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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第三章 人魔を渡る者
80/217

3_23_紅白戦

こんにちは、何日かぶりですね。

やっと書き上げたので投稿しました。


いつもより文字数は少し多いですし、ちょいと説明会っぽくもなってますがご了承ください。




クリストフ先輩から特訓としての紅白戦を提案され、食堂が適度に空くまで時間を潰したいため了承。



というわけで、俺達は訓練場に留まった。

どうしたのかと近付いてきたナイール先生に事情を教えると、審判をしてくれるらしい。


「先生は食堂に行かないんですか?」

「今日はイリーナさんが休みですからね。外で食べようと思ってたんですよ」


すっかり中毒者であるようだった。


ともあれ審判は頼んでおき、他の生徒が出払うのを待つ。


やがて閑散とした訓練場にて、生徒会の紅白戦が始まろうとしていた。



紅組が選抜に出る俺、ハイク、ソマリ、ラグ、ケートス先輩の5人だ。


残りの5人が白組だな。



「まずは数を減らす」

「仮面を狙うんすね」

「次はマリとモーティだな」

「鳩尾を守れば余裕だろ」


そうやって打ち合わせしていると、ゴルマック先生が走り寄ってきた。


「なにしてるんだ! 楽しそうだな!!」



えぇ~……もしかして混ざるのか?


そう予想したが、ナイール先生が止めてくれた。


「ゴルマック先生は試合のリングを作ってください」

「任せてください!!」



豪快に笑いながらゴルマック先生が訓練場の地面を魔法で変形させ、即座に用意されたリング上に登る。


ルールは敵メンバー全員が脱落となれば勝利、というシンプルなものだ。

リングの外に降りると場外脱落となり、それ以外でも審判のナイール先生が戦闘不能と判断すれば脱落になる。



「それでは試合……開始」


開始の直後に俺達は動き出す。


ハイクとソマリが少し下がり、攻撃と防御の魔法を準備。

そして俺とラグは補助魔法の準備だ。


ケートス先輩は”ほぼ”無詠唱で即座に身体強化し、タチアナ先輩めがけて突っ込んでいく。



「めっ!?」

「覚悟しろタチアナ!」


卑劣に思うかもしれないが、人数の有利を獲得するのは大事だ。


それにタチアナ先輩が戦う姿なんて見た事ないからな。不安要素は排除しておきたい。



「させないっ!!」


しかし、間に割り込んできたのはマリである。同じ女性として庇おうとしたのだろうか。


「良い度胸だ!」


ケートス先輩が悪漢のような雰囲気でマリへと迫る。

対するマリは一撃に賭けるようであった。



「うりゃあああ!」


鳩尾を狙った強力な拳。いかにケートス先輩といえども大ダメージだろう。

それぐらいマリは鳩尾の破壊だけに特化しているのだから。




けど、それも当たればの話である。



「っへ?」


マリの体が宙を舞う。何をされたかも分かっていないような表情だ。

離れた位置にいた俺は見えたけど、早業だったな。



突き出された拳を流しつつ下へ引き寄せ、前へ走る勢いのまま足を払ったのである。

マリは自分の勢いが狂い、踏ん張れずに浮いてしまった。


くるんと一回転したマリが地面に墜落。



「ふぎっ!?」


受身も碌に取れなかったな……ありゃ痛い。


「”ノイズチェーン”」


どうやらマリが転がされている間に、クリストフ先輩の魔法が完成したようだ。


俺達も詠唱完了。すぐにケートス先輩を追っかけねえとな。



「「”ブレイズフォーム”!」」


よし! さっそく前……に……


「なんっか……変……」


頭がぼ~っとする。

なんだっけ、俺はたしか……そうだ、ケートス先輩と合流するんだ。



少し足を止めたものの、すぐに走り出す……けどなんかこう、気が散るな。腹減ったし。



「ルイス! ラグ! 集中を乱すな!」


ケートス先輩の叱責が飛んでくる。


んなこと言われてもさ、集中を乱すなとか方法が……



「うぉっ!?」


ケートス先輩に漆黒の鎖が襲い掛かる。何本か数えるのが難しいけど、あれ? 何本だ?


