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第120話 変化の兆し

お読みいただきありがとうございます♪

(作者的に)混迷を極めた毛利訪問編、

いよいよ最終話です。

何とかうまく纏まりました(たぶん)

「おお、寿四郎殿にみつ殿! まだこちらに残っておられたのか。お会いできて良かった」


 

 満面の笑みでそう言って出迎えたのは吉川元春きっかわもとはる……ではなく広島に居るはずの毛利家当主・毛利輝元もうりてるもと、だった。ちょっと待て、どうしてお前がここに居る!?


「実は先日、ユーに言われたことの意味をずっと考えておっての。今まで元春叔父上の言葉にも耳を貸さず、頼りもせずに居ったのをそのままにはしておけぬと思い立って、ここまで来たのじゃ」


 憑き物の落ちた様な晴れがましい顔でこちらを見ながら話し掛ける輝元。


 だがその目線は俺を通り越して、斜め後ろに居る光の方に向けられている。そしてそのまま立ち上がってこちらに向かってくると突如、光の正面で片膝をついた。


 

「ユーの言う通り、朕は出雲の民の事も元春叔父の事も何も分かっておらんかった。この目で米子の今の姿を目にし、元春叔父と膝を突き合わせて話す事で気付かされた事が沢山あったんじゃ。朕の目を覚まさせてくれたユーにはどう感謝しても感謝しきれぬ。



 

 ……じゃからどうか、朕の嫁になってはくれまいか?」


 

 

 うんうん、ようやく目が覚めてくれたなら良かっ……って、えええぇー!!!


 

 よりにもよって人の嫁に、しかも旦那の前でプロポーズすんのかよ!?

 


 驚いて輝元の顔をガン見してしまうが、表情は真面目そのもので冗談を言っているような感じではない。流石の爆弾発言に後ろで控える元春夫妻もあんぐりと口を開け、開いた口が塞がらないという表情をしている。光の方を振り返ると思いっきり怪訝そうな顔をしていた。そりゃそうなるよな。



「ご、ごめんなさい。私には、夫が居るの」


 まさかの状況にさすがの光も若干動転しているのか、昼ドラでしか出てこない様な断り台詞を告げる。ええ、居ますとも! アンタが跪いてるすぐ横にな! もしかしたら目には映ってないのかもしれないけどっ!!


「それは分っておる! じゃが愛さえあれば超えられない試練など無い! これはまさに運命の出会いなのじゃ! どうか、頼むーッ!!」


 と涙声で叫ぶと今度は土下座しだす輝元。いや、一方的な愛で越えられる壁なんてあるのかよって思うし、運命だと思っているのは君だけだと思うんだけど。土下座で何とかなる話じゃない……と思っていたら光は土下座している輝元の前にしゃがみ、肩に手を置いて語りかける。


 え、おい!? まさか応じるつもりじゃないだろうな!?


 

「アナタが本気で頭を下げているのはよく分かるわよ。自分を変えるような影響を与えてくれた相手を運命の人だと信じてしまう気持ちも。


 でもね、私にとってはここに居る夫・寿四郎こそが私の運命の人なの。元春様にとっては御方様なのだろうし。でも、そういう相手がきっとアナタにもいつか現れるわ。だから、大丈夫よ」


「み、光どのぉ、ありが……うわぁぁぁぁあん!!」


 光の慰めの感動したのか、それともどさくさに紛れてのワンチャン狙ったのか、輝元は泣きながら光に抱きつこうとするがヒョイと躱されて地面に倒れ込む。


 そのままジタバタと駄々っ子のように号泣するのをどうしたものかと元春に視線を送るが、『しばらくそのまま放っておけ』と言わんばかりに肩をすくめたので俺達一行は輝元が泣き止むまで待つことにした。



 

「うむ、さっきは見苦しいところを済まんかったの」


 何事もなかったかのように気を取り直して輝元が言う。いや、無かった事に出来るような見苦しさじゃなかったぞアレは! よくそれで『気を取り直して』って感じの顔が出来るよな。



「それで、光殿を朕の側室にという話じゃが……」


 それ、まだ懲りないで話題に上げようとする? とんだ鋼メンタルだな。俺の代わりにカンパチが殺気を放って刀を抜こうと柄に手を掛けたあたりで、吉川元春が制するように咳払いをして口を開いた。


 

「あー、こほん。……殿にも南の方様という正室がいらっしゃるでしょう? 」


 なんだコイツ!? 嫁、もう居んのかよ!? なのに人の嫁に迫るとかとんでもねぇな!!


 聞けば輝元は政略結婚だったとはいえ7年前に結婚した正室が居るのだという。ただその当時は15歳と10歳でお互いどう接すればよいのかも分からず、結局今までその頃から状況も変わらず、関わる事も無いままでいるらしい。


 ちなみにその正室も名前は光というそうなのだが……もし仮にうちの人を側室に出来たとしてどうやって呼び分けるつもりだったんだろう?

