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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第四章 混迷の坩堝
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4_01_夢想の都 闇鍋

こんにちは、前回もでしたが少し文字数が少ないです。


次回は少し多くなる予定ですので、ご了承ください。




「それでは今から自由時間です。羽目を外しすぎないようにしてください」



やっと所定の宿に到着した。

ここは第二防壁内であり、対抗試合が開催される闘技場も第二防壁内だ。



所定の宿へ到着する前に闘技場を経由してくれたから、場所はなんとなく分かる。

もし不安であれば対抗試合当日は職員と一緒に闘技場へ向かうように、と通達された。


まあ主要エリアは区画整備されてるし、特に問題ないだろう。

対抗試合は三日後だから、前日の夜には宿へ戻っておかないとな。



ちなみに、シャロンやエグラフさんは第一防壁内へ向かうらしい。

ここは名門フラムグラス家の関係者が治める都であるものの、他の名門が訪れる機会もあるから別荘を用意しているそうだ。


そんなこんなで上級貴族達も各々が別に用意してある宿泊場所へと向かっていき、残されたのは下級貴族や一般生徒達である。





「とりあえず荷物を置きに行こうか」

「だな」




荷物を置いてから宿の入り口に集合しようと決めて、自分に振り分けられた部屋へ向かう。

どうやら一人部屋のようだった。


木造建築の宿であり、家具なども殆どが木造だ。

生活に必要なものは一通り揃っているようで、ここで10日以上を過ごすのも問題ないだろうな。



そうして、ひとまず荷物を置いてから宿の入り口へ向かうと、途中でチャールスを発見した。


「あれ? シャロンと一緒に行かなかったのか?」

「私は所定の宿で寝泊まりする予定だ。日中はシャロン様の供をするがな」

「そか。リンは俺達が連れ回していいんだよな?」

「……あまり目立つ動きはするなよ」

「分かってるって」


ともあれ今日だけは非番であるようなので、これから一緒に都を見て回るか聞いてみた。


すると返事は否。あっさり断られてしまったのである。

そしてリンも今日は部屋で過ごすように指示されているらしい。



粘っても意味ないだろうから、明日一緒に観光しようと諦める。



そうしてチャールスと別れて宿の入り口で待っていると、しばらくして集まったのは6人だった。


俺とハイクとラグとモーティとイリーナ、そしてケートス先輩だ。


「他は?」

「マリは友達と買い物に行く約束してたみたいよ」

「ソマリは疲れたから休むと言ってた」


そっか。

俺もチャールスとリンが不参加とだけ伝えて、このメンバーで都を見て回る事に。



第二防壁内は娯楽施設が多いようで、第三防壁は生産と軍事関係の施設が多いそうだ。

第一防壁内は小洒落た店などが多いらしく、貴族の屋敷や領主の城なども建てられているから特等地的な場所だとさ。



ひとまず今日のところは第二防壁内を見て回ろうと決め、俺達は気の向くままに観光を開始した。



「娯楽って何だろな」

「屋内で釣りが出来るような施設もあるらしいよ」


いやいや、釣りはもう要らない。

それから幾つか娯楽の種類を出してもらうと、気になったものがあった。



「カジノ? 入れるのか?」

「どうだろうね」


色んな賭け事を楽しむ場所らしく、別に熱中するわけではないだろうけど興味が出てきた。

なんかこう、大人が刺激的に楽しむ場所……とかハイクに表現されたものだから、見てみたい。



てなわけでカジノに出発である。

同じ第二防壁内であっても区画は違うらしく、闘技場はバーサ区、カジノはボッタ区だ。


そうして皆で歩いて到着したのは大きな建物であり、昼間は開店していないらしかった。

てか、そもそも年齢制限で入れないらしい。