とにかく沢山だ。避けるので精一杯のようだった。



「んげ!」

「!? ラグ!?」


隣を走っていたはずのラグが転がる。

そちらへ目を向ければ、ギッさんが迫っていた。


「いつの間に!」

「会長の魔法に苦戦しているようだな」


ギッさんに捕まり素手での接近戦を繰り広げるが、挙動を注視する前に鎖の音へ意識を持っていかれてしまう。


捌けたのも僅かであり、ギッさんの蹴りが脇腹を襲った。けっこう重い一撃だ。


「っぐぅ!」


くっそ……ラグと分断された。




「ルイス! ラグ!」

「マズいね、これは」


どうしてかハイクとソマリまで合流してきた。

あれ、魔法を準備してなかったっけ?


「魔法の構築が邪魔されました!」

「それよりラグが捕まってるよ」

「は!?」


とりあえずラグを見ると、鎖に巻き付かれていた。補助魔法も消えている。


「余所見しすぎだ!」

「ぶえ!?」


ギッさんに殴られる。


くっそ!! わけ分からん状況だ!


と、今度は俺に向かって鎖が近付いてくる。

めっちゃ速いし軌道が読めない!


目で追っているうちに鎖が接近し、あえなく拘束された。



ギッさんは標的を替えてハイクを狙うようだ。


既にハイクは混戦を離脱し、クリストフ先輩に向けて走っている。

けど、そこへモーティが立ちふさがっていた。


ソマリはハイクが挟撃されないようにギッさんを抑えるようだな。でも接近戦が苦手だし俺も向かわないと!



「っらあああ!!」


全身に力を込める……!!



なのに、鎖が外せない。どんだけ強力なんだよ!


こっちは、って……あれ!? 俺も補助魔法解けてるじゃんか!



