3_27_露天風呂
こんにちは。
他の作品で修正すべき部分が多くて……なんとか今日中に2本目を投稿出来ましたけど、反省しています。
急いでるからって雑に書いてると読者様に申し訳ないですからね、気を付けます。
魔法学校の生徒達が宿泊している宿には大浴場があり、そこへ向かう通路は屋内へと続いている。
しかし、露天風呂としての側面を持つため、大浴場が完全な屋内であるわけではない。
季節によって表情を変える絶海を見渡せるよう、その方向は大きく開かれているのだ。
しかも屋根がない。つまりは丸裸と言っても過言じゃない状態であった。
むろん、雨などの心配は無用である。魔具による風盾が雨を逸らすからだ。
その結果、明るい内はどこまでも突き抜けるような青空、日が落ちれば満点の星空……それらとセットで景色を楽しむことが出来る。
魔具は魔石充填であるため費用は嵩んでしまうが、そうまでしても訪れる客に景色を楽しんでもらいたいという心配りを実施しているのだ。
更に細かく言えば、風盾にも拘りがある。
雨の日であれば上空は曇天であるため、そこへ目を向ける客など少ない。
そのため精製した可視化されてしまう風によって雨を遮断している。
しかし晴れの日であれば、可視化された風盾は景観を壊してしまう。
そのため自然の風を利用した不可視の風盾へ切り替えているのである。
結果、雨に備えつつ景色を邪魔しない環境が整っていた。
雨の日だけ起動すればいいと思う者もいるだろう。しかし、他にも理由があるのだ。
それは直射日光を遮断する事であり、肌へ害を及ばさないように緩和されている。
しかも明るさや温もりは損なわず、心地よい空間を用意できるようになっていた。
そして夜には風盾が外からの冷気を通さず、内の暖気を逃がさない。
更には息苦しくならないよう露天風呂には空調設備も整っており、併設されたサウナを目当てにする客も多いようだ。
もちろん、魔具などが風情を損なうと考える者も一定数存在する。
そういった深い拘りを持つ客のために、魔具や空調などを一切配置していない浴場だって用意されていた。
他にも様々な設備が整えられており、卓上球技やマッサージなども完備している。
冷たい飲み物も当然のように用意されており、汗を流した後に乾いた喉へ飲み物を流し込むまでが入浴である、と訴えているかのようであった。
そんな、おもてなしの心を最大限発揮した宿である。これを目的に港町を訪れる者は少なくない。
ましてや名門の貴族をも含む団体様である。この港町を経由すると決まった時から貸切で予約していた。
つまり、今の宿には魔法学校の生徒達と職員しか宿泊していない。
「これが何を意味するか分かるな?」
「やりたい放題?」
「惜しいが、少し違う。障害が少ないって意味だ」
職員は基本的に生徒達の行動に関与しない。
危険な真似をしたり、度が過ぎていれば何かしらの対応はするが、それ以外は基本的に放置である。
となれば最初から職員を警戒する必要はなく、残る障害はチャールスのみであった。
俺は宿の紹介資料を読み進めながらケートス先輩の説明を受ける。
結局のところ、モーティ達が唯一危惧しなきゃならない相手がチャールスであるって話だな。
それさえ取り除いてしまえば、あとは心ゆくまで覗くだけである。
「俺達の頑張り次第って事だ。気合入れろよ」
「入るわけないでしょう」
「てか、チャールスを抑えても覗けるんすか?」
「そこは大丈夫だろ。風盾で覆ってるだけで、かなり剥き出しの状態らしいからな」
高い場所であれば、覗きスポットは幾らでも見付かるだろう。
「よし、じゃあ作戦を決行するぞ」
そこでハイクが部屋に入ってくる。さっきまで食事に向かっていたんだが、別の用事も兼ねていた。
「仕込みは完了だよ」
「ご苦労だった。ちゃんと警戒させたか?」
「もちろん。思いっきり睨まれたくらいです」
