3_00_出発と冒険譚
お久しぶりです。
なんとかストックを数本用意できたので、投稿を再開しようと思います。
「まずは都の外で集合です。馬車に乗ってください」
ナイール先生の号令により、馬車へと乗り込んでいく生徒達。
俺もその内の1人であるわけで、今回の演習に参加する生徒会メンバーと同じ馬車へ乗り込んだ。
「なんかワクワクするな!」
「森なんざ何度も行っただろうが」
「でもマークベルって果物が特産品なのよね? 楽しみ!」
「マリさんは果物も好きなんだ?」
「うん!」
「お前ら騒ぐんじゃねえよ」
ケートス先輩が注意してくるが、別に騒いでも良いだろ?
俺なんか久しぶりの冒険者スタイルだからか、妙に気持ちが昂ぶってんだよ。
他のメンバーも戦闘に備えた格好をしている。
道中は騎士団が護衛してくれるといっても、丸腰なんてアホのする事だからだ。
そういうわけで、とりあえず都の出口までは馬車に揺られながら、なんのかんのと雑談するのであった。
班分けしての行動は現地に到着してからという話だったので、
今は気にしなくていいらしい。
・・
・・・
「到着しました」
御者の人が都出口に到着した事を告げ、皆が馬車を降りる。
入学式前日に通ったのと同じく、持ち物検査を受けてから都の外へ。
するとそこには、先ほどまで乗っていたものより大きな馬車が並んでいた。
しかも、その馬車から少し離れた場所には……
「騎士団……かっこいいな」
煌びやかな装飾が施された、なんて事はない。
式典とかで呼ばれるならまだしも、こんな都の外で護衛を務めるのであれば、見た目より実用性を優先するからである。
つまり今、俺達の目の前で日光を反射しているのは、洗練された騎士甲冑を纏う騎士達である。
”護る者”と称される事もある騎士においては、こちらの格好の方が頼もしくて誇り高く感じるな。
そんな彼らが騎乗した状態で隊列を組んでいる。
一糸乱れず整列しているのも、日頃から訓練を怠っていないと主張しているかのようであった。
「こうして並んでるのを見ると壮観だろ?」
「なんでケートス先輩が誇らしげ?」
「俺は何度か入団試験を受けてるからな。この光景を見てんだよ」
へえ、ケートス先輩は騎士志望なんだな。
一般だと元々の階級は下っ端からだろうけど、ケートス先輩の実力なら上を目指せるだろう。
と、どんどん後ろから生徒達が持ち物検査を済ませて出てくる。
あまり出口付近で立ち止まっては邪魔だろうから、職員が促してくる場所へと移動した。
「それでは、これより強化演習の実施場所へ向かいます」
ナイール先生の言葉と同時に、騎士の1人が近付いてくる。
他の騎士より少しだけ豪華な甲冑姿であり、きっと隊長格なんだとおもう。
「演習での往復はグランパレス騎士団に護衛をお願いしてあります。こちらが第二大隊を率いる、ソムニトさんです」
その紹介へ応えるように一礼をした騎士隊長のソムニトさんは平均的な身長であるものの、
兜を外した際に見えた渋い顔は覇気が満ちている。
甲冑越しでは分からないが、きっと体も相当に鍛えているのだろう。
何があっても即座に行動できるような隙の無さだ。
「我輩が第二大隊長のソムニトである。本日は貴殿方の護衛を務めさせていただくゆえ、よろしくお願い申す」
厳格な声で簡単な挨拶が終了し、ソムニトさんが一歩下がる。
そして、今度は比較的小さな馬車の中から出てくる人物が居た。
背中に掛けてある大剣は見覚えがある。
というより、この人物を俺は知っていた。
「さて、今回は冒険者の方々にも緊急的に護衛を依頼しております。こちらが代表のドルアーザさんです」
そう、ドルアーザさんである。
騎士達にも劣らない気迫を感じるが自然体で佇む姿に、冒険者ならではの気風を感じる。
なんていうか、こう……大人の余裕? ってやつかな。
「ドルアーザだ、よろしくな! 他にも20人ほど冒険者が控えているが、どいつも頼りになるから安心してくれ!」
こちらも軽めの挨拶をして、俺と目が合ったドルアーザさんが口の端を吊り上げる。
どういう意味か分からなかったけど、また会えて嬉しいって感じかな?
ともあれ護衛を務める人達の紹介は済んだので、すぐに馬車へ乗り込む段となった。
ドルアーザさんとかは馬車に乗るんだろうか?
