3_24_チーム戦 選抜
こんにちは。
実は先にこの話を書き進めてたんですよね。で、間に紅白戦を挟んだという話でして……
理由としては、対抗試合に参加しないメンバーの出番が少なくなるからです。
【皆おっはよおおおぉぉぉ!! 今日も血が滾ってるかあああいぃ!!】
個人戦第一選抜の翌日、俺達生徒会メンバーは訓練場へ立ち並んでいた。
今日は手伝いじゃなくて、選抜を受ける側として出向いているのだから、また違った空気を感じ取ってしまう。
その空気は俺達の周囲に集うチーム戦を申し込んだ者達が醸し出ており、お前達が邪魔だとでも言わんばかりの視線をも感じる。
チーム戦に申し込んだのは合計で8チームだ。俺達生徒会以外では名門勢力が3チームずつ出しているらしい。
となると、もう1つだけ謎のチームがあるんだが、周囲を見回してみても俺達の他に一般生徒は見当たらない。
てことは下級貴族とかで構成されたチームなのだろうか。いやでも名門に喧嘩売るようなもんだし。
というのも、聞くところによると例年では既に本戦へ出場するべきチームが決まっているそうだ。
選抜として試合はするけど、まず間違いなく結果が決まっているわけで、毎年のように名門勢力から2チームずつが選出されていたのだ。
八百長などと言うつもりはない。純然たる実力差が存在しているだけの話である。
まあ、いわば同じ学校の生徒達に向けたパフォーマンス的な意味合いが強いんだ。
既に本戦へ出場するチームは決まっているけれど、折角だし実力の一端を見せてやろうというわけである。
で……そんな通過儀礼でしかないチーム戦の選抜に不確定要素が登場した。言うまでも無く生徒会である。あと、謎のチームな。
俺とラグが一所懸命に先輩達を説得したから申し込みできたものの、猛反対を受けていたのだ。
一般生徒が活躍する機会を増やしたいのは事実であるけど、対抗試合では名門に華を持たせたほうが無難だという理由である。
対抗試合ではトーナメント形式で優勝チームを決めるのだが、そこには他の魔法学校の生徒達も出場する。
つまり名門6家が大集合するんだ。そこに一般生徒のチームが紛れ込んでいれば色々と厄介事が起こる。
というより、紛れ込んだ時点で厄介事が発生する。
すなわちローレライ家とゼグノート家は一般に土を付けられて出場できないチームがあったんだ……と。
そして本戦で俺達が勝ち進むほどに、他の名門貴族も恥をかく。
こういった貴賎のあれこれに過剰な反映をさせない学校生活を俺達は目指しているが、全く反映させないというわけじゃない。
むしろ一定は反映させないといけないんだ。身分には誇りと責任が付きまとうものであり、名門ともなれば途轍もなく重いだろう。
だというのに対抗試合という世間的な影響力も高い場で恥を晒されるなんてのは深手も深手……
そう猛反対されてしまい、俺とラグは諦めようとした。
しかし、この話を聞きつけて訪れてきた2人がいる。
なんと旗頭両名だ。
気を使う必要は無い、というより負けるわけないから正直どっちでもいい、って言われたんだ。
そこまで言われては俺とラグも黙っちゃいない。ケートス先輩が倒しに行くから首洗って待ってろよ! って言い返してやったんだ。
かくして、目頭を押さえるクリストフ先輩と、なんだかんだで戦う気満々のケートス先輩、どうにでもなぁれって顔のギッさんが承諾。
こんな経緯があってチーム戦に申し込んだというわけである。
まあ申し込んだからといって本戦出場が確定するわけではない。この中で4チームは脱落するんだから気を引き締めねえとな。
名門勢力を蹴落とす結果になっても、それは受け入れてもらおう。
てかさ、ゼグノート家は対抗試合に出なかった年もあったんだろ? あんまし拘ってないと思うんだが……いや、出ないのと出られなかったのは違うか。
ともあれ、もうすぐ選抜が始まる。この後は個人戦の第二選抜も控えているから急がないとな。
少しでも昨日の疲れを癒すために、っていう計らいで個人戦の第二選抜は後にされたんだ。
俺達には何の恩恵もないけどな。
だからといって、俺達だって昼まで寝られれば調子も戻ったんだろうけどなぁ……とは言わない。
俺って昼まで寝られないし。そういうのはソマリとかハイクぐらいだろ。要するに日頃の疲れが溜まっているだけの話である。
【それじゃ選抜を始めようかあぁぁ!! ナイール先生とミーミン先生が解説役を務めるぞ!!】
【よろしくお願いします】
【よろしく!】
・・
・・・
【第一試合!! 光翼チーム 対 地爪チーム】
とうとうチーム戦の選抜が始まった。次の試合に出るチームは控え室に入り、それ以外のチームは観戦席に座っている。
俺達は第四試合だから、観戦席でリングを見下ろしていた。
「これってローレライ家の主戦力と、ゼグノート家の搾りカスですよね?」
「ハイク……言い方に気をつけなさい」
ほんとにな。失礼すぎるだろ。
だが、実際はハイクの言ったような戦力差があるだろう。これはローレライ家のチームを勝ち残らせるための試合でしかない。
光翼チームはシャロン率いるローレライ家の主戦力であり、対する地爪チームは3年生の上級貴族が率いるゼグノート家で構成されている。
地爪の代表は太ましかった。碌に運動してないんじゃないのか?
