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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第三章 人魔を渡る者
58/217

3_01_悪夢

こんにちは。







ーーーーー


「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

「んぁ?」

「やっと起きた。もう皆出発しちゃったよ?」

「へ? アーシェ?」


あれ? 俺は何してたんだ?


たしか魔法学校に入学して……でも、ここは地元の俺の部屋だ。

この無骨な内装は見覚えがある。



「久しぶりに帰ってきたのに、ずっと寝てるんだもん」

「あ、ゴメン」

「ねぇお兄ちゃん、お土産は?」

「……」


お土産……そういえば持ってないな、たぶん。


ん~……そもそも地元に帰ってきた記憶がないというか……



「ないの? 可愛い妹にお土産の一つもないの!?」

「自分で可愛いとか言っちゃったよ!」

「反省して!」



肩を掴まれてガクガクと揺さぶられる。


おおぅ……けっこうな力だな。

視界が揺れる……ん?


「アーシェさ、こんなに腕が太かったっけ?」


いや、太いってか……なんでこんなに毛が生えてんの?


むさ苦しい腕だ。似合わないってレベルじゃねえ。



「お兄ちゃんを待ってる間に鍛えてたの」

「鍛えたら毛まで生えんのかよ」

「そうよ? 知らないの?」


う……この小バカにした感じはいつものアーシェだ。


けど、なんだろ……やっぱ少し違う。




「あ、分かった。声だ」

「声?」

「ああ。お前さ、そんなに声が野太かったっけ?」


気付けばアーシェの声が低くて男みたいになってる。


どっかで聞いた事あんだよな……


なんにせよ似合わないっつーか、場違いに太い腕と相まって凄い違和感だ。



「お兄ちゃんを待ってる間に歌を練習したの」

「あ~、それで喉が枯れてんのか」

「違うよ。これで完成したのよ」


はい? どゆこと?


「この声なら世界も獲れるはずよね?」

「いや、どうだろ……」

「それよりお土産は!?」

「うおおぉ!?」


アーシェに片手で持ち上げられ、ってか首絞まってる!


「く、苦し……!」

「女の子に失礼じゃないの!? 気が利かないにもほどがあるよ!」

「とりあ、えず……放し」

「ねぇ、お兄ちゃん。早く起きてよ」



もうバッチリ目覚めとるわ!

ってかこのままだと永遠に眠っちまう!



「早く起きてぇ、おにいぃちゃぁあぁぁぁん」

「!? ……アー、シェ……おま、その顔……」


なんで……



ーーーーー



「起きろルイス!!」

「うあああぁぁ!!」



うっお! なん!? はっ?


え? いや……あ。



「夢か……」


あ~~~~……ビビった。


ほんと夢でよかった。



「おい」



悪夢にも限度があんだろ。


帰ったら妹がドルアーザさんみたいな腕と声と顔……いやいや!

そのままご本人じゃねえか!


どうしてあんな夢を見たんだろな?


「ルイス、おいっ」


まだ都に来て一ヶ月も経ってないけど、ホームシックなんかな?


ん~……そうだ、手紙でも書くか。


”アーシェへ


 元気にしていますか? 俺は元気です。

 どうか腕は鍛えないでください。

 歌も練習しなくていいです。

 あと、お土産もちゃんと買うので安心してください


 ルイスより”



こんな感じか?

いやでも、アーシェも意味分からんだろうな。



「しっかりしろ!」

「いだっ!?」


っつぅ~~~……脳天に響く……



「何すんだよ!」

「お、やっと気付いたか」

「殴ることねえじゃん!」

「ブツブツ呟いてて気持ち悪かったからな」

「理由になってねえし!」


ドルアーザさんに頭を小突かれて、ぼんやりしていた頭が起動した。

見渡すと馬車の中であり、まだ揺れている事から移動中のようである。



「停めますか?」

「あ? いや、そのまま進んでくれ」

「はい」



御者の問いかけに答えたドルアーザさんは、俺に向き直って溜息を吐く。


「はぁ~……なんで乗ってんだよ、ここに」

「へ?」

「乗り換えろって指示があったろうが」


あ、そういえば寝ちまったんだっけか。

ドルアーザさんに事情を説明すると、今度は苦い顔だ。



「くそ、急いでて確認が不十分だったか」

「何の話?」

「……知る必要はない、とは言えないか。この状況じゃあな」



どの状況?


