2_23_都歩き 後輩編
やっと週末ですね。
インフルと祝日を利用したので、もう2話ほどを来週明けまでに投稿出来そうです。
そして今回は約2倍ほどの文字数となっています。休み万歳!
「ドルアーザの知り合いじゃったのか」
「都へ来る途中にな」
冒険者ギルドを観光するはずが、気付けばギルドマスターの部屋で茶を飲んでいる。
そんな突拍子もない状況に陥っていた俺とハイクだったが、ドルアーザさんとの再会を果たした今となっては取るに足らない事だ。
冒険者といえば、って聞かれたら思いつくのは昔俺を助けてくれた冒険者と、ドルアーザさんだからな。
それくらい”色々と話を聞きたい人ランキング”の頂点に君臨する人なのだ。
「なあなあ! ドルアーザさん!」
「ん? どうした?」
「ドラゴン討伐の話を聞かせてくれよ!」
「後でな」
「なんで!?」
折角会えたってのに、またお預けかよ!
「そう急くな。まだ自己紹介も済んでねえだろ」
「近頃の小僧は挨拶も知らんのかい」
そういえばそうだな。
落ち着く為に茶を啜りつつ、前のめりになっていた体を戻す。
「そっちの兄ちゃんは初めましてだな。俺はドルアーザ、冒険者だ」
「ども、ハイクです。なんちゃって貴族やってます」
「おい」
それは気分的なものであって、実質貴族だろ。
「よく分からんが、ルイスの友達かなんかだろ?」
「親友だぜ!」
「そうか、まあ大事にしろよルイス」
「おう!」
「さて、お前らの正面に座ってるジジイが、ギルドマスターやってるゲンコッツだ」
「ふん、周りからはゲン爺と呼ばれておる」
頑固そうな爺さんだけど、グランバス支部のギルドマスターなんだよな。
それくらい凄い人物だって事か。
「で、お前らに茶を出したのはコルネ。ここの職員だ」
「よろしくね」
壁に背中を預けて腕を組んでいるコルネさんが微笑みかけてくる。
それにしても腕を組むと更に強調されてしまうな、アレが。
「ゲン爺、このルイスは俺が先日に話した冒険者だ」
「この小僧が? 見たところバカ丸出しじゃがな」
「バカなのは自覚してるよ爺さん」
「……真性のバカじゃな」
「っはは、仲良くなれそうじゃねえか」
さて、自己紹介も終わったな。
早速ドラゴン討伐の話を聞かせてもらおうか。
「ドルアーザさん! ドラゴ」
「お前な、焦り過ぎだ」
「だってさあ、貴重な休みなんだぜ?」
「んなもん次があるだろ」
「今は忙しいからさ、休みは目一杯楽しみたいんだよ」
「へえ、学生も大変だな」
「そう! それ! 聞いてくれよ」
俺は入学してから今までの事を短めに語ると、ドルアーザさんが呆れたような表情をした。
「こりゃまた面倒な事に首を突っ込んだな」
「ん~……退屈しないから何も無いよりはマシだけどさ」
「そうか。まあ友達も出来て良かったじゃねえか」
「ねえ、ゲン爺さん」
今までずっと黙っていたハイクが突然口を開く。
てっきり寝てるかと思ってた。
「なんじゃ?」
「臨時会員は見つかった?」
臨時会員? なんで今その話?
「……何を言っておるのか」
「ルイスの話を聞いてて目配せしたでしょ?コルネさんに」
「ふふ……」
コルネさんが笑い声を零す。
「駄目よギルドマスター。子どもだからって油断しちゃ」
「何の事じゃ」
「とぼけても無駄よ。ハイク君はとっくに気付いてるから」
コルネさんがギルドマスターの隣に腰を下ろす。
あの……何この雰囲気?
「今日この部屋に招いたのはね、あなた達を知る為なのよ」
「どゆこと?」
よく分からずに聞き返すと、ドルアーザさんまでもがソファに座って煙草を取り出す。
「ハイク、っていったか。ルイスに聞かせてもいいのか?」
「勿論。むしろ蚊帳の外だと暴走するよ」
俺ってそんな評価だったん!?
