3_28_タマーゴお届け
こんにちは。
日付が変わるまでに間に合っ……てない……!
実はもう1話用意してたんですよ! みたいな感じで投稿しようと思ってたのに……
「んん~~!」
やっぱりお風呂は気持ち良いなぁ。
「変な声を出さないで頂戴」
隣で一緒に浸かっているシャロンが注意してくる。
「変な声だった?」
「あなたというより、一般の生徒全員よ」
言われて見渡してみれば、大きく伸びをした女子生徒が”くあぁぁ~”と声を上げている。
「こう……全身で寛いでるのよ」
「もう少し品性を持ちなさい」
もう一度見回してみると、貴族の女子生徒はお湯に浸かっても声一つ上げない。
少し息を吐くだけで、後は静かにお喋りしたり景色を楽しんだり……確かに品がある、のかな?
「隣、失礼するわね」
「あっ、イリーナ!」
体を洗い終わったみたい。シャロンとイリーナの間に挟まれて、ちょっと嬉しい。
「ふふ……」
「どうしたの?」
「なんかね、こうやって友達とお風呂に入るのが楽しいの」
景色も綺麗だし、広いし、しかも食事まで出来る。
最初は信じられなかったけど、ミーミン先生がお酒飲みながらお刺身食べてるもん。
お盆に載せて、お湯に浸かりながら美味しそうにしてるのは少し羨ましい。
「?」
しまった……ついミーミン先生を見つめちゃってたみたいで、シャロンに気付かれちゃいそう。
「何か食べたいのよね」
そしてイリーナには気付かれている。観念するしかないかぁ。
「実は……少しだけお腹が減っちゃって」
「用意してあるわよ」
「えっ!? ほんと!?」
イリーナが深皿と、沢山の卵を持ってきてくれた。温泉卵ね。温泉じゃないけど。
「ありがとうイリーナ!」
「その代わり、後で運動しましょうね」
「はーい!」
「シャロン様もお一ついかが?」
イリーナが卵をシャロンに手渡す。すると困った顔をしていた。
「これは?」
「「えっ……」」
あ、そういえば前回の演習で食べてなかったっけ?
シャロンはずっと忙しそうにしてたから、一緒に食べようなんて言えなかったのよね。
「任せて! 私が教えるから!」
深皿で殻に罅をいれて、中身を出す。
「はい、どうぞ!」
「意気込んだわりに簡単すぎる工程ね」
だって卵だもん。割って食べるだけよ。
スプーンを手渡すと、少しだけ躊躇ってから一掬い。プルプル震える卵を思い切って口に運び、食べた。
「どう?」
「……美味しいわね」
どうやら宿で売っているらしくて、多めに買ってきたみたい。
私も1つ貰って、プルプルさせてから食べる。
「ん~! 美味しい!」
とろっとろで口全体に卵の味が広がっていく。
素朴な味ではあるけど、黄身が濃厚で一気に広がるし、それを白身が丁度良い按配まで滑らかに整えてくれる。
「むふぅ~……」
「ほんと……美味しそうに食べるわね」
イリーナが柔らかく笑いかけてくれる。けど、卵を咀嚼し始めた途端に真剣な顔つきになった。
慎重に味を確かめているみたいで、きっと調味料の組み合わせを考えてるんだろうなぁ。
「卵一つで大げさね」
一方のシャロンは美味しいとは言っても表情に変化があるわけじゃないのよね。
仏頂面ってわけじゃなくて、気を抜かないようにしている感じかな。
「はい、もう一つどうぞ」
「……そうね、頂くわ」
そして自分からは絶対におかわりしない。しかも、食べる? って聞いたら断ってくるから、食べるよね? って当然のように渡さないといけないの。
本気で食べたくないときは断ってくるから、いつも最初は押していく方針で渡してる。
「マリ、塩あるけど使う?」
「ありがと、使うわ」
イリーナが調味料を試すみたい。
どうして分かるかというと、イリーナ自身も試してるからね。絶対の自信があるなら、まず相手だけに食べさせるのがイリーナの癖なのよ。
で、今はイリーナも卵に塩を振って食べてる。これは何か自信を持てない部分があるって状態。
たぶんだけど、塩の分量を探ってるんだと思う。私には少なめ、イリーナは多めで試しているから。
最初は分からなかったけど、気付いた後は楽しい。どういう組み合わせを考えてるのかなぁ、とか考えられるからね。
今は料理の修練もしてるから参考になるし、私で良かったら幾らでも付き合うつもり。食べ過ぎないように配慮してくれるから助かるし。
「どうしたの?」
「あ、なんでもないよ?」
つい見過ぎちゃった。早く食べて感想を教えないとね。
塩を振った部分を掬い取って口へ運ぶ。
……うん、味が引き締まるって表現になるのかな?
