3_15_悪臭の洞窟
こんにちは。
時間がないので前書きと後書きは無しです。
「到着っ!」
日帰りの予定であるため、かなりの速度で馬車は進んだ。
それこそ大草原で正面から突進してきた魔物なんかは、御者をしていた人に魔法で弾き飛ばされ、転がったところを撥ね飛ばされたくらいだ。
どうやら戦える御者らしく、魔物と遭遇する度に停車しなくていいよう対処してくれたのである。
そして1時間ほどで到着してからは、馬車内で選んだ武器を皆が背に担いで降りる。
少し馬車の揺れに酔ってしまったが、すぐに治るだろう。
「それでは8時間後に」
「頼んだ」
馬車が都へと引き返していく。俺達が洞窟から帰ってくるまで停車しておくと危険だから、馬車は一旦都へ戻るんだ。
俺達が依頼を完了させて、大森林の外へ出てくるだろう頃合いで迎えに来てくれる手筈となっている。
「なあ、リーダー」
「ん? どうした?」
臨時リーダーへ気になった事を聞いてみる。
「あの馬車って帰りは御者しか乗ってないだろ? 魔物が群れで襲ってきたら危なくね?」
「心配ない。あっち見てみろ」
そう言われて示された方向を見てみると、木々で遮られているものの、近い場所で狼煙を上げている者が居るようだ。
「すぐ近くで都に戻る連中が待っている。そいつらを乗せれば戦力として機能するんだ」
「そっか」
馬車の心配はしなくていいらしい。
俺達と入れ替えで昨日まで大森林で活動していた冒険者達が乗って帰るそうだ。そして俺達が都へ戻るときは大森林への出発組を乗せてくる、と。
常に戦える人員を一定数乗せている状態で保つように管理しているんだな。
「こういった冒険者を運ぶ馬車は、ギルドと専属契約を結んでいることが多い」
いつでも出発できるように待機してくれるし、御者も少しは戦えるからギルドにとっては大切な存在だ。
とはいえ護衛戦力はギルド側が用意しなければならない。
だけども毎回護衛のためだけに戦力を用意するのは費用が嵩む。
だから出発組と帰還組の冒険者達を入れ替わりで乗せられるよう采配しているのだ。
冒険者達も自衛はしなければいけないのだから、そのついでに御者と馬車を護ってくれる。そんな倹約的関係になっていた。
「さて、少しだけ打ち合わせする時間を取る。みんな集まってくれ!」
臨時リーダーの声に全員が集まってくる。話し合う内容は道中の戦闘についてだ。
「今回は時間に余裕が無い。遭遇すれば倒すが、無理に戦わない方針でいいな?」
全員が頷く。必要以上に戦闘は行わないようだ。
往復での休憩は各1回。洞窟から少し離れた空地で取る。
そして魔具の起動は洞窟が視界に入ってから、と打ち合わせた。
「まあ、今回の依頼は精神的に疲れるだろうからな。せめて道中は気楽に進もう」
その言葉で締め括り、すぐに出発となったのであった。
・・
・・・
「おいルイス! これ食ってみろよ!」
「んあ? んだよラグ」
「いいから食えって。ほらほら」
ラグが何か頬張りながら俺に近寄ってきた。
その手に持っているのは果物のようである。
「毒じゃねえだろな」
「俺も食ってんだろが」
それもそうだ。ラグが投げ渡してきた果物らしき物体を口に運ぶ。
歯応えのある食感であり、果汁は少ない。
美味いな。爽やかな味で……ん? んんっ!?
