4_04_夢想の都 前夜祭 前半
こんにちは、何とか整えられたので投稿します。
「わあお」
「近くで見ると圧巻だな」
今、俺達は城……ドリポートが誇る”雄望城”を真下から見上げている。
白亜というほどでもないが白い石材で作られているだろう城壁は、垂直に遥か高みへ昇っていくようである。ずっと見上げていたら首が痛くなりそうだな。
そして城壁には各所に細い穴が空いていて、ここから矢などを射かける用途なんだろう。
他にも至る所へ塔のような部分が伸びており、まさに城って感じを演出していた。
そんな威容を見上げながら口から飛び出すのは、形容が難しい様子の感じられる声だけだ。
てかグランバスの賢魔城にすら入っていないのに、まさか先に雄望城へ入る事になるとはな。
人生とは何が起きるか分からないものだ、と13歳にして人生の妙とやらを痛感したのである。
「呆けてないで歩きなさい」
しかし、こういった光景を見慣れているだろうシャロンは何の感想も漏らさず先頭を歩いている。
俺達も促されるままに城の入り口へ向かうと、後続の馬車に乗っているメンバーも合流してきた。
「シャロン様……すごい……マリさんヤバい」
「モーティ、おい! モーティ!」
綺麗に着飾った女子達に見蕩れてしまい、意識が半分飛んでいるようだ。
どうしたもんか。
ん~……しかたないな。
「ほれ」
「へっ……?」
「おぉっ!?」
マリが着ているドレスの裾を掴み、少しだけ持ち上げる。
膝から少し上ぐらいまでだが、この光景にモーティは我を取り戻した。
……むっ! 殺気!
「バカッ!!」
「なんの!」
絶対にマリが殴ってくると分かってたからな。華麗に回避してやったぜ。
ーーガッ!
「あ、あれ?」
なぜかシャロンに胸倉を掴まれた。そして綺麗な声で汚い言葉を吐いてくる。
「次やったら殺すわよ」
「目が本気なんですけど……」
「冗談に思えるのかしら。今すぐ実行しても構わないのだけれど」
「俺が悪かった、ごめん」
モーティを再起動させるためとはいえ、ちょい安易すぎたか。
「どうしてルイスは私に意地悪ばっかりするのよ!」
「そんな意地悪してないだろ」
「したもん! 闇鍋とか!」
あれはルールに従っただけなんだが。
「もう今日はルイスとマリを引き離しておくわ」
「あっそ。ご自由にどうぞ」
「喧嘩してる場合じゃないでしょうが。他の馬車も到着しましたよ」
ソマリが呆れたように注意してきて、後ろを振り返れば馬車が集まってきている。
入り口で固まってると邪魔になるだろうし、入る事に。
そうして城の使用人に案内されながら通路を歩いていたが、少し気になったのでイリーナに小声で尋ねてみる。
「なあ、シャロンの様子おかしくないか?」
「おかしい?」
「なんかマリを撫で回したり、さっきも本人より怒ってたぜ?」
「……疲れてるようね。癒しが必要なのよ」
「癒しって何が?」
「今ならマリに癒しを求めてるんでしょうね」
そう言う事か。んでもさ、マリに癒されるか?
