4_02_夢想の都 不穏な気配
こんにちは、やっと土日です。
二日間でストックを整えつつ、せめて週末は毎日投稿出来るようにします。
「うひゃあ~」
俺達はドリポート到着から二日目にして、第三防壁内に足を踏み入れた。
所定の宿へ向かう際も通ったんだが、あまり眺める時間なんて無かったからな。
で、今回改めて見渡せば、船舶エリアから卸された品々を運んでいる人だったり、交易品を捌いている喧騒だったり……凄まじい活気に満ちていた。
第三防壁の入退場門には関所が設けられているが、その正面には大通りが延びている。
そこの両端を所狭しと様々な店が埋め尽くしており、扱っている品も色とりどりだな。
今朝早くに獲れた魚なんかも既に市場へ流れているらしく、日の光を鱗が反射して鮮度抜群に見える。
「あっちで刺身の試食してますよ」
「向こう見てみろよ! でかい魚の解体ショーやってるぜ!」
「あの壷さ、運気招来とか書かれてるんだけど……」
「魔石まで露店で売ってるな。大丈夫なのか?」
人通りも多く、固まって動かないと押し流されて迷子になってしまいそうである。
そんな中を男6人で掻き分けながら進み、目に付く品々へ興味を露にしていると、露店の店主が話しかけてきた。
「兄ちゃん! この短剣どうだい!?」
「お、なんかキラッキラしてんな」
刀身が輝いている。眩しいわけじゃないけど周囲を少し照らす程度なら可能かも。
「これはエルフの国で作られた品でよ、刀身に光系統の魔石を練り込んでんだ」
「へえ、そんな事が出来るのか」
「製造方法は公開されてないが、こうやって完成品を流すことはしてるみたいだぜ?」
「ふ~ん。で、ずっと光るのか?」
「おうよ、解錠式だがな。けど魔力は自動で補充されるんだ」
一回起動すると20分ほどは光るらしい。暗い場所で周囲を照らす事が出来るものの、それだけの用途だな。
武器としての性能は期待できないらしいし、要は珍品という扱いだ。
で、魔力が切れたら2時間ほど放置しておけば再び使えるんだとさ。
魔石が劣化してしまえば使えなくなるけど、耐用年数は3年ほどであるらしい。
「どうだ? 金貨2枚で」
「高っ! 買わねえよ」
「んな馬鹿な! 本来なら5枚はする代物なんだぜ?」
性能的には少し照らすぐらいだろうに金貨……それも5枚とは。
これほどの値段なのは製造方法が公開されてない他国の品であるからだ。
国が買い取って研究したいんだろう。だから税金を高く設定して、誰も買わないぐらいの値段になっている。
安くしても金貨2枚までという取り決めであるようだし、よほどの事が無ければ売れ残って国が買い取る。
そうハイクから聞き出して、俺は買わない事にした。銅貨3枚ぐらいなら買ったけどさ。
「売る気が感じられないよな」
「収集家とかは垂涎ものだと思うけどね」
まあ貴族っぽい人も多く行き交っている。こういった珍しい品を目当てにしているんだろうな。
そうして他にも見て回りつつ歩いていると、やがて閑散としてきた。どうやら露店が集積している場所から離れたようである。
「ここらへんは何があるんだろ?」
「広いスペースばかりだから、騎士とか兵士の訓練設備じゃないかな」
「お、遠目に見えるぜ」
「……あ~、訓練してるな」
なるほど、ここらは訓練設備が多いんだな。俺達としては見所がない。
周囲は広大な更地だったり、宿舎のような建造物が点在している。非番であれば自宅へ帰るだろうけど、警備とか出動の際に利用するんだろうな。
てことで、遠目に訓練している誰か達を眺めながら素通りしようとした。
だが、近くの宿舎から2人の騎士が出てきたのである。
1人が赤を基調として青の模様が入っている騎士甲冑。もう1人は紫の基調だった。兜を外してはいるが暑そうだな。
「赤基調がフラムグラス家……ここの領主関係者でもある名門の騎士団だ」
ケートス先輩が教えてくれる。さっきまでも見かけたから、そうだろうとは思っていた。
「紫色は何処の騎士ですか?」
「たしか他の名門……ローズ家だ」
さすが騎士を目指しているだけあって、甲冑を見ただけで所属が分かるようだ。
にしても名門の騎士とは……休暇で遊びに来てるんだろうか。いやでも、それなら甲冑ではなくて私服じゃねえのかな。