ケートス先輩は再来月で成人年齢になるんだが、一般だと紹介状が必要である。俺達みたいな庶民には縁のない場所って事だな。



「他の場所に行くか」

「だな」


その後は気の向くままに歩いていると、演舞場なる建物を発見。どうやら舞とか踊りを披露してくれるようで、見てみる事に。



「安くても銀貨2枚だってよ」

「それなりの値段だな」

「貴族向けなのかもね」


ともあれ皆で観覧券を購入して、飲み物なども売っていたから購入。

案内された席は二階の立ち見席であったらしく、少し遠いけど全体を見通せる。


間もなく始まった演舞は大昔の伝説をテーマにした、演劇のような内容であった。

特に台詞があるわけじゃないけど、舞台セットや衣装などを見れば誰が何の役割であるのかが分かる。



「ほあ~……けっこう激しい動きだな」

「活劇って感じだよね」


皆が時折、関心したかのような声を漏らしつつ見ている。


やがて演舞が終わると拍手喝采を贈って外へ。

場内が少し暗かったからか、外へ出ると眩しさに目を細めてしまうな。



「っし、他にも色々見て回ろうぜ」

「その前にさ、なんか腹減らね?」

「もう昼はとっくに過ぎてるもの。食事にする?」


などと話し合いながら、ドリポート初日は賑やかに過ぎていったのであった。



・・

・・・



翌日。


昨日は遊び倒したのもあってか、目覚めるのが俺にしては遅かった。


といっても皆が起きだす時間ぐらいだから、何の不都合も無いんだけどな。



てことで朝食を取りに宿の食堂へ。既に生徒達で賑わっており、宿の人達も忙しく動き回っている。



「おはよう」

「おう、おはよ」


ハイクも食堂へ降りてきていたようで、軽く挨拶してから食事開始。


ドリポートは海産物が名物として扱われているんだが、まだ魚は食いたいと思えない。



麺料理でも頼もうかなと思いながら宿のメニューを見ていたら、気になる品があった。



「なあ、闇鍋って何だ?」

「さあ……頼んでみる?」


ん~……朝から鍋は重い気がするんだが。



ひとまず何が入っているか宿の人に聞いてみると、色々って返される。


色々て。


どうしようか悩んでいると、今度はラグとソマリも食堂へ降りてきた。



「おっす」

「おはようございます」

「おはよ。今日はソマリも都を見て回るだろ?」

「そうですね。どこに行くかは決まっていますか?」

「たぶん第三防壁内かな」



などと話しながらソマリ達も食事のメニューを眺めていたんだが、俺と同じく鍋が気になっている。



「何人分かで内容も変わるみたいですね」

「4人居るし、頼んでみるか?」


人数が増えると豪華な内容になるんだろうか。


ともあれ悩んでいても仕方ないので頼んでみることに。

すると宿で給仕をしていた従業員が含み笑いしたように見えた。


なんだか嫌な予感がする……しかし取り消す事はせず待っていると、やがて運ばれてきた。


「お待たせしました。闇鍋です」

「「「「……」」」」



見えない。


なんだか黒い霧のようなものに包まれており、鍋の中に何が入っているのか見えないのだ。



「あの……これは?」

「闇鍋です」

「いや、そうじゃなくて……何この霧」

「これが闇鍋です。ご賞味ください」



給仕が去っていく。何の説明もしてくれなかったんだが、この状態が完成品だとでも言うのだろうか。



「なあ、これ大丈夫か?」

「どう見ても大丈夫じゃないだろ」

「ひとまず食べてみる?」

「ちゃんと具が入っているのかも分かりませんよね」



さすがに入ってるとは思うけどな。眺めるだけじゃ腹は膨れないし。


と、4人で闇鍋を見つめているとイリーナの気配を察知。食堂へと降りてきたようだ。



なんとなく目を向けてみればマリも一緒であり、その手を引きながらイリーナが合流してくる。



「あら、面白いものを頼んだわね」

「お、知ってんのか?」

「ええ。闇鍋でしょ?」


聞いてみれば、こうやって黒い霧で包むのが主流であるらしい。


