2_24_都歩き 宴
皆様こんばんは。
今回は少し短めです。
やっと都歩きが終了ですね。
「じゃあな」
「……準備を怠るな」
「へーへー」
エグラフに付いていって魔具屋に来たはいいものの、選んだり調整したりで時間がかかった。
その上、色々と話し込んだもんだから、すっかり夜になっちまったな。
ギリクが少し心配だが、まあラグ達と遊んでるだろ。
そう考え、エグラフと別れて寮に戻ろうとした時だ。
後ろから気配を感じ、少しだけ前へ移動する。
「捕まえ……あれっ!?」
どうやら車椅子を狙ったようだが、甘いな。
そんなんで俺を捕まえられると思うなよ。
ってか誰だ。
最近よく聞く声だと思い振り返る。
「……何してんだ?」
「あ、いや別に」
ルイスだった。
たしか……おっ。
咄嗟に頭を下げると、頭上を誰かが通り過ぎる。
まあ考えなくても正体は分かるがな。
二人で行動してただろうしよ。
「ハイクも何してんだ」
「手ごわいね」
わざわざ魔法で飛んでくるとはな。
おおかた浮かして機動力を削ぐつもりなんだろうが、風を切る音が漏れてるから丸分かりだ。
「いやさ、車椅子なら勝てるかな、って思ったんで」
「何の勝負だ、よっ」
「うおっ」
死角に回り込んでいたラグを察知して、急旋回しつつ距離を取る。
悔しそうな顔を装ってるが、視線が少し泳いだな。
……上か。
「!」
「そりゃソマリもいるわな」
上を向くと、目が合って急停止したソマリがいた。
囲むような配置にしてるが、ちと緩い。
「お前ら観光してたんじゃねえのか?」
「もうすぐ帰るとこなんで、一緒に行きましょうよ」
「俺が押していくんで」
「……断る」
なんか嫌な予感がする。
一緒に帰るつもりなら闇討ちみたいな真似しないだろ。
「おやおや、この人数相手に逃げられるとでも?」
「なに小悪党みたいな言い回ししてんだ」
ったく、今日は一人にしてほしいんだ。
すぐにでも逃げたいが、なんか引っかかる。
……そうか。
魔具屋を出た直後だったのが不自然だ。
偶然見かけたにしても、いきなり襲い掛かるとは思えねえ。
てことはだ……元から襲うつもりで、俺が魔具屋に居るのを知っていたと仮定出来る。
だが、何のために?
そもそも俺の居場所を知る人物は限られている。
エグラフは俺と一緒に居たし、そうなると親父か、おっちゃん達だな。
どっちにしろ警備隊の仕業って事だ。
あのクソ親父め、また捕まえる気か。
「……気付かれたかも」
「そうなん?」
「いやいや、ケートス先輩だぜ?」
「ですね。気付くはずがありません」
相変わらず失礼な奴らだな。
だが、相手する気は無い。
「今日は放っといてくれねえか?」
「そうしたいんすけど、困ってんすよ」
「あ?」
「親父さんがクリストフ先輩を連れてっちゃってさあ」
……何してんだクソ親父。
「いやさ、ケートス先輩が親父さん放置したから荒れちゃって」
「偶然に会ったクリストフ先輩が相談に乗ったんです」
「そしたらヤケ酒に付き合わされる羽目になったらしくて」
「二人っきりの休日を邪魔されたタチアナ先輩が泣きました」
はぁ……
「クソ親父は何処に居る?」
「こっちです」
会長に迷惑かけやがって。
一発殴ってやる。
・・
・・・
クソ親父がいる居酒屋に到着し、出会い頭の一発をぶち込むつもりで踏み込む。
だが、目の前には思いがけない光景が広がっていた。
「…………どうぞ」
「すまねえな、っとと」
「焼けました、どうぞ」
「お、美味そうだな!」
「はいっ、あーん……」
「ッカカカ! 嬢ちゃんが食わせてくれんのか?」
会長がクソ親父の隣に座ってんのは、まだいい。
そう聞いて駆けつけたんだからな。
だが、クソ親父がタチアナに酌されて、リンに肉を焼いてもらい、マリに口へ運んでもらっているのは予想出来なかった。
ギリクまでもが親父の世話を焼いてる。
俺は夢を見てんのか?