「そうか。どこから話したもんかね……」
それからポツポツと聞かされたのは、あの交渉試合の話だ。
臨時会員が裏切って都から逃げた日から、職員は冒険者ギルドにも捜索依頼を出していた。
なにせ有名な魔法学校から失踪した生徒がいたんだから、どんな結果となるにしても探さなければ終わらない。
都の内外で捜索の手を広げつつ2日が経過した頃、ある街で手がかりを発見したのだ。
「行方不明だった臨時会員の住所を探ってみると、一件だけ家が見付からなかった」
「一件だけ?」
「ああ。それで早速調査してみた」
すると、ずっと前から何も無い場所だったそうだ。
「嘘ではない。街の住人に聞いても裏付けが取れた」
「どういう事?」
「つまりな、化けてたんだ。本来は存在しない一般人によ」
「そんな事できんの?」
「実際してるからな」
そして今度は魔法学校の記録を調査してみると、試験や面接、そして入学の記録までもが残っている。
しかしそれに関わった職員に事情聴取してみても記憶に無かった。
「つまり記録まで改竄されてたって事だ」
そこまで出来るのは内部による犯行の可能性が高い。
まだ犯人は特定出来ていないが調査は継続されている。
「……それで、他の5人は?」
「そっちは存在している一般人達だ。だが見つかっていない」
ドルアーザさんが煙草の火を消す。
「なぜルイス達に話したかっていうとだな、学校長から頼まれてたんだ」
「は?」
学校長が?
「ルイスが話した内容も、事前に学校長から聞いていた」
「じゃあ俺って無駄に話しただけ?」
「いや、生徒の視点でも話を聞きたかった。まあ、特にズレもなかったな」
そっか。
「でだ、魔法学校の状況は安定していない。一般人が生徒会長なんて初めてだからな」
「今まさに頑張って何とかしようと」
「それに加えて行方不明になった生徒が6人、内の1人は存在しない」
「……」
しかも魔法学校の記録まで改竄されているとなれば、状況としては不安定なんてもんじゃなく大問題ぐらいだ。
「まずは行方不明になった生徒達を探さなきゃならん」
「あとは情報操作だね」
ハイクの言葉にドルアーザさんが頷く。
「そうだ。別に今回の件を闇に葬るつもりじゃない」
けれど今すぐに開示して良い情報でもない。
混乱を招くだけで、下手すると学校の封鎖に繋がるらしい。
もし事情を知らない学校の生徒達が何か聞いてきても、臨時会員達は訳あって帰省していると伝える方針だってさ。
「どう見ても生徒の手には余る。だが無関係でもないから最低限は教えた」
「「……」」
「だから頼む。ルイス達も今回の件を広げないでほしい」
「……分かった」
詳しく理解したわけじゃないけど、大人の事情に逆らうほど俺が何か出来るわけでもないからな。
「でもさ、それなら学校長が俺達に頼めば早くね?」
「言ったろ。内部の犯行かもしれないってよ」
「慎重に動いてるんだね。他の生徒会メンバーには?」
「お前達から伝えておいてくれ。出来れば学校内じゃなくて外でだな」
「了解」
にしても厄介な話になったもんだな。
区切りがついたところで残りのお茶を喉に流し込む。
「それじゃ色々と巻き込まれたルイス達に朗報だ」
「へ?」
「ギルドの依頼を受けてみないか?」
おぉ!?
「いいの!?」
「ドルアーザ! 何をほざいておるんじゃ!」
「ゲン爺、今は捜索に駆り出されて冒険者が少ないんだぜ?」
「だからといって小僧どもに依頼など任せられんわい!!」
「んじゃテストしてから判断すればいい」
ゲン爺とドルアーザさんが言い合っている間、俺とハイクはコルネさんに説明を受ける。
「幾つか依頼が余ってるのよ」
「都の外に行くやつとかある?」
「それはダメね。今は引率出来ないから」
「そか」
てことは都の中で済ませられる依頼か。
なんだろな? 探し物とか?