ドリポートは広いがゆえに様々な食材が集まる。ひっそりと村に親しまれていた根菜や、この地域にしか生息していない獣肉などなど。


そういった様々な食材を一つの鍋にぶち込んだのが、闇鍋であるそうだ。



つまりはイリーナ曰く”雑多の都”ならではの料理であるらしい。


魔具で黒い霧を発生させて中身が見えないようになっているから、どの食材が出てくるかは掬い上げてのお楽しみ。


そして一度掬った具は責任を持って完食しなければならない、というルールが存在している。


具が少なくなってきて掬い上げるのが難しくなれば、魔具を停止させて残りを皆で好きに食うのだ。




「4人分ならドリポートの代表的な食材は全て入ってるはずね」

「不味くはないんだよな?」

「どうかしら。同じ味付けが全ての食材に最適とは思えないもの」



香りは複雑なんだよな。魚介ダシっぽいけど、別の味も混ざってると思う。



「まあ、食ってみるか」

「だね」

「イリーナとマリも食えよ?」

「いいわよ。楽しそうだし」

「んむぅ……」



イリーナは快く了承したが、マリは眠そうな返事のみである。


どうやら昨晩はイリーナの部屋で語り明かしたらしく、寝不足なんだとか。



それならイリーナも眠そうだとは思うんだが、まあ早起きに慣れてるから目が覚めるんだろう。眠気は感じているが表に出してないだけか。




ではでは、食事開始である。


闇鍋……食事なのに緊張感漂うとか笑えてくるな。



「で、では僕が先に」

「ソマリが一番槍とか珍しいな」

「全ての食材が美味しいとは限りませんので、当たりが多く残っている内に食べたいんですよ」



なるほど。理由あって先陣を切るんだな。


「それでは……」



皆が緊張の面持ちで見つめる中、ソマリが恐る恐るといった様子で鉄製の玉杓子を闇に突入させる。


少し探るように動かしていたものの、覚悟を決めたのか具を掬い上げた。



「これは……」

「魚だな、たぶん」


魚の切り身を煮込んだ具が出てきた。


「魚は食べ飽きましたが、ハズレよりはマシでしょうか」


そう言いながら自分の器に移して食べ始める。


そもそもハズレとか入ってないと思うんだが……気分を楽しむには必要な考え方なんだろうか。



ともあれ完食するのを待っていると鍋が冷めてしまうので、次は俺の番である。



「よっと……お?」


野菜だな。丸い形で色は白い。


ひとまず食べてみると粘り気がある。味は悪くないってか、野菜だからな。

ダシが沁みてて普通に美味かった。



「次は俺だね」


ハイクの番である。気負いなく玉杓子で掬い上げた具は……


「げ、これ苦手なんだけどな」

「モッチじゃん」



一般家庭で広く親しまれている食材だった。

穀物を練って表面だけ焼くんだが、モチモチしてんだよな。


味としては淡白ってか、他の料理と一緒に食べるのが俺の通例である。



ハイクはモッチが苦手なんだが、しかしルールでは責任を持って完食すべしとある。


潔く食い始めたハイクに続いて、今度はラグの番だ。



「ってかモッチとか都の特産でもないだろ」

「普通の食材も入ってるんじゃない? 嵩増しとかで」

「もしくは安心を提供するためとか?」

「モッチはセーフって扱いか」



などと言い合いながら掬い上げられたのは、肉である。


何の肉かは分からない。ブロック状に切られているんだが、茹でたのが原因なのか白っぽくなってるな。



「怖いな。何の肉だよ」

「食ってみりゃ分かるだろ」

「……」



いざ実食。目を閉じて確かめるように味わっている。


もごもごと何度も噛んでは、不思議そうな声を漏らしていた。




「ん~……ん? あ~、うん」

「何の肉だった?」

「ちょい獣臭さがあって、けど柔らかいな……煮てるからか?」

「何の部位かも不明ね」

「あ、でも中は歯応えある……んん? マジで分からん」



結局、何の肉か分からなかった。宿の人に聞いても教えてくれないし。