「ケートス、遅かったじゃないか」
「会長……」
「ケートス殿っ! どうぞこちらへ!」
会長とギリクが気付き、手招きしてくる。
言葉が出てこず、招かれるままにクソ親父の隣へ。
「あぁ?これはこれは、バカ息子じゃねえか」
「おい親父、説明しろ」
「なにがだ?」
「あ、お酒空だね! 次は何飲む?」
「おお、んじゃ強めのやつを」
「親父!!」
飲んでる場合か!
なんで全員揃ってんだよ!
「なんだよ楽しく飲んでんのに」
「いいから説明しろ! どういう事だ! 何があってこうなった!」
「僕から説明しますよ」
ルイス達も居酒屋に入ってきて、テーブルを囲むように腰を下ろす。
「まずはですね、さっきの話は嘘です」
「はあ!?」
ソマリが語る内容によると……俺が詰所を出た後、タチアナとはぐれた会長が合流場所にしていた詰所へ来た。
そこで親父と出会い、タチアナを待つ間に色々と話し相手になったらしい。
しばらくしてタチアナと、一緒に来たマリとリンも親父の話を聞き、そこでマリが余計な事を思いついたそうだ。
「酷い! 余計な事じゃないもん!」
「まあまあ」
思いついたのはマリが獲得したディナー券を、俺と親父に提供するって内容だった。
そのために俺を捕まえる役目をルイス達にでも頼もうとしたが、親父が断った。
「高級料理なんてガラじゃねえからな」
そういうわけでマリのお節介は頓挫した。
だが、心遣いに感銘を受けた親父は全員を居酒屋へ誘ったそうだ。
だから当初は会長、タチアナ、マリ、リン、親父の5人。
そこに俺を迎えに来たギリクを巻き込んで6人。
居酒屋が開くまでは各々で過ごして、夜に詰所で集合となった。
ギリクは親父と話したかったらしく、警備の仕事に付き添っていたらしい。
ルイス達が参加したのは集合時間ギリギリでマリと遭遇したからだ。
俺の親父と聞いて、そして皆が集まると聞いて参加を即決。
けれど親父とは昼前に一度会ってたらしく、互いに驚いたらしい。
つまり俺を除く都歩きメンバー全員が集合したってわけだ。
そうなると仲間外れは寂しかろうという話になり、親父との件はアレだが、ともあれ連れてこようと意見が一致した。
「……という顛末です」
「魔具屋に居なかったらどうしようかと思ったぜ」
「運が良かったよね」
……何て言ったらいいんだか。
「ケートス、余計な事をしたかもしれないが、これが私達の総意だ」
「会長……」
「ここまでされて逃げんのかぁ?」
「うるせえ! 親父は黙ってろ!」
くそっ、なんか自分が小さく思えてきた。
「とりあえず乾杯しようぜ!」
「ルイス、空気読め」
「ッカカカ! いや、それでいい。まずは乾杯だな」
俺が何も言えない間に、それぞれが飲物を用意する。
ちゃっかり俺の分まで。
そして皆が俺を見てくる。
「……なんだよ」
「そりゃあ音頭は先輩が取んなきゃダメっすよ」
「皆を待たせた分は仕事してください」
「後輩の方がしっかりしてんじゃねえか」
「ぐっ……」
あ~……もう何でもいい!
ウダウダ考えるのは俺らしくねえ!
