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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第三章 人魔を渡る者
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3_05_人魔転身

こんばんは。

少し文章を追加したので、今日の投稿はこの話だけとします。




正体を隠すと決め、俺はイリーナに色々と話を聞いた。


昨晩見たように、魔法を無詠唱で行使できること。

種類はまだ明かせないけど、人を食う種類ではないこと。


そして人でいる間は、人と同じ生態になること。

つまり、人に化けるというのに語弊があるらしい。


正確に近い言い方をすれば、”人そのもの”になるのだ。

イリーナはこの能力を人魔転身と呼んでいる。



既に口調を戻したイリーナが語るところによると、不思議な能力であるそうだ。


魔物である間は、魔物としての本能と少しの理性が残る。

自身が人になれるという理解はあり、気が向けば人になるというのだ。


「とはいえ元から賢いようなので、人語は魔物である間も理解できますよ」

「それって……」

「はい、ワタシは異常個体です。知能が高く、人魔転身という特殊な能力を持っています」



異常個体……か。


初めて会ったけど、話に聞いていたような異常個体とは毛色が違う。

普通、と言っても変な感じになるが、一般的な異常個体は討伐における厄介さで語られるからだ。


魔法の系統が違っていたり、その種類の魔物には無いはずの羽があったりだな。

人語を理解する個体も例はあるけど、好戦的だったそうだ。


更に例を挙げれば、人に化ける魔物もいる。

しかし言語能力が無かったり、魔物としての本能が強いので少し観察すれば分かる程度だな。



それらと比べれば、イリーナの特異性は飛び抜けている。

”どこまでいっても魔物”ではなく、人として生きていけるのだから。



少し脱線したが、人である間は本能が薄まり、理性が強くなる。

記憶力は高くなるため、人になって生きる間は大抵の出来事を覚えているそうだ。


「そして、人になれば一定期間経つまで魔物に戻れません」

「どれくらいだ?」

「30年ですね」

「長っ!?」

「もう何回人として生きたかは分かりません。記憶は生き物みたいなものなので」



イリーナ独自の見解によると、記憶というのは精神に刻まれる情報であるらしい。

しかし、それ自体は何の意味も持たない文字の羅列に等しい。


ならば、どうすれば記憶として意味を持つのか。


「その答えが、肉体だと思うの」

「?」

「そうね……特に重要なのは脳よ」


脳という肉体器官を通して初めて、精神に刻まれた情報は記憶として意味を持つ……らしい。


「肉体というのは常に変化し続けているの。爪が伸びたりするのと同じよ」


それが脳でも起きているという。

精神から記憶としてどれくらい読み取るか判断し、それを実現できるような構造に変化していく。

一年前の朝食が何だったかを覚えていないのは、記憶として読み取る必要が無いと判断するからだと。


「その判断を脳と精神のどちらが行っているのかは分からないけど」

「さっぱり分かんね」

「まあ、ルイスには難しいかもしれないわね」


ん? なんか馬鹿にされてね?

