3_03_出会い
こんばんは。
寒すぎて布団から出たくない季節ですね……
「よし、じゃあ出発するぞ」
「う~い……」
「なんか調子悪そうだな。大丈夫か?」
「おう……たださ、森で野宿するのって初めてだから」
森に行く事は多かったけど、そこで野宿するなんてのは経験が無かった。
いつも森に行くならハイク達の内で誰かが一緒だったし、そうなると野宿なんて認めてくれない。
だからこそ記念すべき森での野宿なんだけど、感想としては疲れるの一言だ。
魔物の襲撃に備えなければならないからな。
ドルアーザさんと交代で見張りをしていたんだけど、見張りの番では眠れないのが当然だし神経を磨り減らしていく。
もし、ふとした拍子に眠ってしまったら……魔物の接近に気付けなかったら……
そんな事を考えるだけで全身に悪寒が走る。
そして俺が休む番になった時だって油断は出来ない。
もし魔物が襲撃してきたとして、俺が素早く対応出来るかどうか心配だからだ。
呼ばれれば起きるだろうけど、寝ぼけた状態で魔物と戦うなんて不利になるし、鈍った感覚では魔法の行使も気配の探知も不安が残る。
そういう理由で俺は碌に眠れなかった。
特に疲れを見せていないドルアーザさんは流石と言えるだろうな。
「あと3日は森で過ごすつもりだったんだが、予定を変えるか?」
「ん~……もうちょい考えとく」
「分かった。考えるぐらいの判断能力があるのは安心したぜ」
何とかなる、なんて楽観的な思考は出来ない。
まあ、明日の朝に疲労が限界そうなら引き返した方が良いかもしれないな。
依頼は期限が長いから、後日に再出発すれば間に合うだろう。
ドルアーザさんの予定が空いてるかは分からないけど。
どもあれ野宿の後片付けも終わり、予定を聞いてみると今日は奥へ向かうようだ。
道を逸れるわけではないけど、森の深部へ向かう経路を選んで進む。
しばらくは雑談しながら色々と知識を与えてもらった。道中の採取だったり、遭遇した魔物の生態だったりだ。
知っている事も多かったけど、やはり知らない事もあった。
例えば薬草に使える浅緑草なんかは、根から引き抜くより刈り取った方が劣化しにくいとかだな。
根が残っていた場合、浅緑草は薬草としての成分が早めに劣化してしまい、2日も経過すれば雑草と化してしまうらしい。
その場で調合しないならば刈り取った方が4日保つそうだ。
色合いは刈り取った方が時間経過で見た目は悪くなるけど、薬草としての効力は失いにくい。
逆に深緑草は根を残す方が薬草としての効力を失いにくいらしい。
浅緑草か深緑草かを見極められるようにならなければ、正しい採取方法を選択できないんだ。
「まあ、日帰りで依頼主に渡すなら気にする必要も無いがな」
「そっか」
急ぎで必要だったり確実に欲しい場合は、依頼主が日帰り指定とか調合済みの薬草を要求するそうだ。
そうでもしないと、いざ採取してきてもらった薬草が役に立たない場合もあるからな。
そういった事を教えてもらいながら、俺とドルアーザさんは森の奥へ進んでいく。
・・
・・・
「昼飯にしようか。ボアも狩れたしよ」
「おう」
昼になる頃、遭遇して討伐した魔物を焼いて食べる。
付け合わせは昨日に採った茸だ。
「血抜きの方法は知ってたんだな」
「まあね、よく食べてたし」
地元の街でも親しまれていた肉である。
血抜きの方法は母親から教えてもらっていたし、森で実践もしていた。
血抜きと解体は任せてもらい、汗を流しながら用意した肉を焼いてもらう。
少しして香ばしい匂いが漂ってきた……もうそろそろかな。
「よし、食うか」
「よっしゃ……あれ?」
「どうした?」
肉に手を伸ばそうとすると、妙な気配を感じた。
「あっちに誰か居るかも」
気配を感じた方向を指差すと、ドルアーザさんが耳を澄ませた。
「……音が聞こえる。近いな」
「何の音?」
「誰かが戦っている。道から逸れた場所らしい」
俺も耳を澄ませてみると、微かに鳴き声だったり金属音が聞こえる。
たしかに誰かが戦っているようだ。
「どうすんの?」
「お前が決めていいぞ」
様子を見に行くか、無視するか。
様子を見に行ったとして、手助けするかどうか、見捨てるか。
そういった判断を俺に任せるらしい。
「見に行く」
「分かった。火を消して向かおう」
俺の即決に疑問を持つでもなくドルアーザさんは承諾した。
どうせ、誰かがピンチかもしれないのを無視する気はないからな。お互いに。
てことで肉は惜しいが音の聞こえる場所へ進むと、どんどん音が大きくなってきた。
ドルアーザさんの指示で身を低くしながら移動していく。
「魔物同士が争ってた場合は無視した方が良い」
「了解」
小声でやり取りしつつ、間近に迫った音の元を茂みから覗く。
そこにいたのは……
「やぁっ!」
金属製の武器を持ったゴブリン4匹を相手に、たった一人で戦っている女の子だった。
油断せず立ち回り、着実に相手を削っていく。
このままなら時間をかければ勝てそうだな。
……ん?
