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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第四章 混迷の坩堝
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4_03_夢想の都 七対三の黄金比

こんにちは、日曜も投稿完了です。

予約投稿を何度か利用してみましたが、便利ですね。


あと、サブタイトルに”夢想の都”を付け忘れていました。付けておきます。







「はぁ~……」

「退屈そうですね」

「ソマリも退屈してるだろ?」

「まあ、そうですね。ハイクも寝てますし」



俺達は今、服屋に居る。


女性用の店であり、店内には連れの男性客がダレても大丈夫なように椅子が設置されていた。


そこに地元組の男子4人で座っているんだが、ハッキリ言って暇である。



こんな状況になったのは、昨晩にチャールスが俺の部屋を訪れたのが始まりだった。



ーーーーー



「ルイス、戻っているか?」

「お、チャールスか」



マリから話を聞いて、チャールスが夜に訪ねてくると知らされた夜。


皆で夕食を済ませてからは、夜の都を見て回る事もせず部屋で待機してたんだが、中々にチャールスが来ない。


そうこうする内に他のメンバーも俺の部屋に集まりだし、昼に見て回った都の話題なども出し尽くしたところで、ようやくチャールスが現れた。



「待たせたな」

「何の用事だったんだ?」

「詳しく説明したかったが、少し急用が出来た」

「は?」

「時間がないため、これだけ届けに来たのだ」



そう言って俺に手渡してきたのは、何かの書状と袋だった。



「何これ?」

「招待状だ。明日の夜、貴様らへ迎えの馬車を寄越す」

「迎えって……何の?」

「明日は対抗試合の前夜祭が城で開催される。それの招待状だ」

「しろ……城!?」



なんで!?

俺ら一般人なんですけど!?