「君達、こんなところに何か用かね?」
「あ、ども」
見つかってしまい、フラムグラス家の騎士が俺達に話しかけてきた。
正直に観光しながら歩き回っていると伝えたら、色々聞いてくる。
「一般人か?」
「あ~……はい、そうです」
ハイク……まあ一般みたいなものだから構わないか。
「ふむ、魔具を所持しているようだが冒険者ではないのか?」
「冒険者ですけど、学生でもありますよ」
ソマリが答えたが、冒険者としての自覚を持っていたのか。
まあ一緒に依頼を受けたんだし、そういうもんなのかな。
「学生? どこの学校だね?」
「グランバス魔法学校。対抗試合で来てんすよ」
ラグが返答すると、少し驚いたような顔をしている。
「ほお、君達はグランバス魔法学校か。という事は、ローレライ家かゼグノート家の従者として同行したのかね?」
「いや、本戦に出場するんです」
俺が答えると尚更に驚いたようだ。
「本戦!? 君達が?」
「ま、自分でも信じられないんですがね」
ケートス先輩が頭を掻きながら答える。今までは個人で出場する事はあってもチームでは無かったらしいからな。
「うぅむ……前代未聞だな」
「へ?」
「いや、一般の生徒が本戦へ出場するとは聞いていたが眉唾だと思っていたのだよ」
それはまあ、そうだろな。
クリストフ先輩から聞いた感じだと、名門の支援ありきな出場らしいけどさ。
「まあ頑張りなさい。身分がどうだのと言うつもりはない」
「ども」
「む、来たか」
ふと、ここで俺達の後ろへ騎士が目を向ける。
釣られて振り返ってみると、色とりどりの騎士達が歩いて近寄ってくるのが見えた。
緑、黒、黄、白……それぞれ基調となる色が違うな。
「あれ全部名門の騎士団だ」
「え……なんで大集合してんの?」
「護衛だろ。対抗試合を見に来る名門達のな」
などとケートス先輩が予想を出すと、先ほどまで話していた騎士が肯定してくる。
「その通り。生徒達の護衛は別の騎士団だが、ご観覧される方々は私達が護衛してきたのだよ」
「てことは……名門の現役世代とかまで集まってんすか?」
「勿論だ。流石に全員ではないがね」
俺達を護衛してくれたのはグランバス領主が保有するグランパレス騎士団だが、ローレライ家とゼグノート家の騎士団も本拠地から向かってきたらしい。
つまり名門生徒達の家族が来てる、って事だな。全員じゃないというのは当然の話なわけで、政務を抜けてくるのだから1人か2人が限界だろう。
「では、これから我々は打ち合わせを行うのでな」
「まったく……冒険者に任せれば良いものを」
「そう言うな。時間を持て余すより有意義ではないか」
冒険者?
「何があるんですか?」
ソマリが騎士を見上げながら尋ねると、少しだけ苦い顔を見せてから答えてくれた。
「実はだね、六家の騎士団で協力してダンジョンを破壊するのだよ」
ダンジョン……ものすごい好奇心を刺激される響きだ!!
なんてな。それくらい知ってる。
ダンジョンというのは、冒険者で知らない奴は一から出直した方が良いってぐらい有名だ。
俺だって存在としては知っているが、まだ入った事の無い魔窟である。
内部は不思議な事に、照明を持つ必要が無いほどに明るい。
常に魔物が蔓延っているし、ダンジョン内部で生まれる魔物もいれば外から侵入してくる魔物もいるんだ。
そして内部構造は複雑奇怪であり、流砂があったり天井が落ちてきたりと様々な現象が確認されている。
山の麓にあるダンジョンで下に降りているはずだったのに、気付けば山の頂上に出てきてしまった……なんて話もあるくらいだな。
こういったダンジョンは全て違った内部構造をしているんだが、共通点はある。
明るくて魔物が居るという基本的なこと。
そして、死体が消える、マジックアイテムが見付かる、災厄が出てくる、コアを破壊すると機能を失う……などなどの不思議現象も共通しているんだ。
普通は魔物が蔓延る上に溜まり場となってしまうダンジョンは破壊するのが常識である。
しかしながら、マジックアイテムという存在のために国が管理する事になっていた。
マジックアイテムというのは、魔具や魔武みたいに魔法的な機能が備わった物である。
棒切れにしか見えないのに振ると火球が飛び出したり、周囲の光を消すランプだったりだな。