「あの子……」
「放っておいても良いと思うが……あっちを見てみろ」
ドルアーザさんに示された方向を見てみると、遠くから新たなゴブリン達が近付いて来ている。
数は見えるだけでも7体……合流されると女の子が危ないな。
今戦っているゴブリンが増援を呼んだわけではないと思う。
偶然に近くのゴブリンが音を聞きつけて寄って来ただけだろう。
とにかく、このままでは女の子が危険である。
「助けよう」
「よし、お前は女の子を補助しろ。俺は増援を相手にする」
「了解」
手短に方針を決めて、俺達は茂みから飛び出す。
真っ先に気付いたのは近くに居たゴブリンだった。
しかし、もう手遅れである。
「おらっ!」
「ギャイィ!」
挨拶代わりの斬撃をゴブリンに浴びせる。
碌に防御も出来なった相手は致命傷を負って倒れた。
その音で他のゴブリン達と女の子が俺達の存在に気付く。
「! ……何者ですか!」
少し警戒しているような声で女の子が問いかけてくる。
「冒険者だ! 助太刀する!」
「え、えっと……あっ!?」
俺達の参戦に戸惑っていたが、ドルアーザさんが走り抜けていった先を見て驚きの声を上げる。
ここで初めて敵の増援に気付いたようだ。
少しだけ逡巡したものの、やがて受け入れてくれた。
「お、お願いします!」
「任せろ!」
ゴブリンの増援はドルアーザさんに任せ、俺は女の子を囲っていたゴブリンに走り寄る。
ゴブリンにしては金属製の武器を持っているため、少しは戦闘能力が高いようだ。
「ギャギャっ!」
しかしながら、ゴブリンである。
「ほいっ、と」
「ンギャ!?」
何も考えずに飛びかかって来たのを前蹴りで迎え撃ち、倒れ込んだところにトドメを刺す。
「ギャ」
「見えてんだよっ!」
「ギュギ!?」
続けざまに飛びかかってきたゴブリンも、視界の端で捉えていた。
渾身の前蹴りで吹き飛ばし、女の子の近くに転がっていったので任せる。
「それ頼む!」
「はい!」
返事を聞く前に、残った1体へと斬り掛かる。
またしても飛びかかろうとしたみたいだが、その前に突きで喉を貫く。
断末魔も上げる事無く黙したゴブリンから目を離して女の子を見ると、丁度トドメを刺したところだった。
これで近くのゴブリンは倒しきった。
あとはドルアーザさんの方だけど……うっわ。
「ギャァッ!」
「ゲギャ……」
「ギッ!?」
走り抜けるドルアーザさんに一発ずつ殴られ、それだけでゴブリンは事切れていた。
首が有り得ない方向に向いたり、頭が陥没したり……どんだけの威力が秘められてんだよ。
そして最後の1体も同じ末路を辿り、ドルアーザさんが戻ってくる。
少し唖然としながらその様子を見ていた女の子は、ハッと我に返って頭を下げた。
「ありがとうございました」
よく見たら可愛いな。マリと同じぐらいだ。
元は銀色だっただろう肩まで伸ばされた髪は、疲労なのか汚れなのか不明であるものの艶が無い。
これでは灰色に見えてしまうな。
瞳は碧く、吸い込まれそうな深みがある。
こんな森の中は似合わない少女であった。冒険者の格好をしてるし。
「気にすんな。勝手に助けただけだからな」
「だな」
「そうだとしても助かりました。近付いてくるゴブリンに気付けなかったら……」
走れば逃げられるかもしれないけど、当然のようにゴブリンは追い掛けてくる。
それなりに素早いし、もしかすると追い詰められたかもしれない。
それを助けたのだから感謝してくれたのだろう。
けど、感謝より先に聞きたい事があった。
「なあ、どうして一人なんだ?」
「そ、それは……」
森の中に一人、しかも女の子だ。
危ないなんてもんじゃないだろう。自殺行為にも等しい。
浅い場所だったり道を辿ってるならまだしも、そうではなかった。
道から逸れた場所で戦っていたんだし。
「冒険者なんです。パーティを組んでいたんですけど……」
魔物に襲撃されて、はぐれてしまったそうだ。
そして続けざまに魔物と遭遇したらしい。
「なら、近くに仲間が居るんだ?」