もし乗るんなら一緒の馬車が良いな……また色々と話を聞かせてもらいたいし。
そう考えていると、先生達と話しこんでいるドルアーザさんを発見した。
荷物なんかは手近にあった馬車へと放り込んでいるし、おそらくあの馬車に乗るのだろう。
すたすた、とドルアーザさんの方へ向かって歩いて行く。
「お、ルイスか」
「おっす!!」
「今日も元気だな」
ドルアーザさんは笑ったが、すぐに申し訳なさそうな顔をする。
「悪いが、今は打ち合わせしてんだ。もう少しで終わるから待っててくれないか?」
「了解っ。じゃあ、あの馬車に乗ってるんで」
そう言って馬車を指差した。
だが、ドルアーザさんと打ち合わせしていた先生が引きとめようとしてくる。
「あの馬車はダメですよ」
「へ? なんでっすか?」
「あれは護衛役が乗り込む予定ですので」
ん~、生徒は乗っちゃいけないのかな?
「途中で生徒用の馬車に移らせるから大丈夫だろう」
「しかし……」
「ルイスとは少しばかり縁があってね。途中までなら問題ないさ」
「……分かりました」
どうやらドルアーザさんが説得してくれたようで、顎で馬車を示してくる。
俺は頷いて馬車に乗り込み、ドルアーザさんを待つのだった。
・・
・・・
案外、準備に時間がかかったようで、30分ほど退屈に過ごしていた。
そして、ようやく出発となるようでドルアーザさんが乗り込んでくる。
「よう、待たせたな」
「あんなに打ち合わせする事ってあんの?」
「まあな。色々とあんだよ」
「ふ~ん」
まあ、いっか。
「おっ、こいつが例の少年すか!」
「へ?」
他にも続々と冒険者らしき人達が乗り込んでくる中で、
小柄な男が俺に興味津々って様子で近寄ってくる。
「セッタっていうんすが、あんたがルイス?」
「あ、はい」
「おおぉ!! 会えて嬉しいすよ!」
よく分からない内に手を掴まれ、ぶんぶん振られる。
されるがままになっていると、ハッと気付いたセッタさんが謝ってきた。
「おっとすんません。兄貴の後輩って聞いて興味があったんすよ」
「兄貴?」
「ドルアーザの兄貴すよ!」
へぇ、ドルアーザさんって兄貴なんて呼ばれてんだな。
まあ頼りになりそうだし、冒険者からは慕われてんのかも。
「おいセッタ、後輩じゃねえよ。同志だって教えたろ」
「同じようなもんじゃないすか。ねえ?」
「あ、まぁ……」
「すまんなルイス。こいつはセッタ、たまに組む程度の仲だ」
他に紹介の仕方があったすよね!? とかセッタさんがドルアーザさんと言い合っている内に、他の冒険者も近寄ってくる。
「壁役のウォーンだ。よろしく」
「治癒役のメイアよ。夜の癒しは別料金だからね?」
「遊撃役のパーピンってもんだ。よろしくなっ!」
「弓士のシュタゲン」
続々と挨拶されて覚えきれない。
だが、皆が役割を持っているのは理解した。
冒険者には得物を一種類に定めてパーティを組む人も多い。
ソロなんかでは依頼内容が限定されたりするために数種類の武器を扱えるようにするらしいけど、
パーティでしか依頼を受けないつもりであるなら、一つの武器に特化するのもアリだ。
今回は護衛が目的であるため、連携がしやすいパーティでの受注で臨んだらしい。
しかも、この人達は普段から組んでいるようなので、折り紙つきの実力だとドルアーザさんが言っていた。
ちなみに、ドルアーザさんだけはソロで冒険者をしていたらしく、
今はセッタさんが熱心に勧誘しているそうだ。
「さて、じゃあルイスに例の話を聞かせてやろう」
「例の話?」
「ドラゴン討伐だ」