話し方も少し砕けてるしさ。



「そんな顔しないで。別にルイスが無知だと言っているわけではないの」


イリーナが訂正してくる。


「記憶の研究なんて、誰も実行しようとしないでしょうね。他に研究することが沢山あるでしょうし」


ただ、イリーナが記憶について持論を持つほどに執着するのには、理由があるそうだ。


「ワタシは好奇心が強いから、それこそ色んな人生を送ってきたのよ」


旅人、船乗り、建築家、料理人、評論家、商人、冒険者、娼婦……


ありとあらゆる人生を過ごしてきたらしい。


「そうやって今まで過ごした人生に共通しているのは、記憶。ワタシが歩んだ軌跡なのよ」

「なんか壮大だな」

「そうね。魔物に戻ったり、人になったりする度に、凄まじい情報量で倒れてしまうから」


なにそれコワい。


ただ、冗談ではなく事実のようで、毎回1週間ほど倒れてしまうそうだ。

本人は記憶の選別だと捉えていて、魔物であるときに必要な記憶、人であるときに必要な記憶を、意識が無い間に選別しているらしい。


「魔物である時は脳の容量が小さいから、ほとんど人の記憶は残されないわね」

「あれ? 知能が高い個体なんじゃねえの?」

「あくまで魔物としては、よ。人のほうが優秀な脳を持っているの」


遥か昔から生きているような魔物だと人より賢いかもしれないけど、と付け足された。


ともあれ人になれば多くの記憶が蘇る。

魔物であった時の記憶も含まれているそうだ。



「出来る事なら…………」

「ん?」


イリーナが俯きながら呟くが、よく聞き取れなかった。


「……なんでもないわ。とにかくワタシは確保しておきたい記憶を、資料として保管してあるの」

「どこに?」

「教えない」


さすがに秘密の場所を教えたりはしないか。



イリーナは毎回のように、人になった直後は保管場所に戻って資料を読み漁るらしい。

日記のような資料もあれば、役に立つ知識が記された資料もある。

そうして前回までの記憶を可能な限り補填するのが通例だそうだ。



「印象的な記憶は大抵残るから、ほとんど知っている情報ばかりだけれどね」


ただ、印象的なはずの記憶が残らない事もある。

次に人へなったら蘇る場合もあり、不規則であるらしい。


傾向としては、印象的であるかが選別の基準らしいけど、絶対ではないそうだ。


だから必要だと感じたなら資料に残す。

そうして補完してきたのである。


「失われたわけではないけど、思い出せない。だから記憶はソレだけだと判別できない情報として精神に刻まれている、というのがワタシの見解なの」



ここまでを語り終えて、イリーナは大きく息を吐いた。



「なんだか疲れる話をしちゃったわね。ごめんなさい」

「あ、いや……別に問題ねえけどさ」

「色々と考えだすと止まらないから、普段は楽に生きようとしてるのよ」

「……そっか」



まあ、イリーナについては大体の事が分かった。

今は人になって3年目らしく、まだまだ始まったばかりとさ。


ちなみに、姿は勝手に決まるらしい。

魔物である時に見たか、人である時に会った人物の姿を真似るのではないかと考えているそうだ。

肉体年齢は10代から始まり、他の人間と同じように老いていくのである。


「そういえばさ、イリーナって何歳?」

「教えたでしょう? 14歳よ」

「いや、そっちじゃなくて合計で何さ」

「女性の年齢を探るのは感心しないなぁ」


ニッコリ微笑まれた……怖ぇ。



少し脱線しちまったが、人魔転身は本人にも全てを理解出来ていない能力だ。


なのに使おうとするのは好奇心ゆえか、もしくは人として生きるのを強く願っているのか……聞いても教えてくれなさそうだな。



「ひとまず、ワタシについてはこれくらいよ」

「分かった。他に知りたい事があったら後で聞く」