「それは……分かりません……」
「ふむ……どうするルイス?」
ドルアーザさんが俺に目を向けてくる。
「一旦さ、肉焼いてた場所に戻らねえ?」
色々と女の子に聞きたい事はあった。
けど、ここで立ち止まってたら、また魔物に襲われるかもしれないからな。
ひとまずは安全の確保が優先だと思う。
「そうだな。あんたも一緒に来るといい」
「は、はい……」
すっかりドルアーザさんに萎縮しているようだ。もしくは男を警戒しているか。
しかし、ここに1人残るつもりは無いようで、後を付いて来てくれた。
・・
・・・
「ふあ~、食った食った」
「ごちそうさまでした」
「いいってことよ」
休憩地点に戻ると、特に荒らされたりはしていなかった。
そのまま昼食を再開して、女の子の分も追加で肉を焼く。
しばらくは無言だったものの、食べ終わると女の子が身の上を語ってくれた。
名前はイリーナ、14歳だ。
3年ぐらい前に両親を失くしたらしい。
しかし両親が残してくれたのは財産じゃなく、多額の借金である。
何もかもが借金取りに持っていかれてしまい、残ったのは隠し持っていた僅かな金銭のみ。
だから孤児院へは行かず、冒険者として生きる事を決心したらしい。
孤児院で過ごしている間は門限だったり手伝いだったりで時間に制限が掛かる。
借金を片付けるには冒険者として稼いだ方が良いと判断したようだ。
でも、当時は11歳の少女である。
事情を汲んでギルドカードは発行してもらえたものの、稼げる依頼なんて危険も比例して大きくなるから、受けられるのは薬草の採取だったりで稼ぎが少ない。
その日の糧を得るだけで精一杯だったみたいだ。
借金取りに関しては、ギルドが守ってくれたみたいで強引な取り立ては無くなった。
けど、依頼で得た金銭から少しずつ返済していても中々減らない。
「それで1ヶ月前、あるパーティに誘われたんです」
荷物持ちでも構わないから、パーティに入れば多めに分け前を与えてくれると近寄ってきたらしい。
当然、イリーナは警戒した。
「まあ、怪しんで当然だな」
「ええ。少し返答を待ってもらって情報を集めたんです」
すると、別に悪い噂も無かった。
これなら乱暴な真似をされる事もないだろうと安心したらしい。
「それでパーティに入ったんですけど……」
「裏切られた、か」
「……はい」
運の悪い事に、悪い噂が無かったのは初犯だったからだ。
その初犯の対象にされたのがイリーナである。
拠点にしていた街から移動し、マークベルの街へと到着。
比較的簡単な依頼から慣らしていこうという方針になっていた。
しかし、いざ森へ入って2日目の夜……パーティの男から襲われたのである。
逃げようにも夜の森だ。
1人で無事に街へ帰れる自信は無かった。
しかし、魔物が襲撃してきたのだ。
間一髪のタイミングで犯されなかったものの、今度は命の危険が迫っている。
「このままでは囮にされるかもしれないから……逃げて……」
「分かった。もう無理に喋らなくていい」
「は、い……」
恐ろしかったんだろう。ついには震え出してしまった。
さすがに、こうなってしまうと無理に話を聞き出そうとは思えない。
事情は把握したし、これならイリーナのパーティメンバーを捜索する必要も無いな。
話を聞く限りでは糞野郎みたいだしさ。
しばらく無言で過ごしていたが、ずっと休憩しているわけにもいかないため出発する。
イリーナは少しなら戦えるようだったけど、既に精神的な疲労が大きい。
昨晩から碌に眠れていなかっただろうし、このまま森の奥へ連れて行くのは無理だ。
そういうわけで、一度街へ戻る事になった。
「すみません……」
「気にすんなって、助け合いだ」
「別に急ぎの用事もなかったしさ」
イリーナは恐縮していたものの、これは仕方の無い事だ。
むしろ彼女を置いていく方が問題である。
それに、俺としても気になる事があった。
一度街へ戻った方が良いだろうな。
・・
・・・
何度か休憩を挟みつつ、引き返していく。
