3_02_気晴らし
こんばんわ。
投稿する時間が取れず、日が空いてしまいました……すいません。
「起きろルイス。着いたぞ」
「……んぁ?」
揺り起こされ、俺は体を起こした……ってか体が痛い。
見渡すと、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
そりゃあ木張りの上に寝転がれば痛くもなるだろうと思う。
そして、唐突に思い出した。
内蔵が縮むような気分を味わい、否定したい気持ちで馬車の窓から外を見る。
「……」
出来れば夢であってほしかった。
悪夢でも良い、現実でなければ。
……窓から見える景色はマークベルの街の防壁付近だろうと思う。
荷物検査などのために設けられている馬車の仮置き場で、
幾つも停車しているそれらの傍らに、奴らが跪かされていた。
厳重な拘束を施された魔族。
奴らの襲撃は夢じゃない。
「一応、魔族に何かされててもマズいから治癒魔法を受けてもらう」
「俺? 何もされてないけど」
「闇系統への備えだ。持続型なら魔力封じで無効化できるが、定着型は解除しないと外れねえ」
「そっか」
「あと、荷物検査な」
「分かった」
「……これから俺は少し忙しいが、大丈夫か?」
「おう」
「ならいいが……しばらくは大人しく過ごしてろよ? 護衛も付けておくから」
「……」
最後は言葉も出さずに頷くだけだった俺の肩を、ドルアーザさんが軽く叩いてから歩き去る。
護衛になったのは冒険者のウォーンさんで、寡黙な人だ。
俺も気分が滅入ってるから喋らなくて済みそうなのは有り難い。
・・
・・・
あれから3日が過ぎ、俺の気分も持ち直した。
というより、ぐっすり寝て飯食ってたら気分も軽くなったな。
冒険者の人達も顔を見せに来てくれてるし、色々と心配してもらって申し訳ないくらいだ。
護衛をしてくれていたウォーンさんは相談にも乗ってくれたし、ありがたい。
で、もう護衛無しでも大丈夫らしいので、ウォーンさんは護衛から解任された。
それから俺は街を散策したりして時間を潰していたんだけど、夜になって宿へ戻るとドルアーザさんが待っていた。
「よお」
「あ、久しぶり!」
「そんなに時間も空いてないだろ。まぁ、もう大丈夫そうだな」
「おうよ! 完全復活!」
ビシッと決めポーズを取って、元気なのを主張する。
すると軽く笑ったドルアーザさんは俺を食堂へと誘った。
一緒に飯を食いながら話を聞いてみると、どうやら他の生徒達は無事だったようだ。
他の街へ移動した生徒達は当初の予定通り、演習で実力の底上げをしているらしい。
「つまり、ルイスだけ退屈な毎日を送る羽目になってるな」
「ん~……まあ、そろそろ退屈かな」
「そこで、俺から提案がある」
「へ?」
皆どうしてるかな……と思いを馳せていたら、ドルアーザさんが豪快に肉を頬張りながら紙を差し出してくる。
少し肉の脂が付着したそれを受け取ってみると、ギルドの依頼書だった。
内容は……オブーンの素材集めらしい。
オブーンは豚が二足歩行しているような見た目で、成体になれば全長2mほどの巨体にもなる魔物だ。
こいつの肉が美味いんだけど、臆病な性格だから大抵は森の奥に潜んでいる。
そんな、人間にとっては食料としか見られていないような奴だが、
身の危険を感じると反撃してくるから油断してはならない。
「近くの森に棲息してるからよ、狩りに行かねえか?」
「おぉ……」
「気晴らしには冒険だろ」
「よっしゃー!!」
断る理由など皆無!