今は光翼チームの面々を眺めており、緊張の様子などは無い。
むしろ見られている光翼の女性陣が嫌そうな顔をしていた。
「たしか、あの貴族はツンム・リーバインだね」
「知っているのかハイク」
「有名な上級貴族だよ。何度も名門の傘下を飛び回っている蝙蝠だ、って揶揄されているからね」
「?」
「風見鶏ってわけじゃなくて、リーバイン家の当主が代々続く変わり者だという事です」
「彼も卒業後は当主を継いでいくだろう」
「そうでしょうね」
なにやら話し込んでいるが、よく分からん。
「変わり者ってさ、どういう感じの?」
「女性に対しての拘りかな。顔よりは身分と性格で強い好みをもっているそうだけどね」
「……つまり?」
「シャロンみたいに気の強くて身分の高い女性が好みなんだよ」
「あ~……なるほど」
手出しできるわけじゃないだろうな。身分が高い、ってか格上の相手だし。
けど、そういった好みの女性がいる名門の傘下に入り込もうとするようで、呆れたものである。
今はローレライ家に移転の要望を出しているのだとか。よくそんなんで上級貴族として生き残れたよな。
「家の力が強いんだよ。それに優秀だからね」
「そうなん?」
「率いていくタイプではないけど、内政と経済力では名門と遜色ない力を持っている」
「えっ……」
「だから名門も傘下に転がってきたなら手厚く迎えるよ。忠誠心はないけど、在籍している間は頼もしい味方だからね」
そうやって所属を変えるのは基本的に信頼を失っていく。どんどん地位も失墜していくから没落するのが末路だ。
しかしリーバイン家は特殊だった。
存分に家の実力を振るって名門を助ける。しかし忠誠心はなく、ただ自身の好みに合っているかだけが基準。
こんなスタイルを長年続けているのに、傘下へ入るなら歓迎されるまでに繁栄できている。
それも当主の腕と、家の力が衰える事無く受け継がれてきたという実績あればこそだな。
「で、強いのか?」
「武力は無いって評判だよ。内政に特化してるだけだね」
その言葉を証明するように、シャロンの魔具がツンムを追い詰めていた。
他のチームメンバーも既に倒されており、あっという間に詰みである。
「まいった……ふふ……」
【降参により、光翼チームの勝利!】
「ちっ……」
シャロンが舌打ちをしたような気がした。ここからじゃ聞こえないけどさ。
てか見所の無い試合だったなぁ。
地爪チームはツンムが何もせず立っているだけであり、他の4人に戦わせていた。
それも光翼チームの面々に一対一で苦戦していたし、手の空いたシャロンが援護したため即座に決着。
残ったツンムが降参して終了……という流れだった。
「あいつ何しにきたんだし」
「数合わせだよ。健闘したって実績積みも兼ねてるけど、まあ本人は別の理由があったんじゃないかな」
「別?」
「痛いのが好きらしいよ」
「……」
もうリーバイン家は忘れよう。とてもじゃないが気軽に関わっていい相手じゃないと分かった。
続く第二試合はエグラフさん率いる地轟チームとローレライ家の上級貴族が率いる光鱗チームだった。光鱗チームは顔見せ程度の目的で参戦したチームのようである。
結果は当然のように地轟チームの勝利。ここも見所が無い。
エグラフさんの中級魔法で全員が倒されたのだ。”ヘイルストーン”だな。
てなわけで第三試合に進んだんだが、俺達は次の試合があるため控え室に移動した。
「謎のチームとローレライ家の副戦力チームですよね?」
「そうなる。先ほどまでよりは見応えある試合になっているかもね」
「第一と第二試合は主戦力と顔見せ目的の戦いだったからな」
「勝負にもなっていませでしたね」
などと話し合いながら準備運動していると、20分ほどして職員が呼びに来た。
「どっちが勝ったんですか?」
「ん? ああ、明星チームだよ」
それって……あの謎チームか。
「勝って良かったんですかね?」
「それは私たちが言える立場じゃないだろう」
「たしかに」
とりあえずは目の前の試合に集中しないとな。貴族だろうが名門だろうが手加減しないぜ!