「3件あるわね。どれも警備隊からの救援依頼よ」
「どんなの?」
「違法魔具の取り締まりと、家出少女の捜索と、飼い犬の捜索ね」
実際に依頼書を見せてもらう。
【違法魔具の取り締まり:救援依頼】
使用許可申請を通過していない魔具の製作場所、
および取引場所の取り締まりを目的として警備隊が出動予定。
その際、予想される逃走経路へ配置する人員増強のために救援を要請。
冒険者には比較的可能性の低い経路を担当していただく。
写身は用意出来ていないため現行犯のみ確保となるが、
入手した情報によると当日の確保対象は10人前後となる模様。
残党および関係者一掃を目標とする為、
尋問を目的として生存した状態での確保を優先とする。
現場での判断は同行する警備員に従うものとし、
緊急時は安全を第一として行動。
詳細な作戦内容については依頼の受注後に作戦本部にて。
なお違法魔具の性能は非殺傷であるが、確保対象が使用した場合に
暴走および反動の可能性があるため危険度は高いと認識してほしい。
報酬;1人あたり金貨2枚(最大8人)
難度:レートC(違法魔具が使用される可能性、生存確保を優先とする為)
【家出少女の捜索:救援依頼】
二週間ほど前から家族との関係悪化を原因として
自宅へ戻っていない少女の捜索に関し、
目撃情報により南区から東区にかけての範囲と断定。
しかし警備員への警戒が強く、二度の発見に成功するも逃亡されている。
以降から発見出来ておらず、聞き込みでの調査を強化。
その際入手した情報によると、若い男性数名と行動していると判明。
本件は第三者によって捜索対象が匿われている可能性が高く、
潜伏箇所が複数存在するものと想定。
現在の状況としては捜索対象が西区もしくは北区へ
移動している可能性を考慮し、捜索範囲を広げるよう検討。
そのため捜索人員の増大を目的として冒険者の救援を要請。
詳細な経過情報と作戦内容は依頼の受注後に南区詰所で伝達。
報酬:1人あたり1日銀貨8枚(最大5人)
難度:レートE(危険度は低いため)
【飼い犬の捜索:救援依頼】
3日前から行方が分からない飼い犬の捜索。
オス、体毛は白、赤い首輪、尻尾に赤のリボン。
大きさは全長70cmほど。
人に臆する性格のため、潜んで過ごしている可能性が高い。
飼い主の自宅は北区にあるため、周囲の捜索を優先。
警備隊では他の案件より優先しての捜索が難しいため
依頼として冒険者の手を借りたい。
必ず無傷で確保する事。反撃された場合は殺傷せず無力化するように。
発見時に怪我をしている場合は可能であれば治療を希望する。
報酬:1人あたり銀貨2枚(2人まで)
難度:レートD(危険度は低いが、受注条件によりレート引き上げ)
条件:都の地理に詳しく、動物好きであり、治療の心得を持つ者
「地元の依頼書より詳しく書かれてるな」
「だね。まあ警備隊からの依頼書だし」
「てかさ、取り締まりって俺達には無理じゃね?」
「レートも高いよね。受けられないんじゃない?」
「そうね。私も受注するから大丈夫と思ったけど、ちょっと危険だから止めときましょうか」
コルネさんが依頼書を一枚片付ける。
さすがに違法な魔具を取り締まるなんてのは難易度が高い。
コルネさんが受けるみたいだけど、冒険者じゃないのに構わないのだろうか?
ん~……まあ片付かない依頼は職員が担当するのかもな。
なんにせよ俺達には荷が重いと思う。
可能性の低い逃走経路を担当するってもさ、もし遭遇したら違法な魔具を使われるかもしれんし。
「残りは2枚ね。どうする?」
「ん~……飼い犬はなあ……」
「なんか地味だよね」
それな。
飼い主も困ってるんだろうから言いたくはないけどさ。
「かといって家出少女の捜索か」
「これなら向いてるかもね」
「そうか?」
「だって俺が失踪した時はよく探してたでしょ?」
「……たしかに」
捜索が得意、ってわけじゃないけどな。
一度もハイクを見付けられなかったし。
ただ、飼い犬の捜索を受けないなら
こっちしか残ってない。
「んじゃ、これにするか」
「家出少女の捜索ね」
受注する依頼が決まり、ドルアーザさんの方を見る。
すると言い合いは終わったようで、難しい顔をしたゲン爺を見るに、ドルアーザさんが押し切ったようだな。
「それじゃギルドカード作るか」
「おお!」
てことで早速ゲン爺の部屋から出てギルドのカウンターへ向かう。
そのままコルネさんがギルドカードを作ってくれた。
「はい、失くしちゃダメよ?」
「おう!」
やったぜ!
俺のギルドカード!
「色々と魔法で記録してるから意外と高性能なのよ?」
「へえー」
「特殊魔法だから真似出来ないしな」
「魔物だけが使うんじゃないんだ……」
「主に魔物が使う魔法を特殊魔法と呼ぶだけで、全部ではない」
本来の系統で分けられなかったものを、特殊魔法という系統で分類して扱うらしい。
ともあれ依頼書を窓口に持っていく。
コルネさんは違法魔具の取り締まりを受けるので隣の窓口へ。
「お願いします」
「おや、君達が依頼を受けるのかね?」
「まあね」
「ではギルドカードを」
言われたままにギルドカードを渡す。
すると何か魔具のような箱に差し込んだ。
「登録したのは今日かね」
「はい」
「初の依頼がEとはね。Fじゃなくてもいいのかね?」
「まだ下があったのか……」
「Fならゴブリンでも出来る依頼だからね」
チャールスでも出来る依頼なら間違いなく俺達も出来るだろうな。
と、冗談はさておきコルネさんの紹介ならEでも問題ないだろう。
「大丈夫です」
「では受注処理をしておこう。えぇっと……まずは詰所に向かってくれるかね」
あ、なんか詳細な情報を聞くんだっけ?