リンなら分かるけど……そか、今は近くに置けないもんな。
「よし、じゃあ任せた」
「は?」
「シャロンの近くに居てやってくれ。マリと一緒にな」
「あなたが心配なんだけど」
「ソマリが居るから大丈夫だ」
少しイリーナは悩んでいたが、すぐに頷きを返してくれた。
「今はシャロンの方が心配ではあるものね。任せて」
「頼んだ」
こうして女子3人が固まって話しながら歩いている。
なんとも華やかな空気が溢れてんな。ここまでの美人が揃うと近寄り難くも感じてしまう。
まあ、シャロンはともかくとして、マリは中身が鳥頭だし、イリーナは魔物である。
そうと分からなければお嬢様方なんだけど、知っている俺としては奇妙な組み合わせに思えてくるな。
ともあれ俺達はケートス先輩にも話しかける。
「ケートス先輩」
「あ? どうした?」
「俺達は何とかやり過ごすんで、マリ達を頼みます」
「……招待された理由は把握してるんだな」
「まあ一応は」
正直な話、シャロンから聞かされるよりも前から想定していたんだ。
前夜祭に招かれて、しかもルドルフから。
そこだけに注目していたけど、他にも厄介な相手は居る。
というより、前夜祭に参加する者全てが厄介揃いだ。
なにせ名門だし、俺達を取り込もうと考えているか、邪魔者と考えているかの違いでしかないだろう。
そんな場に呆けた顔で突入しても喰われるのがオチであり、何かしらの対処は必要である。
といった事を地元組で話し合っていたんだ。
出来ればモーティも話し合いに含めたかったけど、イリーナとマリの用事に付き合わせてたからな。
んでもってケートス先輩は先に宿へ戻ってたし、後で俺達が戻っても見付からなかったし……碌に話し合うタイミングが無かった。
ともあれ、地元組の4人とケートス先輩が一番に狙われると思う。特にケートス先輩な。
生徒会メンバーかつ本戦出場者という2つの要素を持っているからだ。
だから俺達4人の地元組、それと残りのメンバーで分ける。
こうすれば狙われる度合いが平均的に落ち着くだろう。
俺達は誰に絡まれても何かと誤摩化しながら過ごす。ハイクとソマリが近くに居るなら最悪の状況にはならないだろうからな。
で、一方のマリ達はシャロンが近くに居るから護ってくれるだろう。あとはケートス先輩にもフォローを頼んでおけば問題ない。
そういう状況を完成させたので、ひとまずは安心である。
「悪いが、俺は用があるからマリ達の近くに居られない」
おっと……さっそく問題発生かよ。
「後輩を護るより大事な用って何すか?」
「っぐ……そう言われると心が痛む」
「まさか貴族令嬢をナンパするつもりじゃ」
「アホか! 他の用事だ!」
と、先輩を追い詰めようとしたけど時間切れのようである。
大広間へ到着してしまい、そこでは立食形式となっているようだ。
様々な料理が並んだテーブルを各所に配置し、壁際では座って寛げるように柔らかそうな椅子が設置されている。
他にも使用人達が立ち並んでおり、大広間に入場した俺達へ恭しく頭を下げていた。
すっかり準備が完了しているようで、振り返れば後ろから続々と参加者達が集ってくる。
そして、既に大広間へ到着している者達も居た。
ほとんどは知らない顔だったが、一人だけは知っている。
「あ、エグラフさん」
「やっぱ参加するよな」
さすがに断りはしなかったようで、堅苦しそうな服装に身を包んでいる。
でもって、エグラフさんを見つけたケートス先輩が黙っているはずもない。
「じゃあな。アホみたいな騒ぎ起こすなよ」
「フリっすか?」
「本気だ!」
「前夜祭の間は単独行動するつもりですか?」
「悪いが、そのつもりだ。あいつと話す事が山ほどある」
普段も話してるだろうに、なんとも仲が良いこって。
「しゃあねえ。後輩を見捨てる先輩なんか放っとこうぜ」
「だな。俺達は怯えて過ごすとしようか」