「マリ、今のうちだ」

「はーい」


クリストフ先輩の指示でマリが向かってくる。


「やべえ!」

「やめろおぉぉ!」


しかしマリに容赦という言葉は存在しない。


拘束された俺達はマリに転がされ、晒された腹へ最終兵器の拳が突き刺さった。



「んっぐ!?」


おっもい!! けどっ……なんとか腹筋で耐えて……

「せいや!」

「っ!?」


当然のように追撃。俺はもう動けなくなった。

鎖からも解放され、首だけ何とか持ち上げるとラグも沈められている。



そしてハイクはモーティを投げ飛ばしており、ソマリはギッさんに組み伏せられていた。



「ギリク殿、ハイクを頼む」

「分かった」


さきほどまで俺とラグを拘束していた鎖がソマリへと向かう。


直前でギッさんが離れ、逃げる間もなくソマリが鎖に捕まった。



そして即座にマリが鳩尾へ痛撃……ソマリ撃沈。これでマリは3人も仕留めた事となる。


「なんだよこれ……」

「一方的、すぎんだろ」


こっちは一気に3人が脱落し、残りの2人も鎖を相手するのに苦戦しているようだった。


そこへマリとギッさんが襲い掛かり、マリはケートス先輩にぶん投げられて場外脱落。場外のゴルマック先生に向けて投げたようだから怪我は無いな。


ハイクはギッさんに一撃入れたけど、その隙に鎖が忍び寄り捕まった。拘束されたままギッさんによって場外へ連れて行かれ脱落。




ちなみにタチアナ先輩は自分から場外へ逃げていた。


これで残りはクリストフ先輩とギッさんとモーティ、そしてケートス先輩だ。



状況としては劣勢であり、ケートス先輩は一度距離を置くために俺達の側まで後退してくる。



「すんません……」

「気にすんな。どれくらい対応するか見たかったからな」


正直、まったく対応できなかった。

ころころ変わる状況に付いていけず、何も出来ないまま倒れたし。



「勝てるんすか?」


俺の近くで倒れているラグが声を上げる。

三対一だからな、かなり不利だろう。



「会長次第だ」


よく分からないけど、全く勝ち目が無いわけじゃないらしい。



「ふむ……ギリク殿、モーティ」

「はい」

「どうした?」

「ここは私の補助無しでケートスに挑むかい?」


なぜかクリストフ先輩が数の有利を捨て、補助にも回らないようだ。


「本当に俺とギリク先輩だけでやるんですか?」

「怯むなモーティ。胸を借りるつもりで挑むぞ」


2人はクリストフ先輩の提案に乗るらしい。モーティは腰が引けてるけど。



「う……うおおおおぉぉぉ!!」

「ケートス殿! 勝負!」

「よっしゃこい!」


そして始まったのは二対一の接近戦だった。


同時に攻め、出来る限り手数を出してケートス先輩に一撃を入れようとしている。


しかしケートス先輩は避けず、そのまま受け止める。全くもって効いていないようだった。



「ぶぁっ!?」

「っおぉ……!」


モーティが顎を掌底で打ちぬかれ、ギッさんは腹に拳を叩き込まれる。

たった一撃。それで2人は崩れ落ちてしまった。


「視界が揺れる……」

「やはり……強い……!」


転がる2人を場外へ放り捨て、俺とラグまでリングの外に出された。

これで残りはクリストフ先輩とケートス先輩のみである。



「やはり簡単には倒せないようだね」

「まだ後輩に遅れは取りませんよ」


なんとも余裕の表情で会話する2人である。もう戦わないのだろうか。


「基礎力が違うよね」



ハイクが座り込む俺達に近寄ってくる。まだ元気そうだな。


「俺達はクリストフ先輩の鎖を避けきるだけの能力が無いし、あの金属音も対処できなかった」

「やっぱ気が散ったのは鎖の音が原因だよな?」

「そ。あれは妨害に特化した魔法だからね」



どうやら俺とラグの補助魔法が解けたのも鎖の効果であるようだ。


金属音が集中を乱し、触れると魔力を乱す。そういえば交渉試合でソマリが説明してたな。



代償として行使中は動けないんだっけか。首ぐらいなら動かせるだろうけど、それ以外は無理という代償だ。


そして等級としては中級魔法である。



「にしては強力すぎるだろ。すっげえ速いし、拘束されたら脱出できないし」

「そうなんだよね。あんなに強力なのが不自然だよ」


ハイクも不思議に思っているようだ。

そうやって話し込んでいると、リング上で動きがあった。



「っしゃあ!!」


ケートス先輩が前へ詰める。真正面からの突貫だ。



しかしクリストフ先輩も棒立ちではあるが無抵抗じゃない。周囲で暇そうにしていた鎖が動き、ケートス先輩を迎撃する。


今数えてみると、12本もの鎖だった。これを別々に制御しているのだから抜群の制御能力だと思う。


そんな、生き物のように様々な角度でケートス先輩に襲い掛かる鎖。

多角的な攻めであるし、動きも速く軌道も単純じゃない。



だというのにケートス先輩は捌いているようだった。少なくとも一瞬で負ける事はなかった。


けれど、やはり鎖の数が多い。何度かケートス先輩の体に鎖が触れ、その度に補助魔法が削られている。


2つの補助魔法を組み合わせて炎を身に纏いつつ全身を硬化させているんだが、そんな全身を包む守りが徐々に削られていく。少しずつだが身に纏う炎の勢いが弱まっているんだ。



「さすがに厳しいかい?」

「まだまだあ! 本気で勝ちに行きますよ!」


と、ここでケートス先輩が飛び上がる。


身体強化で増強された脚力は、その体を3mほども上昇させていた。怪人かよ。


「台!」


ケートス先輩が叫ぶと、至近距離に風盾が出現する。魔具か?