じゃあまずは詰所に行くか。
「じゃあなドルアーザさん!」
「おう、油断するなよ」
「分かってるって!」
その返事が余計心配になる、って返されながら俺達は冒険者ギルドを出た。
「……あれ? ハイクは?」
さっきまで隣を歩いてたのにな。
ん~……ギルドの中か?
頭を捻っているとギルドからハイクが出てきた。
変に動き回らなくて良かった……
「どしたん?」
「地図を貰ってきたんだよ」
「あ、そか」
詰所の場所とか知らねえもんな。
てことで地図を確認しながら詰所へ移動する。
・・
・・・
「これどうしたらいいんだ?」
「さあ?」
詰所に誰もいなかった。
声出して呼んでみっか。
「すんませーーーん!」
…………返事無し。
「じゃあもう先に探し始めるか?」
「そうしようか」
ハイクと相談して詰所を出ようとすると、後ろから声が聞こえた。
「あ~おい待て待て」
「お?」
振り返ると、なんか少し頼りなさそうな警備員がいた。
無精髭とか気崩した服装とかさ……
それなりに似合ってるような気はするけど、そうじゃないだろ警備員。
「何か用か?」
「用ってか依頼で来たんだけど」
「依頼? お前らが?」
ギルドカードを見せると、顎を撫でながら感心された。
「ほお~ガキなのに冒険者とはな」
別にギルドカードがあるからって冒険者とは……まあいいか。
そらへん詳しく知ってる人の方が少ないだろうし。
「家出少女の捜索を救援しにきました」
「……アレか。ちょっと待ってな」
詰所の奥に引っ込んでしまった。
さっきも奥に居たのかな?
「おう、この資料だ。読んだら返してくれ」
手渡された資料には、依頼として成り立つ前から現在までの情報が記載されていた。
【経過情報】
家出してから三日経過して、家族が心配した。
少女と仲の良い友人達に連絡してみたが、誰も会っていない。
そのため警備隊へ行方不明として捜索依頼。
家族も少女の向かいそうな場所を探すも手がかり無し。
警備隊は聞き込みをしつつ、少女の住所である南区と、
よく出向いていた東区の範囲に絞って捜索を開始。
捜索開始から二日目に少女を南区で発見。
しかし遠くからの発見にも関わらず気付かれてしまい逃亡。
追跡したものの、痕跡が途絶えて断念。
警備隊の知らない移動経路を用いた可能性あり。
更に三日後、東区で少女を再発見。
しかし近付いた際に近くでスリの犯行現場に遭遇したため
注意を引かれてしまう。
騒ぎに気付いて少女には逃亡されてしまった。
以降は警戒されているのか発見出来ず、聞き込みの調査を強化。
その際に若い男性数人と行動していると情報を得た。
時系列では家出から4日目とのことで、
その頃から第三者によって匿われていた可能性もあり。
現在では聞き込みを強化しつつ、全区へ捜索範囲を拡大。
少女と一緒に行動していたと思われる男性達は、
新たに得た目撃情報を総合すると
全て同年代だが素行不良であると判明している。
「……ハイクも読んだ?」
「うん。ギルドで見たのと変わらない情報だったね」
「一緒に居たのがチンピラって事は分かったじゃん」
火遊びしてるってやつかな? よく分からんけども。
「あとは資料に書いてないが、チンピラは東区と南区で違うグループだ」
「ん?」
「時系列では東区が先、後に南区のチンピラグループと一緒に居たらしい」
「そっか」
「最新の情報は?」
「それが最新だ。つっても最後の目撃情報は3日前だがな」
「南区のチンピラと行動し始めたのは?」
「うろ覚えだが、家出から一週間ぐらいだな」
なるほど。
つまり、家出から一週間は東区で過ごしつつ途中からチンピラと合流。
次に南区のチンピラと合流して、そんで4日経った頃から外で見なくなったと。
「把握したか?」
「「う~い」」
「軽いな。まあ、いいか」
次に作戦を伝えられた。
「捜索対象の名前はエミリ、16歳だ。家具店の長女だが、店の手伝いをよくサボるらしい」
「……」
「髪の色は茶色で、瞳も茶色だ。身長はお前らより少し低い程度」
「了解」
「作戦は聞き込みを主とした、移動範囲および潜伏範囲の特定だ」
「もし見付けたら?」
「場所を記録して報告だ」
「捕まえなくていいの?」
「捕まえてもいいが、可能なら潜伏してる場所が知りたい。チンピラと遊んでた程度ならまだしも、別なら事件になる」
何処で過ごしてて、誰と関わってるかが知りたいんだな。
「じゃあ、行ってもいい?」
「おう、怪我すんなよ」
まだ子ども扱いしてやがんな。
別にいいけどさ。
・・
・・・
詰所を出て大通りへと出る。
さって、探すとなればチンピラが手がかりだろう。
最後にエミリが目撃された南区から始めようと思う。
……が、一人目のチンピラに接触した後、俺達は現実を知った。
いきなり年下から話しかけられ、家出少女について質問される。
そんなのチンピラにとっては意味が分からないだろう。
とりあえず威嚇され、それでも何とか話をしようとしたが、まるで言語が違うかのように話が進まない。
結局は苛立ったチンピラが殴り掛かってきたので倒した。
「どうしたもんか……」
「あんまし生徒会の印象とか落としたくないよね」
「ん?」
「チンピラ相手だと手荒くなりそうだしさ」
「あ~……暴力沙汰は避けたいってやつか」
クリストフ先輩に迷惑かけたくないよな。
「まあ、正体が分からなければ大丈夫かな」
「つってもな……どうすんの?」
「覆面とかしとけば良いと思う」
「怪しすぎんだろ!」
どうせ喧嘩になるならば、正体を隠すのは案として悪くない。
けど、覆面はダメだろ。俺らが捕まるわ。
……ん?