さっそく明日出発する事になり、俺は気分を高揚させながら明日を迎えるのであった。
・・
・・・
「うおらあぁ!!」
「ガゲェイィ……」
気合いを込めてゴブリンの肩から脇腹までを斬りつける。
前蹴りを喰らわして動きが鈍くなっていたゴブリンは碌に反応も出来ず、奇怪な断末魔を上げて倒れた。
色々と準備をして昼頃から出発したんだが、これで3匹目だな。
ドルアーザさんは極力手伝わず、俺に戦わせている。
「ゴブリン相手に力み過ぎだ。他の魔物が隠れてたら隙になるぞ」
「あ、そっか」
こんな感じにアドバイスを貰いながら、俺は剣に付着した血糊を布で拭う。
そして短刀で討伐証明であるゴブリンの耳を切り取ってからポーチに入れた。
保存しとかないと腐ってしまうんだが、防腐剤入りの箱に突っ込んだから問題ない。
「今日は浅めに探索して、体を慣らしておくからな」
「了解」
「オブーンは深い場所にしか居ないからよ、そうなると他の魔物が厄介になる」
「分かってるって」
魔物が生息している場所は、奥へ行くほど魔物も強い個体が増えてくる。
だから冒険者は自身の実力で安全に探索出来る範囲を見極められるようにならないとな。
「まあ、この森なら俺が付いてれば大丈夫だけどよ」
「前も来た事あんの?」
「おう」
そんな会話をしながら、俺とドルアーザさんは進んでいく。
森の中は人が通れるように切り開かれている道があるんだが、これは目的の場所へ迷わず進むためでもあり、戦いやすくするためでもあるのだ。
道から逸れると木々が邪魔で剣なんか振り回しにくいからな。
ただ、何かしら採取したりするなら道から逸れないといけない。
そこで魔物と遭遇したりすれば、戦いやすい道へ逃げてから対処するのが基本である。
「……って聞いたんだけどさ」
「その通りだが、道の整備ってのは結構な手間だ」
元から無かった場所に道を作るのだから、その作業は大変な労力を伴う。
どこからどこまで繋ぐか、そもそも道を作る最中で魔物に襲われたりもする。
「まずは木を切り倒して大きめの空地を作る。で、充分な幅を確保しながら道を作っていくんだ」
「なるほど」
言われてみれば、何ヶ所か道の途中で大きく円状に切り開かれた場所があったな。
「野宿や戦闘に備えた拠点として扱ったり、採取場所の目印として扱う事もあるからな」
「ほうほう」
「一つ前に通った空地は、休憩用の拠点だ」
「じゃあさ、ここは?」
説明を受けながら歩いていると、丁度空地に到着した。
ドルアーザさんが荷物から地図を取り出して確認している。
「ここは……採取場所だな」
「そんな事まで地図に書いてんの?」
「地図次第だ。経路しか載ってない地図もあれば、空地の用途だったり各所で採取出来る物まで載ってる地図もある」
「おぉ~」
その精密さで値段が変わるそうだ。
ちなみに、ドルアーザさんが持っているのはセッタさんから借りた地図である。
セッタさん自身が作成した地図のようで、そんじょそこらのより高品質だと言っていた。
試しに見せてもらうと、たしかに色々と情報が書き込まれている。
今いる空地は、特に茸類が豊富に採取出来る場所らしい。
「よし、ちょっと道を逸れるか」
「え? なんで?」
「地図の更新をしないといけねえからだ」
地図を借りる代わりに、情報を更新する約束だそうだ。
セッタさんは何も要求しなかったらしいけど、互いに利益となるよう配慮するのがドルアーザさんのポリシーである。
そういうわけで道を逸れて木々の中を進んでいくが、動きやすい程度には木が伐採されている。
この森はかなり整備されているようだ。
「……ここは問題ないな。茸類が多いままだ」
「ついでに採取する?」
「そうだな。飯の品目に追加するか」
二人で茸を適度に集めて空地に戻る。
腹も減ってきたから、このまま食事となった。
「食えない魔物しか出なかったからな。買っておいた食材を使うか」
「んじゃ、俺は火を用意する」
「おう、頼む」
茸と一緒に集めておいた枝や葉に、種火の魔法で火を点けた……けど、燃え方が微妙だな。
「これ使え」
「おっ、これ何?」
「着火材だ」
投げ渡された角砂糖のような物は着火材らしい。
茸を採取した所は湿ってたから、これを使わないと枝葉が乾くまで待つ他ないところだった。
ともあれ火も用意出来たので調理開始である。
食材は肉と少量の野菜のみで、鉄串に突き刺して焼くだけのお手軽料理だな。
「ルイスは森に慣れてると思ったが、知らない事も多いんだな」
「ん~……地元の冒険者に色々と聞いたんだけどさ」
なんていうか、魔物の話だったり冒険色の強い体験談ばかりだった。
俺はハイク達と一緒に森へ足繁く通ってたけど、大人達が知っていたかは分からない。
そもそも子どもだけで森へ行くのは禁止されてたから、自分達からは口が裂けても言えなかったし。
だからこそ地元の冒険者達も、道や空地の意味とかの実践的な知識は教える必要性を感じなかったんだろう。
ただ、よくよく思い出してみると……ソマリだったりが細かく補助していたような気もする。
気付かなかっただけで、俺以外は森の探索に必要な知識を集めてたんだな。
森へ行こうと言い出すのは決まって俺なのに、充分な知識も持ってない無鉄砲ぶりである。