人が作る魔具と違って常識が通用せず、暴走などは事例が無いものの、所有権や使用許可を巡って争いが起こった過去はある。
例を挙げるとするなら”浄化の杖”なんかが有名だな。
どんなに濁った水でも、杖を浸けて掻き回すだけで綺麗になるんだ。
ただし、これには厄介な真相がある。
浄化したつもりの汚れが、実は別の水に移るだけだったのだ。
動物のような身体的特徴を持つ牙族が発見して使用していたんだけど、その反面で他種族の水が汚されていたのである。
それが国家問題まで発展し、使用禁止として扱われた。
てなわけで厄介な効果の物もあるが、本当に有益な物もある。
マジックアイテムは発見者に所有権があり、国家の調査を経て問題無しとされれば返却されて所持する事ができるのだ。
売り捌いて遊んで暮らしてる元冒険者だっているし、およそダンジョンに入る者はマジックアイテムが狙いである。
もし発見しても国へ報告しなかった場合は処罰の対象になるから、取り扱いには注意が必要だけどな。
ともあれマジックアイテムという魅力的な産物があるため、ダンジョンは全て破壊される事無く管理されている。
しかし”災厄の顕現”なんて現象があるから、全て破壊すべきだという世論も一定数出ているんだ。
”災厄の顕現”とは、時期も条件も不明な現象であり、これが発生すると天変地異のような事態に発展する事もある。滅多に発生しない現象だが、危険度は国が動くほどだな。
ダンジョンの奥深くから”災厄”と呼ばれる存在が出てきて、生物を見付けると問答無用で襲いかかってくるんだ。
強さは個体差が激しいものの、古いダンジョンであるほど強力になる傾向らしい。
ダンジョン内部を動き回る個体もあれば、外に出てきて付近を暴れ回る個体もある。
生物ではないのに知能を持ち、魔法技術や身体能力は魔族ですら凌駕するほど。
いつしか消えてなくなるし物理も魔法も効くから討伐は可能だけど、それまでに目も当てられないほどの損害が出るだろう。
自然現象とされているが、破壊したダンジョンの跡地から”災厄の顕現”が発生した事例は無いため、人里近い場所に出現したダンジョンは即破壊が推奨されているのだ。
てことは……
「都の近くにダンジョンが出現したんですか?」
「近くではなく、まだ第七防壁内に3ヶ所も残っている」
「えっ……」
「折角に集うのだから、暇を持て余すより働けと王家からのご命令があったのだよ」
もうすぐ公開される情報であるため俺達に教えてくれたんだが、第七防壁が先に完成したために内部へ残されたままのダンジョンが3ヶ所あるんだとさ。
どれも建造物が周囲に存在しないため破壊は後回しにされていたが、騎士団が集う機会に全て破壊しておくよう命令が下されたそうだ。
つまり、王命によるダンジョン破壊任務である。
「ちょい勿体ない気もするけどな」
「リスクが高すぎますよ。さすがに防壁内はマズいですって」
「その通りだ。後回しにされていたのが信じられん」
これからダンジョン破壊任務について各騎士団の代表者達で打ち合わせを行うらしい。
集合場所へ先に到着したのがフラムグラス家とローズ家の騎士団だとさ。
「待たせたな、規律が乱れたもので処理をしていた」
そうこうする内、合流してきた色とりどりの騎士達。
規律がどうのと言っていたのは白基調であり、ケートス先輩が小声でローレライ家だと教えてくれた。
てことはシャロンの実家が保有している騎士団か。兜をしているから表情は不明だが、どうにも口ぶりから厳しそうな顔を予想してしまう。
「いや、我々も先ほど到着した。問題無い」
「そう言ってくれるな。久しぶりに飲む口実が作れないではないか」
「なるほど、では半日も待たされた事にしておこう」
「これはこれは……朝まで奢っても足りなさそうだな」
なんだか仲良さそうに話してるな。
名門六家の騎士だから仲悪そうだとか想像してたんだが。
「ん? 何か気になるのかね」
思ったことが顔に出ていたのか、フラムグラス家の騎士が声を掛けてくる。
「あ、いや……仲が良いんだなあって」
ちょい気不味くなりながらも思った事を一部伝えると、面白そうに笑われてしまった。
「ふはははは! 誰もが同じように考えるよ」
「へ?」
