローズは困惑しつつも、ブドウを抱き留めた。

 つぶらな瞳でローズを見つめ、尻尾を振っている。

 そして親にしたように、甘えた声で鳴き始めた。

「…ネーロ」

「なんだ?」

「ブドウは、何て?」

「あぁ〜…。一緒に行こうっつってんぞ」

「……そうか」

 気づけば目の前に、ブドウの親も来ていた。

 親は鳴くこともなく、ただローズを見つめていた。

「……」

 ローズはブドウと親を見比べる。

 そしてブドウを抱き上げ、目を合わせた。

「ブドウ…」

「キュルッ」

「……ごめんね。私はここまでなんだ」

「……キュルッ?」

 ブドウが不思議そうに顔を傾げる。

 それを見たローズは、胸の辺りがズキッと痛んだ。

 だが、言うべきことはちゃんと言わなければならない。

「私にもね、捜してる人が居るんだ。私はその人のこと先生って呼んでるけど……今振り返ってみれば、親みたいな存在だったと思う」

「キュルッ……」

「先生は、私を置いてどこかに行っちゃったんだ。だから私は、先生を見つけないといけない。だから、ブドウと一緒に暮らすことはできないんだ……」

「……キュル」

 ローズの言葉を理解できているのか…。

 ブドウの鳴き声は、か細いものになっていた。

「……また来るよ」

「キュルッ?」

 ローズは、それだけで話を終わらせなかった。

「きっとまた、ここに戻ってくるから…。だからその時は、また皆でご飯を食べよう。私はそれまで死なないから。だから……ブドウも」

 ローズは、ブドウを抱きしめてこう言った。

「元気でね」

「………キュッ!」

 思いが伝わったようで、ブドウは元気よく返事をした。

 ローズは名残惜しそうに、ブドウを地面に下ろす。

 その間、ブドウの親はずっとローズを見つめていた。

 ブドウが身を寄せると、親は尻尾で優しく撫でる。

 そうした後、親は身を翻すと、茂みの中へと入っていった。

 ブドウもそれに続く。

 その直前で、ローズの方を振り返った。

 ローズはブドウの目を見て頷く。

「キュルッ!」

 別れの挨拶だろうか。

 短く鳴いた後、ブドウも茂みの中に入っていった。

「短い付き合いだったけどよぉ、やっぱ別れってのは切ないモンなぁ」

 ネーロはブドウ達が入っていった茂みを見て、しみじみと言った。

 その笑顔は、どこか爽やかだった。

「……そうだね」

 ローズもポツリと呟く。

 胸の中に、何かがぽっかり空いたような感覚がある。

 ローズは胸に手を当て、ネーロと同じところを見ていた。

 そんな2人の背後に、黒い影が立つ。

 ドギィだ。

 残った右手に、ナイフが握られている。

(くだらねェモン見せやがってよォ。テメェのおかげでこっちは収穫ゼロだ。俺の左腕と犬まで奪いやがって……)

 ドギィはゆっくりと、足音を立てぬように近づく。

 そして、静かに佇むローズの背後を取った。

「死ねやクソガキィイイイイイイ!!!!」

 ドギィは怒鳴りながら、ナイフを振り上げた。

「ッ_____!!?」

 しかし、彼の目が信じられないものを捉える。

 それは、能面のような顔でこちらを振り返るローズの姿だった。

 既に剣を1本、片手で構えている。

(嘘…だろォ……!?)

 そう思った時には遅かった。

 ナイフを落とすよりも前に、ローズの剣がドギィの胴体に食いつく。

“ズシャッ_______!!!”

 神速の剣が通り抜けた。

 絶望の表情を浮かべたまま、ドギィの上半身が落ちる。

 下半身の断面から、噴水のように血が噴き出す。

 そして、遅れて地面に倒れた。

「せめて余韻に浸らせろよ」

 ネーロは口を尖らせ、骸となったドギィに文句を言った。

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