「あれってさ、仮面か?」
「みたいだね。これにする?」
「覆面よりはマシ、か……?」
てことで近くにあった店で扱っていた仮面を購入する。
後になって考えてみると、仮面も余裕でアウトだと思う。
けれどタチアナ先輩で慣れていたというか、覆面ほどは怪しくないと勘違いしてしまったのだ。
で、会計に持っていったら怪訝な顔をされた。
「お城に招待されているのですか?」
「は? 城?」
「……違うのか」
なんのことだよ。
城って賢魔城か?
「いやなに、お城のパーティー用じゃなければ問題ないんだ」
「仮面してパーティー?」
「そうさ、面白い趣向だろう?」
「分かんね」
パーティーなんて出た事無いしさ。
「もしパーティー用なら、昼以降にあの店が開くからね」
指で示された先を見ると、まだ開店していない店がある。
質の良い仮面とか売ってる店なんだろうか。
仮面に質とかがあるのか分からんけど。
「城とか関係ないけど仮面売ってくれよ」
「まいど、ありがとね」
てなわけで早速、仮面を装備する。
ハイクは元の顔を知っているために、なんだか様になっている気がするな。
「でもさ、この真っ昼間に仮面ってどうよ?」
タチアナ先輩じゃあるまいし。
「襲撃する時だけにしとこうか」
襲撃って言っちゃったよ。
だがまあ、たしかにそうか。
ほぼ間違いなく喧嘩に発展するとして、顔を見られないためには最初から仮面を装備する必要がある。
けど仮面なんてしてたら話どころじゃない。
ってことは、もう最初から襲って倒して吐かせる方針でいくか。
ひとまず仮面を外して荷物の中に放り込んでおく。
よっしゃ、チンピラ探そう!
・・
・・・
「南区は収穫無しか……」
「そんなもんだよ。簡単にいくなら依頼にならないから」
「それもそうか」
俺とハイクは南区のチンピラ達を襲撃しまくった。
ある時は路地裏に引きずり込み、ある時は交渉失敗の末に喧嘩し、ある時は絡まれた人の救出を兼ねて。
だけども全くと言っていいほど収穫が無かった。
見た事はあるけど顔も場所も覚えてない、って情報ぐらいだな。
そういうわけで今度は東区に来た。
けど、チンピラを探す前に腹ごしらえをしなければならない。
今日中に達成しときたかったから我慢してたけど、もう耐えられん。
「何食う?」
「何でもいいかな」
それが一番困るんだよな。
まあ、いいや。
視界に入った飲食店に入り、炒め物を注文する。
安い・そこそこ美味い・早い の三拍子だったから概ね満足だ。
料金を払ってすぐに店を出ようとすると、ハイクに袖を掴まれた。
「ん?」
「目だけ店の外に向けて」
言われた通りにすると、柄の悪そうな男とオッサンが2人で路地裏に歩いていくのが見えた。
「チンピラ発見じゃん」
ひとまず襲撃しようかと思ったが、ハイクに止められた。
まずは様子を見たいらしい。
そういうわけで建物の上に登って監視する。
するとチンピラが壁にオッサンを押し付けて恫喝しているようだ。
けど、俺でも分かる。オッサンが怖がっていない。
そして財布を出させ、中身を抜き取ってからチンピラは路地裏から出て行った。
オッサンは壁から離れると、何事も無かったかのようにチンピラとは別方向へ歩き出す。
「どうする?」
「追跡しよう」
・・
・・・
オッサンを追跡して職場らしき建物に入っていくのを確認。
ひとまず大通りへ戻ると、運の良い事に警備員を見つけた。
オッサンの容姿と場所を伝えて、ハイクが警備員に説明する。
「恫喝を装って情報を伝えてたと思う」
「何の情報だ?」
「それは分からないけど、財布からお金を抜き取る時にメモみたいな紙を入れるのが見えたよ」
「分かった。後は警備隊に任せてもらう。東区の詰所で待っていてくれ」
そう言って俺達は待機となった。
「……ラグ達は何してんだろな?」
「一回も会わなかったね。クリストフ先輩とは会ったけど」
「へ?」
「気付いてなかった? 南区でチンピラの相手をした時に居たよ」
気付かなかった。
仮面って視界が狭いんだよな。
ってか後で怒られるんじゃね?