今日は色々と聞いて頭が疲れた。

何か追加で聞くにしても後日にしたい。


「じゃあ、今度はルイスの話を聞きたいな」

「ん? 俺?」

「そうよ? 気になる人の話は聞きたいもの」



今度は俺が話す番らしい。

これは昼飯の時間まで終わらないかもしれないな……



・・

・・・




「悪い、予定が入っちまった」

「えぇ~!?」


イリーナの話を聞き、そして俺の話を聞かせた後、昼飯の時間になったので俺達は食堂に降りてきた。

そしたらドルアーザさんが既に戻っていて、俺を見るやいなや謝ってきたのである。

話を聞くところによると、予定が入ったらしい。


「今度会った時に埋め合わせするからよ、見逃してくれ」

「ん~……仕方ないか」


駄々を捏ねる気もないため承諾すると、なぜか俺だけ食堂の隅に連れられて耳打ちされる。


「昨日の件で俺が空いてるって気付かれてな……」



どうやらドルアーザさんは忙しいだろうと思われていたが、昨日の一件で時間に余裕が出来たとバレてしまったらしい。


そのためマークベルの街でドルアーザさんに対する指名依頼が届いてしまったそうだ。



ギルド側としてはドルアーザさんの予定が空いているのを黙っていたのだが、イリーナの件で報告者にドルアーザさんの名前が混ざっている。


おそらくは役人から情報が広がってしまったのだろうというわけで、今やドルアーザさんはマークベルの街で格好の的となってしまった。


確実に依頼を達成してくれる人材として、という意味だな。



俺だけに事情を教えたのは、イリーナに気を使ったんだろう。

自分が原因でドルアーザさんが忙しくなったと分かれば、責任を感じるに違いないと。


俺はイリーナを横目に見てみたが、何を注文するか考えているようだった。

そこまで気に病むとは思えないけど、わざわざ言う必要もないか。


「年貢の納め時だな、ドルアーザさん」

「俺が捕まったみたいな言い方をするなよ!」

「同じようなもんじゃね?」

「……まあ、そうだな」


俺は4日後に魔法学校へ戻る予定だ。

だから、もうこの街でドルアーザさんと一緒に依頼は受けられないだろう。

そう思うと残念だったが、俺だけが独占するわけにもいかない。



気にすんなよ、と励ましてから俺達も食事のために席へ座る。


ちなみに他の冒険者達も依頼に駆り出されているそうだ。

いずれも難易度が高いため、俺が同行するのは不可能らしい。





「じゃあなルイス。また会えたら今度こそ最後まで冒険しよう」

「おう! 約束だ!」


ドルアーザさんと拳を合わせて、背中を見送る。




「……さて、どうすっかな」


突然に4日も予定が空いてしまったわけだ。

何もせず過ごすには長いし、俺も簡単な依頼を受けようかな。



「大人しくしてたら?」

「ん?」


イリーナが俺の考えを読んだのか引きとめようとしてくる。

どうやら、もう敬語は使わないようだ。


俺としてもタメ口の方がありがたい。イリーナは年上だしな、遥かに。


「あなたが何をしたか分からないけど、監視されてるわよ?」

「へ!?」


俺って監視されてたのか!?



……いや、そりゃそうか。


なんだかんだで俺が厄介事を起こすと思われてるんだろう。

それは仕方ないか。


「警戒してるわけじゃなくて、心配されてるように感じたけどね」

「ん~……誰が監視してるか分かる?」

「はっきりとは分からないけど、おそらく冒険者よ。追跡の雰囲気が独特だから」

「冒険者……セッタさんかな?」


ウォーンさんは俺が元気になった時点で護衛を止めている。

もしかすると、それからはセッタさんが陰で見守ってたのかもしれないな。


「にしても、よく気付いたな」

「昨晩も尾けられてたもの」

「はぁ!?」


え、マジかよ!

色々聞かれちゃったんじゃねえの!?