意気込みつつ訓練場へと出る俺達。
そこには敵意を剥き出しにしたゼグノート家の上級貴族が立っていた。
他のメンバーも俺達に気付き、睨むように見つめてくる。
「ヤル気充分、ってとこだね」
「ヤル気っつーか、殺る気だよな」
などと冗談を交わしつつリングへと上る。
「それじゃ、頑張って」
「はい」
選抜に参加しない生徒会メンバーは近くの待機席で応援してくれる。
頼もしく思いながら全員が横並びになり、試合の開始を待った。
「作戦は覚えてるな?」
「あいよ」
「昨日の紅白戦よりかは楽ですよ」
「だね」
「油断すんなよ」
口々に言い合い、緊張を解す。緊張してるのは俺ぐらいだろうけどもさ。
とはいえ作戦も決まってるし、臨機応変な対応が可能なぐらいに展開を想定している。たぶん大丈夫だ。
【第四試合!! 剛拳チーム 対 地豹チーム】
相手はゼグノート家の副戦力チームだ。主戦力でないとは言え、一筋縄じゃないだろう。
【試合……開始!!】
開始と同時にケートス先輩が俺達の前に出る。
即座に補助魔法を行使して身体強化しており、準備中の俺達を護ってくれていた。
その内に俺達は詠唱を開始。俺とラグが補助魔法、ハイクとソマリが攻撃魔法と防御魔法だ。
この動き方は紅白戦の時から変わらない。最初に備えておくことが貴族相手には絶対必要だからな。
「「「”ヘイルストーン”」」」
予想した通り、相手チームの内で前衛3人が魔具による攻撃を仕掛けてきた。
だが、手数の多い魔法で先手を打ってくるのは想定済みだ。
「おいおい足りねえだろ!」
そんな余裕の言葉を溢しながら、ケートス先輩は飛来してくる岩塊を叩き落している。
俺達まで届かせないように片っ端から対処しているようだ。
「「”ブレイズフォーム”!」」
俺とラグの補助魔法が完成。ひとまず接近戦は可能になった。
けど相手が魔法の撃ち出しを止めない。
「交代だ!」
「「了解!」」
ケートス先輩が前に出る。俺達は後ろへ通さないように待機しながら岩塊を叩き落す。
【ここでケートス君が前に出たあ!! 足止めしないと危険だぞ!】
マイカーの実況へ応えるように、相手チームで手の空いている後衛の1人が魔法を行使する。
「”スプラッシュ”!」
こちらは詠唱していた魔法だろうな。かなり広範囲に多く撃ち出すような構築をしている。
「ちっ……」
岩塊なら叩き落すだけで済むけど、この”スプラッシュ”は衝撃が強い。触れるだけで重い衝撃に押し飛ばされそうになるんだ。
とはいえ、一発の威力は低い。無理に進まずケートス先輩は踏ん張って耐える。
「維持待機完了です!」
「こっちも大丈夫」
よし、ハイクとソマリの準備が完了した。
「っしゃあ! いくぞルイス!」
「おうよ!」
ラグと同時に駆け出し、ケートス先輩を盾にする。これで水弾は喰らわないな。
「お前らは前衛を狙え! 俺は後ろを攻める!」
「「了解!」」
連射された水弾を防ぎきったケートス先輩が走り、俺達も続いて走り出す。
ハイクとソマリは既に動いて魔法の射線から外れてるな。まだ岩塊が飛んできているから流れ弾に注意だ。
「ケートスを狙え!」
ここで”ヘイルストーン”を連射していた前衛3人が魔法を止め、魔具から魔石を取り出す。
かなり大きい魔具だな。持ちながら走るのは無理そうだから、固定砲台としての用途なんだろう。
そう考えながら、弾幕が止まったならチャンスだと走るペースを上げる。
すぐに懐へ到着しそうだったが、相手の方が速かった。新たに取り出した魔石を魔具へ設置し、俺達に腕を突き出す。
「「「一斉掃射!」」」
光の矢が続々と撃ち出されて俺達へ向かってくる。
「んおっ!?」
「やっべ!」
”ヘイルストーン”専用の魔具じゃねえのかよ!!