そう、ハイクは宿の食堂でチャールスに接触していた。目的は注意を俺達に引きつけるためである。
あとは仕上げだけなので、ソマリ以外の面子が双眼鏡などの小道具を持って宿を出た。
しばらく歩き、小高い木の上へ上る。そして双眼鏡を構えたところで誰かが走ってきた。
「貴様らああぁぁぁ!!」
チャールスである。予めハイクが警戒させておいたため、あっさり食いついてきた。
というのも、俺達が覗きを計画しているかのように振舞ったのである。この木の上からは双眼鏡などを使えば覗き放題なのだ。
そして、そんな気配を掴んだチャールスが黙っているはずもない。すぐに追いかけてきて俺達に吼えまくっていた。
「今すぐ降りてこい!! さもないと叩き斬るぞ!!」
「分かったって」
俺達は素直に降りる。少し意外だったのか目を丸くするチャールスだったが、すぐに飛び掛らんばかりの勢いで捲くし立ててきた。
「貴様らは何を考えているのだ!! 覗きなど許されるわけがないだろう!」
「「「「……」」」」
「ましてやシャロン様も入浴されているのだ!! 私が絶対に阻止するからな!!」
「……くくく」
突如笑い出したハイク。その様子にチャールスは眉根を寄せる。
「なんだ……何を笑っているのだ……」
「甘いねチャールスさん」
「なんだと?」
ハイクは楽しくてたまらない、といった表情で真相を告げた。
「こんな分かりやすい陽動に引っかかるなんて、笑いもするよ」
「な……に……」
「既に本隊が目的の場所に到着しているんだよ」
「っ!?」
本隊とは、モーティ達の事である。
「貴様っ!! どこに向かったか吐け!」
今から虱潰しに覗きスポットを捜索していては間に合わない。即座に捕まえる必要があるだろう。
「何処だと思う?」
「早く答えろ!」
「じゃあヒントを出そうかな」
ハイクが指を1本立てた。
「一つ目。入浴の開始時間よりも前から潜伏すれば意表を突ける」
続けて2本目の指を立てる。
「二つ目。露天風呂は空調設備によって空気が循環している。けど、湯気は適度に充満しているんだよ」
最後に3本目の指を立てる。
「三つ目。どうせなら近くで見たいよね」
そこまで聞いてチャールスは衝撃の表情を浮かべた。
「ま、まさか……」
「もう分かった? 人を隠すなら人の中。あとは湯気に紛れたら完璧だね」
もう俺達に構っている余裕はないだろう。
「女湯に侵入しているのかっ!!」
チャールスが大声で叫びながら宿へ走る。ものすごい慌てようであった。
ーーーーー
「はっ……はっ……はぁっ……!」
ひたすら走る。距離が遠いわけではない。しかし、一刻も早く向かわなければならない。
さっきまで大声で叫んでいたのもあってか、走れば尚の事息が乱れる。
だが、そんな細事に気を配る余裕などない。早く不埒な輩を成敗するのだ。
いや、その前に我が主を避難させなければ! 下種どもに見せていいわけがない。
やっと到着したのは大浴場へと至る通路。そこも走り抜け、やがて男女で別れる分岐点へと到達した。
迷いなく女性用の通路へと進み、脱衣所のとび……
「いけません」
「ぐおぉっ!?」
物陰から聞こえてきた声と、反応も許さぬ鋭い打撃。
痛む脇腹に手をやり見上げれば、そこに立っていたのは我が同僚だった。
「……リンか……なぜ」
「決まっているでしょう。この先は殿方が入ってはいけません」
「ぐっ……しかし」
中には覗きを企む輩が侵入しているのだ!!
そう言いたかったが、リンに遮られる。
「もう喋らないでください。これ以上はチャールスに失望したくないのです」
「頼む! 話を聞いてくれ!」
「チャールスこそ私の話を聞いてください。私は怒っているのですよ?」
リンの細腕が恐るべき速度で振るわれ、微かな衝撃が顎を襲う。
続けて感じたのは揺れる視界と……遠のく意識……
「おやすみなさいませ」
く……そぉ……!