白身が引き立てられてる気もするわね。
黄身は味が濃いから塩の影響が少ないけど、白身だと存在感が強くなる気がする。白身は味が淡白だから馴染みやすいのかな。
そんな風に感想を伝えると、それなら少量が最適かもって判断したみたい。
横目に見てたけど、塩を多めに振った卵を食べるイリーナの顔が残念そうだったから、多すぎたみたいね。
「次はコレね」
「なにそれ?」
イリーナが取り出した小さい陶器。中を見せてもらうと真っ黒だった。
「魚醤よ。魚を原材料にして作られているの」
「香りが強いね」
「味も濃いわよ。少し舐めてみる?」
指先に一滴だけ垂らしてもらい、舐めてみる。すると風味が爆発した。
「すごい……舌に強く残りそうな味ね」
「でしょう? 都でも扱ってる店はあるんだけど、ここまで強い味は流行ってないのよ」
「ふ~ん……」
たしかに素材の味だけで充分な料理が多かったかな。別に大量の調味料を使っても食べられないわけじゃないけど、違和感はあるわね。
料理を修練し始めた当初は失敗も多くて、誤魔化すために胡椒を沢山使った事もあったっけ。
ルイス達に文句を言われた記憶がある。胡椒の味しかしない、って正直に言い放たれた。
「この魚醤を卵に垂らすの」
「え? うん、分かった」
大丈夫かなぁ……塩でさえ多めだとダメだったみたいだし。それ以上に強い味だよ?
2,3滴を卵に垂らしてもらい、食べる前に横目でイリーナを見てみる。
するとイリーナは私が食べるのを待っていた。自信があるのね。
それなら心配は要らない。むしろ楽しみに一口食べてみた。
陶器から出すと茶色のような色だと分かる魚醤が、舌へ触れた途端に風味を放つ。
けど黄身の濃厚な味と喧嘩するわけじゃなくて、共存している印象だった。それに、コクや旨味も感じられる。
きっと卵の素朴な味が魚醤の強さを受け入れているのね。白身の存在感は薄くなったけどプルプルの食感は健在で、風味を乗りこなしてるようにも感じる。
「美味しい!」
「お口に合ったようね。これも少しだけ垂らすのが最適だと思うわ」
そうね。多いと魚醤が暴れまわる結果になりそう。ここまで味が強いと予想できる。
「楽しそうね」
あ、シャロンを放置しちゃってた。ゴメンね。
「シャロンも試してみてよ。はい」
塩と魚醤をそれぞれを試してもらうと、たぶんだけど魚醤を気に入ったみたい。
少し目を見開いてたもの。あと、この調味料の名前を聞いてきたから興味が出たんだと思う。
「おーい! マリ~!」
あ、ルイスが呼んでる。
「な~に~?」
「さっきから何食ってんだ?」
「温泉卵~」
「やっぱ食ってんのかよ! いいのか!?」
ダメなの? あ、ダイエット中だろ~とか?
けど、そっちじゃなくてお風呂で食べていいのか疑問に思ってるみたい。
大丈夫だよ、って教えたらルイスも欲しがる。
「何個かくれ!」
イリーナの方を見ると、頷いてくれた。渡してもいいのね。
「あげるのは大丈夫なんだけど、どうやって渡すの?」
「壁登ってくから、そっちも登って渡してくれよ」
手渡しなのね。ちょっと面倒だけど仕方ないか。
とりあえず一つ持って壁の頂上近くまで移動していると、ルイスの手が見えた。
「はい」
「さんきゅ、うおっ!?」
「あっ!」
ルイスの手から卵が滑り落ちる。
咄嗟に両手で受け止めた私は、支えを失って後ろに傾いた。
どうしよう!? と考えたのも一瞬で、卵を受け止めたまま背中から落下。
「んぅ!」
衝撃で息が詰まったけど、怪我は無いみたい。卵も無事ね。
するとルイスの心配そうな声が聞こえてきた。
「おい! 大丈夫か!?」
「うん。だいじょ……」
ルイスがこっちを見てた。
頭を出して、その目で……
「キャアアァァァ!!」
ちょっと!! なに見てんのよ!!
「うっおやべ! そんなつもべぁっ!?」
咄嗟に持っていた卵を投げつけてしまい、額に直撃したルイスは壁の向こうに消えていった。
勿体無いことしちゃったけど、それどころじゃない。
「この変態っ!!」
「ルイスが成し遂げたぞ!!」
「どうだった!? おい! 何人見えた!?」
男子が騒いでる。なにが成し遂げたよ! バカじゃないの!?
いや、それより……
「見たの!? 本当に見ちゃったの!?」
「い、いやっ! 見てない!」
「嘘よ絶対!!」
しっかり見てたじゃないの!