「なんだこれ!?」
「すげえよな!」
「おう! 噛めば噛むほど……」
「「不味くなる!」」
ラグと顔を見合わせて爆笑する。
こんなの初めて食ったな。不思議な果実もあるもんだ。
最初は柑橘系の爽やかな味なんだが、噛むほどにエグ味と酸味が強くなり、最後は泥でも噛んでいるような味になってきた。
不思議な果実を噛み続けていると、リーダーが寄ってきて解説してくれる。
「そいつは果汁が唾液に反応して不味くなっていく」
「「ほぉ~」」
「都じゃ我慢大会なんかの種目で使われるくらいだ」
「ぶぇっ! もうキツい!」
「べっ! なあ、ハイクとソマリにも食わせようぜ」
そうして4人で我慢比べが始まった。
より多く噛んだ者が勝ちってルールだ。
で……
「「「「おろろろろろ……」」」」
「お前ら遊びに来たのかよ」
結局は4人同時に嘔吐するまで我慢したため引き分けとなった。
面白いから幾つか持って帰ろう。
・・
・・・
「ん?」
「どうしたんですか?」
「あの蔦ってさ、なんか変じゃね?」
木の洞から数本の蔦が垂れ下がっているが、それは何度もクルクル輪っかになっている。
何も巻きつくものが無ければ真っ直ぐに垂れ下がるだけだと思うんだが……
「どうした?」
「お、リーダー見てくれよ。この蔦って変じゃね?」
俺達の会話に気付いたリーダーが何事かを聞いてくる。
俺が不審な蔦を指差すと、納得したように応えてくれた。
「たぶん食虫植物だ。枝でも拾って輪に突っ込んでみろ」
「おうよ」
言われた通りに細い枝を拾って輪に通すと、植物とは思えない速度で輪が閉じる。
「おぉ……」
「やっぱりか」
「面白いですね」
「おいおい、あまり虐めるな」
ソマリと一緒に枝を集め、どんどん輪に通していると注意された。
しばらくの間は捕まえた対象が虫なのか判断できないらしく、全ての輪を塞ぐと飢えてしまうそうだ。
輪の反応は速いのにな。敏感なんだか鈍感なんだか。
ちなみに、本体は見た目が気持ち悪いらしい。
試しに洞の中を覗いてみたが本当に気持ち悪かった。
ブツブツした赤黒い突起が印象的で……もう見たくは無い。
・・
・・・
「なんだあれ?」
「魔物の死体かな?」
俺とハイクが道の先に倒れている魔物を見つけた。
少し近付いてみると、猿のような外見である。
黄色い体毛で腕が異様に長く、なぜか首が真後ろに捻られていた。
誰にやられたのかは不明だが、あれでは生きていないだろうな。
「あれはスナッチャーという魔物だ。生きてるぞ」
訂正。生きているらしい。
「んでもさ、首が……」
「体が異様に柔らかいんだ。ああやって死んでいるかのように擬態する」
油断して近寄ると腕を絡めて捕まえられるそうだ。
そして巣へ運ばれ、丸ごと食われるらしい。
「うへぇ……どうすんの?」
「無視だ。刺激すれば戦闘になって雌が出てくる」
どうやら擬態しているのは雄のようであり、雌は隠れているそうだ。
雌は体毛が黒く、それなりに強い。連繋も上手いから戦わないほうが賢明なんだとさ。
というわけで、全員が無視して素通りする事に。
俺とハイクが何度か振り返って様子を見ていると、やがて遠く離れてから魔物が起き上がる。
獲物が騙されなかった事を忌々しく思っているのか、ずっと俺達を見つめていた。
「なんか気味悪いな」
「追ってくるかもね」
「大丈夫だろ。洞窟までは臭くて近寄らねえって」
悪臭が役立つ事もあるんだな……
・・
・・・
森へ入って1時間ほどで休憩地点に到着する。
俺達4人は手っ取り早く浄化用魔具を腰に下げて固定し、そっからは火の用意を始めた。
「食料は全て処分するからな。食いたいだけ食っとけよ」
「あんまし腹減ってねえんだけど」
出発前に食ってきたしさ。まあ他の誰かが食うだろ。
それからは少し休憩して出発し、やがて見えてきたのは洞窟だ。
既に悪臭が漂ってきており、数名は顔色が悪い。
これでも薄まっているらしいが、それでも吐きそうである。
「よし、魔石を設置だ」
皆が急いで魔石を取り出し、魔具に設置する。早く浄化したいよな。