ーーーーー
「……よし、宿に戻るか」
「だな」
血相を変えて走り去るチャールスを見送った俺達は、そのまま宿に戻った。
既に役目は終わったしな。これでチャールスは自滅するだろう。
そもそも入浴の開始時間までは脱衣所にすら入れないから、女湯に忍び込むのは無理だ。仮に侵入できても、湯気が適度に充満したところで隠れられるほどじゃないだろう。
そしてハイクは近くで見たい派である、ってだけの話だ。
というわけで、そう言ったも同然な誘導により、女湯に本隊が潜んでいると勘違いしたチャールスが現場へ向かっただろう。
おそらく無我夢中で突き進み、今頃は誰かしらの女子生徒に撃退されているかもしれない。
そっちへ注意を引きつつ、チャールスをも封じる。一石二鳥の作戦であった。
ちなみに当然だが本隊は女湯に侵入してなどいない。絶対に見付かるからな。
たぶん、屋外の高い場所から双眼鏡でも使ってウハウハしてるんだろう。
そう考えていると、遠くで悲鳴が上がった。モーティの声も混ざっていたような気がする。
皆で顔を見合わせると、ケートス先輩が静かに首を振った。その悲しげな表情は、自身と同じ末路に向かった後輩の未来を憂いているのだろう。
まあ、俺達が担当するのはチャールスだけである。それ以外は何があっても知った事じゃないから何もしない。
というか、これ以上は巻き込まないでほしい。
・・
・・・
俺達は風呂に入るべく、読書していたソマリも連れて5人で大浴場へと向かう。
すると向こう側からリンが歩いてきた。何かを引き摺ってるな。
「よっす」
「皆様もご入浴でしょうか?」
「おう。でさ、何持ってるんだ?」
「コレですか。私にも分かりません」
そう言って俺達の前に投げ出されたのはチャールスであった。
気絶しているようであり、今は苦しそうな顔で転がっている。
いや、それよりもさ……
「分からないって……チャールスだろ?」
「いえ、私の同僚は女湯に侵入しようとするような不埒者ではありません」
「……」
「少し似ている気はしますが、別人でしょう」
こりゃ怒ってるな。リンにもチャールスにも申し訳ないと思えてきた。
それは他のメンバーも同じようであり、ソマリの睨むような視線が苦しい。
「そ、それで、この別人をどうするんだ?」
「お嬢様からは廃棄するように仰せつかりました。今から海に捨てようと思います」
「それはちょっと可哀想じゃねえのかな!?」
「……そうですね。海が可哀想ですから、別の方法にしましょう」
「いや、そっちじゃなくてさ……」
「焼却処分します。灰ぐらいなら海に流しても大丈夫かと」
うん、謝ろう。
俺は観念して全てをリンに話した。モーティ達の計画、俺達がチャールスを騙した事。
するとリンは頷くだけだった。
「既に覗きへの対策は施しております」
あ、やっぱりか。モーティ達の悲鳴は対策とやらに撃退された際のものであるらしい。
「そしてルイスの話をお聞きする限りでは、コレがチャールスなのですね」
足元に転がるチャールスを見下ろし、リンが冷たく言い放つ。
受け入れたくないだろうけど、ご本人です。
「そういうわけだからさ、悪いのは俺達なんだ」
「さようですか。しかし覗きは実現しませんでしたので、特に申し上げる事などはございません」
「え、そうなん?」
チャールスと同じ末路を辿る覚悟だったんだが、許してもらえるのか。
「じゃあさ、何か詫びに奢るから。チャールスにも謝りたいし」
「お気になさらず。これからチャールスに仕置きを施す予定ですので」
「なんで!?」
チャールスは被害者だってば!