「名門六家の騎士なら仲が悪そう、とね」
すると他の騎士達までもが笑い出す。どうやら共通の笑いの種らしい。
ひとしきり笑った後で、兜を外した白騎士が教えてくれる。
予想に反して優しげな顔だった。
「隊長格になると王都へ召集されるのだ」
「王都、ですか」
「うむ。騎士は領主に仕えているが、同時に国家の平和を護る盾でもある」
だから所属に拘らず、同じ志を持つ同志として信頼を結ぶように、と王家から命じられるそうだ。
主人は領主だが、その主人は国に……ひいては王家に仕えている。
遥か雲の上にいるような存在であり、従うしかないだろう。
それに王都へ滞在している間は常に一緒の行動を促され、そうする間に打ち解けていくみたいだ。
「それでも対抗意識が捨てられない者も居るがね」
「我々は信頼を結び合えた仲だというわけだ」
そっちの方が良いよな。互いに威嚇してしまうような関係より、こうして再会しては飲みに行くような関係が好ましく思う。
主人である名門貴族達も同じように仲良くすれば、と思うが無理なんだろうか。
「もう配置は済んだか?」
「問題ない。明後日からは俺も指揮を取るが」
「少ない休暇だな」
「うむ。まあ、護衛の任よりは刺激的だろう」
「おいおい、あまり良い言葉ではないぞ」
「事実さ。俺なんかよりルドルフ様が強いんだから、どちらが護衛しているのやら」
「ほお、今回はルドルフ様か。たしかに護衛は不要かもな」
と、話し込んでいるのを聞いていたが、ローズ家の騎士が上空を見上げて話を打ち切る。
「日も高くなり始めた。そろそろ打ち合わせを始めよう」
「うむ、そうだったな」
「では失礼するよ。訓練を見るならば近付き過ぎないように」
試合頑張れ、と言い残して騎士達は宿舎へと入っていった。きっと今から打ち合わせとやらが始まるんだろう。
俺達は別に訓練が見たいわけじゃないから、別の場所に向かうかな。
あ……でもケートス先輩が騎士志望だから、参考にしたいとか考えてるかも。
「先輩、見ていきます?」
「……」
ケートス先輩に呼びかけると、気付かないほどに考え込んでいる。どうしたんだろうか。
「先輩」
「……」
「脳筋先輩!」
「脳筋言うな!」
「お、やっと気付いた」
「どうしたんすか?」
「いや、ルドルフが来てると聞いたからな」
ルドルフ? さっきローレライ家の騎士が言ってたな。
護衛の必要が無いとか職務放棄みたいな話だった。
「そういえばルドルフって、あの傑物だったね」
遠目に見える訓練の様子を眺めていたハイクが振り返って、思い出したように言う。
傑物って単語は聞いたことあるな……
「そうだ。ルドルフ・ローレライ……継承世代五期の傑物だな」
「生徒会長四連覇でしたね」
「ああ。面倒な奴だったから関わらなかったが、強いのは確かだ」
皆で露店が集まっている場所へ引き返しながらケートス先輩の語る話を聞く。
するとルドルフって男が本当に実在するのかどうか怪しくなってきた。
生徒会長四連覇を果たし、それも最後の1年は最上級生として政界に出る準備を進めていたのに指名されている。
ほとんど学校へ来ないのに、在学している他の名門貴族を差し置いて、だ。
それを実現したのは当然のように一能ではなく、学力では常に主席を維持しながら、武術も右に出る者無しだったという評判だと。
魔法だって蓄魔石さえあれば特級を扱うほどに練達していて、系統は珍しくない水であったものの、反動なんて一度も起こしたことが無いそうだ。
しかも容姿端麗で良く通る声。人の上に立つ者としての風格を持ち、政治に関しても弱冠15歳当時で当主から認められていた。
卒業直後に領地経営に関して引継ぎを始めるほどであり、本来であれば家の政治に関わるタイミングが遅れがちな周期なのに、もう前線で活躍する手腕を持ち合わせている。
まさに天から二物も三物も与えられた選ばれし存在である、と。
「盛りすぎじゃないっすか?」
「事実だ。エグラフも張り合えるほどだが、正面から立ち向かわなかった」
エグラフさんも臆して後手に回り続けたわけじゃないだろうけど、当時はケートス先輩と同じで相手にしなかったらしい。
「それで、何を考えてたんですか?」
ソマリがルドルフ伝説に飽きたのか、先ほどケートス先輩が考え込んでいた理由を求める。