よくは分からなかったが、ドルアーザさんが説明してくれた。



「今、この馬車はマークベルの街に向かっている」

「うん、知ってる」

「だが他の生徒は全員、別の街へ向かった」

「……うん?」


どゆこと?


「つまりな、こっちは囮なんだよ」

「わけ分からん。囮って何の?」

「襲撃に対する囮だ」



詳しく聞くと……演習への道中、そして演習の最中に襲撃の可能性があるため備えていたらしい。


以前にグランバス支部の冒険者ギルドで聞いた話である”存在しない生徒”の件だが、

記録の捏造などは内部による犯行の可能性が高いとして調査が進められていた。


しかし手がかりは見つからず難航しており、そんな中で対抗試合に向けた強化演習の話が上がったのである。


だが最近は魔族が活発に事件を起こしており、

しかもある筋から”職員に魔族が混ざっているかもしれない”と忠告があった。


証拠も無い情報であったが、記録捏造の内部犯行者と、紛れ込んだ魔族という情報を組み合わせた場合は深刻な事態である。


もし魔族が職員に紛れ込んでいるとして、何が目的か。

記録を捏造してまで存在しない生徒を用意したのは、何が目的か。


それらを考えた際に思い浮かぶ最悪の可能性は……


「次世代を担う生徒達の抹殺だ」

「抹殺……って」


物騒だな。


「だから学校長は今回の演習を利用する事にしたんだ」



つまり演習の計画を危険な第三者に漏らされた場合、襲撃される可能性がある。

だからこそ生徒達は途中で進路を変えて別の街に向かい、騎士団の一部や冒険者達はそのまま進む。


進路の切り替え地点は先ほどの森からで、そこからマークベルの街までは警戒網が薄いので魔族も侵入しやすいそうだ。


しかしながら、もし襲撃があっても護衛対象は既に離脱が完了している。

何も気にする事無く対応すればいい。



さらに、進路変更の話は当日の朝に職員へ通達された。

乗り換えなどの準備は学校長自身が冒険者と騎士団に連絡し、密かに済ませていたようだ。



これで生徒達が襲撃される心配は無く、あっても盗賊の類だろうから半分残しておいた騎士団の戦力で対処可能である。



「小難しい事してるんだな」

「どれも不安定な情報だ。過信は出来ない」


しかし油断も出来ない、と。


襲撃が無い可能性もあるし、記録の捏造も内部犯行じゃ無い可能性もある。

魔族が職員に紛れこんでいる可能性の情報だってデマかもしれない。


けど本当だとしたら危険だし、かといって大々的に警戒していると、思わぬ行動を取られるかもしれない。


「全部バレてる、って思われたらマズいからな」


計画が潰される前に、1人でも多く抹殺しよう。

そんな風に自棄を起こされてしまえば被害が出る。


慎重に、気取られず、生徒の安全を確保しながら探っていかなければならないのだ。



「というわけだ」

「えぇ~……」


さらっと言い渡されたが、もしかしたら襲撃されるかもしれないんだろ?

たまったものじゃない。


今から引き返すのは無理なんだろうか。


「出来れば生徒達に合流させたかったが、もうマークベルの街が近い」

「あ、そうなん?」

「おう。このままなら無事に到着出来そうだ」



そか。なら安心だな。



って安堵の息を吐いた瞬間、馬車が大きく揺れた。



ドガアァァァ!!