「系統違いなのに使えるって事は……」

「系統変換か、魔石充填って事だね」


価格的には魔石充填の方が安いよな……系統魔石で費用掛かるだろうけど。


ともあれ出現した風盾は小さく、しかし厚みがある。

形状もシンプルに円形だった。


それをケートス先輩は足場にして、跳躍する。


「台! 台! 台!」


台ってのがキーワードらしく、叫ぶたびに出現する風盾を足場にしては跳躍を繰り返す。

それも角度を変えているから、まるで空を自由に跳ね回っているようだった。


クリストフ先輩の鎖が捕まえようと迫るも、立体的な動きに苦戦している。


今までは地上だったから、包み込むように襲えば充分だった。

けど空中では縦横無尽に動き回られている。包み込むことが出来ない分、ピンポイントで捕捉する必要があった。



おそらく飛ぶ鳥くらいならクリストフ先輩は捕まえられるだろう。それぐらいに鎖が速い。

けれど、ケートス先輩は速すぎる。鎖が追いつけずに空回りしていた。



そして、とうとう決着が着く。



ケートス先輩が突然に軌道を切り替え、クリストフ先輩の懐に着地したのだ。


両者が何かを言うでもなく、間髪入れず放たれた重い拳。


クリストフ先輩の体は易々と観戦席まで一直線に吹き飛んでしまう。殴られる寸前で魔法を消して防御したようだが、それでも防ぎきれなかった。


ナイール先生が維持待機させていたのか、風の壁がクリストフ先輩を受け止める。



「そこまで! 紅組の勝利!」


勝ったには勝ったんだけどさ、なんかこう……釈然としないな。

紅組はケートス先輩以外が活躍してないし、というより誰も倒していない。



てか、それよりクリストフ先輩は大丈夫か? 吹き飛ばされたけど。


心配しているとゴルマック先生がクリストフ先輩を抱えてくる。



「いやはや、負けたよ。あんな魔具を用意していたとはね」

「すんません……手加減する余裕がありませんでした」

「仕方ないさ。褒め言葉として受け取っておくよ」


爽やかに返してるけどさ、怪我とか無いの?


「骨とか折れてません?」

「折れたよ。咄嗟に魔法を消して腕で庇ったが、両腕とも粉砕だ」

「ええぇ!?」

「大丈夫だ。治癒魔法で治した、というより元に戻したが正しいかな」


そう言って両腕を振っており、本当に骨折が治っているようだ。


闇系統の治癒魔法だからか、骨折なんて無かったかのように全快である。



その分だけ魔力と体力を動けないほどに消耗していたけど、無事でよかった。


「さて、少し休んでから食堂へ向かおう。もう空いている頃合だろうからね」


その場で20分ほどは各々が休憩し、食堂へ向かう。さっきの紅白戦についても昼食の際に反省会を行うようだ。



・・

・・・



「それでは、お疲れ様」

「「「「お疲れ様です!」」」」


皆で食事を始める。すると手を上げたのはタチアナ先輩だ。


「お兄様……例の魔法をお願いしたいと思いません?」

「ああ、もちろんだ」



クリストフ先輩が詠唱を始めるけど、例の魔法って何だ?