「宿へ帰る頃には名門の首輪が付いてるでしょうね」
「もしくは本戦に出場できなくなってるかも」
溜息……そして心から呟いた。
「「「「あ~やだやだ」」」」
「お前ら心抉るの上手いよな」
ま、文句は言えたし、そろそろ解放してやるか。
地元組は大丈夫だろうし、マリ達はシャロンが付いてるなら大丈夫だろう。
「まあ、行ってきて大丈夫っすよ」
「別に保険ぐらいにしか考えてませんでしたし」
「むしろ喧嘩とか引き起こしそうだから安心しました」
「エグラフさんに手綱握らせとこうぜ」
挙手……そして一言。
「「「「んじゃ、そういう事で」」」」
「先輩に対する敬意は知ってるよな?」
「尺が無いんで、その質問は後にしてください」
「だから尺ってなんだよ! おい!!」
吼える先輩を放置してシャロン達に近付く。
一応、分かってると思うがシャロンにも頼んでおこう。
「マリとイリーナを頼んだ」
「……屋敷に連れて帰っても良いのよね?」
「好きにしろよ。明日には返せな」
「はいはい。ついでにモーティも護ってあげるわ」
「今回ばかりは頼む」
俺達も人の事は言えないけど、モーティは絡め取られそうな印象だからな。
しっかりシャロンに護ってもらってほしい。
「良かったなモーティ、お持ち帰りだってさ」
「!?」
「そんなわけないでしょ。馬車で送り返すわ」
「……」
そりゃそうか。
・・
・・・
「皆様、今宵はお集まり頂き、ありがとうございます」
そのような言葉から始まり、ドリポート領主が挨拶を繰り広げる。
領主の家名はオーサというらしく、名門フラムグラス家の傘下にあるらしい。
つまりは上級貴族であり、この広大な領地を任される手腕と実績を持っているのである。
本来は名門勢力の治める都に3大魔法学校を建設するのは避けた方が良いらしいけど、都としての知名度が高いため、ここに建設されてしまったのだ。
つまりフラムグラス家の懐なわけで、ここの魔法学校に通う生徒は常にフラムグラス家が主体であった。
もう一つの名門はレイヴン家であり、他の名門と比較して仲が良いそうだ。
もっとも、腹の底では何を考えているのか分からない。互いに出し抜こうとしてるのかもな。
しかし表向きは一番協力的な仲として、この二家がドリポートへ通う傾向は強い。
ちなみにグランバス魔法学校はローレライ家とゼグノート家である。
こういった傾向は長い間保たれており、あまり名門勢力が混ざり過ぎないようになっているんだとか。
絶対ではないから、例えば来年にはフラムグラス家の者がグランバス魔法学校に入学するかもしれない。
そうなると色々と面倒な状況になってしまうだろうけど。
なんて話をハイクから聞いている内に、領主の話は終わったようである。
「それでは、ごゆっくり御歓談ください」
挨拶が終了し、以降は自由に過ごす時間となった。
この大広間以外にも利用できる場所が用意されており、小部屋や応接室なども使っていいらしい。
・・
・・・
「こんばんは」
「ん? おぉ、もしかして君達が例の出場者かね?」
「はい、今日はお招き頂けて光栄です」
「いやいや、私としては失念していたんだよ。ルドルフ殿の口添えあってのものだ」
「それでも主催は領主様ですので、是非お礼をと」
「気にしなくて良い。ただ、あまり本戦で活躍し過ぎないほうが賢明だと思うよ」
最後の一言は小声で囁きながら、領主が俺達から離れていった。
一応は招いてくれた相手だから挨拶しにきたんだが、なんとも微妙な人だな。
接しやすそうではあるけど、参加者達は名門揃いである。その場の空気に埋もれてしまって主催者という貫禄が出てない。
「まあ格上の相手が訪れてるからね、気苦労が絶えないんだよ」
「ですね。そっとしておきましょう」
「挨拶も済んだし、とりあえず飯でも食おうぜ」
そだな。後は気ままに過ごさせてもらおう。