・・
・・・
「捜索対象の少女が保護された」
「おお!」
3時間ほども待たされ、眠ってしまったハイク。
そして俺も暇を持て余して眠りそうになったタイミングで、警備員が戻って来た。
開口一番にエミリを確保したと伝えられ、俺の出した声でハイクも起きる。
「渡された紙は、ある場所を記したメモだった」
「何の場所?」
「女と酒を楽しむ場所だよ」
あまり聞かせたくはないが……と前置きされて説明された内容によると、エミリを匿っていたのはチンピラだが、違法な風俗店を経営している裏の人間に明け渡したそうだ。
元々チンピラは裏の人間と繋がりがあったらしく、小遣い稼ぎ程度の仕事をたまに貰っていた。
そしてエミリの捜索が本格化してきて焦ったチンピラが相談したところ、しばらく預かって隠してやると言われて、エミリを渡した。
そしたらエミリは違法な店で働かされ、ずっと外に出られなかったらしい。
チンピラが事態に気付いて抗議しようとしたが、所詮はチンピラだ。
もう既に犯罪の片棒を担いでしまっている点を突かれ、脅され、客を案内する仕事を手伝う羽目になってしまった。
裏の人間は顔の割れている奴が一定数居る。
だからチンピラを使ってカツアゲを装い、前払いで料金を回収しながら、財布へ店の場所を記したメモを入れる。
もしその場で警備員に捕まっても、尋問されるのはチンピラだけだ。
傍目には”絡まれている被害者と、絡んでるチンピラ”なのだから。
身体検査をされそうになっても、飲み込むなりして処分するよう言い含められていたらしい。
しかも交渉とメモ受け渡しで二段階の手順だったため、受け渡しでしか持ち歩かないメモが発見される可能性は低い。
今回は路地裏に連れ込まれる際、動揺の少なかったオッサンにハイクが違和感を感じたのが解決に繋がった。
で、俺達が報告してから僅か3時間で解決出来た。
営業に向けた準備中で店内に人が少なく、制圧しやすかったからだ。
今は捕まえた裏の人間を中央区の詰所へ連行して尋問しているらしい。
「君達のおかげで解決出来た。礼を言う」
「やったなハイク!」
「報酬上乗せを求む」
「それは無理だ」
文句は言えなかった。
なぜならば、チンピラを倒し過ぎたからだ。
いくらなんでも暴れ過ぎだと注意され、手柄と相殺で見逃してくれたのだから否やは無かった。
「それと、依頼は無かった事とする」
「はあ!?」
ふざけんなよ! それは流石に受け入れん!!
こちとら体を張ってかけずり回ったのに!