「”宵に潜めて密やかに、包み隠すは闇神の陰・・・シェディボックス”」


何も見通せなくなるような闇が出現し、タチアナ先輩を包み隠してしまった。

いつかイリーナも使っていた魔法であり、気配や音なども遮断する効果がある。限界はあるけど。


「何してるんですか?」

「こうしないと食事できないだろう?」

「そっすか……」


仮面を外さないと食事できないため、こうやって人の目がある場所ではクリストフ先輩の魔法で隠してもらうらしい。



たまに闇の中から手が伸びてきては、皿に乗った料理をフォークで突き刺して戻る。


ものっそい異様な食事風景であった。



「それでは食事中だが、さきほどの反省会を行おうか」

「紅白戦ですか? 一次選抜ですか?」

「紅白戦だよ。一次選抜については何も問題ない」



執行者という嫌な役回りをさせられた……って俺達が気に病んでいるならばフォローするつもりだったそうだ。


しかし学校長が終了式で執行者という存在の意味について語ったため、大丈夫と判断したらしい。



そういうわけで紅白戦についてだ。これは反省点というより愚痴に近いんだが……


「先輩が強すぎて何も出来ませんでした」


コレに尽きる。



「特訓にもならなかったというのが本音ですね」

「だな。もしこれが本番だったら悔しくも思えなかっただろうしよ」


……そうだな、その通りだ。


気付けば終わってたというぐらい、手も足も出なかった。



悔しいというよりは理不尽にも感じてしまうだろう。


「誰か一人の実力が飛び出ていれば、ああやって一方的な内容になってしまう」

「今回は会長の鎖と俺の体術が中心になった。それを崩す前に他が脱落してしまったな」


そうなんだよな。というか崩す以前に参戦すら出来てなかったというか……


「あんな負け方は初めてでしたよ」

「だな。もうちょい何か出来るかと思ってたぜ」

「私としては、勝敗を気にしなくて構わないと思っている」

「それが会長の本音か?」

「もちろんだよ」

「だとすれば残酷な言葉だ。試合での勝敗ほど重要な結果は他に無い」



ギッさんが喧嘩腰というよりかは、噛みついてる。同じ白組で戦ったんだから仲良くしてくれよ。



「むろん勝敗も大事だよ。だけど他に大事な」

「その達観が問題なのだ。後輩へ最初に教えるべき心得ではない」


ギッさんが俺達へ視線を向け、言葉を重ねる。


「こいつらは、まだいい。簡単に折れるような芯ではないからな」


けど、他の生徒達は違うし、特に一般の生徒について考えなければならないそうだ。


「実際に想像してみろ。もし勝敗という結果を決める試合で、それに拘らないと勝者から聞かされた場面をな」

「……」

「勝敗を決める場では結果を重く扱うべきだ。それを蔑ろにする事は過程をも否定する」



誰も何も話せなくなる。


ただ、タチアナ先輩のフォークだけが闇の中から出入りしていた。


外からはもちろん、中からも相互を見通すことが不可能なため、たまにフォークへ食事が突き刺さらない。



カンッ、サクッ……カンッ、カンッ、カンッ、サクッ……カンッ、カンッ


「んっ……ふ、っはははは!」


先に笑ったのはハイクだった。このシュールすぎる光景に耐え切れなかったんだろう。



続いて他の新入生メンバーも笑い出す。マリとかは腹を押さえて笑っているほどだ。

すると、タチアナ先輩が闇から顔を出してきた。仮面は装着している。


「なんだか騒がしいと思いません?」


俺たちの笑い声が遮断できる音の範囲を超えていたようである。


「な、なんでも……ないっすよ」

「そっ、そうそう……なんでもっ……!」

「?」



不思議そうにするも、再びタチアナ先輩は闇の中へ。


そしてまた食事を再開した。



カンッ、カンッ、サクッ……カンッ



「「だっはははははははは!!」」

「も、もう……おなか痛い……っふふふふ」

「行儀悪いと思うんですが」

「おもしろいから、こ、このままで……」



ソマリだけは気に食わないようだったが、もう少し眺めていたい。