……あ、尿意。
「俺トイレ行ってくる」
「じゃ俺も」
「僕も済ませておきましょうかね」
「誰が一番長いか勝負しようか」
「「「しません」」」
結局4人で便所に向かい、すっきり済ませてからは再び大広間へ。
が、油断していた。
誰にも話しかけられないように、近付く者が居れば離れていたんだ。
けどトイレから戻った際に一瞬の油断で周囲へ気を配り忘れ、その隙を逃がしてくれなかった。
「よく来てくれたね」
声を掛けられ振り返ってみると、そこには偉丈夫が佇んでいた。背が高く顔つきは頼もしく、若くありながらも熟達した雰囲気を滲ませている。
そして何より、強そうだ。
佇まいに全くと言っていいほど隙が無い。
「君達が本戦へ出場するという、噂の生徒だろう?」
「……まあ、はい」
声も良く聞こえる感じだな。周囲に散らばっている参加者達が振り返って注目するほど、無視できない存在感を放っている。
「ルドルフ・ローレライだ。卒業してしまったが、先輩として君達の健闘を祈る」
やっぱり、ルドルフか。
接触してくるとは予想してたけどさ、どうしたもんかね。
「ご招待いただき光栄です」
ハイクが礼をしながら応える。
俺より少しだけ前に出てきて、背中へやった手ではサインを送ってきていた。
このサインは動くな、という意味だな。
けど全くの不動でいろ、というわけではないだろう。
たぶんだが、余計な事を喋らないように黙ってろ、って解釈すれば良いんだろうな。
てことで残りの面子もハイクに倣って見様見真似の礼をしつつ静かにしていると、やがてルドルフが小さく笑った。
「そこまで警戒しなくても構わない。別に含むものなど無いのだからね」
「いえ、そのような心配などしておりません。あのご高名なルドルフ様にご招待いただけて緊張しているだけです」
「そう言われると歯痒いな。楽にしてほしい」
「はい」
「それに主催はフラムグラス家であり、私は参加者の一人だ。君達を招待する口添えはしたが、判断したのは領主だよ」
こんな畏まってるハイクを見たのは初めてかもしれないな。
言われた通り姿勢を楽にしていると、ルドルフが俺へと視線を投げかけてきた。
何も読めない目をしている。さっきの含むものは無いという話が真実であるかどうかも判断できない。
「ところで君達は好奇心が強いと聞いているが?」
「ええ。城へ入ったのも初めてですので、浮き立つような気持ちです」
「そうか。どうだろう、上からは良い景色を見られるが」
「魅力的ですね。機会があれば」
「それが良い。あの景色は何度見ても素晴らしいはずだ」
景色か。たしかに天辺から都を眺めてみたいな。
行けそうなら行きたいけど、どうなんだろ。
「そこの友人は物静かだが、どうし」
「久しいな」
俺が静かな事について何か言ってこようとしたが、そこで聞き覚えのある声が響く。
ルドルフの背後から近付いてきたエグラフさんだ。ケートス先輩も一緒に歩いてきていた。
「おぉ、エグラフ殿。学校以来ですな」
「ふん。多忙だと聞いていたが、観戦に訪れる暇はあるのだな」
「期待の旗頭を一目見たかったのですよ。しばらく会わない内に立派な姿になっておりました」
エグラフさんと並んで向かい合っていたケートス先輩が、俺達へ目で合図してくる。
今の内に離れろって意味だろうか。
それとも後ろからぶっ飛ばせという意味だろうか。
「では名残惜しいですが、これで」
「ふむ……また時間があれば話を聞かせてもらいたい」
「喜んで」
などとハイクが受け答えし、俺達を連れて場を離れた。
どうやらエグラフさんが引きつけてくれるようで、そちらに注目が集まっている内に離脱できたな。
「まさかトイレ行くだけで絡んでくる隙を与えるとは」
「油断できないよ。シャロンの側に居ても意味無いだろうし」