岩塊より速く鋭い光の矢が間断無くケートス先輩に飛翔し、避けると後ろを走る俺たちまで危ない。
慌てて散開し、射線から逃れる。けどケートス先輩は腕を交差して踏み止まっており、針山のようになっていた。
「先輩っ! 大丈夫ですか!?」
くそ、俺達で止めないと!
ラグも同じように考えたようで、両サイドから接近。
けど、その前に沈黙していた敵チームの1人が魔法を行使した。
「”タイダルウェーブ”!」
渾身の魔力を込めたようで、波の高さは7mにも及んだ。そんなのが敵チームの前方から出現して俺達に向かってくる。
「先輩!」
とりあえずケートス先輩に呼びかけると、先輩も魔法を行使した。
「”イグニスロア”」
熱波で刺さっていた光の矢を全て吹き飛ばし、俺達に向かって走り寄ってくる。
「迎撃!」
「”ゼファーインパクト”!」
「”エアウォール”」
正面まで迫った波がソマリの魔法で上半分を消し飛ばされ、前衛3人が風の壁に護られる。
「今の内に詠唱だ!」
「「おう!」」
2人で”イグニスロア”を用意し始め、直後に襲ってきた大波が風の壁に衝突する。
先端に向けて尖るような形状にしてくれていたから、波を切り裂くように逸らしているな。
けど、一瞬で罅が入り始めた。こりゃ壊されそうだ。
やがて風の壁が壊された瞬間に、用意した魔法を同時行使した。
「「”イグニスロア”!!」」
ほとんど俺達を通過しかけていた波に対して熱波を放ち、遂に突破。
辛うじて対処しきれたと安堵したら、勝ち誇っている5つの顔が見えた。
「終わりだ。”タイダルウェーブ”!!」
「「はあ!?」」
またかよ!
更に追加で迫ろうとしてくる大波。
「くそっ」
「ソマリとハイクに掴まれ」
振り返ると魔法で浮いて難を逃れていたらしいハイクとソマリが近付いてくる。
俺とラグは各々に捕まり、空を飛んで波を回避。
ケートス先輩も魔具で足場を作って上空へ逃れた。
「撃てえ!」
「「「”ヘイルストーン”!」」」
そりゃ撃ってくるよな……これだから上空には逃げたくなかったんだ。
相手チームの前衛3人は魔具による手数優先の攻撃を担当しているようだ。
そして後衛2人は緊急時の牽制と大技を担当って構成だな。
既に後衛の1人は魔力が枯渇しているらしい。辛そうに立っている。
けど残りの1人が魔法を詠唱していた。たぶん大技だろう。
「ソマリ! 回避頼む!」
「無理ですよ。僕一人ならまだしも」
そう言って俺を盾のように構えるソマリ。
「うおおぉぉぉ!?」
迫る岩塊を叩き落しつつ、ソマリに文句を言う。
「仲間を何だと思ってんだ!」
「役割分担です」
取り付く島もなし。というより俺には取り合う暇もなし、ってか。
「ハイク! 風を用意してください!」
「了解」
ハイクもラグを盾にしているようだ。惨い。
「ケートス先輩! 時間を稼いでください!」
「任せろ!」
頼もしく応えた先輩が波の通過したリングへ降り立ち、敵チームへ接近する。
「ケートスを近付けるな!」
相手チーム3人がケートス先輩に”ヘイルストーン”を向ける。
さすがに捌くので手一杯のようであり、その場に足止めされてしまった。近付くほどに体感速度も速くなるからな。
たまに相手は魔石を交換しているが、そこは順番に交換するよう配慮しているから隙を与えてくれない。
一方、相手チームの後衛1人は空に浮く俺達へ向けて”スプラッシュ”を断続的に撃ち出していた。
魔力が枯渇してきた奴が撃ってきているから、どうやら魔石充填の魔具だと思われる。
「”テンペスタント”」
ここでハイクの魔法が完成。周囲へ暴風が吹き荒れ始めた。
「降りますよ」
「了解」
「ハイクは暴風を維持しながら僕に明け渡す準備を!」
「難しい注文だね」
「ラグとルイスは僕とハイクを護衛してください」
「あいよ!」
4人で地上に降りて、ソマリとハイクを護るように固まり、ソマリが詠唱を始めた。