同時に聞こえたのは何かが衝突する音であり、

ドルアーザさんは咄嗟に俺を掴んで馬車の外へ飛び出した。



「なんっ!?」

「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」


小脇に抱え直され、そのままドルアーザさんに運ばれる。

その間も炸裂音や爆破音が続き、さきほどまでの平和な時間が嘘のようだ。


そして揺れる視界の中で見えたのは、空を飛ぶ者達。

魔法ではなく、羽で飛んでいる。


初めて見る魔族の姿だった。



しかし羽の形状もそれぞれ違い、虫のようだったり鳥のようだったり……

そんなのが視界に映っただけでも5人ほどが空を飛んでいた。



「ちっ、もう大丈夫と思った瞬間か。タイミングの悪い事だな」


文句を言いながら、ドルアーザさんが俺を降ろす。

そして俺に動かないよう指示した。


「ここから動くな。すぐに終わるからよ」

「お、おう」


不安だったが、ドルアーザさんは余裕の笑みで俺の頭を叩く。

そうされれば少しは安心できた。


そして、騎士達が駆け寄ってくる。



「魔法障壁展開!」

「「「はっ!」」」


「護衛対象あり! 防陣隊形、円の型!」

「「「「了解!」」」」


「敵の数を把握しろ! 増援も警戒だ! 周囲への注意を怠るな!!」

「「「はっ!!」」」


「馬車にも近づけさせるな! 騎士の誇りを見せよ!!」

「「「「おおぉぉぉ!!」」」」



手早い指示と、統率の取れた動き。

俺はあっという間に騎士達によって囲まれてしまい、すぐに俺を中心とした防陣が完成する。

やがて周囲へ展開されたのは魔法障壁だ。

間一髪といったタイミングで飛んで来た魔法を障壁が打ち消す。


「冒険者はいるか!」

「ここだ! 代表のドルアーザだ!」


呼びかけにドルアーザさんが応えると、第二大隊の隊長であるソムニトさんが防陣の中へ入ってきた。



「他は?」

「おそらく交戦中だ。俺もすぐに向かって指揮を取る」

「うむ。ここは任せよ」

「じゃあなルイス。大人しくしてろよ」



そう言ってドルアーザさんは防陣を飛び出していった。


向かう先は魔族との戦闘領域だ。

羽の無い魔族が冒険者や騎士達と対峙して、激しい攻防を繰り広げている。


一体どこから湧き出したのか……そう考えていると、地面に穴が幾つもあった。


予想でしかないけど、潜っていたのだろうか。



「きみ、怪我はないかね?」

「あ、はい」

「そうか。ではここから動かずに待っていなさい」

「了解です」



俺の返事を聞いて、ソムニトさんは防陣の外へ厳しい目を向けた。




それからは、ずっと戦闘を見ていた。


騎士達は相手の魔法を後衛が相殺しながら、前衛が多対一で制圧しようとしている。

一方の冒険者達は少し違う戦い方をしていた。


転倒した馬車の陰に隠れたり、騎士達の中に紛れ込んだりしている。

そうして敵の注意から逸れつつも、隙を見ては攻撃を加えたりしていた。


ただ、大きな盾を持った冒険者……ウォーンさんだっけか。

この人は最前線で姿を晒しながら攻撃を防ぎ、味方に休息や攻撃の機会を用意していた。


そして、ドルアーザさんも最前線で大剣を振るっていた。



「おおぉっ!!」

「ぐあぁ!」


身の丈ほどもある大剣を軽々と振り抜き、魔族の腕を斬り飛ばす。

そして怯んだ隙に片手で相手の顔を掴み、叫んだ。


「弾けろっ!」


その言葉の直後、ドルアーザさんの手から爆発が発生する。

初級と中級の間、ってところの威力だろうけど、至近距離で顔に直撃された魔族は顔から黒煙を上げながら崩れ落ちた。


魔具を篭手に仕込んでるのか。

けっこうな威力だが、本人にダメージが無いのを見ると頑丈な装備らしい。



そして、1人倒したドルアーザさんは周囲を見回し、ある一点へ向かって走り出した。

そこは魔族が騎士達を蹴散らしている場所であり、一見して強い魔族なのだと分かる。



「上方警戒!」

「!?」



突然、近くに居た騎士が叫ぶ。

驚きつつ見上げると、羽の生えた魔族がこちらへ凄まじい速度で飛んで来ていた。