「っらあ! 音頭させてもらうぜ!!」
「「「うえ~い」」」
……俺に残された唯一の家族だ。それだけ分かってりゃいい。
「クソ親父にっ!!」
「「「「「「乾杯っ!」」」」」」
・・
・・・
「おいっ! それ俺が焼いた肉!!」
「早い者勝ちです」
「お兄様……どうぞ」
「ああ、ありがとう。いやはや、久しぶりに飲んだよ」
「おっ、いいね。いける口か」
「あ! 俺も飲みたい!」
「らめよルイふ! おしゃけは16……あれぇ? ……38?」
「お前が飲んでんじゃねえか! 誰だマリに酒飲ませた奴は!!」
なんとも騒がしいな。
だが無性に気分が軽くなる気がする。
「おう、バカ息子」
「ん?」
呼ばれて親父を見ると、酒瓶を俺に差し出していた。
「酌でもしろってか?」
「んなわけねえだろ。男に酌されても不味いだけだろが」
「じゃあ何だよ」
「飲め、ほら」
「俺はまだ15だ」
この国じゃ飲めるのは16からだっつの。
まあ今年で16だから、もう少しだ。
ってか親父に酌されても不味いだけじゃねえか。
「んだよ細かい野郎だな」
「……悪かったな」
「あ? なら飲めよ」
「そっちじゃねえ!」
俺が謝りたかったのは……
「……やめとけって。そういう場じゃねえだろ」
「あ?」
「楽しむ場なんだよ、今は」
「……」
見渡せば……真剣に肉を焼いているラグや、淡々と食ってるソマリが見える。
ソマリが容赦なく肉を奪ってんな。
すぐ側には酔っ払ったマリに絡まれたルイスと、慌てて介抱しようとするリンが居る。
ってか誰だ、マリに飲ませたのは。
あんな酔うなんて1杯どころじゃねえぞ。
会長は少し饒舌になりながらギリクと話し込んでいるし、ハイクはタチアナに何やら吹き込んでいる。
……タチアナは仮面してたら食えんだろ。
だが素顔は見せたくないだろうしな。
この騒がしい場に留まってるだけでも快挙か。
「生徒会に入ったと知った時は驚いたが、良い面子じゃねえか」
「まあな」
「可愛い子いるしよ」
「そんな目で見てんのかよ、変態親父が」
「お前の代弁してんだろ。俺は年上が好きだ」
「知らねえよ!!」
「あ~グラスが空だぁ! どうぞ~!」
「おう、あんがとよ」
たまにマリが割り込んでくるのを親父は楽しんでいるようだ。
まさか親父が飲ませたんじゃねえだろうな。
「マリちゃんが飲んだのは酔っ払えるジュースだ。酒精は入ってねえ」
……そうか。ならいい。
「先輩っ! 助けて!」
ルイスはよくなさそうだがな。
かといってマリを止められる気がしない。
「まあ、頑張れ」
「人でなしっ!! 親父さん! ヘルプ!」
「ほら、これ飲め」
おい、何を飲ませた。
「酔っ払い相手には酔っ払いだろ?」
やりやがったな。
「マリちゃんと同じジュースだって」
「そういう問題じゃねえ」
「おぉ? なんか目が回る……」
「あ~! ルイふがおしゃけ飲んだぁ!」
「マい! 俺の名前はすイスだ!」
酔うの早いな。
まあ放っておこう。
・・
・・・
それからは互いに他の誰かと話し込んだり、飲み食いしたりだった。
ルイスとマリは、あっという間に酔いが醒めて、何事も無かったかのように食ってたな。
あのジュースは酔いが早い分、醒めるのも早いらしい。
そんな騒がしい宴も3時間ほどが経過し、そろそろお開きとなる。
「……」
「ん?」
伝票を見た親父が硬直する。
覗き込んでみると、居酒屋とは思えない金額だった。
「隊員より食うなんて驚いたぜ」
「……払えるか?」
「当たり前だ。警備隊長なめんなよ」
「「「「「ご馳走様です!!」」」」」
「おう、今度は隊員も呼んで大宴会しような」
「よっしゃ!」
「親父さん太っ腹!」
全員が外に出て解散する。
と言っても親父以外は同じ方向だ。
「ちょっと先に行っててくれ」
「は~い」
マリに言伝して、親父の背を追う。
「親父」
「……お? どうした?」
俺から言うのは気に入らないが、親父は勇気を出した。
だから俺も応えてやらないとな。
「親父が帰ってくる頃には俺も飲める」
「そうか……お前だけだと味気ねえな」
「こっちのセリフだ!」
「なら仲間も連れて来いよ?」
「……おう」
「あと、無茶しすぎるな」
「親父には言われたくねえ」
「怪我人にも言われたくねえよ」
「……へっ……そりゃそうだ」
最後に親父と握手を交わす。
抱擁まではしないし、そんなガラじゃない。
「じゃあな、愛しのバカ息子よ」
背を向けて歩き出した親父の背中を目に焼き付ける。
あれだけ期待させれば、何としてでも生きて帰ってくるだろうと信じながら。
「じゃあな、クソ親父」
それだけ呟いて、俺は寮へと戻った。
次回・・・明暗は等しからず