「”収束せし峻烈の坩堝……”」
その様子を見た相手チームが慌てて対処し始める。
「しかたない! あれをケートスに撃て!!」
「いや、まだ構築が……」
「もう規模は普通でいい! それなら撃てるだろう!?」
なにやら言い争っていたが、やがて後衛で大技を準備していた1人が魔法を行使する。
「”プロミネンスプリズン”!」
炎の鞭が何本も現れてケートス先輩へと襲い掛かる。
あれに囚われたら火傷じゃ済まないな。
「お前もケートスを狙え! 足を止めさせるんだ!」
「分かった!」
更に前衛1人の”ヘイルストーン”がケートス先輩を襲う。
ここまでされるとケートス先輩も回避だけに専念するしかない。
「他はソマリを狙え!! 集中砲火だ!」
「おお!!」
続々と飛んでくる岩塊や水弾。それらを俺とラグは叩き落しながら叫ぶ。
「させるかあぁぁぁ!!」
「っらああぁぁぁ!!」
「静かにしないとソマリの集中が乱れるよ」
沈黙。あとは黙って頑張るのみ。
なんとか捌きつつ、ソマリの詠唱も後半に入った。けど中々に進まないな。
「やべっ……」
そろそろ補助魔法が消えてしまいそうだ。何発か叩き落せずに当たってるから剥がされかけてるんだ。
もし補助魔法が切れたら捌ききれない。
「もう少しだ! 押し切れ!」
相手はまだ魔石の予備が残ってそうだな。
「準備完了」
こんな声が聞こえて、俺はケートス先輩に呼びかけた。
「先輩! 下がって!」
「おう!」
一息に後ろへ飛び、距離を空ける。そこへ炎の鞭やら岩塊が追撃してきた。
もう僅かでケートス先輩に着弾する刹那、魔法が行使される。
「”ゼファーインパクト”」
ドッパアアァァァン!! と轟音を響かせ、風の爆発が発生。
さっきまで俺達全員を襲っていた炎の鞭や岩塊や水弾は、その全てが吹き飛ばされた。
そして相手チームも突然の烈風に体を浮かされ、そのままリングの外へと吹き飛ばされる。
【そこまで! 剛拳チームの勝利!!】
「な……にが……?」
相手チームは呆然としたまま固まっている。
ソマリの魔法を警戒していたら突然吹き飛ばされたんだからな。そりゃ固まりもするだろう。
しかし魔法を撃ったのはソマリじゃなく、ハイクだ。これが俺達の作戦である。
とは言っても、急遽ソマリが拵えた作戦なんだけどな。
あのままでも勝てたかも知れんけど、ソマリは”ウィンケイドピアス”の威力を加減できない。環境に依存した威力の魔法だからだ。
だから囮として使おうとソマリが提案し、必死に護っていた俺達も了承したのである。
演技は得意っていうほどでもないが小芝居で鍛えてたし、てか敵3人からの魔法を捌いてたら必死さは自然と出る。
そしてハイクは暴風をソマリへ明け渡すのではなく、余さず使って上級魔法を構築した。
ちなみにソマリは環境利用の魔法なので、風が無くなった時点で反動を起こしていたな。
しかし無風であるため反動の規模も皆無。ただ構築していた魔法が消え失せただけの話である。
【つまり、ソマリ君の大技を警戒させ、その隙にハイク君が本命の魔法を構築した、というわけですね】
【呼び出した暴風も全て使ったから、威力も限界まで底上げされたようね】
【烈風面だけで人を吹き飛ばすくらいですからね。魔法は全て散らされています】
【お前ら本当に新入生かああぁぁ!?】
新入生だっつの。こちとら危なかったんだからな。
正直な話、ケートス先輩が常に狙われてたから何とかなったけど本来は苦戦するはずだ。なにせ相手は即時発動できる中級魔法を5人同時に撃てるんだからな。
集中砲火されたらひとたまりも無いだろう。ケートス先輩だからこそ耐えられたし、それでも5人同時に狙われたら危なかった……と思う。
それを相手チームが実行しなかったのは、俺達の存在があったからだ。一応は警戒していたらしい。
だから主にケートス先輩を足止めしつつ大技で仕留めるっていう作戦を選んだんだな。