「おぉ……」
魔石を設置した瞬間に起動し、あっという間に悪臭が消え失せる。
空気を美味いと痛感できた瞬間であった。
「今から3時間だ。班分けは休憩中に教えた通りだからな」
「「「了解」」」
俺達はリーダーと同じ班だ。まとめて面倒を見てくれるらしい。
「最初の三叉路で散開して、そこからは虱潰しに掃討してくれ……それじゃ、突入だ!」
・・
・・・
「お、見つけた」
岩の陰に隠れていたダストゼライムを発見し、剣で突き刺す。
この剣はギルドから支給してもらった武器であり、溶けない素材で作られている。
武器としての性能は低いが、ゼライム系を倒すなら問題ない。
「よし、4匹目だな」
核をすべて破壊され、膜に空いた穴から濁った橙色の体液が漏れ出すゼライムの死骸。
生きている間は膜を破っても体液が溢れないんだから不思議だよな。
たしか、ある研究者によりゼライム系は常に魔力が励起していると発表されていたっけ。
何かしらの特殊魔法で膜の内側を指定し、体液を操作しているのではという推論が出ているんだ。
まあ、なんにせよ生態の研究は研究者に任せればいいか。俺としては判明した情報を知って、活かすだけでいいのだから。
というわけで倒し方さえ分かれば今のところは何も困らない。どんどん倒していく。
「このエリアはもう充分だろう。次に進む」
「「「「う~い」」」」
ここは前回までに掃討したエリアだから、湧いていたとしても数が少ない。
しかもダストゼライムは弱いから苦戦とかも無いな。
「さっさと歩け」
歩き始めようとした俺達の後ろから不機嫌そうな声が響く。
班分けで一緒の班になった冒険者であり、たぶん20代くらいの年齢だ。
見た感じは若くて力強く、まさに飛躍の時期っていう印象なんだけど、どうにも高圧的なんだよな……
洞窟へ向かう道中でも何度か単独行動をして、リーダーに注意されていた。
なのに遅れは無いと主張して反省の様子が無かったのである。
まあ、実際に単独行動といっても進路を先に進む程度だったからな。
落ち着いた大人って雰囲気のリーダーは反論されると何も言わずに肩へ手を乗せるだけだ。
結局は何も改善しないまま休憩地点に到着し、班分けにてリーダーが引き取る形で班に入ってきたのである。
他の班に入れても不和の原因にしかならないだろうから、そうするのは一つの手だと思うんだが……リーダーの負担が大きい気がする。
なにせ初心者4人と反発的な若者を抱えているんだ。気苦労が絶えないだろう。
だから俺達4人は示し合わせたように、洞窟内部で好き勝手に散策しないよう努めていた。
それこそ興味は尽きないんだが、発光する苔だったりブニブニした岩だったりの、好奇心が刺激される諸々を我慢している。
時間に余裕はないから、好奇心に従う時間は無い。
今だって未掃討エリアに入ってすらいないんだ。
既に20分ほども経過しているが、こうやって掃討済エリアに新しくダストゼライムが湧き出していたので足止めされている。
前回の掃討から1日しか経過していないというのだから、これでは数回に分けて掃討作戦を展開しているのも頷ける。
しかし泣き言では解決するわけも無く、こうして未掃討エリアへの道すがらで性懲りも無く湧き出したゼライムを倒しているのが現状である。
・・
・・・
「一旦休憩にしよう」
更に40分ほどが経過した頃で、リーダーが近くの開けたスペースを示して提案する。
「なぜだ? まだ未掃討エリアにも到着していないんだぞ?」
若者が反対する。名前はたしか……ジェイドだったっけな。
そんなジェイドの反論に、リーダーは彼の肩を叩きながら言った。
「依頼に対する熱意は大事だが、休むのも大事だ。先に言っておく事もあるからな」
「何をだ?」
「休みながら説明する」
「……ちっ」
なんとか休憩できるようだ。全員で開けた場所に移動し、壁を背に座る。
「まずは装備の点検だ。支給された武器と魔具に異常が無いか見ておいてくれ」
「あいよ」
言われたとおりに装備を点検し、特に問題は無さそうだった。それを確認したリーダーが地図を広げる。