採取もしないし最短距離を進んだため、日が暮れる頃には街に近くなっていた。
そう、最短距離である。
「直線に進むって……ドルアーザさんも無茶するよな」
「仕方ないだろ。道を辿ってたら日が暮れる」
道なんて無かった、とばかりに直進しているのだ。
ドルアーザさんが先導し、遭遇した魔物は瞬殺されている。
俺とイリーナは後を付いていくだけであり、魔物が背後から近付いて来てもドルアーザさんが察知するから安全だ。
休憩する時だけ空地に出て、最低限の休息を経てから即座に出発。
イリーナが辛そうだったけど、ドルアーザさんにも考えがあるらしい。
「ゆっくり進んだら野宿する羽目になる。あの子が警戒するだろう」
そう小声で教えられたのだ。たしかに、と納得する。
警戒するだけならマシかもしれないが、不安のあまり逃げられたりすると元も子もない。
それなら野宿する事無く街に戻るのが確実だ、と決めたのである。
・・
・・・
やがて街に辿り着く。
ぐったりとしていたイリーナだったけど、街が見えてきてからは表情に安堵が浮かんでいた。
そうして街の中へと戻り、すぐにギルドへ。
「どうされましたか?」
「報告がある」
イリーナの身に起きた一部始終を報告すると、ギルドの職員は痛ましそうに彼女を見た。
「そんな事が……分かりました、情報の共有と役人への報告を行います」
すぐに対応してくれるみたいで、報告が終わった俺達は一旦ギルドを出る。
「ひとまず休むといい。金は渡すから宿へ泊まれ」
「で、ですが……」
「一度は関わったんだ。ここで放り出すのは痒いままだろ」
「……ありがとうございます」
断ろうとしたイリーナだったが、疲労困憊の様子だ。
ドルアーザさんに押し切られて、何度も頭を下げつつ宿へと向かった。
彼女は後日に再び詳細な聞き取りが待っているだろうけど、まずは休まないとな。
「さて、俺達も宿に戻るか」
「おう」
もう夜だ。
宿に戻り、夕飯をかき込みながら雑談する。
「にしても胸糞悪い話だったな」
不機嫌そうにドルアーザさんがスープを啜る。
ズゾゾゾ……と不機嫌を示しているかのような音を立てていた。
「なあ、これってどうなんの?」
「何がだ?」
「イリーナを襲ったパーティメンバーだけどさ、捕まんの?」
「いや、どうだろうな。事情聴取はされるだろうがよ」
今回のような件は、証拠不十分として取り扱われる可能性が高いらしい。
証言は被害者からのみであり、状況証拠も物的証拠も無い。
たしかにイリーナはパーティを組んで森に入り、一人で居るところを俺達に発見された。
しかしそれは、仲間に裏切られた証明にはならない。
しかしながら、こんな事があったと報告するのは大事なんだそうだ。
ギルドは報告を蓄積し、同じような報告が上がった場合は信憑性が上がるからな。
しかも報告者の知名度や信頼度が高ければ、より慎重に扱われやすい。
つまりドルアーザさんは冒険者としての格が高く信頼度も高いから、
今回の報告は深く検討すべき情報として取り扱われ、イリーナのパーティメンバーは事情聴取を受ける事になる。
一応は役人にも報告してくれるみたいだし、他の街へも情報が広まるそうだ。
「まあ、まずはパーティメンバーが見付からなければ何も出来ない」
「そっか」
「ルイスも覚えとけよ。こういった事は即座に報告すべきだ」
ほとんどが証拠不十分として未解決になるらしいが、情報の蓄積は大事だ。
一度でも”それらしい”情報が重なってしまえば信頼の失墜に繋がってしまう。
だからこそ不用心に犯罪は起こせないし、返り討ちにされる可能性もあるからな。
「まあ、もうイリーナは大丈夫だろう」
「そだな」
「どうした? 浮かない顔だな」
「ん~……まあ」
「もしや惚れたか?」
「ちげえよ!!」
ともあれ夕食も済んだし、部屋へと戻る。
明日は休息日として、明後日に森へ再出発する約束となった。
「…………うし」
けど、俺は部屋へと戻ってから夜遅くになるのを待ち、宿を出たのであった。
次回・・・共存