「あのね、尾けられてるのに気付いてて、秘密を話すと思うの?」


あ、それもそうか。

イリーナが煙に巻いたらしい。



「どうやったんだ?」

「魔法よ。影を操って人の形を作ったの」


俺の影人形を用意し、全く違う方向へ監視者を誘導したそうだ。

夜の闇なら影人形だと気付かれにくいし、角を曲がる一瞬だけ見せてから消滅させればバレないだろう。


そして、俺達が話している間は周囲を闇で包んだ。

あの魔法は外から内部を見えなくするだけでなく、音や気配まで遮断する。


しかしながら簡単に出られるし、遮断出来るのにも限界があるそうだ。



「昨晩は落ち着けなくて、紛らわすために夜の街を歩いていたらルイスと会った……という筋書きにするからね」

「は?」

「ルイスも寝付けなかったみたいで、少しお話でもしたかったけれど、時間も遅いから明日にしましょうと約束して別れた。いい?」

「お、おう……」


なんともまあ、そんな嘘がスラスラ出てくるものだ。

とはいえ夜に出歩いた理由付けは欲しいところか。

ここは受け入れておこう。


ともあれ監視されているからといって、ずっと宿で過ごすのは退屈だ。


ひとまず街を散策する事にした。既に散策済みだけど。



「俺は街をぶらぶら歩くけど、イリーナは?」

「付いていくわ。いいでしょ?」

「まあ、別にいいけど」


イリーナも一緒に来るそうだ。野放しにしとくよりマシか。

イリーナを連れて歩きながら、どこに行こうか考える。


飯食ったばかりだから買い食いはしない。



ん~……あ、そういえば武器の手入れが出来ていなかった。


慌てて部屋に戻り武器を見てみると……あ~、少し痛んでるな。

ちょっと研いでもらいにいくか。


「武器屋に行こう」

「初めてのデートで武器屋なんて、色気の欠片もないわね」


イリーナが文句を言ってきたが、本当に嫌がるような素振りではない。からかってるだけか。

そうと決まれば出発だ。


以前の散策で店の場所は覚えている。

迷う事無く辿りつき、店主に武器の手入れを頼んだ。


武器屋の店主は顔に赤みが差している中年だった。

酒気は感じないため、酔っているわけではないだろう。


そんな店主が俺の剣を手に取って眺めたり、小さな金槌で軽く叩いてみたりしている。



「ふ~む……こりゃ替えた方がいいな。もう中に罅が入っていやがる」

「え~! 本当かよ!」

「ったりめえだ。本職を疑うんじゃねえ」


いや、別に疑っているわけじゃない。


ただ、長い間使ってきた愛用品だから、いきなり使えなくなったと言われたのがショックだったんだ。



「いくら手入れを続けても、こんな大量生産の剣じゃガタがくるもんだ」



どうしたもんか……


やらしい言い方になるかもしれないが、金ならある。


元は演習中に買い物をするため持ってきていたから、多めに持っているんだ。



「どうするんだ? 似たようなので繋ぐか、少し高いが長持ちする剣を使うかだが」


幾つか見せてもらうと、一番安いので50000メル、一番高いので170000メルだった。

どうしようか悩んでいると、イリーナが割り込んでくる。


「残金は幾らなの?」

「ん? え~と、180000メルだな」

「それなら安いのにしておきましょうよ」



んでもさ、武器に使う金を惜しんだら早死にするっていうからな……


だとすれば、もっと高品質な武器にしたほうが良いと思う。



「大丈夫よ。ね? おじさん」

「んん?」

「この店なら値段以上の品質だと思うもの」



その言葉に呆けていた店主だったが、やがて困ったように笑った。



「まだ若ぇのに食えねえ嬢ちゃんだ」


いやいや、そんな見た目してるけど遥かに年食っ……いだっ!?


「なんだよ!」

「え? どうしたの?」


とぼけんな! 足踏んだだろうが!


ったく、察しが良すぎるだろ。


が、まるで意に介さずイリーナは店主へ顔を向け直した。


「しゃあねえ、100000メルの剣を90000メルでどうだ?」

「あら、もっと安いので大丈夫よ。自信が無いのかしら?」

「バカ言うんじゃねえ。使い手が悪けりゃ意味ねえんだよ。その点、これなら誰でも充分戦えるだろう」

「それじゃ、この使わなくなった剣も下取りしてもらえる?」



いつの間にか俺を放置して交渉が始まっている。

しかもさ、なんか俺……けなされてね?




釈然としないまま佇んでいると、交渉が終わったのか店主が俺に新しい剣を差し出した。


「持ってみろ、具合はどうだ?」

「ん、前のよりちょい重いかな」

「握りはどうだ?」

「……少し厚いかも」

「よし、なら削ってやる」


剣を返すと、持ち手を削り始めた。

待っているとイリーナが話しかけてくる。


「前の剣を下取りに出して、75000メルよ」

「だいぶ安くなったな」



2割以上値切ってる。

下取り込みとはいえ、使えなくなったような剣は売り払っても小銭程度にしかならない。


かなり高めに買い取ってくれたようである。



「よし、握ってみろ」

「……お、良い感じだ」

「さすがね、おじさん。街一番の職人だわ」

「へっ、世辞にしか聞こえねえよ」

「そんなことないわよ。気前も腕も良いのは事実でしょう?」

「やめてくれ、痒くなってくら」

「もしよかったら手入れの方法も教えてほしいなぁ」


またもや俺は放置されている。


「おい小僧、なに突っ立ってやがる」

「っへ?」

「さっさと裏で振ってこい。慣れねえと武器に振り回されるぞ」



しまいには追い出された…


だが、俺も素振りはしておきたい。

前のより少し重いし、慣れとかないとな。


てなわけで、店の裏にある更地で素振りを始める。

風を切る音だけが聞こえ、少し汗を掻く頃には感覚も掴んできた。



「っし、こんなもんか」


剣を鞘に収め、一息つく。

あとは実戦と、日頃の鍛錬で馴染ませればいいだろう。



とりあえず寝転がり、晴れた青空を見つめる。



平和だなぁ……




次回・・・ベテランの工夫

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