まあ、それは俺達も似たようなものだ。ケートス先輩を囮にして大技を出す作戦だ。
そこでソマリまでも囮にしたから予想できなかったんだろう。ソマリは護らないといけなかったけどさ。
てなわけで俺達は何とか勝ち残り、本戦への出場権を獲得したのであった。
・・
・・・
「混合チーム?」
「そうだ。どうやら両家の実力者を混ぜ合わせた編成だったらしい」
チーム戦の選抜が終了し、昼休憩となったため食堂へと向かった。
そこでは生徒の多くが昼食を食べ進めており、やはり混雑している。
そんな中でクリストフ先輩から聞かされたのは、あの謎のチームについてだった。
正体はローレライ家とゼグノート家の人員を混合して編成されたチームであるらしく、選ばれたのは副戦力の中でも上位者。
それこそ主戦力とも遜色の無い強者が選ばれているため、余裕で本戦に勝ち進んだらしい。
「まさか両家が手を組むとはな」
「ギリク殿も聞かされていなかったかい?」
「ああ。兄上からの連絡内容には含まれていなかった」
泣いていいよギッさん。
が、どうやら泣きたいわけではなかったようだ。
「兄上も水臭いな」
「そうだね。きっと生徒会の本戦出場を支援したんだろう」
「?」
どういう事だ?
「例年なら各名門の2チームが出場していたんだよ」
「はい」
「主戦力と副戦力の2チームで、残りの1チームは顔見せとパフォーマンスを目的にしている」
既に勝敗が決まったと言っても過言じゃない試合内容となる。まあ見てたから分かった。
「しかし今年は両家の主戦力を各1チーム用意し、副戦力の上位者で構成した混合チームを作った」
そして副戦力の下位者で構成されたチームと顔見せ目的のチーム。これで合計7チームである。
「そこに加わったのが生徒会チームだ」
つまり名門の主戦力と混合と生徒会が実力的に勝ち残るような状況であったらしい。
試合の組み合わせも、そこらへんを考慮したものになっていたそうだ。
「きっと生徒会を勝ち残らせつつ、残りの一枠にも戦力を確保したかったんだろうね」
「何が目的ですか?」
ソマリが訝しげに疑問の声を上げる。
まあ、負けるわけないとか旗頭が言いに来てたしな。
わざと負けるような編成のチームを俺達にぶつけてきたんだから疑問に思う。
「対抗試合への布石だろう。ケートスを本戦へ出したかったんじゃないかな」
「俺がですか」
「そうだ。時間さえあればケートスは上級の補助魔法まで行使できるかもしれない」
個人戦じゃ邪魔されて不発になってしまうが、チーム戦なら俺達が協力する事で行使が可能になる。
そして、上級補助魔法ありのケートス先輩は……
「控えめに言ってもバケモノだね」
「酷いですよ会長」
「褒め言葉のつもりだよ。おそらく職員とも良い勝負になるだろう」
まだケートス先輩は隠し玉をもってたのか。
「それって、どれくらい時間を稼いだら?」
「3分だ」
「長すぎますね」
「だろ? 俺の系統が邪魔するんだよ」
どうやら複数系統だと、等級の高い魔法の行使に支障が出るようだった。
使いこなすのが大変であるのは知ってたけど、上級の行使とはいえ3分は長すぎる。
「一定量以上の魔力を使おうとしたら、それぞれの系統で衝突しちまう」
その感覚は説明できないらしいけど、押さえつけるのに苦労するようである。
「まあ、俺が制御下手ってのも原因だ」
「たしかに普段は補助魔法ばかり使ってますよね」
「おう。しかも初級だ」
中級だと頑張って30秒らしい。それくらいなら時間稼ぎ出来るのだろうか。
「上級は無理としても、ケートスに中級の補助魔法を使わせれば脅威的な強さになる」
「エグラフに勝つ時の常套手段ですからね」
「へえ~」
なんとエグラフさんにも勝てるらしい。
「複数系統ってのはデメリットも多い。向き不向きの魔法種類が出てくるし、かなり癖が強いからな」
「あとは魔具の使用にも影響が出てくる」