「ほら、あれだ! 湯気で見えなかったから!」
「信じられるかぁ!!」
怒っていると上機嫌のミーミン先生が声を出す。
「いいじゃないの。見せるものがあるだけマシなんだから」
「……」
え~っと、そういう問題じゃない気がします。
「そんなに見たいなら見せてあげるわよ! ケートスおいで!」
「見ても面白くないだろうが! 他の職員なら話は別だがよ!」
「ぁあ!? 喧嘩売ってんの!?」
「事実だろ!」
「後で覚えときな! 海に沈めてやるからね!」
「どうせ酒飲んでんだろ!? 程々にしとけよ!」
「うるさいわね!」
そんな言い合いを繰り広げられ、なんだか怒りも勢いを失くしちゃった。
「ルイス! 次覗いたら両目を潰すから!」
「怖ぇな!」
それだけ言い残してお湯に戻った。
「ほんとにもうっ……」
「災難だったわね」
シャロンが頭を撫でてくる。たまにこんな事をしてくるんだけど、どうしてかな。
「シャロンは怒ってないの?」
「ルイスはマリだけしか見てなかったもの。何も被害は出なかったわ」
「私が被害を受けてるよ!?」
「どうかなぁ。捉えようによっては良い事じゃない?」
イリーナまで混ざってくる。どう捉えたら良くなるのか全く分からない。
「ルイスは数多く居る女子の中で、あなただけを選んだのよ」
「いや、それは心配してただけで……」
「怪我が無いって実際に見せられたんだから、良かったじゃない」
「良くない!」
絶対からかってる!
「お~い! マリ~!」
またルイスの声が聞こえてくる。
「なによ!」
「卵くれ~!」
「もう少し反省できないの!?」
人の裸を見ておいて、もう卵を食べる事しか考えてないの!?
「マリの裸より卵だなんて、酷い男ね」
「もう一回しっかり見せてきたら?」
「いやよ!」
それでも卵を選びそうな気がするもん!
どっちみち見せないけど!
「イリーナもマリで遊ぶのね」
「シャロン様こそ楽しまれてますね」
「呼び捨てで構わないわ。敬語も不要よ」
「それは……」
「いいのよ。マリの友人で、気が合いそうだもの」
「そう……なら、お言葉に甘えるわね」
なぜか私を挟んで友情を育んでる……2人が仲良くなるのは嬉しいんだけど、今じゃなくてよくない?
「お~いマリ~! 卵~~!」
あぁもうっ!
「イリーナに聞いて! 私の卵じゃないんだから!」
「そうなん? イリーナ~! 卵!」
「もう食べたでしょ? 額で」
「額じゃ無理だっての! 溝に流れたし!」
もう渡さなくていいわよ。ルイスには勿体無いわ。
そう考えながら中断していた卵を食べ進めていると、イリーナがルイスを叱る。
「卵の前に、マリに言う事があるんじゃない?」
「あ~……ゴメン!!」
そういえば謝ってもいなかったわね。まあ、今すぐ許すつもりもないけど。
「そうじゃないでしょ」
「「へ?」」
謝罪じゃないの?
「御馳走様よ」
「だからさあ! まだ食ってねえし!」
するとイリーナが、そっちじゃないわよって笑いながら卵を手に取る。
「投げるからね~」
「はあ!? 割れるって!」
「優しく受け止めなさいよ」
聞く耳を持たずにイリーナが卵を放り投げる。
放物線を描いて飛んでいき、壁の向こう側へ消えていく。
「おおぉ!?」
あの声は失敗したかも……勿体無いから手渡したほうが……
「大丈夫だった! どんどん投げてくれ!」
「はいはい」
大丈夫だったんだ……難しそうなのに。
少しだけ関心している間も次々と飛んでいく卵。ハイクとラグも手伝っているみたいで、賑やかにしていた。
「これぐらいにしておきなさい」
「おう! ありがとな!」
渡し終わったみたいね。イリーナも卵を食べ始める。
「皿とかねえの~?」
「ないわよ。今使ってるから」
あ、そっか。お皿がないと食べられないわよね。
貸してあげたほうがいいのかな。
「しゃあねえ、両手で皿代わりにするか」
「だな。ソマリ、ここに割ってくれよ」
えぇ~……
「お、美味いな」
「焼いたほうがいんじゃね? なんかドロドロなんだけど?」
「そういう食べ物なんだよ」
「まあまあ、試しに焼いてみようぜ」
「んでも魔法じゃ消し飛んじまうしな」
「種火の魔法で炙ればよくね?」
「そか。頼むわラグ」
そうやって相談しながら騒がしく食べているのが聞こえてくる。焼いちゃダメだと思うんだけどなぁ。
「品のない連中ね」
「今回は否定できないわね」
「あ、魚醤は渡さなくてもいいの?」
「零れたら大変だから」
それもそうね。両手に卵を乗せてるみたいだし。
「ぅあっづぁ!! 下から炙んなし!」
「あ、わりぃ。鉄板かと思った」
「どう見ても手だろうがよ!!」
「いやいや。お約束って意味だから」
「そこまで体張らねえっつの!」
騒がしいわね。
ともあれ男子は放っておいて、私達は深皿に乗せた卵を、塩や魚醤で味付けしつつ楽しんだ。
ミーミン先生にも食べさせてあげたら喜んでたわね。酒に合うって笑ってたけど、酔ってて味が分かるのかな……?
次回・・・贅沢な光景