「たとえ惑わされようとも、女湯へ直進するなど浅はかな行動です。反省を促す必要があります」
「……そか」
どうしてもチャールスをお仕置きしたいらしい。止められそうにもないため、そのまま見送った。
「俺達はお咎め無しなんだね」
「後でチャールスには謝っとこうぜ」
「そだな」
ひとまずは風呂に入ろうとなり、俺達は大浴場へと足を踏み入れた。
「「「おおぉ……」」」
広々としていて、既に暗くなった周囲は魔具による灯りが光源となっていた。見上げれば群青色の空が広がっており、ちらちらと星が瞬いている。
もうすぐ満点の星空になるのだろう。しかし、この夕方と夜の間だけ見える空も甲乙付け難い。
そして目の前には絶海が広がっている。日が落ちて真っ青な表情ではないものの、町の明かりと相まって淑やかな姿を見せていた。
しかも初めて見る海が、こういった露天風呂からだなんて贅沢だと心底思う。
逸る気持ちを抑えながら、まずは体の汚れを落とすことにした。
「温泉じゃないけど、何も気にならないぐらい贅沢だな」
「もう2、3年前だったら走り回ってたぜ」
「それな。流石にしないけど、気分高まる」
背中を流し合ったり、ケートス先輩の筋肉に目を見張ったりしつつ体を洗う。
そして、とうとう湯に浸かった。
溜まった疲れが全て解れていくようであり、無意識の内に声が漏れてしまう。
「はぁ~~~~……」
「おっさんかよ」
「だってよ、すんげえ気持ちいいじゃん」
からかってきたラグも手足を伸ばし切っていて、極限まで寛いでいる。
他の生徒達も皆が満足そうな顔で浸かっていて、時に笑い合いながら楽しんでいた。
「あ~~よっこいせぇ」
そんな声を上げながらケートス先輩も湯に入ってきた。俺より数段以上おっさんっぽい。
つい面白くなって笑ってしまうとケートス先輩が一点を指差す。そちらを見れば、足だけ浸しては難しい顔をしているソマリがいた。
「あっつ……なんでこんな、あつ……」
「「子どもか!!」」
ラグと同時にツッコミ。
子どもですけど!? と返してくるソマリの近くではハイクが泳いでい……ちょっと待てぇ!
「ハイク!! 泳ぐな!!」
「お前が一番ガキかよ!」
そうやって騒いでいると、今度は隣からマリの声が響いてくる。
「ルイス~~? そっちに居るの~?」
「お~! マリも入ってたのか!」
「うん! シャロンも居るよ~!」
なんと、シャロンも居るのか。名門なのに他の生徒達と一緒の風呂へ入るとは意外だな。
大浴場以外にも一人用のスペースだって用意されてるのに……景色が目当てなのか?
もしくはマリに連れ回されたかだな。なんだかんだでシャロンはマリに甘いし。
と、気付けば男湯の連中が女湯を遮る壁へ視線を向けていた。全員じゃないけど、過半数は同じ向きである。
「見つめても穴は空かないけどね」
そう言いながらハイクが近付いてくる。そりゃそうだわな。
「まあ、新入生でトップクラスの女子が揃ってるみたいだし、気になるんじゃないかな」
「……よし!」
ラグが立ち上がり壁へ近付く。どうしたんだ?
「野郎共! いくぞ!」
そう叫んで壁を登り始めるラグ。
こういう用途であるかのように、木造の壁には一定間隔で水平の出っ張りが備わっていた。これを使えば登るのも不可能ではない。
しかし当然だが誰も続かない。登っているのはラグだけだ。
唖然と見守られている間に頂上付近へ到着し、振り返る。
「なにビビってんだ! この向こう側を見たくないのかよ!」
誰も答えない。見たいけど、後が怖いから。
「俺は見る! これはモーティへの弔いも兼ねてんだ!」
勝手に弔うなし。
「おいルイス! お前も来いよ!」
「はあ!?」
「ルイスもラグも馬鹿な事しないの!!」
マリが怒鳴ってくる。俺は元から覗くつもりなんてねえよ!
なんとかラグを壁から引き剥がして連れ戻す。
「ん……?」
イリーナの気配を感知した。近付いてきてるな。
真っ直ぐ向かってきており、やがて壁の向こうへと移動したようだ。つまり露天風呂に入ってきたんだな。
「あ! イリーナ~! こっちこっち!」
「まだ体を洗ってないから、ちょっと待ってて」
わいのわいのと女湯でも騒がしくしている。
ひとまず注意が逸れたと判断し、俺は改めて絶海へと目を向けて寛ぎ始めたのであった。
次回・・・タマーゴお届け