「……ケートス先輩」
「ん?」
「もっと早く言ってくださいよ」
少なくとも選抜前に教えてくれよな。
「言っただろ。俺は接近戦しかしないって」
「いや、それは単に脳筋思考かと」
「それもそうか。悪かったな」
それから詳しく聞いてみると、時間さえかければ複数系統の魔法を上級まで使える。
攻撃魔法だろうが補助魔法だろうが治癒魔法だろうが行使は可能だそうだ。
しかしながら、時間に圧倒的な偏りがあった。
初級であれば攻撃魔法が10秒、補助魔法が”ほぼ”無詠唱、治癒魔法が5秒だ。
中級なら攻撃魔法が1分、補助魔法が30秒、治癒魔法が40秒ほど。
上級ともなれば攻撃魔法が8分、補助魔法が3分、治癒魔法が4分となるらしい。
使い慣れていれば短縮できたりと少し変わってくるが、概ねこんな感じらしい。
そして魔具の使用も難しい。複数系統であるからか、必要な魔力を込める時に別系統が混ざってくる。
それは暴走の危険性が大きくなるらしく、しっかり制御してからじゃないと使えない。即時発動式だとしても時間がかかるのである。
なのでケートス先輩は魔石充填の魔具しか使わないし、性格的にも接近戦が好きだから普段から縁が無いそうだ。
「けっこう不便ですね」
「メリットはあるぜ。俺は補助魔法と相性が良いから、初級なんて”ほぼ”無詠唱だしよ」
「でも中級は……」
「中級補助魔法なら動きながらでも構築出来る。あまりにも動きに専念してれば無理だがな」
1人や2人の中級攻撃魔法を捌くぐらいであれば、構築しながらでも問題ないそうだ。
それも補助魔法の中級までであり、他は不動でないと構築出来ないらしいけど。
てことはケートス先輩が近接専門で固定になるし、状況に応じて俺達が時間稼ぎをする、と。
まあ、補助魔法以外は期待出来ないな。制御が下手らしいから威力の底上げなど望めないだろうし、稼がなきゃいけない時間に見合った成果が得られない。
ん~……確実に勝つならケートス先輩に中級の補助魔法を使ってもらう、って流れか。
まだ初級で対処可能だから出していないけど、切り札的な扱いとして覚えておこう。
「やっぱ防御魔法も中級以上が必要か?」
「時間を稼ぐなら有用でしょうね」
「相手とも似たような戦略になりそうだぜ」
俺達は魔具の性能が高いわけじゃないから、手数で牽制するって手段は取りづらいんだよな。
もし手数を優先するなら俺とラグは詠唱から始めなきゃいけないし、その分だけケートス先輩に護ってもらう必要が出てくる。
だからといってソマリやハイクに手数の多い魔法を頼んだら大技が使えなくなる。
相手に脅威であると感じさせて牽制するためには中級以上の魔法が必要になり、そうなると詠唱が必要。
その分だけ詠唱しているメンバーを護らなきゃならないから、手が塞がる。
結局はケートス先輩の接近戦と後衛2人の大技が主力だな。
俺とラグは後衛を護るか、相手を撹乱することが役割になってくる。
「俺はもっと派手に動きたいんだけどな」
「けどさ、やっぱ相手の手数が多いって」
「本戦では開幕からケートス先輩だけで対処できない攻撃を仕掛けてくる人だって居るかもしれません」
「そうなったら基本戦略が崩れるよね。別のも考えとかないと」
などと話し合っていると、ギッさんが注意してくる。
「早く食事を済ませろ。他の生徒が入ってこれない」
「あ、すんません」
「そういった戦略を練る時間はドリポートへの移動中に捻出できるだろう」
それもそうか。移動中は学校生活と比べて生徒会の仕事もないし、時間に余裕があるだろうな。
「よっしゃ、出発までに新装備とかは買っておこうぜ」
「あとは仕事も片付けないとね」
「旅の準備も忘れるなよ」
俺達は対抗試合に向けての準備だけでなく、夢想の都についても話に花を咲かせながら昼食を進めるのであった。
次回・・・食うか沈むか
次からドリポートへ向けて出発です。