 

「あ、アレは朕の事など理解してはくれぬ! それに今更、何をどう話したらいいか……」

「どうすればいいか分からないのなら、今度一緒にこちらへお越しくださいませ。これでも元長もとなが元棟もとむねの息子夫婦2組が円満に過ごせるよう、嫁たちには助言を差し上げておりますのよ」


 新庄局がそこは任せろという感じで身を乗り出す。確かに夫婦間の事なんてなかなか相談できるものでは無いからな。そういう人がいてくれるのは頼もしい事だと思う。俺達にもそんな人が居てくれたら良いのだけど。


「光さまも。なかなかお会いできる機会は無いかもしれませんが、文を戴ければいつでも、どんな事でも相談に乗りますからね。子の母として、将の奥として私のしてきたことが少しでも役に立つのであれば」

「御方様……ありがとうございます! 甲斐に戻りましたら早速に文を送りますね」


 そういって母娘のようなアツい抱擁を交わす二人。今までウチを纏める正室として気を張ってきたのがようやく緩んだのか、その目には微かな涙が浮かんでいる。




「あの……朕とはその……ハグは?」

「まだ言ってんのかさすがにいい加減にしないとはっ倒すぞ」


 デリカシーの欠片もなく混ざっていこうとする鋼メンタル野郎(てるもと)に思わず突っ込みを入れると、本当にやると思われたのかカンパチと軍監に両脇から取り押さえられる。


「仕方あるまいな。本当は光殿とが良いのだが寿四郎殿、朕とハグをするか」


 なんだそのついで感は!? と思ったがコイツなりの別れの挨拶のつもりなんだろう。現代でも欧米ではハグとか挨拶でするわけだし、そこも南蛮式って事なんだな。


 

「寿四郎殿、ワシは……あいや、朕はお祖父(じい)上のような良き君主となれるじゃろうか?」


 ハグに応じると輝元はポツリと、俺にしか聞こえない様な声で不安を呟いた。


「ああ、大丈夫だ。ここに居る吉川元春の将として優れた所、小早川隆景こばやかわたかかげの人の思惑を読む力、そういうのを近くで学んで吸収しながら少しずつ、大名らしくなっていけば良い。人にはそれぞれ成長速度ってものがあるし、誰だって最初から完璧なんてワケは無いんだ。お前らしくやっていけば良い」


 

 毛利元就もうりもとなり北条氏康ほうじょううじやすみたいな天才は失敗してないかもしれないけど、俺だって急に氏真うじざねから『お前に駿河するが一国を任す』とか言われても国を治めるとか全然分かんなかった。


 近習仲間の朝比奈泰朝ヤスとか朝比奈信置ノブとか色んな人に色んな事を聞きまくって、たまにはしょーもない失敗をしながら少しずつ国主として認めてもらえるような感じになっていったのだし、それを話すと謙信も信玄も『若い頃は自分たちですらこんな失敗をした事もある』と笑って教えてくれた事もある。

 

 義理の兄弟である北条氏政ほうじょううじまさなんかは現に今でも無茶苦茶な失敗やらかしそうになって、弟たちがカバーに入ってくれる事でなんとか北条という一大勢力を分裂させずにやれているという部分も大きい。誰だって完璧じゃないんだ。


 ただのお飾り当主ではなく、拙いながらもコイツが自分で毛利の当主としてちゃんと国を治めようと考えてくれたなら、それは大きな変化だ。


「じゅ、寿四郎殿……ありがとぅの」

「いちいち泣きそうになるな。ちゃんと胸を張れ。お前、立派な毛利の当主だろ?」

「そ、そうであるな……では、我が心の兄上とお呼びしても?」

「んー、それは断る」


 ただでさえ越後次期当主の長尾景信(義仁)に小早川家次期当主の小早川元景(輝彦)とどんな繋がりかと怪しまれそうな前世弟の二人が居て、さらに毛利の当主に『心の兄上』なんて呼ばれたら『アイツは一体何をどうしたんだ!?』って色んな事を疑われかねない。


「でもお前が一人前の当主として成長するために悩んだり迷ったりすることがあればいつでも連絡をくれ。出来る限りの力になる」

「寿四郎殿、ワシからもお願い致す。どうか可愛い甥っ子の為に力になってやって下され」


 そう言って深々と頭を下げる吉川元春を見て、本当にこの人は心からこの輝元(可愛い甥っ子)の力になってやりたいと願ってるんだなってひしひしと伝わってくる。俺とは交渉決裂した小早川家が果たして今後どう出てくるかはまだ分からないが、この二人がしっかりと手を携えていけるなら、毛利もきっと大丈夫だろう。


 

 こうして俺は今回の毛利訪問にそれなりの手ごたえを感じながら、帰りの船に乗り込んだ。



 第10章 ~毛利訪問編~ 完

ご愛読ありがとうございました!

今章のMVPは鬼嫁・光でしたね!

逆に他家臣は目立たせ処が見つからず……

軍監とかほぼ空気でした><


第11章、8月に再開したいと思います。

懲りずに読んでいただければ嬉しいです。

またご意見・感想なども戴けましたら

禿げて大変……いや大変励みになります。

よろしくお願い致します。

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