「ルイス、落ち着いて」
「だってさあ!」
「俺達のためなんだよ」
「へ?」
苦い表情をした警備員の話では、裏の人間が関わっているとすれば報復活動を警戒しなければならない。
その対象は、今回の事件を暴いた俺とハイクだ。
だからギルドで俺達が依頼を受けた記録を抹消し、痕跡を消すらしい。
あとは警備員が全て解決し、依頼はキャンセルしたと処理する。
出来る限りの情報操作を行い、俺達を危険から遠ざけるためだと。
そうまで言われては頷くしかない。
さすがに裏社会から狙われるなんてのは勘弁だからな。
まあ一応、報酬の銀貨は支払われた。
上乗せは無かったけどな。
そういうわけで、ひとまずギルドに戻った。
・・
・・・
「よお、散々だったな」
「ほんとにな」
ギルドに入ると、既に知っているのかドルアーザさんが肩に手を置いてくる。
まだギルドに居るとは、暇なんだろうか。
「まあルイスには冒険ありきな依頼が向いてるって事だ」
「だったら都の外に行ける依頼を回してくれよ」
「今日は無理だ。引率者が出来ない、ってコルネにも断られただろ?」
「そうだけどさ……」
なんか不完全燃焼というか……
「まあ記録には残らないが大手柄だ。良かったじゃねえか」
「……相殺されたけどな」
「落ち込むなんざルイスらしくもねえ」
「次は都の外に行ける依頼だかんな!!」
「おう、約束だ」
拳を突き合わせて約束する。
さって、気分を切り替えて観光でもしようか。
ドルアーザさんを誘ってみたけど断られた。暇ではないらしい。
仕方ないので諦めてギルドから出る。
「おっ! ルイス!!」
「ラグ!? ソマリもどしたん?」
外に出るとラグとソマリが居た。
ギルドでも見に来たんだろうか。
「南区で仮面をかぶったチンピラキラーが現れたと噂になってましたので」
「ガキの2人組って聞いてよ。お前らが何かしたかも、って不安になったんだ」
それでギルドまで足を運んだらしい。
大正解なので何も言い返せない。
そんな俺の表情を見て把握したのか、溜息を吐きながらソマリが文句を言ってくる。
やれ生徒会のイメージが、やれ都歩きの目的が、って説教された。
今回ばかりはハイクも大人しく反省している。
悪ノリしたのは自覚していると供述したくらいだ。
ともあれギルドの前で話す内容じゃない。
ひとまず客の少ない軽食屋に入り、奥の席へ座った。
そしてドルアーザさんから聞かされた臨時会員の話と、少女捜索依頼についての顛末を説明する。
「……どうして1日で厄介な話ばかり引き込むんですか」
「知らねえよ!」
「まあいいじゃねえか。あとは普通に観光しようぜ」
聞けば、ラグとソマリは本屋と闘技場しか行ってないらしい。
特に予定も決めていないし、何より俺を放置するのは危ないから一緒に行動する事にしたようだ。
「さっきまでギッさんも一緒だったんだけどな」
「ケートス先輩が心配になって南区の詰所に行きました」
懐きすぎだろギッさん。
まあ無理に連れまわすのも悪いか。
ちなみに、ラグとソマリが気を利かせてチンピラキラーの噂をかき回してくれたそうだ。
噂をしてる人達に混ざって、ガキがチンピラに勝てるのは不自然だーとか、仮面じゃなくて”仮面みたいな顔”した奴って聞いたーとか、2人じゃなくて4人って聞いたーとか……
ある事ない事でっちあげて撹乱したそうだ。
ハイクも気がかりだったらしく、素直に礼を言っていた。
ともあれ、いつもの4人が揃ったからには思いっきり遊びまわろうと思う。
・・
・・・
「この剣かっけー!!」
「邪龍の爪が素材だってよ」
「在庫は展示品のみですか」
「まあ大量生産は無理だろうね」
古びた武具屋ですげえ禍々しい見た目の大剣が展示されてて、値段は恐ろしく高い。
展示用のガラスへ張り付くように見ていると、近くを通った冒険者らしき人が苦笑しながら教えてくれた。
「ありゃ贋物だ」
「え? そうなん?」
「正確に言えば、分からないがな」
どうやら邪龍の生息地で落ちてた爪を素材にした大剣らしい。
本当に生息地なのか、邪龍の爪なのか、それは不明。
ただ素材としては正体不明の一級品だったから否定しきれないという。
けれど冒険者にとっては信用できないなら贋物と同じだと判断するそうだ。
ちょい肩透かしだな。
まあ、そんなもんか。
・・
・・・
「あの子カワイイな」
「ラグは気が多すぎますよ」
「自分に正直って言ってくれ」
「で、どうする?」
「……っし! 行ってくらあ」
「「「逝ってら~」」」
歩き疲れて喫茶店で休憩していると、店員の女の子にラグが反応した。
いつもの事なので放置してると、二言三言ほど交わした後で戻ってくる。
「どうでした?」
「……いつもと同じだ」
「「「でしょうね」」」
・・
・・・
「安眠枕……ほしいな」
家具屋で必要な家具を物色してたら、ハイクが安眠枕なる商品に興味を示した。
が、それをソマリは許さない。
「駄目です。所構わず寝られたら困るので」
「睡眠は大事だよ。ソマリが第一人者でしょ」
「僕は好きで昼まで寝てるわけじゃないんです!!」
「まあ枕ぐらい見逃してやれよ」
それでもソマリが譲らないので俺が買った。
こっそりハイクに渡せばいいや。
これは後の話だが、ハイクが悪戯でソマリの枕を安眠枕とすり替えていた。
結果、夕方まで寝てしまったそうだ。
効果は実証されたといえる。
そして俺が怒られた。
買ったのは俺だからな。
・・
・・・
「……悩みますね」
「どしたん?」
書店で各自が必要な本を探していると、ソマリが真剣な表情で悩んでいた。
「あぁ、この本なんですが」
そう言って示されたのは……なんだこれ?