やっぱり騒がしいと顔を出してくるタチアナ先輩、誤摩化す俺達の応酬が繰り広げられた。


するとギッさんが大きく溜息を吐いて謝る。


「……悪かった。強く言い過ぎたようだ」

「いや、大丈夫だよ。どう伝えるべきか……難しいな」

「意味は分かる。別に勝敗を蔑ろにしているわけではないとな」


学校長も勝者と敗者について話をしていたけど、あれだって捉え方は人それぞれだ。


勝敗が全てじゃないと言っても、血の滲むような努力をしたのに手も足も出なかった者だって存在するかもしれない。


さらには才能や装備も平等とは言い難く、努力だけで覆せる結果なんて少ないだろう。



「必ず注目されるのは結果だ。それを軽はずみに拘らないと言ってしまえば、過程をも否定したと捉えられかねない」

「勝者の余裕とか、嫌味だと思われるかもしれないね」

「お前達は紅白戦で会長に負けて、何を感じたんだ?」

「ん~……理不尽なくらい強い、って感じたかな」

「それを絶対越えられない差だと諦める者だって存在するんだ」



それはまあ、分かる気もする。

学年が違うからって理由じゃなくて、根本的に格が違うって思う奴も出てくるだろうな。



「これだけは個人の問題だ。どうしようもできない」



けど、勝ちたいとも考えていなかった勝者と、勝ちたいのに届かなかった敗者という構図であった場合、危うい事態になる可能性がある。




血の滲むような努力をしたのに、勝ちたいとも思っていなかった奴に負けた。しかもその発言を聞いてしまったら……


馬鹿らしくなる、惨めになる、諦めたくなる、関わりたくなくなる……最初から挑戦しなければよかったと後悔したくなる。



「生徒会の掲げる理念に相応しいと思うか? そのような感情を持たせていいのか?」

「違うけどさ……」


それこそ個人の考え方なんだから、どうしようもない部分が含まれてしまう。



「せめて後悔はさせたくないよね」


そうハイクは言う。


才能が無いから諦めるとか、これ以上は努力しても無意味だとか、そうやって判断するのは個人の自由だ。


けど、挑んだ事を後悔させたくない。結果を受け入れて、納得をもって諦めてほしい……と。



もし諦めきれなかったら、継続すればいい。


努力を続けて、また望む結果が得られなかったら考える。まだ続けるか諦めるかをな。


どこまで続けても負けてしまう事だってあるだろうし、いつしか諦めてしまうかもしれない。

けど、それまでの過程は無駄じゃなかったんだって思えるようにしていきたい。


どうやって、という点は明確な答えを出せたわけじゃないけど……俺達だけで出す答えでもないか。

それこそ本人と関わって、導いたり助け合っていく事が生徒会の在り方だと思う。



「これからは発言に気をつけるよ。心無い一言にならないようね」

「いや、俺も穿ちすぎてしまった。普段から会長は配慮している」



こうして一区切りし、やっと紅白戦の反省会に移った。



「とりあえず全く対処できなかった、って反省点だな」

「私の魔法で何が脅威だった?」

「ん~……速いのと、多いのと、拘束力と、妨害効果です」

「全部じゃねえか」



いや、だって事実だし。


まあでも一番の脅威は数だな。これが代償という弱点をカバーして余りある性能になっている。


「あとは妨害効果もですね。一度行使されると、以降は魔法の構築と制御が不安定になります」

「少なくとも維持待機とか、規模の調整とかは出来なくなるよね」



と、ここでクリストフ先輩が教えてくれる。



「さっきの”ノイズチェーン”は私の全力を込めたからね。上級相当の規模だったんだよ」

「やっぱり、そうですよね」


絶対に中級の性能ではなかった。


「ただし、規模を大きくしても使いこなせるとは限らない。何年も鍛えこんだからこそだよ」

「年季が違うんすね」

「まあね。とはいえ、弱点が克服しきれたわけではない」



たとえば移動できないという代償は弱点に繋がる。けど本数を増やして近づけさせない事で克服しようとした。