「貴様らも出場するだろう。だから特別にと招かれるのだ」

「それって……」

「嫌な予感しかしないね」

「ですね」



城で開催されるのであれば貴族連中が主賓として招かれているんだろう。

となれば俺達は、名門が主役の行事に舞い降りた邪魔者って認識だろうからな。


どういう意図かは分からんけどさ、良い方向に転がると思えない。断ったほうがいいんだろうか。



「他の生徒会メンバーも招かれているから伝えておけ」


ん~……生徒会メンバーか。


ルドルフも居るだろうし、あんまり気が乗らないな。



「行かなきゃ駄目か?」


そう聞くと、マリが驚いたような声を上げる。



「行かないの!? お城よ!?」

「そりゃお前、ルドルフとか……」



あ、そうか。マリはルドルフについて知らないんだった。


しかしマリへ説明する前に、チャールスが怪訝そうな顔をする。



「ルドルフ様を知っているのか」

「まあな。あの傑物だろ」

「シャロンさんの叔父でもありますね」

「そうか……ならば話は早い」

「へ?」

「貴様らを招待しようと仰られたのが、ルドルフ様だ」


えぇ~……ますます行きたくない。


「私も出来れば参加させたくないが、仕方あるまい」

「仕方なくねえよ。どうせ歓迎されるわけじゃないだろ?」

「そこは不明だ。お人柄は知っているようだが、それだけで判断するのは早いだろう」



対抗試合の本戦出場者の健闘を祈る目的であるのだから、断るのも問題になるらしい。


自分たちは健闘する気がありません、って宣言するのと同義であるそうで、そんな解釈する奴が悪いと思うんだが……出るしかないと。



「その袋には支度金が入っている。明日の迎えまでに用意しておけ」

「はん? 何を用意するんだ?」

「服や装飾品だ。貴族でなくとも、身なりは整えておくべきだろう」



礼服である必要はなく、パーティーのような会として用意すれば良いらしい。


渡された支度金で買っておけという事なんだろう。装飾品まで買えるほどの額が袋に入ってんだな。

しかも中身は金貨だった。少し覗いてみたらザックザクで驚いてしまう。



「まあ、分かった」

「店の候補も渡しておく。この紙に書いてあるからな」



そうして手渡された紙には、5ヶ所ほどの店が記されていた。ここで買えば間違いは無いんだろう。



「了解。夜の何時ぐらいだ?」

「食堂が夕食を開始する頃合だ」

「分かった……あ、イリーナは招待されてないのか?」

「む…… 一人くらいであれば混ざっても分からないだろう」

「そか。じゃあイリーナも来るか?」

「勿論。楽しそうね」

「どうだろな」




こうして俺達は明日の夜に、城へ向かう羽目になったのである。

どうにも厄介な案件になりそうだと気を引き締めるのであった。




ーーーーー




……という経緯があって、俺達は翌日の朝から準備を開始した。



まずは男子連中が諸々の準備を済ませるべく候補の店を回り、昼過ぎになって今度は女子連中だ。



こっちは6人であるのに対して、女子は2人なのだから早く終わるだろう。



そう考えていたが、甘かった。



かれこれ3時間ほども店を渡り歩き、しきりに購入候補を品定めしているのだ。

モーティは必死に食らいついてマリ達と語り合ってるけど、女物とか分かるのだろうか。



そしてケートス先輩は先に宿へ帰ってしまった。根性なしである。



とはいえ、俺達4人……地元組は既にダレきっているのでケートス先輩を扱き下ろすべきじゃないのかもな。




それにしても退屈だ。



……よし、仕方ない。



「ラグ、こっち向いてくれ」

「あ?」

「「ぶはっ!!」」



俺とソマリが顔を向けてきたラグを見て吹き出す。


というのも、今のラグは整髪剤でカチコチに固めた髪を七三に分けているのだ。何度見ても面白い。


普段のオールバックの髪型じゃないから違和感が凄いな。眼鏡でも装着しようものなら、胡散臭い見た目の他人にしか思えないだろう。



実は、男子連中は髪を整えたのだ。

少し量を減らすぐらいだったが、それじゃ面白くない。



だから賭けをした。負けた者は罰ゲームとして変な髪型にする、という決まりで。


賭けの方法はチャールスから渡された金貨袋を使ったんだ。中に何枚あるか数えていなかったからな。


順番に最小1枚、最大3枚を袋から取り出していき、最後の1枚を掴んだ者が負けというルールを採用した。



んで、結果はラグの負け。

罰ゲームとして潔く七三になってもらったのである。



髪の量は少し減らした程度だから、いつでも普段の髪形に戻せる。

しかし今日はコレで過ごしてもらうとしよう。




というわけで、今のラグは見るだけで笑える存在として重宝していた。


この退屈な時間に限界が近付いたら、こうして笑わせてもらうのだ。もう5回目だけど、おかげで何とか耐えられている。