「もうすぐ未掃討エリアに入る。以前に探索された当時の地図では、直進すれば最奥まで行ける」
俺も地図を見てみると、たしかに分かれ道などはないようだ。ただ……
「最奥が広いな」
「そうだ。途中にも広い場所は幾つかあるが、一番広いのは最奥となる」
だからダストゼライムも相当な数が集まっているかもしれない。油断して囲まれないようにと注意された。
「リーダー、聞きたい事があるんですけど」
「どうした?」
そろそろ腰を上げようかという段になって、ハイクが声を出す。
ジェイドが少し苛立っているようだが、ハイクは気にせず続けた。
「どうして魔具を2つ支給されなかったんですか?」
「どういう意味だ?」
ラグがハイクの質問に首を傾げる。俺も同じく意味が分からなかった。
1つあれば浄化効果が機能するんだから問題ないじゃん。
「制限時間を気にしなくて済むんだよ?」
「?」
「片方の魔具の効力が切れそうになったら、もう片方を起動すればいいでしょ」
「……あ」
そうか、そうだよな。
残り5分くらいになれば、もう片方に魔石を設置して起動すればいい。
そしたら浄化効果を中断させず、時間の制限が解除できる。
「ハイク、だったな。お前の意見は尤もだが、そこまでギルドの備品に数が無いんだ」
「それなら参加者を減らせば解決しますよね?」
今度はソマリが反論する。
もし今回の人数分しか備品が無いならば参加者を半分に減らせば解決するだろう。
「この洞窟は最初から三叉路になっている。手間だから同時に掃討しないといけないんだ」
「それでも3人ずつで充分ですよね? ただのゼライムですし、他の魔物が出るとしても強い冒険者を募れば危険も少ないですし」
そうだな。
戻る時間だって勿体無いのだから継続して進み、他の魔物が出ても対処できる人員で編成すれば効率的だ。
「ははは、全くもって正論だ」
とうとうリーダーが笑いながら認めてくる。だが、すぐに言い放った。
「実はな、もう1つ理由がある。分かるか?」
「「「「?」」」」
「初心者が大森林に行ける機会なんてのは、こういう簡単な依頼ぐらいしかない」
今回の依頼は、どちらかといえば洞窟に向かうまでの方が難しい。
洞窟の中はダストゼライムぐらいしか存在しないが、洞窟の外は強力な魔物が蠢いているんだから。
なのに俺達が参加できたのは、ベテラン達が引率してくれたからである。
「今回はベテランにとって旨みの少ない依頼だ。それなりの報酬はあるが、引率の手間賃みたいなものだからな」
総合すると、もっと高い報酬で強い冒険者を選出し、魔具を2つ持たせて一気に掃討するのが最良の手順だ。
時間的にも効率的にも経済的にも、それが楽で確実。
なのに別の手法をとった理由は、つまるところ初心者へのボーナスという意味合いである。
初心者では滅多に行けない大森林に引率してもらえる。
しかも、自身も活躍して依頼を解決できるのだ。報酬も初心者にとっては高額である。
貴重な経験と高額の報酬、そして大森林での依頼実績……まさに初心者のために用意された依頼であった。
「理解したか?」
「「「「あざっす!」」」」
きっとベテランの冒険者達にとっては利益なんて少ししか無いのだろう。
報酬は大人数での想定になるため1人あたりの手取りを少なく見積られた報酬になるし、魔物の素材による副収入だってダストゼライムでは期待できない。
ギルドとしても複数回に分けての依頼であるため手間になるし、馬車や魔石の手配で金も飛ぶ。
そういうわけで、俺達4人はボーナスを貰っている身として、素直に礼を言ったのだ。
「礼を言う必要はない。お前達がベテランになったら、初心者を支えてやれ」
「「「「う~い」」」」
「おい」
いい感じの雰囲気で話が済んだところで、ジェイドが声を上げた。
「ん? どうした?」
「時間を潰しすぎじゃないか? 早く行くぞ」
「そうだな。残り時間も余裕とは言えない。出発だ」
気を引き締め直して出発する。こっからが本番だろうからな。
次回・・・再突入