「おぉ……」
「ん? なんか反応が薄いな」
いや、だってさ……
「ずっと先延ばしにされてたし、もう聞けないと思い始めててさ」
「そこで諦めんなよ」
ともあれ、やっとドラゴン討伐の話を聞ける事になった。
「たしか7年ぐらい前だったな」
その言葉から始まった、ドルアーザさんの冒険譚。
ここから東へずーっと離れた地に、強力なドラゴンが現れる場所があった。
そこは国にとって重要ではない地であり、何度か他国や魔族の侵攻を受けた過去もあるが、特に戦力を投入しようともしなかった。
しかしながら、そこが占領された過去は無い。
なぜなら不規則に出没するドラゴンによって、ことごとく他国や魔族の拠点が潰されたからだ。
そのため国としても半ば放置するような形で管理されていたのである。
ところが近年になって、その地の重要度が跳ね上がった。
まだ他国には気付かれていないであろう重要性であったものの、だからといって安心は出来ない。
すぐにでも要塞化して守りを固める必要があった。
しかしそうすると、今まで天然の防衛戦力として機能していたドラゴンが頭痛の種になる。
何度か要塞化を進めようとしても邪魔されるのだ。
魔物であるドラゴンは国など関係なく、その地に侵入する者を許さない。
そのため、ドラゴンの討伐が決定された。
当時は討伐軍を編成し、一大決戦を繰り広げて多くの犠牲を出すも……結果としては追い払うに留まっただけだ。
これでは戻ってくるかもしれない。
しかし、どこに逃げたのかも分からない。
そこで追跡と討伐の依頼が冒険者ギルドへと届けられた。
しばらくは誰も受けようとしなかった高難易度の依頼である。
「で、名乗りを上げたのが俺だ」
世界各所を冒険していたドルアーザさんは、更なる冒険を求めていた。
しかしドラゴンの依頼を見た直後に受注を決意したらしい。
名声や富が欲しかったのも事実ではあるが、一番の理由は素材である。
今までは魔物が強くて進めなかった場所も、強い武器があれば何とかなるかもしれない。
だからこそ、ドラゴンの素材はうってつけだった。
すぐに臨時パーティの募集を開始し、友人にも情報の収集や準備などで手伝ってもらう。
各地を冒険していたドルアーザさんにとって、使う道具や討伐の手順など、取れる選択肢は豊富にあったのだ。
それらを毎日のように検討しつつ、少しでも成功率の高そうな作戦へと昇華していく。
しかしながら集まったパーティ人数は少なかった。
全員が腕利きであったけども、やはりドラゴン討伐ともなれば参加者は少ない。
だから作戦は多少のリスクを考慮した上での短期決戦が採用された。
そして、ドラゴンの居場所を突き止めた友人の知らせを受けて、討伐が始まる。
「また飛んで逃げられると厄介だからな。まずは機動力を削いだ」
ドラゴンは感覚が鋭く、寝ていても近付けば気付かれてしまう。
一撃では討伐できないと心得た上での戦いであった。
「まずは翼の片方を斬り飛ばした。魔法でだがな」
「おお!!」
仲間が殺傷力の高い風系統の魔法……特大のゲイルリッパーで斬り落としたそうだ。
ドラゴンが警戒する中で注意を逸らし、隙を見て叩き込んだ一撃である。
「で、次は逆鱗を叩いた」
「っえ!?」
逆鱗!? なんでそんな事したんだよ!!
「ルイスの言いたい事は分かるが、それも作戦の内だったんだ」
「でもさあ! そんなんしたら暴れまわるだろ?」
「そうだ、魔法も使わなくなるほどに怒り狂う」
「……それって」
もしかして魔法を使えなくさせるために?