「お前らな、そろそろ飽きろよ」

「いや、無理だろ」

「ですね。また限界がきたら笑わせてもらいます」

「くそ……ダサすぎだろコレは」



そんな事言うなって。たとえダサくても、救われてる者が居るのだから。



・・

・・・



「お待たせ」

「ん、やっと終わったか」

「少しは一緒に見てくれたら良いのに」

「いやさ、そうしようと俺も思ったんだけどな」


10分で限界だった。座って呆けてる方がマシだと思うぐらいに疲れる。



「はい」

「ん?」



マリが装飾品を手渡してきた。

片翼の形をしており、小さめで邪魔にはならない程度だな。


銀か何かで作られているらしく、眺めてみると意外に精巧な作りである。



「これ、どうしたんだ?」

「生徒会メンバーで付けましょうよ」

「シンボルマーク的な?」

「そうそう。学校に残った先輩達の分も買ったの」



なるほど、翼ね。

生徒達の飛躍を助ける生徒会ならではのシンボルマークだ。


そう考えてみると、なんだか誇らしく思えてくるな。



早速だが腰のベルトに装着してみる。


「……どうだ?」

「うん、似合う」



ここで良いのか分からんけど、本当の翼みたく肩甲骨らへんに付けるわけじゃないだろう。片翼だしな。



まあ似合っているようだし、他の生徒会メンバーも同じく好きな場所へ装着し、互いに見比べる。



「「っふ……」」

「あ?」

「ごめんなさい、笑っちゃ悪いと思うんだけど……」

「こっち見ないでラグ……っふふ」

「ちくしょう! 覚えてろよ!」



締まらねえなあ……




ともあれハイクも起き、視界へ入ったラグの髪型に笑った後は宿へ戻る。

迎えの馬車が来るだろう時間が近付いたら、今回購入した服を着ないとな。




と思いきや、イリーナとマリは途中で別行動となった。他にも買いたい物があるし、髪も整えたいらしい。


モーティに任せて地元組は宿へ戻り、ケートス先輩を探す。

けど見付からなかったため、外へ出ているんだろうと判断して4人で話し込んだのであった。




・・

・・・



日が暮れ始め、そろそろ飲食店も賑わい始める頃。


俺は部屋の窓から外を眺めながら着替えていた。2階からだし、別に誰も見咎めないだろ。



にしても俺の服はイリーナが選んだけど、着るのが面倒だな。


なんか襟元とか硬いし、呼吸しづらい。袖とかもボタンを留めるのが難しい……片手しか使えないしさ。



「ルイス居る? 入っていい?」

「ん? おう、いいぞ」


イリーナか。着替えに苦戦しすぎて気付かなかった。


「入るわね。ちょっと後ろを結んでほしいんだけど」

「お……おう」



部屋に入ってきたイリーナは、ワインレッド色のドレスを着用していた。

少し肩が出ており、そこが妙に色っぽくも思えるな。


下は足首までの丈か。この季節は短くしないと暑いのではないだろうか。


髪型が普段と違っており、ウェーブさせたらしい。

ウェーブとは何かが分からなかったが……少し波打つようになっている、って意味なんだろう。



で、今は俺の前で背中を向けており、どうやら紐を結んで欲しいようだ。



「ん~と……これでいいか?」

「ありがと」


快く了承して結ぶと、イリーナは礼を言って結び目を手で触り……騒ぎだした。



「え、ちょっと! この結び方なに!?」

「へ? 固結びだけど」

「バカ! 解いて!」



そして怒られた。

だってさあ、これぐらいしか結び方知らねえし。


苦心して解くとイリーナは溜息を吐きながら、俺の袖のボタンを留めてくる。



「ルイスに頼んだのが間違いだったわね」

「予想できただろ」

「感想を聞くついでに結んでもらおうと思ったのよ」


マリに結んでもらえっつの。


「それで、どう? 似合う?」

「おう、似合ってる」

「ふふ……そっか」



イリーナは可愛らしい顔立ちであるけど、雰囲気は大人びてるからな。こういった色も似合うんだろう。


化粧を控えめながらも施してるし、なんだか一気に綺麗方面へ偏った気がする。



「マリは可愛い系にしたの。期待しておいて」

「了解……ん?」

「どうしたの?」

「イリーナさ、これ付けないのか?」



今は胸へ装着している自分の生徒会シンボルを示しながら聞くと、イリーナは不思議そうな顔で答えてくる。



「これは生徒会メンバーの象徴でしょ?」

「別に拘らなくても良くね?」

「そうなのかなぁ……」

「イリーナ~? どこ~?」


ふとマリの声が聞こえてくる。イリーナを探してるようだな。


「ここよ、ルイスの部屋」

「は~い」


ノックも無しに入ってきたマリは、俺達を見て目を輝かせた。



「すごい! イリーナ綺麗だね!」

「ありがと。マリも普段より増して可愛いわよ」

「ふふ~」