さっきから魔法は数発飛んで来ていたけど、全て魔法障壁に阻まれて消滅している。

だから今度は物理的に突破しようとしたのだろうか。

中に入ってしまえば障壁は意味が無いからな。


「放てえっ!」


しかし、その特攻じみた突撃も騎士達が投擲した槍によって体の各所を貫かれる。

そのまま魔族は力なく墜落し……俺の近くに落ちてきた。


「何をしている! 早く殺せ!」

「おぉっ!」



すぐに騎士がトドメを刺すため槍を突きこむ。

血を吐きながら震える魔族は、最期に俺へと目を向けた。


「っ……!」


暗い……どこまでも暗い瞳……漆黒の瞳は俺を映しているのに、まるで別の何かを見ているようで……



「せいっ!」


魔族の首が騎士の一太刀で斬り落とされる。

すぐに蹴り飛ばされた頭の行方は分からない。


けど、俺はしばらく動けなかった。




「第三小隊崩壊! 第五小隊に敵戦力が寄りました!」

「予備人員から補充して復帰させろ! それまで第五小隊は近くの小隊と連携して防げ!」

「隊長格らしき魔族が冒険者と交戦を開始! いかがしますか!!」

「いつでも加勢できるように2人ほどを周囲へ張らせろ! 他は誤射のないよう注意!」



矢継ぎ早に飛んでくる報告と、それに対する指示は耳に入っているようで入ってこない。

あまりにも俺の日常とかけ離れていた。


まるで、悪夢のように……



空を飛ぶ魔族は半分ほどに数を減らしている。

執拗に馬車を狙っているようだったが、その隙に撃墜されたのだ。


きっと馬車に乗っているはずの生徒達を狙ったんだろう。

しかし、その中には誰も乗っていないんだ。

今この場には俺しか生徒が居ないのだから。


一応、その事実に気付いたんだと思う。

途中から標的を騎士達や唯一の生徒である俺へと変えてきたのだ。


ほとんど目論見が外れただろうに戦闘を続ける理由が俺には分からなかったけど、

それでも魔族は向かってきた。




やがて、戦況は味方の有利がハッキリしてくる。

隊長格らしき魔族をドルアーザさんが抑えていた事で魔族側の指揮系統に支障が出たためである。


また、戦力的にも隊長格は大きい存在だった。

暴れるほどに魔族側の士気は上がり、こちらの被害が増えるのだから。


しかしドルアーザさんと対峙してからは、ずっと足止めされている。


そして、戦闘の開始から30分が経過した頃に、決定的な瞬間が訪れた。



「ぜぁっ!」

「っぐ……ぬ……」


ドルアーザさんの大剣が腹を深く斬り裂き、隊長格の魔族が倒れ伏す。


まだ生きているようだけど、もう戦えないだろう。



魔族は隊長格が倒された事に動揺し、中には駆け寄ろうとする者までいた。

しかし、その背中は討たれ、やがて魔族側の崩壊が始まる。


それから10分もしない内に魔族が撤退を始めたが、

追撃するだけの余裕は無かったため、魔族出没の連絡を近辺に走らせるだけに留まった。


赤い煙を立ち上らせるのである。

これが魔族出没の合図らしい。



・・

・・・



「よお、無事だったか?」

「……ドルアーザさんが、傷だらけじゃんか」



深い傷は無いものの、軽い火傷や裂傷がちらほら見える。

すぐに冒険者仲間のメイアさんが治癒を始めたけれど、傷を全く意に介さず笑っていた。



「さすがに隊長格は強かった。下手すると死んでたかもな」

「……冗談にもなんねえよ」

「ほんとよ。まだ抱いてもらってないんだからね!」

「アホか。そんな約束してねえだろ」



メイアさんの怒りに、呆れた様子で答えるドルアーザさん。

もう普段通りの様子であった。



・・

・・・



戦闘の後始末を済ませた後で、俺達はマークベルの街へ向かって移動を再開した。


こちらの被害は囮の馬車が6台大破。

そして騎士が22名死亡し、7名が重症。

冒険者は3名が死亡し、4名が重症。


ここまでの被害になったのは魔族の特徴が影響していた。


奴らは魔法の構築に詠唱を必要としない者が一定数存在する。

つまり無詠唱なんだ。


どんな魔法が来るかも分からない。

しかし集中は必要なようで、動きが単調になったり微動だにしなければ、魔法の構築に入っていると分かるそうだ。