それを直接には指摘せず助けてくれていたんだと思うと、有り難さと申し訳なさが込み上げてきた。
「はぁ~……」
「どうした?」
「いや、もっと頑張ろうと思う」
「?」
火に炙られて滴り落ちる肉の脂。
それを見つめながら、俺は反省と決意を胸に刻み込むのであった。
・・
・・・
「油断するなよ!」
「おう!」
ドルアーザさんの言葉に対し、俺は目の前に居る魔物を睨みながら応えた。
俺達が対峙しているのはトラストウルフであり、群れで行動する厄介な魔物だ。
道を歩いていたらぞろぞろと湧いてきたので、そのまま迎撃する事になった。
今だって8匹も居る。
囲まれてしまうのはどうしようもないため、死角を無くすようにドルアーザさんと背中合わせになっていた。
俺の前には4匹。ドルアーザさんの前にも4匹。
グルルルルゥ……と威嚇のような唸り声を上げながら、トラストウルフが距離を詰めてくる。一斉に襲う気なのだろう。
「面倒だな」
一言呟いたドルアーザさんが、少し俺から離れる気配。
そして背後からトラストウルフの悲鳴が聞こえた。
何をしたのかは見えない。けど、きっと数を減らしたんだろう。
俺の目の前に居る魔物達は剥き出しの敵意を更に強めながら身を低くした。
飛びかかってくる気だ。
「っああ!」
その直前に俺は前へと躍り出る。
一気に飛びつこうとしたトラストウルフは距離感が狂い、体勢を戻そうとした。
そこで俺は端の方に居たトラストウルフ目掛けて進路を変える。
的にされた奴は少し動揺したものの、すぐに飛びかかって来た。
「しっ!」
「ギャンッ!!」
空中で回避出来ないのを狙って、爪による一撃をすり抜けながら剣で腹を切り裂く。
悲鳴と一緒に血飛沫が舞い、俺の背後で魔物が崩れ落ちた音が聞こえる。
1匹倒したけど、このまま止まるわけにはいかない。
足を踏ん張って進路を変えながら、俺は詠唱を始めた。
「”猛る熱波をこの身に宿し、錆びぬ闘志で覇を唱え、鳴り響かせるは火神の咆哮・・・”」
そこで、やっと向こうの状況が分かった。
ドルアーザさんは既に3匹を仕留めているんだが、全て投擲用小剣によるものだ。
俺の詠唱で無差別範囲攻撃だと理解し、すぐに距離を空けてくれる。
全くもって余裕だなドルアーザさん。
俺も早く終わらせないとな。
と、殺気が背中を刺し、間近に迫っているのが分かる。
俺は足を止めながら振り返った。
一瞬に見えたのは2匹……俺へ向かって来ている。
それだけ把握した刹那に魔法を行使した。
「”イグニスロア”!!」
拡散する範囲を狭くしつつ、熱波を自身の周囲へ解き放つ。
突然で対処出来なかったトラストウルフ達は身を焼かれながら熱波に弾き飛ばされた。
その隙を逃さず追いすがり、1匹の頭を思いっきり蹴り飛ばす。
嫌な感触が伝わってきたから首の骨が折れたと思う。
ここで、見失っていた奴が右から近付いて来ているのが視界に入った。
後詰めのために距離を空けていたのか。
蹴りの勢いを止めずに回転し、逆袈裟に剣を振るう。
当たらなくても牽制にさえなればと思っていたが、どうやら飛びついて来たみたいだ。
念のために体を傾けていたのが功を奏し、魔物の爪は俺の体を掠めもしなかった。
しかし、思いっきり振り抜いた剣は魔物の首を捉えて刎ねる。
俺の方も残り1匹……火傷を負ったトラストウルフは、ふらつきながら身を起こし上空を見上げた。
8匹も居たから余裕かましてたんだろうけど、あっという間に減らされた今になって仲間を呼ぶ気だな。
けど、その判断が遅すぎた。
既に足下から拾っていた石を投擲する。
狙い違わず胴体に石が直撃し、苦悶の声を上げたトラストウルフ。
すぐに距離を詰めてトドメを刺した。
「終わったか」
「おう。そっちも……」
ドルアーザさんの声に振り返ると、最後のトラストウルフは喉を掴まれていた。
既に事切れているみたいで、きっと首をへし折られたんだと思う。
そういえば大剣を一度も使ってなかったな、ドルアーザさん。
「この程度には剣を使うまでもない、ってやつ?」
「いや、血が付くと面倒だからだ」
魔物の死骸を放り捨て、他の死骸に突き立っている小剣を回収している。
まあ、どっちにしろ必要が無いから使わなかったんだろうな。
「俺の戦いはどうだった?」
「あんまし見ていないが、魔法の選択が微妙だったな」
「そっか……」
最近は”イグニスロア”の制御を練習してるからか、咄嗟に使っちまった。
「まあ、多対一なら出し惜しみする場合でもないか」
「そんなところ。けっこう危なかったし」
運良く一撃も貰わなかったけど、下手したら怪我だもんな。
ともあれ反省会は後回しだ。
俺が相手した魔物が本当に死んでいるか確認しないと。
油断無く、転がっているそれに近寄る。
元々トラストウルフは擬態なんてしないから大丈夫だろうけどさ。
で、確認が終わってから討伐部位の回収を済ませた。
こいつらも耳が証明部位なんだ。
ポーチの中の部位収納箱を覗くと、ゴブリンの耳もそれなりに入っている。
こんなに耳ばっかり集めると、なんだか狂人のコレクションみたいだな……
「さて、少し先の空地で野宿するか」
「あいよ」
そろそろ日が暮れる。
暗くなる前に野宿の準備を済ませるため、少し急ぎながら進むのだった。
次回・・・出会い