それな。ルドルフも同じローレライ家なんだから、シャロンが牽制できるわけじゃないだろう。
なんかマリ達が心配になってきたんだが、俺達にも余裕があるわけじゃないからな。
てことで俺達は小部屋にでも隠れようとなり、一応は伝えておくためにシャロン達の元へと移動。
すると既に貴族連中が数人、シャロンの側に集まっていた。
どいつも初めて見る顔だが、年齢としては成人してそうだ。
とりあえず近付いてみると、なにやら詰め寄っている。
「つれないじゃないか。以前から手紙を送っていたというのに」
「読んでいないわ。紙の無駄だから止めなさい」
「なんともまあ、胸が詰まって返事も書けないものとばかり」
「ある意味では詰まりっぱなしよ」
シャロンが苛立ってるな。
マリは何かオロオロしてるし、イリーナは我関せずって感じに佇んでる。
そしてモーティは他の男に絡まれていた。少し腰が引けてるけど頑張ってほしい。
「どうしたんだ?」
後ろで聞いているだけなのもアレなので混ざっていくと、シャロンへ話しかけていた男が鋭い視線を向けてくる。
「邪魔を……貴様は誰だ?」
「あ? 自分から名乗れよ」
「なんだと……口の悪い男だな」
おぉっと、ちょい考え無しに返事しちまったか。
ハイクとソマリは溜息吐いてるし、ラグなんか俺の脇腹を小突いてきた。
するとモーティに絡んでた奴らも集まってきて、少し不穏な空気が漂ってくる。
「いいだろう、こちらから名乗ってやる」
そう言って顎を少し上げ、堂々と名乗ってきた。
「パーティクル家修練世代旗頭、セイン・パーティクルだ」
「ん、よろしく。俺はルイス」
先に名乗られたならば仕方あるまい、と判断して俺も名乗り返す。
てかパーティクル家って名門だよな。旗頭って言ってたし。
すると訝しげな顔でセインという名門貴族が問いかけてきた。
「家名はなんだ?」
「へ? 家名なんて無いけど?」
「……」
お、なんか目が据わったな。どうしたというのか。
疑問に思っていると左右に控えていた配下らしき男女が前へ進み出てくる。
「貴様は庶民であるのにセイン様へ無礼を働いたな」
「万死に値します」
「えぇ~……」
嘘だろおい、万死とか言われちゃったし。
「俺が何か無礼したのかよ」
「セイン様が御歓談されている最中に割り込み、先に名乗れと命ずるのは無礼極まりないでしょう」
いや、だってさ……
「なんかシャロンが嫌がってたように」
「黙れ! 貴様の出る幕など無い!」
うっわ、こりゃマズいな。
どうしようかと視線を彷徨わせたが、ハイク達は知らん顔である。
薄情者ぉ!
「その男が無礼なのは今に始まった事ではないわ」
ふと凛とした声が響き、場の空気を変えたのはシャロンであった。
「私にさえ日頃から無礼な振る舞いをしているもの。セインに噛みつくのも当然よ」
「いや別に噛みついては」
「黙りなさい」
「あ、はい」
とにかく、とシャロンは腕を組みセインの配下へ諭すように告げる。
「処罰するなら私が先よ。けれど、この程度で罰するのも器が狭いのではなくて?」
「ですが」
「主を想っての行動であるのは理解しているわ」
配下の反論を遮るように、まるで言い聞かせるような口調で続ける。
「この場に招いたのはフラムグラス家よ。客人を勝手に処罰するなんて問題なの」
「ぐ……」
「よく考えなさい。あなた達の主人は罰するなど一言も発していないわ。器の大きい事よね」
「「……」」
ここまで言われてセインの配下は引き下がった。
再び主人の後ろへ控えて、俺を睨むようにしている。
「ふん、感謝する事だな」
「……」
セインが俺へ吐き捨てるように呟き、もう面倒になるのは勘弁だった俺は沈黙。
すると興味が失せたのか、またシャロンに向き直った。
「君が助ける価値など無いはずだが、何か理由でもあるのか?」
「言ったでしょう。処罰するとしても、日頃から無礼を働かれている私が先よ」