上機嫌だな。新しい服を買って、普段はしない化粧までしてんだから気分高まるのだろうか。


マリは膝下ぐらいまでの丈がある薄桃色のドレスだな。

腹あたりに大きいリボンが付いてるけど、何の意味があるのだろうか。


髪型はイリーナと同じように少し波打っており、普段は後ろへ垂らしているポニーテールを肩から前に持ってきてる。

この前に港町で買った髪留めも装着してるな。



たしかに可愛らしさが前面に出ていて、そこまで期待していたわけじゃないけど納得であった。




「ルイスは見違えたね!」

「ん? そうか?」


俺が着てるのはタキシードって服らしいけど、自分じゃ分からん。ネクタイとかも首絞まってる気がするし。



「あ、でも髪がなぁ」

「弄りましょうか」

「整髪剤持ってきてるよ!」

「え、おい」



断る隙もなく2人に髪を弄り回される。


そのまま棒立ちしていると、しきりに相談しながら悩んでいた。



「んん~……ふわっとさせる?」

「それよりは流す感じが良いんじゃないかしら」

「なるほど。あ、でもツンツンさせてみたい」

「面白そうね。ここを跳ねさせて……」

「あはは! 可愛いね!」



訂正。

悩んでない。遊んでたわ。



「どうでもいいから早くしてくれ」

「はいはい、そんな顔しないの。男前が台無しよ?」

「ね~、折角ビシッと決めてるんだから顔もキリッとしなさいよ」


さっきからツンツンとかビシッとかキリッとか、何も伝わってこねえ。


「……よし、これで大丈夫かな」

「流し気味のツン跳ね完成~」


なんじゃそら。


「混ざりすぎて余計おかしくなってないか?」

「そんな事ないわよ。似合ってるから」

「うんうん、いつも髪型こうしたらいいのに」

「他の男子も整えましょうか」

「そうね。次はソマリにしよ!」



楽しそうにしながら2人が部屋を去っていく。


が、忘れてるようなので言っておこう。



「マリ、イリーナの背中に紐があるから結んでやってくれ」

「は~い」

「あとさ、この装飾品もイリーナに渡しとけよ?」

「渡したよ? イリーナ付けないの?」

「ふふ……それじゃ使わせてもらうわね」



なんだ、もう渡してはあったのか。そこまでされたなら遠慮しなくて構わないだろうに。



そうして見送り、俺は他の男子が一体どんな髪型にされるのか想像しながら待機していた。


ちなみにラグは七三に磨きがかかってており、今夜は大いに威力を発揮するだろうと思う。

本人は乗り気になれないようだが、笑われる分だけ目立つから本望だろ。



てか他の生徒には見付からないようにしないとな……なんか気合い入り過ぎた格好だから恥ずかしい。





・・

・・・





「……なあ」

「黙りなさい」

「いや、あのさ」

「もう少し堪能させて」

「……」



今、俺達は豪華な馬車に乗って城へ向かっている。


皆が準備を済ませた頃合に迎えの馬車が到着したから、スムーズに乗り込めたんだ。



宿の入り口でジャホース達に見付かってしまったけど、ラグを前面へ出して爆笑させている内に乗り込みが完了。


最後に飛び込むかのごとくラグが乗車し、出発となったのである。

なんか目元が光っていたような気がしたけど、まあ気のせいだろう。



馬車は2台用意されており、こちらには何故かシャロンが既に乗っていた。


同乗したのは俺、ハイク、ラグ、ソマリ、マリの5人であり、乗る際にソバスという名の老執事に誘導されたのだ。


他のメンバーはもう1つの馬車に案内され、こうしてガタゴトと進んでいる。



それにしてもソバスって……たしか家名もあってチャン家だったかな。


つまりソバス・チャン。ハイクと一緒に首を捻っていた。



なんか歯痒い……少し違うというか、惜しいというか……



しかし考えても答えは出なかったため、とりあえず忘れようとしたのである。




……で、そんな事より気になるべきは、シャロンが同乗している件についてだ。


第一防壁内で過ごしているはずなのに、どうして第二防壁内の宿を経由する馬車へ乗っているのか。



それを聞き出そうとしたんだが、黙れと返されるだけだった。


さっきからマリを隣に座らせて眺め回している。たまに頭を撫でたり……挙動不審だな。



「ねえシャロン、どうしたの?」


お、ようやくマリが疑問を持ったな。文句でも言ってやれ。


するとシャロンは溜息の出そうな声音で呟きを返した。



「気苦労が多くて疲れてるの。もう少し休ませて」

「そっかぁ。大変なんだね」


同情しちゃったよ。話が進まないじゃんか。


「イリーナは良い仕事したわね。今日は飛び抜けてるわ」

「ん? なにが?」

「今晩は私の屋敷に泊まりなさい」

「いいの!?」

「ええ。歓迎するわ」

「イリーナも一緒でいい?」

「勿論よ。3人で夜更かしするのも悪くないわね」

「やったあ!」


おい!