そんな疑問が顔に出ていたのか、ドルアーザさんは頷いた。
……たしかに、ドラゴンに対して警戒すべき点は山ほどある。
一薙ぎで岩をも削り取る爪。
捕われる事は死を意味する牙と顎。
生半可な攻撃では傷一つ付かない強靭な鱗。
上空まで飛んで一方的な攻撃を可能にする翼。
冗談にもならない熱量で全てを焼き滅ぼそうとするブレス。
本気で振るわれれば視認すら出来ないほど速い鞭のような尻尾。
そして、悪夢のように強力な魔法。
どれか一つ取っても死に繋がるような脅威の塊がドラゴンなのだ。
特に気をつけないといけないのは魔法であり、極級まで行使する例もある。
そんな規模の魔法を行使されれば、いくら大軍で攻めたとしても……いや、大軍だからこそ被害も大きくなる。
少人数だったとしても極級の魔法は基本的に広範囲だ。
全滅は免れないだろう。
だからこそ油断しているうちに逃げられないよう翼を壊し、魔法を使えないように怒り狂わせる。
冷静でない状態では強力な魔法の構築が不可能と判断しての作戦だった。
そこからは、常に死が寄り添う戦いの始まりである。
残念な事に犠牲者は出た。
尻尾の一撃で吹き飛ばされた冒険者仲間は、無残にも臓器が幾つも破裂した。
爪に切り裂かれた冒険者仲間は、紙でも裂くかのような最期を迎えた。
それでも防ぎ、凌ぎ、時には攻め……機が訪れる。
「やっと狙っていた動作に入ったんだ」
「何の?」
「……ブレスだ」
人など一瞬で焼き尽くしてしまうほどの熱量を持つブレス。
それを吐き出そうとした瞬間、隠れていた仲間が維持待機させていた魔法を行使した。
光系統の中級攻撃魔法、アレスタリングである。
対ドラゴン用として渾身の魔力を込めて行使された光輪は、今まさにブレスを吐き出そうとしたドラゴンの口を閉ざす。
そして、灼熱のブレスがドラゴンの口内を蹂躙した。
しかも口内に留まらず、喉を逆流して臓器を焼く。
「おおぉ!!」
「けっこうエグい光景だったぜ」
火を吐き出すのだから、ドラゴンは自身を焼かない手段を持つ。
不燃性の体液を炎の経路に分泌して防ぐのだ。
しかし、それでも限度はある。
逆流してしまえば熱を防げない器官にまで炎が及び、焼かれてしまう。
自らのブレスで重傷を負ったドラゴンは、せめて最期に一矢報いようとしたのだろうか。
死を悟って冷静さを取り戻したドラゴンは魔法の構築を始めた。
肌で感じられる程に莫大な魔力が渦巻く中で、しかし構築の完成を待つわけが無い。
ボロボロで、魔法構築のみに集中していたドラゴンは、冒険者仲間の補助により空高くから降下してくるドルアーザさんに気付かなかった。
そして、渾身の一撃がドラゴンの頭蓋を貫通する。
「や、やったか……?」
「その言い回しは不吉だが、まあ……やったな」
「おおおおおぉぉぉ!!!」
すっげえ! 最期は剣でトドメかよ!!
「興奮してんな」
「いやだってさ!! やっぱ実体験の話だと迫力が違うし!」
そりゃまあ犠牲者が出たから、当事者としては手放しで喜べないかもしれない。
けれども少人数でドラゴンを討伐するってのは極めて難しいんだ。興奮もするだろう。
「まあ、俺も倒した時は大声で吼えたけどな」
「やっぱそうだよな!」
いやあ、ラグにも聞かせてやりたいぜ!
なんて事を考えながら、俺達は馬車に揺られていたのだった。
・・
・・・
「ここで一旦停止します」
「んあ?」
御者が馬車を止め、ウトウトしていた俺は地面へと降り立った。
あれから1日が経過し、順調に移動を続けていた俺達だったが、
通過するはずだった森の中で馬車が止まったのである。
馬車から降りてみると、かなり広く切り開かれているようだった。
「この森は魔物を狩りつくしているので危険はありません」
先生の言葉で警戒していた生徒たちも緊張を解く。
で、辺りを見回すと馬車の数が多い。
「ここで皆さんには馬車を乗り換えていただきます」
「「「「「へ?」」」」」
なんで?
だが、それを聞くことも出来ずに生徒達は馬車を乗り換える事になった。
少し小さくなったが数は揃えられているようだ。
「なんでだと思う?」
「さあ……」
ラグに聞いても分からないようだ。そりゃそうか。
「君達も早く乗り換えなさい」
「はーい」
急かされてしまい、首を傾げながらも馬車を乗り換える。
ラグ達とは違う馬車になってしまったが、まあ仕方ないだろう。
けど、さっきまで乗っていた馬車に忘れ物したのを思い出した。
演習前日にクリストフ先輩から貰った方位磁石である。
こんな短期間で失くしたら顔向けできないな。
そう思い慌てて忘れ物を取りに行き、さっきの馬車を見つける。
すぐに乗り込んで探すと……あった。
「良かった……」
そう安堵した瞬間、なんと馬車が動き出す。
「あれ? えぇ~……」
俺しか乗っていない馬車だけど、さすがに御者は居る。
すぐに止めてもらおうかとも思ったが、車窓から見えたのはドルアーザさんが乗っているはずの冒険者用馬車だ。
向かう場所は同じか……ならば無理に止めて怒られる必要も無いかな。
それに……まだ眠い。
まあ、なんとでもなるだろ。
そうやって眠気を優先した俺は、寝てしまったのだった。
次回・・・悪夢