「ふ……だが、この程度では処罰しないと」
「ええ、あなたは違うのかしら?」
「どうだろうな。消す必要があるなら躊躇しない」
訂正。
興味失せてなかった。俺を消す気だわ。
「その言葉、覚えておいても良いのよ?」
「冗談に決まっているだろう。だが、そういった気分にもなる」
突然セインの腕が動き、シャロンの頬に触れる。
当のシャロンは眉一つ動かさず、無表情で相手を見つめるだけだった。
「俺は本気だ。良い返事を待っている」
「待つ意味など無いわ。お断りよ」
「……まだ時間が足りないか」
やっと頬から手をどけたセインは、最後に俺を一瞥して踵を返した。
「これから二週間ほどは滞在するだろう。近いうちに招待する」
こう言い残して離れたテーブルへ向かっていく。
その背中を見送りながら、俺は溜息を吐いた。
「はぁ~……なんだったんだ、あいつ」
「「「「バカ!」」」」
「いだっ!? いででで!」
皆が足を蹴ってくる。参加してないのはマリとモーティだけだ。
「何だよ! 俺が悪いのか?」
「当たり前ですよ。何してんですか」
「こんな自然体に喧嘩売るとか流石だね」
「どうして毎回のように馬鹿な真似するのよルイスは」
ひとしきり蹴り回され、明日の試合に響きかねないほど足が痛い。
仲間から暴行を受けてしまっては、もう信じられる者が存在しないじゃないか。
「マリ、モーティ……お前らだけだ、俺の味方は」
「えいっ!」
「いだ!」
こいつっ! 靴の尖った部分で踏みやがった……ほんと容赦ねえな。
「この靴動きづらいから、蹴りに行けなかっただけよ」
「そうかよ。なら別のを履けば良かっただろ」
「だって折角買ったんだもん」
「知らんがな。そもそも踏む相手が……」
あ、そうだ。
マリに構ってる暇なんて無かった。
「おいシャロン」
「何よ、ぽんこつルイス」
「さっきルドルフに絡まれた」
「見てたわ。エグラフに感謝しておきなさい」
あ~……まあ退避させてくれたもんな。
それには感謝してるけどさ、こっちで酷い目に遭ったから微妙な気持ちだ。
まだルドルフと話してた方がマシだったかもしれん。あっちは敵意とか剥き出してないし。
「まあいいや、とりあえず隠れとくから」
「何を言っているの?」
「俺ら挨拶は終わったしさ」
「そう……構わないけど、どこに隠れるの?」
「小部屋とか」
「やめておきなさい。密会だと捉えられるわ」
「じゃあ隠れる場所どこだよ」
「側塔か礼拝堂にでも行きなさい」
礼拝堂か。いわば神様を拝む場所だな。
けど俺達は信心深くないし、そんな奴らが篭ってたら神様とやらも迷惑だろう。
てことで側塔という場所に向かうとしよう。
塔って響きが格好良いからじゃない。ないったらない。
そう自分に言い聞かせつつ、周囲に誰も近付かせないような進路で大広間を出る。
通路で遭遇した使用人に聞いてみると、快く場所を教えてくれた。
「第三側塔からの眺めが綺麗ですよ。都を一望できます」
「おぉ……」
「もし絶海をご覧になるのでしたら、第一側塔へお越しください」
どうやら使用人を手配してくれるらしい。何かあれば近くに待機してるから呼べ、という意味だろう。
なんとも恐縮してしまうほどのサービスを実施しているようだ。
けど、気ままに隠れて過ごしたい俺達は使用人の配置を断っておき、教えられた第三側塔へと向かった。
「……お?」
それなりの階段であったものの、靴音を響かせながら側塔へと登っていく。
すると先客が居たようで、男女が密着しながら景色を眺めていた。
ル(戻るか)
ラ(だな)
ソ(賛成です)
ハ(了解)
邪魔しちゃ悪いかと思い踵を返そうとする。
が、向こうも靴音で気付いていたようだ。
すぐに振り返って、長い金髪を一括りにした男が話しかけてきた。
「やあ、僕だよ」
……いや、誰だよ。
次回・・・前夜祭 後半