しかし魔法で直接に狙われたら対処できない。地系統の魔法などで足元から土針を突き出されたら、鎖では防ぎようが無いんだ。



もちろん、鎖で自身を持ち上げるという対処は考えたらしい。しかし代償を無効化するような行為は魔法の無効に繋がる。



試したら自身に鎖が触れた瞬間、魔法が消えてしまったそうだ。今では即座に魔法を消したい時の手段として用いているってさ。


つまり鎖の総数は12本ではなく13本である。自身の背後で常に1本を待機させているんだ。



紅白戦の時みたいに誰かが接近したら、待機させていた鎖で自身に触れて魔法を解除。

こうすれば制御で消すより早く動けるようになる。



そういうわけで、移動できないという代償そのものは崩せない。だから魔法で直接狙えないようにする。



それが鎖の金属音であり、魔法の性能である。

平均的な効果では集中を少し乱す程度であり、使い慣れた魔法の行使までは邪魔出来ない。

しかし最大限まで増幅すれば、おいそれと構築出来ないほどまで妨害出来るのだ。


そうすれば鎖への対処は直接に近付くしかなく、これは本数を増やして対処する。速く正確に動かせるよう訓練し、あんな鉄壁の魔法が完成した。



けれども無敵ではない。鎖で拘束するしか物理的な攻撃手段が無いため、決定力に乏しい。


「でも鎖で打つとかすれば攻撃出来ますよね?」

「鞭みたいにすれば痛いと思うんですけど」

「あの鎖は物理法則が一部通用しない。拘束ぐらいしか出来ないんだよ」


鞭のように扱うには根元から先端へ向けて力を波のように伝えていく事が必要となる。


しかし、あの魔法で出現した鎖の根元は暗い孔になっている。根元から力を伝える事が出来ないんだ。


そして動かせるのは鎖の先端のみであり、それを相手に当てても威力が出ないらしい。

あと、根元の孔は鎖の収納のみしか出来ない。


だから相手を巻いた先端を固定し、そこで根元から収納して引き絞る。絞り千切るような恐ろしい真似は相手が柔らかいなら可能だけど、人間相手には拘束ぐらいが関の山だ。


耐久力に関しては補助魔法込みなら千切れる程度らしいけど、それは魔力を乱すという鎖の効果で実現させない。



補助魔法は基本的に身に纏うものであり、それは魔力で精製されているからだ。


だから魔力を乱されると補助魔法が散ってしまう。俺とラグの補助魔法が消え失せたのも、拘束されて直に魔力を乱されたからだな。



それこそケートス先輩ほどの怪力なら素の筋力で千切れるようだけど、隙は出来る。


その間に何本も使って絡め取ってしまえば、脱出は不可能だ。



「あれだけの規模にすると魔力を大きく消費する。治癒魔法で骨折を治したら空になるほどね」


あとは、妨害効果を高めすぎると味方まで魔法の構築に支障が出るという問題もある。


実際、白組は魔法を一切使っていなかったが、あれは使えなかったんだ。無理に構築しようとしても反動の危険性があるからな。



総合すると、あの鎖を攻略するには潜り抜けて接近するほどの身体能力を発揮するか、魔具などの魔法構築が必要ない手段で直接狙うかである。


他には鎖を出させないってのも手段の一つだけど、簡単じゃないな。


「てことは、新入生メンバーだけでクリストフ先輩に勝つなら……」

「現状は無理ですね。持っている魔具は威力が低いので、鎖に阻まれたら散らされます」

「手数も少ないよね。押し切るには足りないかな」

「まだケートス先輩に頼らないと突破は無理か」



けど、だったら別の考え方がある。



「ケートス先輩の補助だね」

「何本か引きつければ、その分だけケートス先輩が接近しやすくなる」

「けどもし捕まったらマリが出てくるからな」

「ギッさんとかモーティも控えてるし」


ん~……難しい。


悩んでいると、クリストフ先輩が教えてくれた。


「さっきの紅白戦では、どう対応するか見せてもらう意味合いが強かったんだよ」

「まあ、初見じゃ厳しいと思うぜ」

「交渉試合では見てたんですけどね」

「あれは全力でないからな、むしろ油断に繋がる情報だろう」


そういえばギッさんが交渉試合でクリストフ先輩の魔法を喰らったんだっけか。