それもルドルフ関連だろうとは思うがな。
「ん? ああ、いや……少し心配になってな」
「心配?」
「あいつは一般の生徒会長や会員を認めないだろうぜ」
「あ~……」
まあ、せっかくローレライ家が四連覇してたからな。それこそシャロンが更に連覇すれば夢の八連である。
それを一般の生徒に打ち切られたのだから許せないだろう。
しかも今年の対抗試合では俺達のような一般生徒が本戦へ出場している。
「なんだか不穏になってきましたね」
今まで気配を殺してたのか、ってぐらいに存在感の無かったモーティが呟く。
その声へ同意するようにケートス先輩が頷き、俺達を促した。
「ま、辛気臭え顔すんな。飯でも食って気分を変えるぞ」
「「「「う~い」」」」
俺も胃が復活してきたし、何か食べたい。
てことで露店で売っている食べ物を、気の向くままに食べ漁り始めたのである。
・・
・・・
「た~だいまぁっとぉくらよ~」
「おいやめろ。飲んで帰ってきた親父を思い出すだろうが」
たっぷり第三防壁内を堪能した俺達は宿へと帰ってきた。
時間帯も夕方頃であり、まるで自宅に帰ってきたかのようなノリで扉を開けたんだが……ラグは苦い顔をしていた。
飲兵衛の親父さんと似ていたようで、毎度のように喧嘩してるラグは思い出したくないらしい。
別に嫌いなわけじゃないだろうけど、無駄に闘争心を刺激されるのかもな。
ともあれ宿の入り口から中へ入るが、ロビーには誰も居ない。唯一受付のオバちゃんだけが座っていて、朗らかに笑っている。
「今日は何処に行ってたんだい?」
「第三防壁内でさ、露店とか見ながら歩き回ってた」
買い物が好きというわけじゃないが、他国の品を見たり、日が暮れ始めても活気の鎮まらない大通りを歩くのは楽しかった。
明日は第一防壁内か、職員に同行してもらって船舶エリアの観光だな。
「元気だねえ」
「まあな。せっかく都に来たんだし」
「そこに住んでると有り難みが薄くなるのよぉ。いつでも見て回れるし、ってねぇ」
「あ~、それは分かる気がする」
普段は行けない場所だからこそ好奇心が刺激されるんだよな。
つまりは冒険心だ。オバちゃんも休み取って冒険してくれば良いと思う。
「もうすぐ夕食の準備も出来るからね、それまで休んでおいで」
「あいよ」
オバちゃんに見送られながら各々が自身の部屋に戻る。
そうして歩き回って疲れた体を休めていると、外でイリーナの気配を感知した。
さっきまでは感知できなかったから宿の外に出かけているんだろうと思ってたが、マリも連れて行ったらしい。
窓から外を見れば、宿に戻ってくる女子2人の姿が見える。
「……あれ?」
そういえばリンは?
今日は女子3人で遊んでるのかと思ったんだが、違うのだろうか。
まあシャロンからはリンを頼まれたけど、常に連れ回せと言われたわけじゃない。
むしろ昨日はシャロンの指示で宿に待機だったし、今日も待機になったんだろうか。
でもな……出来れば1人はリンの側に付いてた方が良いと思うんだが。
何かあるわけじゃないだろうけどさ、頼まれたからには見守れる場所に居た方が良いかもしれない。
などと考えたが、結局は聞いた方が早い。
そう判断して宿の入り口に向かうと、丁度イリーナ達が扉を開けて入ってきた。
「あら、もう戻ってたのね」
「おう」
白々しいな。
俺が宿に戻ってるのは感知できるだろうに。
けどまあ、どうして分かるのか周囲が疑問に思うのは避けたいだろうからな。互いに感知できても知らない顔している事が多い。
ともあれだ、今はリンに関して聞いておかないと。
「なあ、リンは連れてないのか?」
「今日も部屋で待機みたいなの。気にせず遊んでって言われちゃった」
「そか。勿体ねえよな」
せっかく都に来たんだしさ。何か仕事があるならマシだろうけど、何もせず待機なんて退屈過ぎるだろ。
「あ、そうだった」
「ん?」
「チャールスさんがルイスを探してたの」
「なんか用事だったのか?」
「そうみたいよ。また夜に部屋へ来るって言ってた」
「了解。んじゃ飯食って待つか」
もう食堂は利用できるぐらいの時間だろう。
ひとまず皆で夕食を取ってから、チャールスが部屋へ来るのを待つのであった。
次回・・・夢想の都 七対三の黄金比