「道標……?」
「これは有名な著者、作品を紹介している本です」
他にも隠れた名作や一風変わった作品なども掲載されているらしい。
簡単に言えば本の図鑑みたいなもんかな?
「買えばいいんじゃね?」
「たしかに惹かれますが、やはり本は自身で探すのが醍醐味なので」
「じゃあ買わなくていいんじゃね?」
「かといって探し回る時間は限られてます。効率を考えれば有用です」
「……」
うん、放置すっか。
結局は買ったみたいだ。
・・
・・・
「この像ってさ、誰?」
「サンドマ・バクシームですよ」
「グランバスの防衛で活躍した英雄だね」
「知らないな」
「250年ぐらい前だからね」
まだ都としての規模じゃなかった頃、魔物の大暴走でグランバスが危機に陥った。
四方八方から押し寄せる魔物はグランバスの住民達を恐怖で包み込む。
その時に居合わせていた修行者がサンドマ・バクシームだったそうだ。
地系統の魔法を何十年も鍛えていた彼は、グランバスを守るために最前線で戦い続けた。
優先的に空を飛ぶ魔物を倒し、一匹残らず地へ落とした頃には皆が歓声を上げた。
だが地を這う魔物は大量に残っている。
そして彼は篭城戦を指示した。
時間を稼いでいる間に非戦闘員が防柵を作っていたからだ。
皆が従い防柵の内側へと戻り、他の街に要請した救援軍が到着するまで持ちこたえようとした。
しかし、気付けばサンドマだけが戻っていない。
たった一人で押し寄せる魔物達に背を向け、祈るようにしている。
そして、ある魔法が行使された。
その魔法はグランバスの周囲を強固な防壁で囲い、一匹たりとも魔物を寄せ付けず、ついにはグランバスを救ったという。
しかし、その防壁の内側にサンドマ・バクシームは居なかった。
彼は防柵では守りきれないと判断したのだ。
だから”プレシャスガード”という魔法を使った。
極級として認知されている魔法であり、サンドマ・バクシームが開発して後世に残した伝説でもある。
消費魔力は規模に応じるが、グランバスを囲うぐらいだから途方も無い量が必要だっただろう。
歴史家はサンドマ・バクシームが自身で用意しておいた魔石を大量に消費したと解釈している。
でなければ戦い続けた直後に極級なんて行使できないからだ。
そして条件は”囲う対象の外に居る”こと。
魔力の枯渇で気を失い、魔物に食い殺されたサンドマ・バクシームは、自身が死ぬという結末を分かっていて行使したんだ。
彼に救われた住民達は涙を流し、他の街から到着した救援軍は圧倒的な防壁に驚愕した。
以降、グランバスの歴史に名を刻まれた英雄は、今も像として都を見守っている。
「すげえ人だったんだな」
「彼が居なければグランバスは消滅しただろうね」
「ルイス、地面を見てください」
「ん?」
言われた通りに地面を見ると、敷き詰められた真っ白なブロック石の中で赤色のブロック石が混ざっている。
それは一本の線として続いていた。
「当時の防壁は都の規模を広げる時に撤去されましたが、今でも跡だけは、こうして違う色で軌跡を残しているんですよ」
当時の内側と外側。その境目に像が建っている。
サンドマ・バクシームが守った場所と、守られたからこそ広がった都を示しているんだ。
「……英雄だな」
ちなみに、当時の防壁は撤去された後で建築物の一部に素材として使用されている。
これは英雄の絶対的な護りを暗示した、一種の御守りみたいなものらしい。
学校にも使われているそうだ。
・・
・・・
「おっ、マリじゃん」
「あ!」
色々と見て周り、英雄の話に感動した俺達は
日が暮れた都の南区を歩いていた。
今日は南区と東区しか移動していないが、それでも観光しきれていない。
それぐらい都は広いし、沢山の見所がある。
とはいっても夜になった。
そろそろ寮に戻るべきかと相談しながら歩いていると、前方から近付いてきたのはマリとリンだ。
「もう買い物は終わったのか?」
「うん」
二人とも手ぶらなんだが、もしかして食い道楽してたんじゃないだろうな。
「荷物は寮に届けてもらったの」
「誰に?」
「そういう店があるのよ?」
知らんかった。
荷物を預ける場所だったりは見つけたけどさ。
「あ、そうだ!」
「ん?」
「あのね……」
…………なるほど。
「面白そうだな」
「でしょ? ルイス達もどう?」
ハイク達を見ると、全員乗り気だ。
「よっしゃ行こう!」
マリの提案に乗り、俺達は詰所へと向かうのだった。
次回・・・都歩き 宴
次でやっと都歩きが終了です。
長かった・・・・・・作中では1日なのに、現実では約2ヶ月経過してますからね。
申し訳ございません。




