第119話 とある気付き
長かった第10章もラスト2話です。
毛利輝元とも転生弟・小早川元景とも
没交渉に終わった今回の毛利訪問編
果たしてどんな結末を迎えるのか!?
「それにしてもあのガキ! ほんっと父親そっくりで嫌なヤツだったわね」
備中高松城から北西の山中を抜け、米子へと戻る道中。昨夜の事を急に思い出したように光が叫ぶ。結局、物別れに終わった前世の弟との再会の後、城を出た所で俺達はヤツの父親である小早川隆景の一行と鉢合わせた。
「なっ!? 嫌な予感がして早めに戻ってみれば貴様らか! 即刻立ち去れと言ったではないか!?」
「『安芸を立ち去れ』とは言われたが『毛利領全体からも』とは言われてないからな。まあ、お前よりは物分かりが良いかと思った息子の方が余程、俺達の言う事に聞く耳を持っては貰えなかったけど」
義仁の時みたいに協力的で居てくれたら、という可能性も信じてはいたのだが、無駄な賭けだったようだ。隆景はそれを聞くとフンと鼻を鳴らして吐き捨てる。
「無駄な努力だったな。我が息子はこの私以上に合理的で下らん情などには流されん男だ。貴様らが我ら毛利の為す事に付け入る隙など全く無い! それを思い知ったなら早急に今度こそ、この『毛利の領地』より出ていくがいい」
「言われなくても出ていくわよ! アンタなんて、もし小田原に来ることがあっても追い返してやるんだから!」
キレる光をなだめて何とか備中高松の城下で安宿を取り、馬と馬車を借りて出発したのが今朝の事。あのまま言い合いがエスカレートして隆景をキレさせてたら、城下からさえ締め出されて野宿に徒歩で米子に向かわないといけない所だったからな。
それなら徒歩で構わないと言い出しそうだったけど、ウチの姫様は。
「すまないな光。アレさ……俺の弟なんだ」
「え!? どういう事!?」
「あ、いや。正確には弟だった奴、って事なんだけど」
光の他に聴いてる者がいない事を確認して、落とした声のトーンで前世での事を告白する。幸いカンパチは『何が仕掛けられてるか分からない』とだいぶ離れた所を警戒しながら先に進んでいるし、軍監は馬車の中で眠りこけている。あとは馬車を曳く馬に跨る光と、その横に馬を並べた俺だけだ。黙々と語る俺の前世(現代)での複雑な家庭事情を光はただ黙って聞いてくれた。
「うーん。それって……もしかしたら弟さん、寿四郎に置いて行かれたことを怒ってるんじゃない?」
話を最後まで聞いて少し悩んだ仕草を見せた後で、光はぽつりとそう言った。うん? アイツを怒らせるような事を、俺が何かしていただろうか? まるで記憶にないぞ。
「ええと、寿四郎は元服?してすぐに家を出たのよね? その時に弟さんは幾つだったの? 親元を離れて寿四郎に付いて行くって事を選ぶことができる歳ではなかったわよね?」
確かに、俺が高校卒業した時って義仁と輝彦はまだ小6ぐらいだったハズだ。当然ながら付いてくるなんて言い出さなかったし、俺も弟たちがどうしたいかなんて自分の事で精一杯だったから気に掛けもしなかった。
でも思い返してみたら『たまにはちゃんと帰って来いよな』っていつも通りに笑う義仁は印象に残っていたが、その時に輝彦と何かやり取りを交わした様な記憶は何も残っていない。
「私も兄上達が元服して戦場に出て、それぞれの与えられた城に向かっていく度に父上に食って掛かってたわ。私も兄上や父上の側で槍働きをして役に立ちたいのに、って。それなのにまだ子供だから、それ以前に女子だからって半人前とすら取り合ってもらえなくて苛立ったものよ。だから、同じなんじゃないかなって」
ちょっとこの【男子に生まれた方が良かった姫】とは事情は違うかもしれないが、今の話に思うところはあった。
俺があの育メンとして完璧すぎる義父の作り上げた家庭に、微妙な居心地の悪さを感じていたのと同じように、輝彦もあの家を出たいと願っていたのだとしたら?
きっと自分だってそうしたかったのに、同じ思いで我慢して生きてきたハズなのに、先にそこから逃げて行った俺の事をどう思うだろうか?
輝彦の胸中は分からないしこれも仮説でしかないけれど、きっと良くは思っていないハズだ。
「そっか……確かにそうかもしれないな」
「うん。あくまで私が勝手にそうなんじゃないかなって思っただけなんだけど」
「今度、ちゃんと話せる機会があれば聞いてみる事にするよ。ありがとな」
まあ実際のところ『ちゃんと話せる機会』なんてこの先あるのかどうか、わからないけれど。
「それでね……寿四郎。私、今の事を話していて自分はどうなのかって不安になっちゃった。
寿康・五郎・六郎・初・華は私の子だし見ている限り大丈夫だと思うけれど、上の子達と彩芽は母親も違う。寿壱に至っては母親だった小春さんの事、私は何も知らないのよ。あの子たちは私や他の兄弟たちに対して、どう思ってるのかなって」
柄にも無く不安そうな顔で呟く光だが、それは俺も同じ気持ちだ。どんなに分け隔てなく接しているつもりでいても、それぞれが他の兄弟や両親に対してどう思っているかなんて実のところは分かるワケなんてない。
「こんな時、相談できるような父上や母上が生きて居てくれたらよかったのにね……」
光の母親は光がまだ子供の頃に亡くなったというし、父の氏康ももう居ない。俺の方も父親は桶狭間で討たれたし、母親はこの時代に転生した時点で既に居なかった。
同じような経験をどんな風に捉えてどう乗り越えていったのか? 一番身近に尋ねられるハズの身内が居ないということは、こういう時に堪えるものだ。
「ねえ? 米子から戻る前にもう一度、月山富田城の元春様と御方様に会って行かない? なんだかあの二人、父上と母上を見ているようで懐かしいのよ」
確かに吉川元春からは『厳しい顔で多くは語らないけど、常に周りの者を考えて最善の策をと願っている』あたりが岳父である北条氏康に似ていると感じる事もあったし、その夫人の新庄局には光はホントの母娘のように懐いていた。
現代に置き換えたって島根と山梨じゃなかなか行き来する機会もそうそう無いし、戻る前に挨拶ぐらいは行っても良いのかもしれない。行きの途中みたいに突然大乱闘なんて事にもならないだろうし。
そうして辿り着いた吉川家の現在の拠点・月山富田城で俺達を待っていたのは意外な人物だった。