「お前は試合あるだろ。夜更かししてる場合じゃなくね?」

「ぽんこつルイスは黙っていなさい」

「うっせえよ!」


イリーナだな……ぽんこつ広めたのは。



「それで、何かあったんですか?」


いい加減に我慢の限界だったのか、ソマリが尋ねる。


そこでシャロンは仕方なしといった様子で答えてきた。



「今から説明するわ」

「どうせリン絡みの話だろ?」



ラグが明後日の方向を見ながら声を出す。

シャロンから顔を向けるなと言われて、ずっと馬車の窓から外を眺めているのだ。


今のラグは真面目な空気を一瞬で吹き飛ばすからな。こうする他あるまい。



「髪型が変わると察しが良くなるのかしら?」

「ラグは元から察しが良いですよ」

「そうなのね……七三の言う通り、リンに関してよ」

「名前で呼べよ!」



ラグが吠え、顔を向けられてしまったシャロンはマリと一緒に目を逸らした。



「っふふふ……ごめんな、さい。謝るから、っふ……こっち見ないで」

「んんっ……ラ、ラグ……あっちムフフフフフフ」


「だああああ! そんなに面白いかよ!! ぁあ!?」

「ラグさあ、真面目な話だから空気壊さないでくれないかな」

「俺の顔を見て言えよハイク!」

「それは無理。外でも眺めてて」



今宵のラグは人を笑かす事に飢えておる。



てことで七三には引き続き車窓から外を眺めてもらい、俺達は詳しい話を聞く事となった。



「で、リンがどうした?」

「あなた達に預けておく予定だったのだけれど、変更するわ」

「というと?」

「グランバスへの帰還予定日まで、リンには単独行動をしてもらうのよ」



単独? いいのだろうか。



「何かあったのか?」

「ルドルフを知っているかしら?」

「……知ってる」



昨日からルドルフについて聞く機会は幾つかあった。



一般の生徒会長を認めないだろうって話と、嘘みたいに優秀だという話。


「あとは僕達を前夜祭に招待した人物ですね」

「それはチャールスから聞いたようね」

「おう。どういう意図かは分からんけどさ」

「それは私にも分からない。けれど、あなた達がルドルフに目を付けられた以上はリンを預けたくないの」


どうやら叔父であってもルドルフにはリンの存在を察知されたくないようだな。



ただでさえ俺達は本戦への出場が決まって注目度も高まっている。


それだけならマリとかモーティとか、出場しないメンバーに預ければよかったんだが、ここにきて生徒会メンバーという範囲までもが前夜祭に呼び出された。



そうなると残るはイリーナぐらいだが……



「悪い、イリーナ連れてきちまった」

「問題ないわ。元より計画を変えるつもりだったもの」



そりゃそうか。イリーナに預けるつもりなら、チャールスへ伝えさせるだろう。


つまり今回は俺達全員にリンを預けられないと判断した、って事だな。



「それで、リンは単独で動いても大丈夫なのか?」

「別に何もさせないわ。隠れて過ごさせるだけよ」

「そか」


まあ、それが可能であるなら安全なのかも。


「既にリンは第三防壁内の爽風亭という宿に移させたから、帰還予定日まで会えないと思っておいて」

「仕事が早いな」

「そうかな? むしろ遅いぐらいじゃない?」


ハイクが遅いと断じてくるけどさ、そうでもなくないか?



「俺達がルドルフと接触する前に計画変更できたんだし」

「そもそもルドルフが来るって分かってたら、リンさんをグランバスへ置いてこれたでしょ」

「……」



正論なんだけどさ、そんなの分かるのか?


「事前に情報を集めるのは名門にとって常識。なのに掴めなかったんだよ?」

「それより前夜祭についてよ」



シャロンが話を断ち切り、俺達に注意を促してきた。



「きっと今夜は名門の各勢力から接触されるはず」

「なんで?」

「本戦出場を果たした一般人。駒としては貴重だから、ですね」

「そうよ。影の仕事は無理でも、他に使い道は沢山あるもの」



つまりは勧誘ってわけか。


まだまだ若くて将来性もあり、実力は既に若き名門勢力と張り合えるほど。


そして一般人という身分は、余計な拘束を伴いかねない貴族と違って動かしやすく、物件としては優良であるらしい。



「どれぐらいの値段になるのかな?」

「契約金とすれば黄金貨10枚でしょうね。年俸は最大で30枚ほどに届くと思うわ」


なるほど、つまりアレだな。


「全然足りねえわな」

「だね。そんな金額じゃ1日1時間しか働きたくない」

「あなた達は金銭感覚が壊れてるわね」



いやいや、金額としては凄まじいって分かってるんだけどさ、要は就職って意味だろ?



そうなると納得できないんだよな。



「一生をかけて勤める理由が金だけって、嫌じゃん?」

「ですね。やりたい事を諦めるのは早い気がします」

「現実を見れば早めに就職先を決めるのも悪くないんだけどね」



などと話していると、ラグが呟いた。


「この髪型で勧誘されると思うか?」

「「「「「……」」」」」



それは……大丈夫だと思うけど、絶対とは言えない。




「とにかく、誰に勧誘されても断りなさい」

「言われなくても断るけどさ、なんで?」

「既にリンの素性を知っているからよ」

「てことは、モーティとかケートス先輩は勧誘されても構わないのか?」

「モーティは人気が出ないでしょうね。まだ活躍が少ないもの」

「あ~……」

「そしてケートスは既にゼグノート家が牽制の動きに入っているわ」


おぉ……幾らで競り落とされるんだろ。


「きっとエグラフさんが唾つけてる感じだろうね」


なんだかんだで仲良さそうだもんな、あの二人は。



「てかさ、本戦へ出るなとか言ってきたりは?」

「既に出場が決まってるんだから、直接の妨害はしないよ」

「じゃあ負けるように手抜きしろとか」

「それはあるかもね」


ただ、そのためにも取り込んでくる方向だろうってさ。裏で手を組んで協力してくれないか、みたいな話になるんだろうか。




「そういえば……マリって勧誘されるのか?」

「名門の資産を食い潰した、ってなれば面白いんですけど」

「なるわけないでしょ!」



まあな。最近は食い意地キャラから離れてきてるし。


いや、それ以前にシャロンが黙っていないだろうな。



「マリは私のよ。誰にも渡さないわ」



こんな事言ってるし。





さて、最後は緩い空気になってしまったものの、そろそろ到着するようなので切り替えるとしよう。


これから名門の集う場へ出陣するんだ。厄介事にならないよう注意しないとな。




次回・・・夢想の都 前夜祭 前半

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