そして構築の時間で規模を読み、構えた腕や視線の方向で魔法を発生させる場所を読む。



けど、構築中でも挙動に一切の変化が無い魔族だって存在する。

絶対的な対処法ではないし、初級程度なら構築に時間を掛けずに行使してくるのも脅威である。


しかも、その対処法を利用して、長時間の構築を装って注意を引きつつ別の誰かが本命を構築したり、

視線を読ませなかったりと魔族側も何かしらの工夫を凝らす。


そんな、いつ魔法が飛んでくるかも分からない中で、人間側は魔法を維持待機させつつ相殺するのを主流にしている。

単純な撃ち合いでは魔族の構築速度に分があるからだ。


更には肉体的な強さも魔族が有利であり、一般的な兵士では10人単位で戦わないと魔族1人に勝てない。

鍛え抜かれた騎士でさえ多対一を基本としているのだから、その個体の強さは想像に難くないのである。



こういった説明を誰から聞いたのかも分からず、頭の中で反芻しながら……俺は馬車に揺られていた。


車窓から見える別の馬車には魔族が乗っている。

死体となった11名に、生け捕りした4名だ。


今は魔力封じの枷を装着されて、厳重に拘束されている。



「大丈夫か?」

「……ん、大丈夫」


ドルアーザさんが俺の様子を心配している。

少しは元気のある様子を見せたら良いのかもしれないけど……やっぱり無理だ。



「騎士から聞いたんだが、魔族が近くに落ちてきたらしいな」

「……」

「危害を加えられたとは聞いていないが、何かあったか?」

「何も無かった。けど……」

「ん?」

「目が、合ったんだ」



底冷えするような、暗い瞳だった。

思い出しただけで体が動かなくなりそうだ。



「あいつらの目は恐ろしいよな。俺も初めて見た時には動けなかった」

「……魔族はさ、何で人間を襲うんだよ」

「俺達を襲う理由は一貫してない。蔑みだったり快楽だったりもある」

「……」

「それに奴らは人間だけじゃなく、他の種族も襲っている」



全ての種族と敵対しているのが魔族であり、奴らに対しては協力し合う条約であるらしい。


それでも魔族を滅ぼせないのは、奴らの拠点が世界各地に分散している事と、

攻勢に集中すれば被害が大きくなるからだ、と。


各種族が本拠地としている場所は、そのまま国として認知されていて、

全ての国で軍を集めたら魔族を滅ぼすのだって不可能じゃない戦力が集まるだろう。


けれど一箇所ずつ魔族の拠点を潰している間に、他の場所で被害が大きくなる。

戦力の集中はリスクが高すぎるのだ。


どの国だって、そのリスクを背負いたいと思わない。

防衛戦力に多くを割かれているのが現状だった。



「ま、美味い飯でも食えば少しは元気になる。嫌な事は忘れるに限るってもんだ」

「……そう、かな」



飯なんて食えるんだろうか。

今まで魔物を倒した経験はそれなりにあるから、内臓がどうたらってので気持ち悪くはならない。



けど、魔族は人だ。


そんな、人同士が殺し合うような空気は経験したことの無いものだ。

途轍もなく重く纏わり付いて、肌を刺すような感覚だった。


「お前にだって見せたくは無かった。あんな殺し合いなんてよ」

「……」

「だがな、冒険者やってれば魔族と遭遇する事だってある」



あ……そっか。


その言葉を聞いて、初めて冒険というものに不安を感じた。

あの存在に再び会うかもしれないのだから。



「まあ、冒険者じゃなくても会う可能性はあるからよ、気にする事はない」

「……」

「とりあえず横になっておけ。街に着いたら起こしてやるから」

「……うん」



言われた通りに横たわったけど、目を閉じたら色々と脳裏に浮かんできそうだった。

だから、ぼんやりと馬車の隅を見つめていた。



「兄貴も励ましが下手すねえ」

「うるせ。まだ若いんだからショックも大きいんだよ」

「私が元気にしてあげようかしら?」

「お前だと不安にしかならん。やめておけ」



こんな会話が耳に届きながらも、ずっと俺は一点を見つめていた。



次回・・・気晴らし

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