第118話 兄と弟
作者的には大苦戦!の第10章!
いよいよクライマックス!!
転生前と後で呼び名がややこしいですがw
輝彦=小早川元景、です。
「どうだ、兄貴はオレの手下として天下獲りの片棒を担ぐ気は無いか?」
備中高松城で対峙した毛利輝元のブレーンにして前世(現代)での弟・小早川元景。ヤツは自身の持つ野心を得意げに語った後、到底受け入れられないような提案をしてきた。
「オレが毛利を、義仁が中部を掌握して両面から近畿を攻めりゃ、5年もあれば信長も秀吉も将軍も残らず捻り潰せるだろ。兄貴はそうだな……ちょうど良く目立たねえ顔してるし、オレの指示に従って義昭や信長配下の周りでもウロチョロ撹乱してくれりゃ充分か。それで天下獲った後は領地貰えんだから安いモンだろ?」
「ふざけんなよ、誰がそんな提案……」
「じゃ、ここで死ぬか?」
会話と俺の返答を聞いていたのか、元景の後ろ側の襖が開いて3人の男が武器を構える。左右の二人が構えたのはこの時代でお馴染みの槍と刀だが、真ん中の黒い袈裟を着た不気味な笑みを浮かべた坊主が手に持っているのは、現代とほぼ同じ形まで小型化された短筒。西洋技術と現代知識でそんなモンまで作ってやがるのか。
「この城が秀吉から水攻めに遭って責任を取らされるはずの清水宗治。その秀吉の軍師として活躍するはずが茶坊主三成に役目を奪われて冷遇される黒田官兵衛。秀吉が死んだ後の関ヶ原で毛利を総大将に担ぎ出した責任を取らされて処刑される安国寺恵瓊。どいつも優秀なのに史実の中で闇に消えていく運命の奴らだ。
オレならコイツ等を使って、もっとマシな歴史を作る事が出来る。毛利から独立した小早川が天下を統べて『周回遅れ』なこの国を西欧の最新技術を取り込んだ歴史の最先端の国へと変え、500年後まで世界の中心として支配していくって最高の歴史をな」
「此処で死んどいた方が良いのはお前の方だな。そんな西洋の猿真似で独裁国家にしたって、どっかで無理が生じるぞ」
俺も応戦するべく自身の刀に手を掛ける。拳銃持ちまで相手に4対1じゃ勝てるとは思えないが、だからといってこんな所で黙って殺されるのは御免だ。そんな俺の動きを見てヤツが笑いながら右手を上げると、後ろの三人は手に掛けていた武器を下げ、後ろに一歩下がって待機した。
「……本気にすんなよ、只のちょっとした脅しさ」
「冗談で済まされるような事だと思ってんのか輝彦。餓鬼の悪戯にしてもやり過ぎだ」
俺の口調に対してか、輝彦は心底めんどくさそうにわざとらしく大きな溜息をつくと、自分の座る畳に握った拳を叩きつけた。
「まぁたその上から目線! いつまでも餓鬼扱いすんじゃねえよ! それにもう前世の名前で呼ぶな! オレは小早川元景、れっきとした強国・毛利の御曹司にして、史実の知識と先の技術を駆使して歴史を作る側の人間。対してテメエは漁師の息子が運だけで成り上がったマグレ野郎だろうが!」
上から目線で言ったつもりは無いのだが、何かが火を付けてしまったらしい。ならばこちらもと声を荒げる。
「なら前世での兄としてじゃなく、仮にも戦国を生きてきた成り上がり大名・はま寿四郎として言ってやる! 家中を省みる事も領民の暮らしを省みる事もなく、野心に憑りつかれて力に固執するヤツに大義なんてものは無い! 力が支配するこの戦国時代だからって、そういうヤツはいずれ必ず淘汰されてきたことぐらい、お前だってわかってんだろうが!?」
だから武田勝頼も滅ぶことになったし、史実で織田信長も豊臣秀吉も滅んでいったんじゃないのか? 俺は少なくとも、自分の弟に勝頼みたいな最期は迎えて欲しくない。
他人として言ってやるとか言いながら、結局どこまでも『弟を心配する兄』って立場から抜けられないあたりは俺の甘さだとは思うけど。
「寿四郎、大丈夫!?」
「人払いをしたハズなのにご自身は刺客を用意しておられるとは。油断ならぬ御仁ですな」
怒鳴り声に只ならぬ気配を感じたのか、光がカンパチと軍監を連れて駆け付ける。カンパチは元景の後ろに控える連中を見るなり、殺気を放って刀を抜こうとする。
「大丈夫だ、刀を納めろ。ただの言い合いだ」
そう、まだ何もされてはいない。チープな脅しにギャーギャー騒ぎ立てるほどこちらももう、子供ではないのだ。
「先程の『小早川家の傘下に入るなら協力する』と提案された件、謹んでお断りする。毛利に比べれば弱小大名家とはいえ、当家にも当家なりの事情があるのでな」
この場を荒立てないように敢えて言葉を柔らかく置き換えながら、先程の提案に対してノーを突き付ける。さすがに『手下になれ』と言われたなんて光が聞いたら、その場で斬りかかりかねないからな。
「なっ!? 傘下ですって!? 何をそんな偉そうに!」
言い換えたこの内容ですら、傘下という言葉に激おこだけど。今にも掴み掛かりそうな光を手で制する。
「承知仕りました。小早川家としてはすでに越後の次期当主・長尾景信殿と私の間で個人的に誼を結んでおりますゆえ、【東国】と我が毛利は越後を通して協力関係を気付いていく所存です」
先程とは声音を変えて穏やかそうにそう話す小早川元景。もう話は済んだという事か。
「ええ、それで構いません。また『義輝様の使者』として西国を訪れた機には、どうぞよしなに。本日はこれで失礼いたします」
言外に『もうこれでしばらくは会う事もないだろ』という意味を含ませながら退出する旨を告げると、俺は苦々しい気持ちで既に陽が落ちてランプの灯りだけになった備中高松城を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
第10章、完結まであと2話です。