途中までは有利に見えたんだけど、至近距離まで近付いたら一瞬で捕まったな。


あ、そういえば……


「あの鎖って他の魔法にも発展するんですよね?」

「そうだよ。けど、使わないようにしている」


多用していい魔法ではないらしい。


「もし交渉試合で会長が全力だったとしたら、俺は精神が壊れていたかもしれん」

「うっわ……」

「申し訳なかったね」

「いや、気にしなくて良い。理由があったのは理解している」

「どんな効果なんですか?」


その問いに、クリストフ先輩は難しい表情で答えた。


「相手の記憶へ強制的に働きかける魔法だよ」


それは……えげつないな。


「思い出させ、悔やませ、追い詰める。際限なく増幅し、精神を蝕むような魔法だ」

「個人使用が禁止されそうですね」

「世間に認知されているならば、もしかしたら禁止されるかもしれない」

「へ?」

「あれは私が作り出した魔法だよ。オリジナルだ」


”ノイズチェーン”から特定の条件で発展させる魔法であり、扱えるのは開発者であるクリストフ先輩のみ。

詳しい扱い方に関してを本人が黙っているからだ。


魔法の種類としては特殊に分類されるらしく、系統は闇であっても誰もが使えるわけではないと。


「威力を最低限に抑えれば気絶程度で済むが、それでも精神を蝕むのは事実だ」


改めてクリストフ先輩はギッさんに頭を下げる。


「だというのに、どんな記憶へ働きかけているのかも分からない。無責任で罪深い魔法なんだよ」


するとソマリが疑問を口に出す。


「どうして交渉試合で使ったんですか?」

「それは……」


気不味い空気が漂う。褒められた魔法じゃないとは俺も思うけどさ……


「僕にも思い出したくない記憶があります。その記憶を引っ張り出されるのは絶対に嫌ですから」

「そう、だね……言い訳になってしまうが、私自身が代償に縛られているんだよ」


”ノイズチェーン”から発展する”ギルティアジャッジ”という魔法の代償は、常に行使者へ付き纏うタイプのものだ。


クリストフ先輩の精神状況に呼応して、強制的な行使を引き起こすという呪いのような代償である。


「一度でも他者に行使した過去があれば、それ以降ずっと背負っていかなければならない代償なんだ」

「強制的な行使って……どういう?」

「代償が強制行使に移行すると、”ノイズチェーン”しか行使出来ない上に、必ず”ギルティアジャッジ”に発展してしまう」


移行条件は伏せられたが、交渉試合では条件を満たしてしまったそうだ。

そうなると、ある程度は予想出来てしまう。


義憤や憎しみ……そういった精神状況だろうな。



「この際だから言っておくが、私が初めて行使した相手はケートスだ」

「えっ……」

「どれほどの威力かも判明していないままに行使してしまい、ケートスの精神は壊れかけた」

「会長、もう気にしなくていいですから」

「そうはいかない」


ケートス先輩が最初の経験者だったとは……


「ケートス先輩で良かった」

「それな。精神も頑丈だろうし」

「壊れても治りそうだよね」

「お前らな……フォローするのは有り難いが、そうじゃないだろ」


ともあれ、それ以降は基本的に封印しているらしい。

もし強制行使の条件を満たしてしまった場合は、ケートス先輩相手に行使しつつ意図的に反動を起こすそうだ。


そうして行使者であるクリストフ先輩自身へ跳ね返るように仕向け、発散するのだとか。

威力は最低限に抑えた上での反動らしいけど、それでも楽な方法じゃない。



「もうタチアナは食べ終わったと思いません?」


ふと、タチアナ先輩が闇から頭を出してくる。

その言葉で俺達は気分を切り替え、食事を再開した。



クリストフ先輩が抱える代償を知っても、態度を変えるわけじゃない。


皆も同じ考えであると分かるし、ひとまずは冷めてきた昼食を頬張るだけに努めるのであった。



次回・・・チーム戦 選抜

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