「次はワタシね」



ここでイリーナの番となる。


掬い上げたのは根菜であり、コリコリと楽しい食感であるという感想だった。



「次はマリだけど……」

「寝てるな、こいつ」



目を閉じて穏やかな表情をしている。


イリーナの肩に頭を預けており、それはもう気持ち良さそうに眠っていた。



「しゃあねえ、マリは後回しで」

「いや、俺が代わりに掬って食わせれば良いだろ」

「は? 寝てんじゃんか」

「顔に近づけたら食いつくだろ」



てなわけで俺が代わりに掬い上げると……



「こ、これ何ですか!?」

「おぉ……アレか」


触手もどきだった。しかも魚の腹に刺さっている状態で切り出しているから触手感が溢れている。



これをマリに食わせるのは惨いな。

しかし、ルールには逆らえない。


残念だ。実に残念だ。



「マリ、ほら」

「……? ……あむ」



顔に近づけると少しだけ香りを嗅ぎ、目も開ける事なく食いつく。


そして、ゆっくりと咀嚼し始めた。



「どうだ?」

「ん……美味しい……何これ?」

「あっ……」



目を開けて視界に収めてしまった。食いかけの触手もどきを。



「へっ……」

「やっべ」

「イヤアアアアアァァァ!!」



ばっちり目覚めたようである。



そして俺は永遠の眠りに落ちそうであった。




・・

・・・



「んじゃ、出発!!」



朝食後は少し寛いでから、宿の外へと皆が集まる。


昨日の面子からイリーナが外れ、代わりにソマリが加入。つまり男だけだな。

そして女性陣はといえば……



「ルイスのバカ!! もう戻ってくるなぁ!!」



宿の二階からマリの怒号が降ってくる。


見上げると窓から身を乗り出して俺に叫んでいるマリが見えた。



その隣にはイリーナが佇んでおり、どうやら宥めているようである。


触手もどきを食わせたのが許せないらしく、今回は一緒に都を見て回らないとか言い出したんだ。



その内に機嫌も直るだろうけど、今日のところはイリーナに任せておく事となった。



イリーナも止めなかったのに責任を感じているようなので、ここは任せろと言ってくれたしな。


たぶんリンも含めて買い物とかに連れ出すんだろう。



てなわけで、男女別に都を楽しむ事となる。


今日は第三防壁内を見て回ろうという案が可決されたから、まずは防壁を通過しないとな。


通行許可証を忘れていないか手荷物を確認し、問題なし。

意気揚々と出発したのであった。



「ったく……あんだけ殴っといて許さないって、おかしくね?」

「ものすごい連撃だったよね」

「あいつ近接戦なら五指に入るんじゃね?」



触手もどきは既に食った経験があるものの、それと分かる状態ではなく串焼きとして調理されていたからマリは知らないんだよな。



もう大混乱かつ大激怒って感じに俺の隣へ踏み込んできて、まず鳩尾に一撃。


凄まじい衝撃に体を屈めた刹那、膝蹴りが鳩尾を強襲。


体が浮くほどの威力であり、そこへ鳩尾に前蹴りが炸裂。


仰向けに蹴り転がされた途端、鳩尾に踏みつけが猛追。


呼吸以前に視界が真っ暗になったんだが、最後に鳩尾へ振り下ろされた拳の重撃。



俺が覚えているのは、そこまでだった。


そこで打ち止めだったらしいけど、合計5発が全て鳩尾に叩き込まれたのである。



不思議な事に生きていたものの、俺が目覚めた時には鍋も食い終わってた。

野菜一つしか食ってなかったが、内蔵の消化機能が死んでしまったため朝食を断念。


そんなこんなで今に至るというわけである。



「昼頃には内蔵も復活するだろうし、第三防壁内で何か食おうか」

「そうですね。今度は具が分かる料理にしたいです」



それな。もう闇鍋は勘弁だ。



などと話し合いながら第二防壁を潜り抜け、第三防壁内へと足を踏み入れたのであった。



次回・・・夢想の都 不穏な気配

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